かぐやが初星学園に入学する話 『なよ竹の一番星』 作:五宝合体竹取ロボ
最後はぜひガラクタロードを聞きながら。
☆00
ぱっちり目が覚める。
今日のワクワクで高鳴る鼓動で勢い任せに布団を跳ねのけて、傍らのぬくもりに目を向けると、急に布団をはぎ取られたせいか、眉をひそめてなんだかもぞもぞしている彩葉の姿が。
むー、また夜更かししたなー。
今日はHIFの本戦の日なのに!
そんな彩葉を跨いで、カーテンを開け放つと、空は朝焼けに染まってキラキラと輝いた。
良い天気! 決戦日和だ! ジメジメしてたら気分までジメジメしちゃう。
昨日まで続いた長雨は最悪だった。めんどくさいこともあったしね。
まだ青さは見えずとも、夜を地平線へと追いやる茜色は今日の快晴を約束するようで、実に最高の天気だ。運がいい。これが日頃の行いってヤツ?
「……ん、かぐや?」
外を見て日差しを浴びていると後ろから声がする。
さすがにこの明るさで目が覚めたらしい。
起こす手間が省けたというか、せっかくの触れ合いが無くなって残念というか。
ま、どっちでもいいか。
「彩葉!」
「ん……」
「おはよ!」
「ふぁ……、うん、おはよ」
あくび一つ溢して目が覚めたらしい彩葉が私のあいさつに答えてくれる。
こんなことでも嬉しくなっちゃうんだから、案外、私も単純だ。
さて、これでやる気は充電できたし、さあ、手始めに朝ごはんの準備だ!
☆01
ジメジメとした雨の日。
レッスン室から見る外はまだ日が沈む前だって言うのに薄暗く、窓には幾筋もの雨の線が描かれてる。
もう冬だって言うのに、雪じゃなくて雨が降ると余計に憂鬱感マシマシって感じがする。
雪なら良いのにね。
そんなうんざりな天気模様を眺めてるのは、部屋の中がもっとうんざりな状況だから。
「………っ!」
「あー……、えっと?」
睨みつけるように仁王立ちしているのは2組の美鈴? だっけ。
レッスン終わりを見計らってたのか、弛緩した空気の中に突然やって来た闖入者だ。
彩葉が応対するように前に立つけれど、何かを言いかけては飲み込んでを繰り返してイマイチ要件がつかめない。
んで、そんなこんなで困り顔の彩葉と一緒に、付き合ってもう10分ぐらい。
晩御飯の支度もあるし、もう帰りたいんだがー? 汗冷えてきて寒いし。
助けを求めるように、付き添いで来たか入口の枠に寄りかかる燐羽に目を向けるけれど、ひらひらと片手を振って不干渉のポーズ。
じゃあ、何で来たんだろ。見届け人? はっ! もしかしてこれが噂の果たし状ってヤツ!?
うっわー、初めて見るかも。さっきまで全然だったけど、めちゃ興味湧いてきた。
「……酒寄さん、あなたには感謝しています」
「……ん? 私? かぐや?」
ん? 酒寄って彩葉だけじゃね?
……あっ、今の私の苗字、酒寄だったわ! 忘れてた!
「あなたです、酒寄彩葉さん」
「私? 何かしたかな……?」
そう言って腕まで組んで考え出すけれど、とんと思い浮かばなかったらしく首を傾げる彩葉。
そんな姿を、どこか睨みつけるような眼光で見る美鈴は、先ほどの感謝の言葉とは裏腹にすっごく不満そうだ。
その鋭い視線から外れるように壁伝いに入口まで行って、何やら余裕そうな燐羽に向かって、なんとかしろって二人に向かって指を指すけど、当の燐羽は両手を上にして降参のポーズで全然頼りにならない。
「……まりちゃんをいじめるあの子に首輪をつないでる事、りんちゃんを更生させた事、そして、ライバルとしてまりちゃんの前に立ちふさがっている事、あなたには感謝の念に堪えません」
いじめるの下りのあたりですごい目で二人ともこっちを見て来たけど、慌てて首と両手を横に振るう。
ひどい冤罪だ! ていうか手毬とは今は普通に仲良いし!
あー、料理してる最中になんか物欲しそうにチラチラ見てくるのを無視してるのはいじめに入るのか……?
