かぐやが初星学園に入学する話 『なよ竹の一番星』 作:五宝合体竹取ロボ
評価いただいた皆様ありがとうございます。
なお、HIF編までの時間潰しともいう。
彩葉視点です。
☆00
「はい、おまちどうさまー」
「ありがと」
机の前に並ぶ晩御飯を前に、作り手たるかぐやにお礼を言う。
今日のメニューは、鳥のささみのカツにキャベツ、小鉢とご飯にお味噌汁。
一応アイドルが揚げ物? とは最初のころは思ったけど、かぐやが、計算してるからヘーキ! と言うのと、実際筋肉量が増えてるはずにも拘わらず維持された体重計の数値で今ではあまり気にしていない。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせてからカツに口を付けると、ササミとは思えない柔らかさと香ばしい衣の香りで何とも美味しい。
ここまでの物はかぐやと出会うまで食べたことが無いかもしれない。
「で、どう?」
「おいしいよ、毎回、好みドンピシャなのばかり出てくるの不気味だけど……」
そう、こんなおいしい料理を毎日食べてることの唯一の欠点は、なぜかかぐやの料理が私の好みに合わせたものばかり出てくるのだ。
正直、若干怖い。
「むふふ~、おかわりもあるよ?」
「あー、じゃあ―――」
「お、また美味そうモン食ってるー、かぐやが作ってるんだっけ?」
バランスを考えずについ食べ過ぎてしまった香の物をおかわりしようと小鉢を持ち上げると、明るい声がした。
「そだよー、そういうことねはバイト帰り?」
「そー、さて、咲季の弁当はっと」
この寮で寮のご飯ではなくて、自炊している2組の奇特な部屋の片割れ。
ウチはかぐやの押しに負けて任せてしまっているが、ことねさんたちは咲季さんがメインになってるようだし、何か似たような事情があったんだろうか。
「咲季……さんも料理、上手だよね、カフェのランチプレートみたい」
ことねさんが冷蔵庫から取り出したのはラップに包まれた彩り豊かなワンプレートの定食。
小袋に入ったサプリはさすがに目を引くが、それ以外は健康的でおいしそうだ。
「そう見える? いやぁ、ここまで来るのに紆余曲折あってさー」
「あーこないだ騒いでた奴?」
かぐやが何か訳知り顔で頷く。
私はと言うと、なにか騒がしかったのは覚えてるけど、部屋でプロデューサー科の教科書に目を通してたから良く知らなかった。
「そーそー、危うくあたしが料理当番になりかけてさー」
「伝説の枝豆のお味噌汁!」
「伝説ってなんだよ! どこまで話広がってるのそれ!?」
なんか私も聞いたかもしれない。
ことねさんって料理上手なんだっけ。
「んー? クラス中? 手毬が言いふらしてたよ、ことねは落ちこぼれだけど料理だけは上手いって」
「あーいーつー!!」
頭を抱えながら叫ぶことねさんを見ながら、かぐやが何か思いついたようように目を輝かせた。
「ねえ作って? かぐやも食べてみたいなー、ささみカツあげるよ?」
「えーめんど……、でもこれ美味しそう……、はぁ……、ウチの食材は咲季のだし、そっちの奴使っていい?」
「いいよ~~、あっ、彩葉お味噌汁二杯目だけど大丈夫?」
「ん? 別に大丈夫、私もちょっと気になってたし」
「はいはい、じゃあちゃちゃっと作りますかー」
☆01
「このカツやわらかっ! どうしたの?」
「ふっふっふー、ササミなら低脂肪で罪悪感ゼロ! 柔らかさはねー、かぐやちゃん秘伝のレシピが……」
「私に目一杯叩かせてただけでしょ……」
袋に入れて綿棒で。
少しストレス発散になって面白かったのだが、途中で、
「かぐやもやらして!」
と横入りされて、最後は二人で叩くこととなった。ケーキ入刀かよ。
「それだけじゃないんだな~~」
そういえば事前に何かに鳥肉が漬けてあったのを思い出す、あれはいったい何だったんだろう。
「へー、あとであたしにも教え―――」
「ことねー、おなか減って寝付けないんだけど、何か……、ん? 何食べてるの?」
「あヤバ、むぐむぐむぐ」
声を聴いた瞬間に会話を止めて、一気にカツを掻きこむことねさん。
どうしたんだろう。
「?」
「油の匂い……? ことね……?」
ふらりと幽鬼のようにことねさんの後ろに立ったのは、彼女の同室の月村手毬さん。
夜とはいえまだ20時回ったばかりなのに、すっかり寝る準備といった格好だ。
