もう一度、花火を見に行く二人のお話。

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打ち上げ花火をもう一度

 

 

「いやっほー! ドライブ♪ ドライブ♪ 彩葉とドライブ♪」

 

「はしゃぐのはいいけど。シートベルト」

 

「わかってるわかってるって。あれ、ハマらない」

 

「はい。ごー、よーん、さーん、にー」

 

「待って待って待って待って! お、入った! 装着ヨシ!」

 

「ご安全に。それじゃあ出発」

 

「あ、コンビニ寄ってほしい! 旅にじゃがり○はマスト! 絶対! 絶対! あとアイス食べたい!」

 

「はいはい」

 

 日付、8月31日。時刻5時32分。

 天候、快晴。

 気温、湿度.はクソ暑いしクソ湿ってる。以下省略。

 晴れて輝夜と再会を果たして、初めての夏の終わり。

 私は、炎天下の中での耐熱テストと適当に理由をつけて輝夜をドライブに連れ出していた。

 8月が終わっても、気怠い夏が終わるわけじゃない。

 それでも決まった何かをこなして、季節を移ろおうとさせるのは、どこの人も同じだ。

 それは例えば、誰かの誕生日を祝うことだったり、新年を迎えることだったり、チョコレートを渡すことであったり、花見であったり、海に行くことであったり、名月を愛でることであったり。

 

 打ち上げ花火を、見に行くことであったりする。

 

「メールト♪ 溶けてしまいそう〜♪ クソ暑くて、アイスが、ベタベータ♪」

 

 コンビニで物資を補給して、高速に乗ること数十分、隣から物騒な替え歌が響いてきた。

 思わず、横を見る。

 カップの底に、液体になったバニラアイスが溜まっていた。

 

「ああっ! ちょ、それ絶対シートにこぼさないでよ!」

 

「ふっふっふっ、それは彩葉さんのドライビングテクニックにかかってますなあ。アー、遠心力ガー」

 

 ふざけて頭を寄せてくるが、道はド平坦だ。

 

「無から遠心力生み出す暇あったら、ゴミ箱にいれて」

 

「ちぇー、つれない。こぼさないようにポイッとな。てかさ、いつの間に免許取ってたの?」

 

「大学の時に、隙見つけて」

 

 それこそ丁度、夏休みだったか。

 身分証明書として便利かなくらいの気持ちで取ったけど、運転してみたら意外と楽しい。

 かぐやを横に乗せて、ドライブ出来たら楽しいだろうな。なんて、考えちゃったし。

 

「いいなあ。かぐやも取ろうかな。楽しそう!」

 

「どうだろ。試験、意外と難しいよ」

 

「試験?」

 

「実技と筆記。筆記はマルバツ問題だけどね」

 

「え、余裕じゃん。なんか問題出してよ」

 

 そうだな。運転免許の学科試験と言えば。

 

「うーん、じゃあ。問題です。夜の運転は気をつけないといけない。マルか‪バツ‬か?」

 

「はい! マルマルマルマル! 夜の運転は暗くて危ないので気をつけます!」

 

「ぶぶーっ。ざんねーん、バツでーす」

 

「ええっ、なんで!?」

 

 分かりやすく、かぐやは目を丸くしていた。

 

「運転は何時でも気をつけてないといけないので、バツでーす」

 

「はあぁぁぁぁぁ!? 何それ引っ掛けじゃん!」

 

 気持ちは、痛いほど分かる。なんなら、私もかぐやみたいにツッコミまくった側の人間だった。

 もちろん、試験は一発合格しましたとも。

 

「ふふふっ、8000年経ってもかぐやに免許はまだ早そうね」

 

「むむむ〜。あっ、では問題です! じゃじゃん!」

 

「急だな」

 

「かぐやは彩葉の事が好きである! マルかバツか!」

 

「ええっ、えー......」

 

 何だこの問題。マルでもバツでも辛い。

 

「はい、チクタクチクタク♪ チクタクチクタク♪」

 