でもあれって、頂戴! って言えばすぐあげたのにいつまでもよだれ垂らしそうな顔で見るだけで、そのうちことねに引きずられて居なくなる方が悪くない?
「あー、うん、ありがとう?」
感謝とは口に言うけど、全然そんなことない言い方に彩葉も若干顔を引きつらせてる。
いやほんと、何しに来たんだろうこの二人。
横の燐羽を見てもなんだか楽しそうにニヤニヤしてるし。
「でも……」
「?」
何かをこらえるような美鈴に彩葉が首を傾げる。
「りんちゃんの更生も、まりちゃんのライバルも、まりちゃんをお世話するのも! すべてわたしのはずだったんです! 酒寄姉妹……っ!」
キッとこちらを睨む美鈴。
彩葉に言ってたハズなのに、なぜかこちらに火の粉が飛んできて、ちょっと困惑。
てか姉妹ってなに?
いやまあ、彩葉と姉妹扱いされて嬉しくないって言ったら嘘になるけどさ。
「……? あーえっと、いや、かぐやと私は―――」
「―――いいですか? 必ず次のHIFであなたたち二人をわたしが倒します。……それまでせいぜい負けないでくださいね?」
彩葉の言葉を遮って、言いたい事だけ言って去っていく後姿を私たちは呆然と見送るしかなかった。
いや、燐羽は違うか。酒寄姉妹のあたりで堪えきれなくなって失笑してるし。
まだピクピク笑いを堪えようと無駄な努力をしている燐羽の肩を突いた。
「で、結局アレどゆこと?」
「ぷぷっ……、こほん、面白いでしょ? 妙な所で盛大に空回りするのよ美鈴って」
「空回り?」
「そ、空回り」
なんだか気負ってる風だったけど、それは別にHIFという大舞台の前なら当然の話というか、私達もある種そうであるから、空回りと言われてもあんまりピンと来ない。
そんな不思議そうな顔に内心を悟られたか、燐羽がより笑顔を濃くして続けた。
「私が更生したかどうかは別として―――」
していいんだソレ。
「別として! 手毬があなた達をライバル視して妙に張り切ってるのも、ご飯たかりに行ってるのも、あの子が勝手にやってることでしょ?」
「たかられたこと無いけどねー」
「あらそう」
物欲しそうに見てるだけ。
手毬の最期の理性というか、プライドを感じる我慢だ。
別に分けてあげちゃってもいいけど、察するにあとでプロデューサー怒られるのは手毬だしね。
「ま、あなた達と言うか、かぐや、あなたの立ち位置が、本来美鈴が “居るべき場所” だったのよ、美鈴にとってはね」
「よくわからん!」
私も彩葉の隣は焦がれたし、居たい場所ならわかる。
べきってなんだべきって。
意味わかんねー!
「……いやちょっと違うかも。居たかった場所、憧れた場所、それともありえた未来?」
「うーん? 理想ってこと?」
「そうね、そうかも。そしてそれに嫉妬してる。幼稚な全能感の裏返し……とも言えるかもね」
燐羽の言い回しは迂遠だけど、それならちょっとわかるかもしれない。
半年と少し前、彩葉と出会う前。
調べれば調べる程、突きつけられる絶望の中で、泣きはらして枯れ果てた瞳で霞む天井を眺めながら、何度だって思い描いたあの夏の風景は今も鮮明に覚えてる。
真実に教えて貰ったお店でご飯食べて、芦花のおすすめのコスメ買って、みんなでカフェでパンケーキ食べて、そして帰ったら彩葉がお帰りって言ってくれる日常。
私のせいで時空の泡と消えたと思った、あの日々。
その登場人物が私じゃなくて、誰かにすり替わって目の前にあったなら。
あの日常の中の私が例えば美鈴で。
美鈴が真実と笑い合いながらラーメン食べて、芦花と試供品のポリッシュを塗り合って。
そして、あのタワマンでお帰りって笑う彩葉に抱き着いて。
―――そして、それをただ眺めてる私。
久しぶりの吐き気に心臓を拳で叩いて耐える。
「かぐや?」
「……なんでもない、かぐやちゃん超元気」
「そ、……まあ、いいわ」
さっきまでのニヤニヤとした笑顔を外して、どこか目を伏せた燐羽。
気取られるとは、私もまだまだだなー。