この前、き、キスされた賀陽燐羽さんの昔のユニットメンバーで、今はことねさんと咲季さんと一緒に組んでるはず。
「んぐ、いやぁ? ウチら以外でここのキッチン使ってるのこの二人だし、バイトで遅くなったから一緒に食べてただけだっつーの、ほら、あたしが食べてるの咲季のプレートだろ?」
「ふーん、パン粉ついてるよ」
「えっ、マジ? ……ついてないじゃん、何言ってんの手毬」
そう言って見せていた皿をマジマジとみてしまうことねさん。
それって語るに落ちてるんじゃ……。
「確かに付いてないけど、代わりにマヌケは見つかったようだね」
ぐっと低くなる声。
まるで猛獣が今にも飛び掛かろうと足に力を貯めるために屈むような。
「……? あっ」
「私が! 咲季のパサパサペーストに耐えて! 豚骨ラーメンもとんかつもカツカレーも全部我慢してたのに! 一人で抜け駆け!? 信じられない!」
怒号もすごい音圧だ。
さすが、中等部は歌で学年一番を取っただけはある。かぐやから聞いた伝聞系だけど。
でも、私も早く追いつけるようにならないと。
「最近は見た目も食感もマシになったし、謎の汁もそんなには出てこないだろ~~」
「たまには出るんだ……」
火に油を注ぎかねないから黙ってようと思ったけど思わず口に出してしまった。
謎の汁ってなに? 飲んで良い奴なの?
「とんかつ食べたんでしょ!」
「ささみだよ~」
あ、コラ! こっちに火の粉が来るかもしれないから黙ってなさいよ!
そう祈りながら隣に向かって必死にアイコンタクトをするが、お気楽金髪には伝わってる気配ナシ。
いやこっちに笑いかけろって意味じゃなくて!
「いーだろ別に、あたしが食いすぎたって手毬の体重が増えるわけじゃないし」
「私が咲季のご飯以外、たまの間食すら許されてないのに! 私の好きなとんかつを!」
「ささみだよ~」
「むしろ今まで寮のご飯で計算してる以上にバイトで動きすぎて、ビジュアルのために油分を取った方が良いってプロデューサーに補食渡されてんだし……、このぐらいなんでもないって……」
「は? それ初めて聞いたんだけど」
甲高かった手毬さんの声が一気に低くなる。
「あっ、やっべ」
口を滑らせた自覚があったのか、勢いよく両手で口を閉じることねさん。
もう遅いんじゃないかな。
さて、二人の意識が口論に集中しているうちに、私たちは席を移ろう。巻き込まれないうちに。
そうハンドサインをすると、今度は伝わったみたいでこくこくとかぐやの首が動く。
「あー、そうだ、おやつ、彩葉何食べたい? プリンとかつくろっか?」
少し離れたところにテーブルの上の料理たちを移しながら、かぐやと小声で話す。
「いいよ別に、これ以上食べたら太りそうだし」
逆になんでこの1か月ちょい一切増えてないのか不思議でならない。
毎食結構お腹いっぱいなんだが。
「へーきへーき、かぐや、ちゃんとトレーニングメニューに合わせたカロリーに計算してるから!」
そういうなら……。
「じゃあちょっとだけ……」
「プリンなんてほとんど卵と牛乳だから、人工甘味料で甘味だけ調整してあげれば……」
ダイエットコーラならぬ、ダイエットプリンかよ。
そこまでして、甘味に飢えてるわけじゃない。舐めるなよ。
「やっぱいい」
「なんで!?」
そう大きな声をかぐやが出してしまったせいで、殺気すら籠った強い視線が私たちに刺さる。
まずい。
「ん……? 手毬?」
視線の主の名前をかぐやが言うが、ずんずんとこちらに歩み寄るその主は一切気にした様子もなかった。
「私が食事制限してる中でとんかつとかプリンとか……!」
「ささみだよ~」
「そう言う事じゃない!」
身を切るような叫び。
「あちゃー……」
ついてきたことねさんが天を仰ぎながら手で目を塞ぐ。
「
その言葉を聞いて、すとんと表情が消えた見たことの無いかぐやの姿に、背筋につららでも入れられたような強烈な悪寒が走る。
「ふーん……、……おいたは―――」
慌てて目配せして、私はかぐやを、ことねさんは手毬さんを抑えてもらう。
「ちょーちょちょちょ、手毬ストップストップ!」
「かぐやも! 私は気にしてないからね!」
「ちょっと! ことね! 私まだ! むぐー!」
「はーいはいはい、こっちだぞ~、ごめーん二人とも! 手毬シメたらあとで謝りに行くから! ほらこっちに来い!」
