バッドエンドが好きなワイ、鬼滅の刃で鬼になる   作:#どんぐり

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転生したと知った時

 小鳥が囀る音が聞こえる明朝、徐々に自分に世界を彩らせる。露の匂いと、肌寒さを感じながら、固まった体を起き上がらせる。 

 

「ふぁ~あ、はぁ、眠いな~」

 

 朝になり、意識が覚醒していない頭で布団から這い出て居間へと行く。

 

「あ、兄ちゃん! おはよ」

「あぁ、おはよう、今日も起きるのが早いな」

 

 こいつは弟の友治、性格はまじめで病弱な母を支える俺のかわいい弟だ。本人には言わないが俺の自慢である。

 

「朝餉もう用意してあるから食べてね! あ、でも顔洗ってからね!」

 

 外にある井戸に向かい、眠い目を擦りながら水を汲み上げる、汲み取り器を操作し、顔が反射する程きれいな水で顔を洗った。そこで異変に気付く。

 

「はぁ~さっぱりしたー! ...あれ? なんだあの山の霧?」

 

 ここから見て奥の方にある山が霧に覆われ山肌が見えなくなっている。なんだろあれ。昨日の夜、雨でも降ったんかな? 水たまりないけど、ていうかここら辺霧出ない地域なはずだけど...まあいっか早く家戻ろっと。

 霧のことは忘れて、居間に戻ると、朝餉の支度を終えた友治と普段は布団で寝たきり状態の母もそこに居た。俺は驚きながら母を見る。

 

 

「母さん! なんで起きてるんだ?! 体調は!?」

「あ、ふふおはよう、今日は少し体調が良くてね。久しぶりにみんなと一緒に食べたかったのよ」

「そうなのか、少しでも体調悪くなったら言ってね」

「ふふ、分かったわ」

 

 普段は起き上がり一緒に飯を食べることなど不可能に近いのだが、今日はたまたま調子が良かったようだ。

 ちなみに父親は居ない。弟をまだ母が身ごもっているときに流行り病で死んでしまったらしい。その時の俺は三歳で物心もついてすぐぐらいだったから、よく理解していなかったけど、今、成長してから考えると悲しい。

 

 それから母と弟と普段の生活や気づいたこと、驚いたこと、最近の悩みなど話したいことを話していた。本当に体調が良いようで、今まで母の顔が病気で怖いぐらいに色白なはずだが、今は血色がよく健康体と言っていい程だった。

 

 そのまま平和な日常が過ぎていった。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 時は経ち、夜。朝に感じていた違和感。放置した報い。あるいは自分にとって必要な()()かもしれない。

 

 ドドォォォォォォォォォン!!!! 

 

 玄関の方からものすごい音がした。深い眠りから一気に目が覚める。玄関先から煙のような霧が立ち込める。

 

「うわ! なんだ今の音?! んでなんだこの煙?!」

「に、兄ちゃん! 今何が起きたの?!」

「と、とりあえず玄関を見てくるから、友治は母さんの所に行ってくれ」

「う、うん、分かった」

 

 友治にそう言い、早速玄関に向かう。視界が悪くなった廊下を渡り、玄関を見ると、散乱した木々の真ん中に、紳士のような恰好をした目が赤い西洋風の服を着た男のような()()()が居た。その()()()は目だけをギョロっとこちらに向けると、視界に認識できない速度でこちらに迫ってくる。指の先を自分の喉仏に宛がわれ、気が付くうちにとがった爪が、首を貫いた。

 

「ふん。食事のためにここに来たが、思わぬ収穫があったようだ。喜べ、お前を鬼にしてやる」

 

 その言葉を皮切りに自分の意識が落ちる。

 

 視界が暗転する中で、浮かんでくる情景。懐かしさと共に、徐々に蘇る過去の記憶。時代は進んだ未来の記憶。そして自分の前世の記憶。

 

 なだれ込んできた記憶には大まかな記憶しかなく、細かい事などは何も無かった。記憶には、自分という存在や住んでいた場所、自分が特に好きだった物の情報などが含まれていた。それだけならば何も言うことがないのだが、子供の純粋な心のまま見た物語の影響で、染められた嗜好という要らないものまでもが蘇ってしまった。そしてその中には決して蘇ってはいけなかった嗜好...()()()()()()()()を愛しているということだ。

 

 バッドエンド物語とはその名の通り、物語の結末が絶望や消失のまま完結するということだ。きっかけは子供の頃に見たアニメが、最終話で主人公の両親、仲間、ヒロインが無残な死を遂げ、主人公が身体精神共に疲弊し自決し物語が終了するという、なんとも悲惨な最後だったのだ。だが、俺は気持ちが高ぶった。滾った。絶望感というものが...