 陽気な音楽まで流れ始めた。

 ここは、腹を括るしかないか。

 

「ん、ん〜、ま.マルで」

 

「......」

 

「......」

 

「ざんねーん! バツでーす!」

 

「え」

 

 一瞬で血の気が引く。「大正解! ちゅっちゅー!」なんてリアクションが返ってくるとばかりに考えてしまっただけに、ショックが大きい。

 動揺を運転に出さないように注意をしながら横目で、かぐやを見る。

 輝くばかりの笑顔で、彼女は言った。

 

「かぐやは、彩葉の事ざ大大大大だーい好きだから、バツでーす! ふふふん、引っかかりましたなあ。かぐやマスターの道程は長いぞよ」

 

「なんの試験だ、それ」

 

 平静を装いつつも、心の中で大きく息を吐く。

 帰ったら、かぐやマスターの教科書を買おうと思った。

 

 

 ■

 

 

 それから、車を走らせること1時間程。

 陽も沈みかけようとしていた。群青と茜色が混ざった空に、一番星が我先にと顔を出していた。

 

「かぐや、着いたよ」

 

 車を停め、横で寝ているかぐやのカラダを揺らす。

 

「んむにゃ。んー! 体が固い。気がする.どこだココ?」

 

「山の展望台。かぐやと来たかったの」

 

「展望台?」

 

 頭に疑問符を浮かべたままのかぐやと、車を降りる。

 少し歩いて、展望台へ続く階段を登っていくと、夜空を照らす夜景が飛び込んでくる。一面に煌々と輝いていた。

 

「あれ、あの長い光の川.なんか見覚えあるような」

 

 その中央を流れる川沿いに続く提灯とテントの光の帯に、かぐやは目を細めていた。

 

「そりゃ、あるんじゃない。私から見て、10年前はあの中にいたんだし」

 

「え、10年前?」

 

「焼きそば、とうもろこし、チョコバナナ、りんご飴」

 

 ダメ押しのヒントに、かぐやのアホ毛がピンと垂直に立った。

 

「あ、あーっ! 夏祭り! え、行きたい行きたい! 行こーよ!」

 

「却下」

 

「ぶー、なんで」

 

「年取るとね。人混みがね。無理なのよ。疲れる。明日に響く」

 

「彩葉、老けたね〜」

 

「あんたは逆に老けなさすぎ。はい。悪いけどこれで我慢して」

 

 鞄の中に忍ばせていたラムネ瓶を手渡す。せめてもの夏らしさと鞄に入れても大丈夫なものとなると、これしか思いつかなかった。

 

「おーっ! ラムネ! 仕方ないですなあ。ポンっとして。んぐっ、ん〜、ベタに美味い」

 

「だね」

 

 わざとらしい砂糖味が舌に絡む。

 夜風が頬を撫でた。祭りの喧騒が遠くからでも、ここまで聞こえてくる。

 あの日。

 10年前のあの日は、もっと人混みが凄くて、色んな食べ物の匂いがして。

 月から来たかぐや姫が、隣にいた。

 

「......花火、ここからでも見えるの?」

 

「うん、見ての通りちょっと遠いけど」

 

「そっか。遠くまで来ちゃいましたなあ。私達も」

 

「そう。そうだね」

 

 ドンと、鼓膜を揺らす音が響いた。

 あの時と違って人々の歓声も、上がる光弾も見えない。

 ただ、空に小さく華が咲いていた。

 

「お、始まった。見える見える! あの時とは全然違ってちっちゃく見える! でも、綺麗。風情〜」

 

「......」

 

 遠くから。少し遠くから見ても、夜空に咲く花火はやっぱり綺麗だ。

 今も、そう思える。

 

「......ねえ、彩葉」

 

 ふと、かぐやが呟いた。

 

「なに?」

 

「なんで、私と花火見ようって思ったの?」

 

「なんで、か」

 

「......」

 