そう言って騒々しく食堂を離れて行った二人を見送って、かぐやを抱きとめる。
ちょうど胸の位置に頭が来るように。
「彩葉?」
「私が気にしてないってのは本当、だって二人で次、あー……、本戦で見返せばいいって約束したでしょ?」
「………」
鼓動に耳を澄ますようにゆっくりと目を閉じると、かぐやの眼に灯ってたギラギラとした危険な光は嘘みたいに消えた。
そうして、しばらくの時が経つと、まるで新月が沈んで太陽が昇るようにキラキラの笑顔が戻ってくる。
そっと胸を撫でおろす。気づかれないように。
「よっしゃ! 頑張ろうね! 明日はホントにとんかつ作る!」
「……カロリー計算は?」
「まあその分動けば大丈夫っしょ~~」
本当にこのまま任せてて大丈夫かな……。
☆02
その後、食器を片付けていると二人が戻って来た。
申し訳なさそうに眉尻を下げたことねさんと、うなだれた手毬さん。
「本当にごめん! ほら頭下げろって」
そうして手毬さんの頭を掴んで一緒に下げる。
「す……みませんでした……」
「な? 本人も反省してるみたいだし、許してくれると……」
「えー、どうしよっかな~~」
「ちょっとかぐや、……で、どうしてあんなこと言ったの?」
揉み手のことねさんに、変にアヤをかけようとしたかぐやを止めて、手毬さんにあの発言の真意を聞く。
そんなに付き合いが長いわけでもないけど、純粋に人を傷つけようとするなんて、そんな子には思えないから。
すると俯きながらもぽつりぽつりと話し出した。
「……中等部の時、燐羽のクラスに編入してきて、聞けば授業も上の空みたいで、やる気ないのに何でアイドルやってるんだろうって思ってた」
「かぐやのこと?」
「うん」
「アンタね……」
「今はやる気ばっちり!」
「はぁ……」
呆れた目で見るが反省の色ゼロで両手にグッドサインを出してくる。
ちなみに今はと言うが、私の眼から見てもかぐやの授業態度はお世辞にも褒められたものではない。
「それで眼中になかったけど、燐羽にNIAで『私のステージが終わった後に来る子のステージを見ておきなさい』って言われて、初めて見た時びっくりしたんだ」
「へ―燐羽そんなこと言ってたんだ」
かぐやが目を丸くした。
正直、かぐやとはキャラ的には件の賀陽燐羽さんとは水と油だと思うけど、なぜか仲がいい。不思議だ。
「観客も巻き込んで笑顔にするステージ、私じゃ絶対たどり着けない太陽みたいな、……まるで継さんみたいな……」
「ん……?」
最後の方は小声で聞き取れなかった。でも口の中だけで完結した言葉は、聞かせる気もなかっただろうし、問いかけるのも気が引けた。
「そんでー?」
「あんなにすごいライブできるって知ってたから、選抜試験ではライバルになると思ったのに、全然そんなことなくて、で、体型気にしないで好き勝手に食べて、アイドルやる気無くなったんだと思ってつい……、ごめん……」
「ふうん?」
納得してるのかしてないのか、口をへの字に曲げて腕を組むかぐやの姿を見ながら、許しの言葉をかけようと口を開く。
アイドルってモノへの真摯さが、そのまま厳しい言葉になってしまう子なんだってわかったから。
ま、もうちょっとニンゲンを勉強した方が良いと思うけど。
「うーん……、事情は分かった、その上で許すよ、ただ一つ訂正」
「?」
不思議そうな顔しちゃって。
「次の本戦、私たちが優勝する、Re;IRISもBegraziaも倒して、私とかぐやの二人で」
「……優勝するのは私たちだよ、もう絶対、誰にも負けないって、そう決めたんだ」
不敵に笑って宣戦布告すると、調子が戻って来たのか俯き気味だった顔が眼光鋭く目を合わせてきた。ちゃんと敵を見る視線で。
そうそう、聞きしに勝る中等部トップアイドルの月村手毬さんはこうでないと。
申し訳なさそうな顔じゃ倒し甲斐が無いってものだ。
「おーい、謝りに来たって忘れてないだろうなー」
「さっきも言ったとおり、もう許してるからさ、別にいいよ、かぐやも気にしてなさそうだし」
「ぶい!」
「助かるわ~、ホントごめん! ほら次行くぞ!」
「いま謝ったでしょ……、次どこに行くの?」
「麻央先輩のとこに決まってんだろ! 夜遅くに騒ぎやがって!」
もしかして、それ私たちも謝った方が良い奴?