ビジュアルレッスンもっと入れるように彩葉にお願いしないと。
でも、分かった。
美鈴の敵意も。
喉につっかえたような言葉の意味も。
まー、でもさ。
「どのみち全員倒すのは変わんないわけだし?」
「そうね、そして、多分それを美鈴も望んでる」
「そんなもん?」
「そんなもん、よ。こう見えて付き合い長いんだから、美鈴とも、……あなたとも」
「知ってる」
「そ」
ありえた私。
それを祓うために、なんて大げさなことは言わないけど。
でも、戦う理由が増えた。
そう胃の腑の奥に覚悟を沈める。
きっと今日のコレは燐羽なりの激励なのだろう。
私たちにとっても、美鈴にとっても。
私が何で落ち込んでたなんかそんな詳しく言った覚えないんだけどなー。
妙に勘が良いんだから……、困っちゃう。
―――ま、それはさておき。
「キャパオーバーで彩葉固まっちゃったけど、どうしよ。叩けば再起動するかな」
「キスでもしたら? かぐやがやんないなら私がやってあげても良いけど?」
「私のだから!」
「はいはい……、ふっ、隙あり!」
「あっ!」
☆02
遠く前哨戦の余韻がまだ聞こえる、HIF決勝戦の控室には、なんとも食欲の湧く匂いが漂う。
「そうまるで、かぐや&彩葉の輝かしい栄光の一歩を祝福するような———」
「何が栄光だよ……、自分で出店で買ってきたんでしょ」
「そのとーり! あむ、んー! うまっ」
HIFはアイドル科以外は半分学園祭みたいなもので、物販の他に、生徒の出店とかもある。
本戦に出れなかった子達も観客としてこのお祭りを本気で楽しもうとしてるのが伝わってきて、こっちまでワクワクする。
「はぁ……」
「ん? 牛串食べる? かぐやの食べかけだけど」
「いらない」
決勝戦は当然午後の大トリだからお昼を跨ぐ。終わるのは夕方ぐらい。
そういう意味でも栄養補給は大事だけど、彩葉は控室のケータリングすら手を付けた気配がない。
もう決勝だってのに、相変わらず彩葉は緊張しいで、青白い顔でため息ばかり。
とはいえ? かぐやちゃんは超賢いので? こんなこともあろうかと!
「もー、しょうがないな〜彩葉は〜〜! はい、どーん!」
そうダミ声を上げながら取り出したるはお弁当箱。
ぱぱっと風呂敷を解くと、この日のためにポチった艷やかな御重の姿。
「なにこれ?」
「お弁当!」
がばりと蓋を開けると、ぎっちぎちのふりかけおにぎりと、次の段にはおかずたち。
作んのは楽しかったけど、運ぶのはめっちゃ苦労した。
なぜなら———。
「おにぎりは自家製ふりかけ、トリフ塩でアクセント付けたんだ〜。で、こっちのはブラマンジェを自己風に再解釈して餃子のニュアンスで、ベースをアスパラのポタージュにして、薄切りのトリフといっしょにハモンセラーノで包んだアミューズ。メインはスズキのヴァプールと冬野菜のジュリエンヌのマリネを生春巻きで包んだやつ、お好みでヴァンブランソースにディップしてね、あと、水筒にコンソメドゥーヴルが———」
「いらない」
「なんで!?」
「重いわっ!」
立ち上がって叫ぶと、頭痛をこらえるようにそのままよろよろと座り込む。
食べやすいようになるべく個になるように包んだりしてるけど、興が乗っちゃって柔らかい物(ブラマンジェとか)が多いから崩さないようにと慎重に運んだのだ。
ここ最近で一番神経使ったかも。多分ステージの上よりも。
「えー、がんばったのに……」
具体的には今日入れて3日ぐらい。
コンソメドゥーヴルは日跨ぐから強敵でした……。また戦おうぜ……
「……はぁ、じゃあおにぎり貰うね」
「どうぞどうぞ」
「……うま」
「でしょ〜〜」
ため息一つ零してから小さく一口食べた彩葉の血色が戻る。
ちょっとでも食べてくれるなら、手塩にかけた甲斐があるってものだ。
そんなふうに小動物のようにもそもそと食べる彩葉を眺めてたら控えめなノックが鳴った。
本番の時間にはまだ早いし……、なんだろ?