最高だと思ったのだ

 そこからはバッドエンド物語を追求し続け、バッドエンド物語という数少ない物語も底をつき、気が付くと、果てには息絶えて転生し、今に至るということだ。

 

 そして記憶にはもう一つ重要なものが隠されていた。この世界は鬼滅の刃の世界だということだ。確信に至った理由が、さっきの俺の首を手で刺した男は鬼舞辻無惨だったからだ。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 目が覚める。

 

 背中から畳の感触が伝わってきて、鼻を突くのは見慣れた家の匂いだった。暗闇に慣れた視界に、天井の木目がぼんやり浮かぶ。

 

「……生きてる?」

 

 喉に手を当てる。貫かれたはずの首は、なにもなかったかのように滑らかだ。ただ、脈打つ鼓動が異様に早い。

 生きていると実感した今、唐突に襲ってきた飢えが自分の思考を支配する。胃が、いや、体そのものが何かを求めて軋む。水でも、飯でもない。もっと根源的で、取り返しのつかない欲求。

 

 その時、障子が開いた。

 

「兄ちゃん!! 大丈夫?!」

 

 友治の声。

 

 反射的に返事をしようとして、言葉が喉で詰まる。声を出した瞬間、何かが壊れる気がした。

 

 本能が友治を喰えと唱える。

 

 破れた扉からこぼれる月明かりに照らされた友治の顔が、やけに鮮明に見えた。血管の一本一本、体温までもが伝わってくるように感じる。

 

 ここで、一つ案が浮かぶ。今、友治を喰ったらそれこそバッドエンドになるのではないか? オレは生粋のバッドエンド好きだし、この世界でそれを()()できる立場に立ったのだとしたら...

 

 想像した先の世界に喉が鳴る。

 

 よし、決めた。ここでオレの人間としてのバッドエンドを自らの手で迎えよう。友治と母を殺して、区切りをつけてしまえば鬼としてのオレをここから始められる。この鬼滅の刃の世界を謳歌することが出来る。

 

 そうと決まればさっさと殺そう。

 

「友治...ちょっとこっちに来てくれないか」

 

「う、うん」

 

 タタタと足早にこちらに向かってくる。そこに軽く腕を振るって友治の右腕を吹っ飛ばす。

 

「え? あ、あああああああああ!!!」

 

 友治は自分の腕が吹っ飛ばされたことに気が付くのに一瞬分からなかったが、痛みがその事実を鮮明に教えてくれた。

 

「に、兄ちゃん!? っ! な、なんで、こんなことを?!」

 

「友治、ごめんな」

「オレ、鬼になっちまったみたいだ」

 

「お、鬼って...」

 

 友治の目には恐怖心しか映っておらず、オレを見る目が徐々に兄ではなく鬼を見る目に変わっているのを感じる。

 

「友治、鬼ってのはな? 人間を主食にしてる別の生き物なんだよ」

「つまり、オレはもう人間には戻れない。そして友治、お前を弟でもなく人間でもない、食料にしか見えないんだ」

 

 突然兄から食料とはっきり言われて戸惑う友治は、詰まりながらも目の前の兄だったものに話しかける。

 

「で、でも今まで一緒に生活してきた兄弟じゃないか! 正気に戻ってくれ!」

 

 フっと笑いながらオレは友治の首に爪を突き刺す。拒絶の言葉を聞きながらただただオレは口元を歪ませ、歪な笑顔を浮かべながら淡々と友治の生命維持が終了するのを待っていた...

 

 

 

 友治を殺し、喰い終わった後、残った母のところに向かう。

 

 母は縁側の方に居た。どうやらオレと友治のやり取りを聞いていたみたいで、苦悶の表情を浮かべながら、脅威(オレ)から逃げていた。

 

 ただ母は病弱で逃げる速度は極端に遅かったためすぐに追いついた。

 

 母はオレに対して、何があったのか、どうしてそうなったのかなど色々聞いてきたが、そんな文言を一切気にせずに喉元を指で貫く。血に濡れた手が徐々に冷たさを孕んでくる。

 

 

 

 すべてが終わり縁側にてオレは夜空を眺める。星々が煌めく中、自身の感情は愉悦で支配されていた。

 

「~完~ バッドエンド 鬼の支配 フフフ」

「いい~バッドエンドだ」

「前世では自らの手でバッドエンドを作り出すことは出来なかったが、この鬼滅の刃の世界なら、鬼として登場キャラクターのバッドエンドを演出できるんだろうなぁ」

「ククク、楽しくなってきたぁ」

 

 

 

 

 

 

 

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