☆03
朝食の準備をしている最中に、朝練終わりなのか汗の湯気を出しながら私たちの前に咲季さんが仁王立ちし、そのあと勢いよく腰を折って頭を下げてきた。
余りに突然のことだったので、びっくりして皿を落としそうになったのは内緒だ。
「ウチの手毬が迷惑かけたみたいね! 謝っておくわ! ごめんなさい!」
「別に気にしてないから良いよ」
「かぐやも~」
そう手を振りながら答えるとガバっと上げた顔にはなぜかワクワクがにじみ出た笑顔があった。
「ところで、相当料理の腕が立つみたいじゃない! 私と勝負よ!」
何がところでなんだろう。
「おっ、いいね~、いつやんの?」
「もちろん今からよ!」
というのが数時間前の会話。
つまり今はランチタイムだ。なぜか勝負に巻き込まれた私とことねさん、そして手毬さんが審査員役を仰せつかった。無論、他薦だ。
「でー、何であたしも巻き込まれてる訳ー!」
「別にいいでしょ、おなか一杯食べれるんだし」
「そのカロリー消費のために明日から地獄のメニューが始まるってわかってて言ってんだよな……?」
「いっぱい食べれて、いっぱい練習出来て一石二鳥」
「プロデューサーから怒られるのあたしじゃないから別にいいけどナー」
そんなこんな話している二人を眺めながら、キッチンの音に耳を澄ませる。
今日は土曜日のため、食堂にはそこそこ人がいるが、周りもキッチンから漂う芳香に意識が剥いてるのがわかる。
にしてもすごくおいしそうな匂いだけど、何作ってるんだろうか。特にかぐや。
「はい、できたわよ! 特製スペシャルカツプレート!」
「わぁ……」
「咲季の料理なのに揚げ物が……?」
そう言って目の前に置かれたプレートには、焚き染められたご飯やサラダのほかに、つやつやとしたきつね色のおかずが降臨していた。
「ことねから聞いたかぐやの料理から着想を得て、ローストしたパン粉で揚げないでササミでカツを作れば計算上少しお米を減らせば問題ないことに気付いたの! 今までの私とは違うわ!」
自信満々に胸を張る咲季さん。
「どれどれ……、お、ちゃんとカツの味する」
「やるじゃん咲季、毎日出してもいいよ」
「毎日は無理よ、乾煎りだけじゃ焦げちゃうから油使うもの」
「あっ、おいしい」
審査員のそれぞれの評価が出たところで、待ってましたとばかりにかぐやが料理を運んできた。
というか、すごい数だな、すでに4皿だ。
「よし! ぼなぺてぃ!」
「これってフルコース……?」
予想以上のものが出てきて内心ビビりながらかぐやに目配せをすると、にっこり笑って朗々とメニューを話し出した。
唐突に脳裏に笑顔は本来攻撃性の表れで……なんて豆知識がよぎる。
「前菜はバゲットの豚肉のリエットと季節のフレッシュハーブ乗せ、手で食べてね、んで、ちゃんとアンチョビ潰すところから始めたオリジナルシーザーサラダ、スープは生トウモロコシのポタージュ! メインは新玉ねぎと豚バラのブレゼ、熱々だからふーふーしてね、でデザートにはプリン冷やしてるよー、食べ終わったら出すね」
並ぶのは2つの薄切りのバケットにほぐした肉とフレッシュハーブの青さが目に付く一品と、香りからして普通のシーザードレッシングとは決定的に何かが違うサラダ、黄色くきらきらと輝くポタージュに、テレビでしか見たことの無いようなスタイルで、大きなお皿にちょこんと乗った飴色の玉ねぎの玉座に塊肉のかけらの断面が肉汁を溢しながら君臨していた。
生意気にもきちんと皿にソースとフレーバーオイルでラインまで書いている。
そこで気付く、そういえば手毬さんの好きなものは豚骨ラーメン、とんかつにカツカレーと豚肉料理ばかり。
この料理も豚肉が2品、しかもどちらも手が込んだもの。露骨に審査員の好物を狙い撃ちだ。
そう、ここでRe;IRISとの格の違いを思い知らせるつもりなのだ……!