「ん? どーぞ?」
そう扉に声をかけるとぞろぞろと入ってきたのは今朝分かれたばかりの寮の面々。
「来てあげたわよ!」
「よーす、調子どう?」
「ほら、燐羽も!」
「あっ、ちょっとバカ手毬! ……顔見に来たわよ」
ノックの音とは正反対に自信満々に胸を張る咲季に、肩の力が抜けたことね、そして燐羽を引ずるように手を引く手毬。
「どしたの?」
「この
「おーい、素直に心配だから様子見に来たって言えよな、朝から彩葉は顔色悪かったけど大丈夫かな……とかおろおろしてた癖にさー」
「なっ!」
「そんな訳で3人で様子見に来たのだけど、扉の前で燐羽がいたから一緒に来たのよ」
咲季にバラされた燐羽はどこか気まずそうに眼をそらす。
ははーん、さては、入るかどうか迷ってうろうろしたあげく、帰るところで捕まったなー?
可愛いところあんじゃん。
「そなの?」
「物販回ったついでよ、ついで」
「ん? 燐羽何買ったの?」
見れば紙袋の中からはパッケージがはみ出て見えた。
「ふふっ、見たい? じゃーん」
「黄色って…あっ、十王星南カラー!」
「ふふん、あなたたちが無様に負けるところをーーー」
「あれ、燐羽さっき青と赤のサイリウムも買ってたよね」
「シッ、黙りなさい!」
それをわざわざ? 負けて決勝戦に上がれないと言っても、前哨戦で疲れ果てた体のままに?
しかも自分のお昼ごはんすら抜いて?
「へぇ〜〜?」
「そうよ、何か悪い?」
「べっつに〜〜?」
「チッ」
思わずにやけ顔が止まらないまま言うと、顔を逸らしてしまった。
でも、逸らした顔でも隠せない耳は薄紅色に染まっていて、燐羽の心情を表すよう。
「……そう言えばあの趣味の悪い名前やめたのね」
「燐羽さんに言われたからって訳じゃないんだけどね」
話をそらすように、パンフを取り出した燐羽が私たちの登録名を見て言う。
彩葉の苦笑は、名前を考えたあの夜のことを思い浮かべているのか、それとも名前への照れなのか。
「MargaREt……ね、Re:IRISのパクリ?」
「ま、そんなとこー」
マーガレットの花言葉は信頼、真実の友情。
もじったREは、多分Re:irisと同じリスタートの意味。
実はもう一つ意味があるけど、彩葉にはナイショ。
「で、感想は? パクリ元の皆さんは」
「あっ、え? うーん、別にあたしらはプロデューサーから名付けてもらって、おっ、いいじゃん! ってなっただけだからそこまで思い入れあるかって言われるとナー」
「良いと思うわよ、綺麗だもの
「おっ、咲季詳しいじゃん」
「へー、意外」
訳知り顔に頷く咲季に思わず驚く。
隣のことねもびっくりしてるからそんなそぶりはなかったのだろう。
サバサバ系女子の意外な趣味だ。
「実家で育ててたのよ」
「似合わねー」
「なー」
「そうね、似合わない事したわ、生け花コンクールで優勝するために一から作ってたのだけれど、失敗だったのよ、会場で用意されちゃってたし」
「あっ、そういう」
全方位バトルジャンキー花海姉妹、まさかの文武両道。
おかし……くもないか、体動かすのが好きなんじゃなくて勝つのが好きって言ってたし。
でもあの佑芽が黙って座って生け花活けてる姿はちょっと想像できないかも。
「なによ、何か文句でもあるわけ?」
「いや~、咲季らしいって思っただけ~」
「ふん」
そっぽ向いた咲季がなぜか急にキョロキョロしだす。
「あれ、手毬は?」
「そういえば、妙に静かな……、あ! おいコラ! ヒトの弁当を物欲しそうに見んな!」
「なっ! み、見てない!」
ことねの目線に視線を移すと、よだれでもたらしそうな顔で彩葉の前の重箱を見つめる手毬の姿が。
「あー、いや、よかったらどうぞ……食べ切れないんで」
「ホント!?」
喜色満面と言った感じで、作った側としてはうれしくなる……けど、体よく押し付けたなー?