 少し視線を泳がせる。

 私達が黙っている間にも、空には花が咲き続けていた。

 

「私さ。知ってるかもだけど、後悔とかしない人間なんだよね」

 

「彩葉って書いて、後悔しないって読むからね」

 

「それは言い過ぎ.てもないか。まあ、自分の選択に後腐れとかこうしたら良かったとか、全然思わないし、これからも私は私の信じた道を往くんだと思う」

 

「いいじゃん。彩葉らしくて。すべての道は彩葉に通ず〜」

 

 結局は、私の思う通りってか。

 いい言葉じゃん。

 

「でもさ」

 

「およ?」

 

「1個だけさ。後悔があるんだよね。特大のヤツ。十年前のあの日。かぐやと一緒に見た花火に」

 

「............ごめんね」

 

 小さく、かぐやは口を開いた。

 花火の音に消されるくらいの、本当に小さな声だった。

 

「別に謝らなくてもいいよ。違う、謝ってほしくない。かぐやはかぐやで精一杯だったのは分かってるから」

 

 月に帰る。

 あの日、かぐやは私にそう告白した。

 私の今に繋がる、すべての始まりで。かぐやの過去に繋がるすべての始まり。

 

「......ねえ」

 

「何?」

 

 かぐやはあの日と同じ、変わらない微笑みで私に問うた。

 

「彩葉は、お母さんのこと好きになれた?」

 

「......今でも分からない。でも」

 

「でも?」

 

「感謝はしてる。それなりに、感謝は出来るようになった」

 

 母と完全な和解は出来ていない。する気もない。できる気がしない。

 ただ、母は母で。

 私は私だ。

 家族という他人であると、そう理解はできるくらいの年月は流れていた。

 

「おー、成長しましたなあ」

 

「成長というか、妥協かな」

 

「それが、成長なんじゃないの?」

 

「どうだろ。今でも喧嘩する時はするし」

 

「それは、うーん......」

 

「おいカバーしろよ」

 

「あっはは〜」

 

 誤魔化すように、かぐやはガラス瓶を傾けた。

 カランと、ガラス玉の音がやけに響いて聞こえた。

 

「話戻すけど。花火見る度に思い出しちゃうのよね。楽しかった思い出と悲しかった思い出が、だから」

 

「何処にも行かないかぐやと、また見たかったんだ」

 

「......うん。好きな子と好きな事したかったの」

 

「......」

 

「......」

 

「え、なに。次の新曲はラップ? YO! YO! チェケ!」

 

「うるさい。忘れろ」

 

 勢いで変なこと口走った自覚はあるから、尚更やめて欲しい。本当に。

 かぐやは、愉快そうに口角を上げたまま、その場でくるりと回転すると、言った。

 

「前言撤回。彩葉は全然成長してませーん」

 

「んなっ」

 

 子供みたいな悪戯っ気のある挑発のまま、かぐやは捲し立てて続けた。

 

「口うるさくて、仕事人間で、頑固で」

 

「ちょっと」

 

 流石に4つ目は我慢できない。

 

「かぐやが大好きな、彩葉のまま」

 

「......」

 

「ありがと。私の事、好きでい続けてくれて」

 

「こちらこそ。かぐや」

 

 気付けば花火はとっくに終わっていた。虫の声が沁みるように夜の空気に溶けだしていた。

 

「えへっ、あー遠心力〜」

 

 どこにカーブがあるのか分からないけれど、かぐやは頭を私の肩に寄せてくる。

 重いな、と思った。

 でも、一番感じたかった重みでもあった。

 

「もう、仕方ない」

 

 そっと、彼女の肩を抱き寄せる。

 少しだけ花火が好きになれた気がした。

 

 

 ■

 

 

「ねえ彩葉! あのピカピカしたお城みたいなところ行ってみたい!」

 

「あーあー! 聞こえませーん! 行きませーん! 明日に響きまーす!」




めちゃくちゃ久しぶりに衝動のままに書きました

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