かぐやが初星学園に入学する話 『なよ竹の一番星』 作:五宝合体竹取ロボ
☆07
茜色に染まった空が照らすアリーナは、出店を片付ける生徒たちの声と相まって、祭りの終わりといった感じで物悲しい。
衣装(とかぐやの重箱)を入れたバッグは疲れ果てた体には重く、紐が肩に食い込んでそのまま地面に引き倒されそうだ。
でも、かぐやに『預かってて!』って押し付けられて胸ポケットに入れた一番星のピンが確かに熱を帯びてて、その力を借りて一歩一歩と歩みを進める。
かぐやはまだ控室に集まったみんなに引き留められるように話していたから、少し外の空気を吸いたくてと言って分かれてる。
あと多分待ち構えてる彼女との会話をかぐやにはあまり聞かせたくなかったし。
「んー!」
大きく伸びをするように天に手を伸ばして風を感じると、私の歩みと同調していた背後の足音が止まる。
「それで? どうしたの?」
振り返ると、秦谷美鈴さんの姿が。
「敗者は敗者らしく、負け惜しみを言いに来ました」
そう言って、言葉とは裏腹に晴れ晴れしい笑顔でほほ笑む目の前の少女に面食らう。
「その前に一つ聞いてもいいですか?」
「なんだろ」
「酒寄かぐやと組んでHIFにユニットとして参加する……、つまり絶対にあなたは
「そうだね、うん、知ってた」
かぐやはその時まで気付いてなかった。いや、私があえて教えなかったHIFの欠陥。
ユニットでのエントリーは複数人可にも拘わらず、一番星の席は1つだけという矛盾。
十王星南会長もかぐやは特別だって言ってた。
私もそう思う。
ゆえに凡人の私が並んでステージに立てば当然引き立て役にしかならない。
だからもし仮に一番星に成ろうとする意志があるなら最悪の愚策としか言えない。
この学園は誰しも一番星を目指して入学するものなのだから。かつての私も含めて。
「では、なぜ?」
「うーん」
心底不思議そうな秦谷さんに苦笑する。
「だって、私、かぐやのプロデューサーだし」
「?」
首を傾げる秦谷さんに続けて言う。
「私のやりたいことは、かぐやを一番星にすること、そう決めたからね。ま、今日叶ったんだけど、さ」
「そのためには自分を犠牲にしてもかまわないと?」
「いやいや、そうじゃなくて」
いつかお母さんに叱られたっけ。
折角の劇の主役をあげちゃったときに。
「一番星をあげたんじゃない、私が一番星にしてあげたかった」
もし仮に逆に私が一番星に成る代わりに、かぐやが例えば星南会長のところに行くとなれば、逆に泣いて暴れて抵抗しただろう。
この半年で随分絆されたって自分でも笑っちゃうけど。
でも、きっと独りじゃここまで来られなかった。
「だから何も失ってない」
「……そうですか」
そこでふわりとどこか諦めたように笑う。
「私に足りなかったのは、その献身さなのかもしれないですね」
「献身さ?」
一人で納得されてもよくわからない。
「りんちゃんからわたし達のことは?」
「さわりだけ」
かつてユニットを組んでいた3人。
月村手毬、賀陽燐羽、そして秦谷美鈴。
そのうち、手毬と秦谷さんが幼馴染であったこと。
そして、秦谷さんは
「かつて、わたしの手からすべてがこぼれた時に、それをかき集めるのわたしの役目だと思いました、まりちゃんは独りで走って行っちゃいますし、りんちゃんはあの子に構ってばかりでしたし、なんだか、置いて行かれちゃう気がして」
あの子? かぐやのことか。
「でも全然うまくいかなくて」
「うん」
「りんちゃんはあの子といるときは珍しく笑ってましたし、まりちゃんはあの子を目で追ってました」
めずらしい?