ま、おにぎり1つでも食べてくれたなら良しとするか。
「あー大丈夫? 断っても大丈夫だから、コイツに言い聞かせとくんで」
「ううん、かぐやが作りすぎちゃって、こんなに食べたらステージで動けなさそうだし、どうぞ」
「おっ? そう? いや~悪いね~~、じゃ、あたしも貰っちゃお」
「あ! それ私が食べてみたかった奴!」
「こういうのは早い者勝ちなー」
「ぐぬぬ……」
☆03
夢中で歌って踊ったライブは我ながら完璧だった。
袖に退けても鳴りやまない歓声に、まだ肩で息してる彩葉と一緒に笑いあう。
「あー、終わっちゃったね」
「そうだね」
泣いても笑ってもこれが最後。
あとは結果発表を待つばかり。
なんだか、ツクヨミカップの結果発表の時にも似た心持ち。
ま、でも、
「ねえ、彩葉」
「んー?」
「今日のライブは何点?」
「うーん……、85点」
「えー! びみょ~~」
「ま、伸びしろがあるってことで」
「じゃあよし!」
「いいんかい」
呆れたようなその表情に面白くなって笑いながら控室へと歩みを進めた。
彩葉の手を握りながら。
☆04
「Hatsuboshi IDOL FESTIVAL―――」
一旦控室に
別室でマイクを握ったヒゲの威厳ある声が、一番星の誕生を今か今かと静寂とともに待っている観客たちの中にわんわんと響き渡る。
「初星学園一のアイドルを決める大祭は、今冬より生まれ変わった。アイドルの頂点
宣言とともに会場が湧き立つ。
それと比例するように鼓動を早める心臓を抱きしめて、両手を握って祈る。
隣の彩葉は真っ白な顔でもはや魂も抜けてる風。
「選び抜かれた精鋭たちよ! 見事な激闘であった。そして……、ご来場の方々。長らくお待たせした。これより―――、
いよいよだ……。
ぎゅっと目を瞑りその時を待つ。
「Hatsuboshi IDOL FESTIVAL優勝者―――」
私達か、星南か、それとも美鈴か。
そんな中、走馬灯のように駆け巡るのは彩葉とのこれまで。
ダンスレッスンで、書いて消してで紙がボロボロになるまで考えてくれた演出計画を一緒に読んだこと。
たまには私がって、作ってくれた朝ごはんが浸水してもないのに早炊きにして、芯が残っておいしくなかったこと。
夜中にもぞもぞと起きたと思えば、私を起こさないように卓上灯だけでプロデューサー科の教科書とにらめっこしてた後姿。
キラキラのステージで一緒に笑い合った時のワクワク。
「MargaREt!」
ヒゲのその宣言に、今日一番の歓声が爆発した。
嬉しさに叫び出したくなるけど、式を壊すわけにもいかないから、衝動で跳ねそうな体と共に歯を食いしばってぐっとこらえると喉が変な音を立てた。
横目で彩葉の顔を伺ってみたら、猫みたいに目をまんまると開いて呆然とこちらを見ている。
「二人のパフォーマンスは見事な物だった……。しかし、
えっ、そうなの?
「我が校が誇る冬の
これじゃ、どっちかが優勝できないのと同じ。
そもそも二人でやろうってのが間違いだった?
「酒寄かぐや!」
その宣言に、背筋が思わず丸くなる。
もしかして、私が彩葉の邪魔をしたってことなの?