学生同士の料理対決にここまでやるとは……、私に追随してか口ではなんでもなさそうにしてたけど意外と結構怒ってたらしい。
ま、ステージじゃなくて料理で決着がついたところで何の意味があるのかは謎だけど。
にしても、このまま星付きレストランで出てきてもおかしくない出来だ。
ここまでのは初めて見たけど、これがかぐやの本気かー……。こんなの毎日食べてたら人間おかしくなりそう……。
「わぁ……!!!」
「お目々キラキラさせちゃって……、これカロリーとか大丈夫なの……?」
目を輝かせる手毬さんと、厳ついお品書きに眉を顰めることねさん。
「計算してるよー、ホントはパンも着けるんだけど、さすがに合わせると食べ過ぎになっちゃうから削ってるのと、お肉の料理もなるべく脂が落ちる調理法を選んだから。あとは単純に量で調整かなー、満足感が減らないように品数で稼いでるんだー」
「へー、考えられてんなー」
かぐやのネタ晴らしとことねさんの感心した声をBGMに何とかテーブルマナーを思い出そうとする。
こういうのって一番外側から使うんだっけ……?
「もう食べていい!?」
「おう、いちおー審査員なんだし、味わって食えよー」
「んー! おいしい! 咲季のと全然違う! ねえ、おかわりしていい!?」
「なぁんですってぇ!」
我先にとアミューズを勢いよく口にすると一気に目を輝かせた手毬さん。
一口目ですでにおかわりを見据えてるのは、アイドルとしてどうなんだろうか……。
ちなみにそうは言うけど咲季さんのも十分おいしい、サラダなんかはかぐやのはスーパーのものだから、やっぱりモノが違う。確か家族の農場から直接送ってもらってるんだっけ。
そう思ってると、革靴の軽やかな音と共に涼やかな男の人の声がした。
「いえ、必要ありません」
「ぷ、プロデューサー!?」
ぴしゃりと断言したその声に、手毬さんの声色が揺れる。
ということは、Re;IRISのプロデューサーさんか。初めて見た。
「月村さん、連絡に出ないと思えばこのような催しを……」
「急に決まったから連絡できなくて……その……」
「……まあいいでしょう、聞いたところによるときちんと栄養価も計算されているようですし」
「計算シート、紙であるよー」
「いただきましょう」
そう言って恭しくかぐやからのプリントを受け取るプロデューサーさん。
あらかじめ作って置いていたかぐやの狡猾さというか勝負への全力さに驚けばいいのか、初めのころから聞いていたことがわかるプロデューサーさんの発言に恐怖すればいいのか。
「それで月村さん」
「はい……」
「食事が終わった後で良いので、あとで部屋まで来てください、間食も含めてすべて聞き出したうえでトレーニングメニューを組みなおします」
先ほどの目の輝きが嘘のように意気消沈としている手毬さん。
手の動きは止まってないけど。
「うぇーい、手毬だけ怒られてやんのー」
「藤田さんもです」
「はい……」
「ふぅ……、では、私はこれで」
「ばいばーい」
煽るようなことねさんもついでに撃墜したあと、かぐやに手を振られながら革靴を鳴らして去るスーツ姿を目で追う。
すっかり主導権を握られてしまった。
プロデューサーってああいう風にならないといけないんだろうか。
私もかぐやからなし崩し的に(不本意ながら!)プロデューサーにさせられてしまったのだが。
「で、これどっちの勝ちでいいの?」
「私の負けで良いわよ……、むぐ、あっおいしい」
「でしょ~~」
そう呑気な声で会話している二人の声を聴きながら、私の視線は廊下の先に消えた黒い影を追っていた。
内なるまりちゃん無しの手毬って基本的に一言多いし、余計なことしか言わないし、マジで一言多いのでヘイトコントロールが大変でした。
何とか中和出来てたらありがたいんですが。
手毬自体は強化月間で50位報酬手に入れるぐらいには好きなキャラなんですけど、長く付き合えば発言の裏側のホントの気持ちとか、自己嫌悪とか、ストイックさとか理解できるんでしょうけど、ほぼ初対面での狂犬チワワがキャンキャン吠えてる状態って本当に扱いに難しい……。
単純なイヤな奴にはしたくないんですが……。
感想とここすきください!