いつも燐羽と会うときはかぐやと一緒にいるから割と笑ってるイメージが強い。
それが皮肉気かどうかは置いといて。
「わたしがりんちゃんと笑っていたかった、まりちゃんのお世話をしたかった、だから、あなたたちがうらやましかった。そして、わたしが一番星になることで否定したかった」
笑いながら、でも身を切るように滔々と話す。
「もう今となっては叶わぬ夢ですが」
「そう?」
「えっ?」
泣きそうな笑顔から一転、きょとんとこちらを見る。
「だって、まだ私達1年生じゃん」
「それが……?」
「だから半年後に挑んでくればいい」
にやりと挑戦的に笑って見せる。
本物の一番星はかぐやだけど、きっと同じことを言うだろうから。
「秦谷さんの思いは分かんないし、分かってあげるつもりもないけど、半年後、夏のHIFで証明すればいい、私達……というかかぐやに」
だってそれは。
「私たちは
そう宣戦布告する。
「―――」
秦谷さん目を見開いて絶句したあと、緩く頭を振りながら、呆れたように笑った。
「ひどい人」
「うん?」
「そんなこと言われたら諦められなくなっちゃうじゃないですか」
そんな言葉に笑って答えた。
「大丈夫、かぐやは夢を叶える一番星だから」
私の夢は叶ったから、次はきっとあなたの番。
とはいえ負ける気なんかないけどね?
☆08
「いーろは♡」
「んお」
去って行った秦谷さんの背が見えなくなって、夕日を見ていると、どんと衝撃とともに柔らかな体温が背を覆った。
「もういいの?」
「へーき! あとは寮で話せばいいし」
「そっか、じゃあ私たちも帰ろ」
「うん!」
そう言ってスキップでもしそうな軽い足取りで歩くかぐやは、ライブの疲れなんかかけらも感じさせない。
永久機関でも積んでるのかと最近殊更に思う。
私はヘロヘロだってのに。
「ねえ、彩葉」
「んー?」
「これでおしまいなのかな」
前を歩くかぐやの顔は見えないけど、いつもより低いトーンの声は、夕日も相まって一人ぼっちで公園に残される子供のような寂しさが滲む。
「突然どうした」
「だって彩葉HIFまでって言ったし」
そんなことも言ったっけ。
「あー、たしかに、じゃコンビ解消だ」
「えー! やだやだ!」
急に立ち止まったかと思えば、体を反転させて両手を握りしめたかぐやの瞳にはどこか縋りつくような光が灯る。
ま、でも。
「……ふふっ、うっそー」
「あー!」
一笑に付してやれば、からかわれたと気付いたか非難するようにぷんすかして可愛い。
こんな姿でも魅せられるんだからさすがは一番星と言ったところか。
HIFが終われば、二人三脚の旅も終わり。
それは私からの約束だ。
でもあの時の契約はもう一つある。
「かぐやはさ」
「なに?」
「これがハッピーエンドだと思う?」
かぐやからの約束。
「んー……、彩葉一番星にしてあげれなかったしなー……」
「それは最初から勘定に入れとらんし……」
「むむむ……」
そう言って一休さんのようにこめかみに指をあてて悩むかぐや。
普通の生徒は、一番星に成れればそこがキャリアハイ。
卒業後のアイドル人生だって成功が約束されたようなものだ。
意識的か、それとも無意識か。
一番星を獲ったって言うのにハッピーエンドかどうか迷うとは、なんとも強欲なお姫様だ。
とはいえ、半年も一緒にやっていれば、そんなことは織り込み済みな訳で。
「あのさ、かぐや、六大オーディションって知ってる?」
「なにそれ」
「知らないなら、ま、いっか」
「えー! おーしーえーてー!」
「あ、ちょっ! 抱き着くな!」
「むー」
「もー……、帰ったらね」
「よっしゃ!」
私のはぐらかしにすっかり乗せられたかぐやがガッツポーズを取るのを横で苦笑しながら並んで歩く。
六大オーデションは、三大マスターオーディションと三道場で6つのオーディションの総称だ。
平たく言えば、初星学園のトップである一番星を決めるHIF、そのアイドル業界版。
一個でも取れれば上出来通り越して大金星。
その分野におけるトップアイドルを名乗ったって、誰も文句は言わない。
その難易度は当然高く、複数冠どころか二冠ですら取ってるアイドルは歴代でも稀だ。
「そんでその六大なんとかがどうしたの?」
「ん? いやさ」
きっと一番星じゃ満足できないあなたのための舞台。
プロデューサーとして用意した次の舞踏会への招待状。
「せっかく一番星取ったんだし、次は『六冠』目指そうかなって」
今度は私がハッピーエンドまで連れてくから。
おしまい。