「ほら、かぐや」
「彩葉……」
「コレが私の今の夢、それが叶ったんだから、もっと、喜んで。さあ! 背筋伸ばす!」
ヒゲの声と共に背筋を冷やした嫌な汗が、彩葉の優しい張り手の体温で熱へと変わっていく。
「でも、……いいの?」
「女に二言はなし!」
「わかった、……はい!」
大きく声を上げて、一歩前に出てスポットライトを浴びる。
仕方がないなと言いたげな彩葉の嘆息に背中を押されながら。
「現
「はい!」
星南は負けたはずなのに、これ以上ないほど嬉しそうにトロフィーをもって歩み寄ってきた。
「彩葉、そしてかぐや。やはり私の見込んだとおりだったわ」
そう言って、クリスマスプレゼントを開けた時みたいなキラキラの目で私たちを見る。
「十王星南を追い落とさんと輝く星々の中で、とびっきりの一等星。そしてその星に見いだされたあなた」
愛おしそうに彩葉に話しかけた。
「彩葉、あなたの苦難はこの学園の誰よりも私は分かっていると自負しているわ。だからこそ、あなたたちの八千光年の道のりにあらためて感謝を」
一番星でもないのにいきなり話かけられて、うろたえてるのが面白くて思わず笑っちゃう。
アドリブが苦手なのは相変わらずだ。
「あ、えっと私は……」
言葉がつっかえたように口ごもる彩葉。
「なりたいアイドルなんて無くて、裸同然で飛び出してこの学園にやってきて。かぐやに乗せられるがままプロデューサーなんか引き受けちゃって。ただ
思い出話のようにどこか他人事に朗々と語る。
「褒められたい、認められたい、そんな思いだけの虚像じゃ、やっぱり一番星なんて届かなくて、夏は負けちゃったし……」
どこか照れたように頬を掻いて、懐かしそうに語る彩葉の顔はどこか誇らしげで。
「それから、みんなに追いつくために、かぐやと一緒に歩くために、そうやって一歩一歩積み重ねて行ったその先で、今日、ここに立てました」
「ええ」
「かぐやと出会ってからは、本当にもう、めちゃくちゃで、破天荒で、こんな奴とコンビなんか解消してやる~~なんて思ったりしたけど」
「え゛っ」
「でも、それでもまっすぐなその声に導かれて、かぐやと二人で、ここまで来れた」
慈しむような彩葉の視線に思わず微笑みを漏らしてしまう。
「本当にやりたかったことが一番星になることだったのかは、今もわかんないですけど。あの日宣言したとおりに、私のアイドルを一番星にしてあげれた。きっとかぐやなら、あなたのように皆に憧れられる
「……ふふっ、楽しみにしているわ」
名前をヒゲに呼ばれた時に感じた罪悪感を打ち消す彩葉の言葉。
そっか、今度はちゃんと彩葉のやりたい事を叶えてあげられたんだ。
「ねぇ、かぐや?」
「ん?」
「……いえ、そうね」
「?」
彩葉の時と違って、言葉を探すようにどこか口ごもる星南。
「今日は楽しかった?」
「うん! めっっっちゃ楽しかった!! だからさ、星南!」
「なにかしら?」
「
「―――っ、……ええ、
星南はこのHIFを最後に学園からは卒業する。
でも、今度は私にタイムリミットはない……ハズだし、そしてアイドルも卒業したってずっと続いていく。
そんな思いを込めた再戦の宣戦布告をすると、一瞬泣きだしそうなくしゃっとした顔になったあと、大輪の笑顔で返して来た。
―――なんだ、ちゃんと悔しいんじゃん。
「さて、かぐや、会場の皆さまが、新たな一番星の言葉を待っているわ」
「うん!」
星南の言葉に相槌を返して、ステージのセンターへと立つ。
眼下に広がるサイリウムの海たちはざわめき一つせずに私の言葉を待つ。
スピーチってニガテなんだけど……なんて思いながら、でも自然と湧き立つ言葉をそのまま発した。
「みんな、ありがとー!」
「彩葉と一緒に、
「指名されちゃってけど、これは彩葉と一緒に取ったものだから二人のだと思って、とりあえず預かっておく! ヒゲにだって文句は言わせねー!」
私の宣言か、それとも学園長のヒゲ呼ばわりか、さざ波のように失笑が広がる。
「かぐやはさ、全部失くして、独りぼっちだーって思って。一人で部屋で膝を抱えてたんだー」
「そんで燐羽に発破をかけられて、ステージに立って、彩葉と出会えた」
「どんなに孤独な道のりでも、突き進んだ先で手を取ってここまで来れた。その思い出が足元を照らしてくれると信じているから、だからもう大丈夫」
全部諦めて、ヤチヨたちに彩葉を任せた卒業ライブと違って、私と彩葉の道はずっと続いていく。
だから、今日の胸の中にあるものは、キラキラとした明日への期待だけ。
「この後、優勝ライブがあるからさ」
「どんな一番星に成りたいかなんて、わっかんないから」
「どうか見ててね! このライブで!」
☆05
優勝ライブのガラクタロード。
歌いだしの前に必ず前口上がつく。星南もそうだった。
「アイドルは」
そう言葉を止めて、こちらに微笑む彩葉。
もしも勝ったら言わなきゃだし準備しなきゃなんて言いながら、歴代の前口上を並べて頭抱えてたから、せっかくだから私に言わせてとお願いしていたのだ。
アイドルか。
彩葉と違って、私は別にアイドルになんかなる気はなかった。
たまたま東京に行くのにヒゲの提案に従うのが都合よかっただけだし。
彩葉を見つけるのに燐羽の話に乗って一番星を目指すのが速そうだっただけ。
だから、ずいぶん前に手毬に言われた、アイドルをやる気がないってのは、正鵠を射てるのかもしれない。
そんな中、彩葉とまた出会えて、そして彩葉の願いをかなえるために突き進んできたアイドル道。
その道すがら出会った人たちは、なんかこう、自由だった。
口は悪いのになんだか無駄に面倒見のいい燐羽。友達をかばうためだって言ったって大炎上して大事なユニットまで解散させちゃうのはさすがに自由過ぎると思うけど。
そのユニットメンバーだった手毬。常にアイドルとはーみたいな哲学でストイックに生きてるつもりでも、欲望に弱くて甘えん坊で、やっぱり口が悪いクラスメイト。
トップアイドルになるって言ってるのにいまだにバイト辞めないことねも、光る変な食べ物ばっか作ってる咲季も、佑芽も広も千奈も、先輩方も、―――美鈴も。
だから私からは、この言葉を贈ろう。
この初星学園で出会った皆に向けて。
大きく息を吸って、目一杯の笑顔とともに。
「自由だーっ!!!」
☆06
「宇宙のね、日本のね、そうだ! メ組のメ!」
イントロ無しで歌いだしが始まるから、すっごく練習した。
さすがに、この時は彩葉も手元のキーボードに集中せざるを得ないから、カバーにステージ際まで寄ってコールする。
「みんなー、もりあがってこー!」
ダダダとかけながら、この後のレスポンスに合わせて、腕をぐるぐると回す。
さすがにHIFのステージまで見に来る皆は慣れたものでサイリウムを振って準備完了の合図を送ってくれる人も居る。
『タッタッタまわれまわれ』
ね?
「いーっぱい! まわせー!」
ついつい嬉しくなって、余計なことまで言っちゃう。
「宇宙のね、日本のね、そうだ! メ組のメ!」
『メッ!』
そのままの勢いで彩葉の隣に戻る。
スポットライトの下で、楽し気に演奏する彩葉とアイコンタクト。
ここからは交互だ。
「夕日が目に、しみるだぁて?」
「うるさいよ、バカヤロー」
彩葉に問いかけられて、セリフどおりの罵倒で返す。
実際、放課後錬で目に染みるなってサングラスかけてたら、呆れた苦笑が返って来たこともあったっけ。
「あのコが、うらやましい?」
「あの子とは、違うから」
うらやましさは、あんまないかも。
みんな、大変そうだ。
あの星南だって、何か堪えるように抑えた顔してる時がある。
……主にことねのこと見れる時だけど。
「頑張ってるって、何を?」
「……、んがー!」
やっぱアイドルって、ライバーとは違って、色々べんきょーしなきゃいけない事がいっぱいで。
ほんと大変だった。
観客からどう見られるかを考えろだなんて、無茶言われるし。
「思ったより、しんど、この」
「ガラクタロード」
しんど、って歌う彩葉の顔からは、歌詞だけじゃない実感が出てて思わず笑っちゃう。
「宵闇ラン、呼吸がゼーハー、もうギブギブ! 頭くらくら」
入学式の彩葉は、前と違ってフラフラはしてなかったけど、でもやっぱり同じように気負っちゃってて。
「アブダクション!」
だからさ。
「……私、選ばれたのかも」
選んだんだ。
「どや! どや! どや! どや!」
「ピッカーン!」
さあ、ここからは一緒だ!
「人生って一度キリキリだもんね」
「身体舞い上がって」
舞い上がった心のままに彩葉と踊る。
一度切りの人生、とは言いつつ、ちょっとズルしてもう一回戻って来た。
でも、彩葉とまた出会えて、こうして一緒にステージに立ってる。
「無重力、素敵無敵な感覚」
「地球をさ、ぐるぐるさ、飛び越えて、スイムスイム」
もと光る竹で月も地球も飛び越えて。
無重力は残念ながら味わってはいないけど。
だから一緒に。
「うったおー!」
大きな声で、笑いながらさ。
「わっはっは、笑おうぜ」
「わっはっは、飛び出そうぜ」
「地球ぐるっと、まわれー!」
ステージを駆けると、眼下に広がるサイリウムの海。
赤と青が混ざって、紫色に染まる大海原。
「わっはっは、笑おうぜ」
「わっはっは、飛び出そうぜ」
「私、宇宙の、メ組のメ!」
かつてのヤチヨがほんとーに楽しそうにライブやってた理由がちょっとわかるかも。
私たちの歌に、踊りに、合わせて揺れる光に、それに照らされたみんなの笑顔に、余計に楽しくなって熱が入る。
この世界じゃ、一緒にコラボライブできないのが、ちょっと残念。
「色彩鮮やか銀河系、ぶち抜いて、拓けていく景色」
何も無かった月から地球にやってきて、彩葉たちと過ごした夏。
モノクロだった景色がぱっと色彩鮮やかになった気がした。
「向こうを見ずに走り続けた、振り返れば、また独り」
全部失くしちゃったと思って、それでも彩葉に見つけてもらうために頑張った冬。
何十年と頑張って、ようやく彩葉の元へ帰れると思ったら失敗しちゃって、またモノクロに戻ったあの日々。
「もらって、還して、無くなって」
「でも、それでも、まだ渡し続けるような」
この学園に先に入学していた先達としてだけじゃなく、前のライバーとしての知識とか、彩葉に教えてあげなきゃ! って気を張ってた時もあったけど、やっぱり逆に彩葉に教えて貰ったり。
センパイとしてちょっとは役に立てたかな。
だったらいいな。
「でも! 君と一緒に、生み出す、パワー!」
「駆け抜けて!」
彩葉と二人で鍛え上げた、この半年。
いろいろあった気がするけど、駆け抜けてしまえば一瞬だった。
あの夏よりずっと長い時間のハズなのにね。
「らしさ、武器にして」
私らしさってなんだろ。
「あなたと、わたしで」
そんなものわかんなくても、彩葉と一緒ならどこまでも行ける気がする。
「どや! どや! どや! どや!」
「パワー!」
フォルテッシモからピアニッシモへ。
ラスサビへと力を貯めるために。
夏のHIFで負けて、二人でやり直した秋のように。
「人生って一度キリキリだもんね」
「身体舞い上がって、踊れるよ」
「無重力、素敵無敵な感覚」
「地球をさ、ぐるぐるさ、飛び越えて」
さあ大きく息を吸って、一緒にジャンプ!
そんなフリなんてないけど、言わなくたって、目で通じる……ハズ!
「いっくよー!」
咄嗟のアドリブに反応してくれた彩葉が苦笑しちゃった。
その顔におかしくなって一緒に笑う、歌詞のままに。
「わっはっは、笑おうぜ」
「わっはっは、飛び出そうぜ」
「私、地球の初星派!」
私は今、地球に居る。
彩葉と一緒に。
「カニ星雲、すぐそこに」
「ほら、ひとっ飛び!」
月と地球の間に星雲なんかないけれど、でもそれ以上の時を超えて。
「わっはっは、笑おうぜ」
「わっはっは、からのアイドル道」
何の因果か、かつてのライバーじゃなくて、彩葉と一緒にアイドルなんかやってるけど。
でも、本当に楽しいんだ。
「わっはっは、笑おうぜ」
「わっはっは、飛び出そうぜ」
「宇宙のね、日本のね、そうだ! ここにいる!」
「宇宙をね、地球をね、制覇っ! メ組のメ!」
彩葉もおんなじ気持ちだったらいいな。
マーガレットのもう一つの花言葉は「私を忘れないで」
次回、
今度は明日。
感想とここすきください!