「うーん…」
僕は目を開く。いつもの天井だ。唯一違うところと言えば…
「すう…すう…」
僕のお腹の上に紅葉が乗りかかって眠っていることくらいだ。
「紅葉、起きて紅葉」
「うん…ああ、おはようございます京介さん」
「よかった、こちらに来れたんだね。」
「はい、よかったです」
僕はほっと胸を撫で下ろす。
「京介さん、私を連れ出してくれてありがとうございます。迷いの家の主人として、改めて京介さんにお仕え申し上げます」
深々と、紅葉が頭を下げる。
「そ、そんな改まらないでよ」
「そういうわけにはいきません。これからは貴方様に仕えて支えていくと決めましたので」
「うう…なんか違和感だな…それよりも、これからどうしよっかな…」
改めて現実に世界に連れてきたが紅葉は女子だから男子寮に置いておくのは難しい。何か方法はないだろうか。とりあえず、今日はバレないようにして大園さんに相談してみようかな。
「それなのですが…私は人形にもなれます」
そういうと紅葉は人形の体に変わった。
すっかり忘れていた。紅葉は人形にもなれた。なんなら年齢も操れるのかもしれない。今の姿は小学生くらいに見える。
「人目を忍ぶ時はこちらでいましょう。さっそく、朝食のお時間です。私がご用意いたしましょう!」
「…ここキッチンとかないけど」
寮生活なので共同のキッチンはあるものの、個人のキッチンはないのでこの姿で紅葉が出ていくと目立つだろう。
「きっちん…?」
「そこからかー…」
高齢者2人の家では確かに横文字はあまり使わなかったのかもしれない。
「くっ…いったい私は何をすれば…」
悔しそうにしている紅葉を見て僕は自然と笑みが溢れた。僕の新しい同居人は少々常識知らずらしい。まずは現代の常識から教える必要がありそうだ。
あ、そうだ。一応氏神様に見てもらったほうがいいだろうか。なんならみんなにも紹介したほうがいいのかもしれない。そんなことを考えながら、僕は布団から出るのであった。
エピローグ
「紅葉、僕の学校に氏神様って神様がいるんだ。一応見てもらおう」
あまり僕は紅葉がどういう存在なのかわかっていないのだ。こういうのはやはり専門家を頼るべきだろう。
「ふぁい、ふぁかりまふぃた!」
僕がキッチンで焼いてきた食パンを頬張りながら紅葉は答える。流石に食堂では食べられないので部屋に持ってきた。
もしかして、大きさによって精神年齢が左右されているのだろうか。大人姿の時よりも明らかに幼い。僕は紅葉の口周りをティッシュで拭いてあげると猫のように目を細めている。
「美味しい?」
「ふぁい!」
紅葉のいた環境的にお米とかが主流だったのだろう。パンは珍しいのかもしれないが、まさかここまで喜ぶとは。
時間は7時ごろ。僕が起きる時間にしては少し早い。
うーんと伸びをする。あ、そう言えば連絡が何件かきていたのを思い出した。返信しないといけないな。
そう思った僕は何の気なしにスマホを見た。
大園 10件
林 4件
本庄 10件
「」
めちゃくちゃ連絡が溜まっている…他の人が見たら少ないかもしれないが、僕にとってこの数は驚異だ。
と、とりあえず一番少ない林くんから確認しよう
林 大丈夫か?
林 無理せず休め
林 何か食べたいものはあるか?
林 もし何か必要ならば持っていく
僕のことを心配してくれていたみたいだ。よかった…いや心配をかけている時点でよくないんだけど…
とりあえず、大丈夫だよ、心配かけてごめんねと返信しておく。
さあ、問題は2人だ。なんだか昔姉からの連絡を無視したときのことを思い出す。あの時は大変だった…
とりあえず…どうしよう。あいうえお順的に大園さんから見るか。
大園 先輩、大丈夫ですかー?
大園 無理しないでくださいよ!
大園 明日は来れますか?
大園 熱あるとか、お腹とか痛くないですか?
大園 なんかお昼から先輩変でしたもんね
大園 明日も無理だったら休んでくださいね!
大園 元気になったらまた遊んでもらいますからね!
大園 よくなったらゲーセン行きましょうゲーセン
大園 じゃ、またよくなったら!
大園 おやすみなさーい!
大園さんの気遣いに胸が温かくなる。ごめんね、もう大丈夫だから今日部活行くよと返信を入れる。
最後は本庄さんだ。
本庄 日向君大丈夫?
本庄 無理しないで早く良くなってね!
本庄 お大事に!
本庄 日向君がこいし
…こいし?小石?このメッセージは途中で送られてきたみたいだが…果たして何を伝えたいのだろう。
本庄 こいしおらーめん食べてるところがまた見たいな!
…?そんなに塩ラーメンが好きなように見えていただろうか?別に嫌いではないがそんなにラーメン好きをアピールしたこともない。まあ、本庄さんから見たら僕はラーメン好きなのだろう。多分…
本庄 早く元気になってね!
本庄 塩ラーメン食べられるくらい!
本庄 それじゃ!おやすみ日向君!
本庄 おはよう、体調はどう?
本庄 無理しちゃダメだよ?
朝になって2件連絡が来ている。朝も僕の気を遣って送ってくれたのだろう。みんなに心配かけちゃったな…もう今日は大丈夫だよ、ありがとう。
と連絡を返しておく。
一通りは返せた、みんなに心配をかけちゃったな…申し訳ない。
「ごちそうさまでした!」
「あ、うん。お粗末様でした。紅葉、早速なんだけど学校に行こうと思うんだ。人形化できる?」
「はい、わかりました!」
紅葉は市松人形、おそらくは本来の姿であろうものに変化する。変化したのだが…
「…もう少しだけ小さくなれない?」
「ごめんなさい…これが限界で…」
大きさ的には40cmくらいあるだろうか。カバンに入らなくはないが、正直言ってパンパンだ。うーん…サブバッグなんてものは持ってないし…いや、持っていく教科書類を吟味すれば…よし、なんとか入るな。
「紅葉、狭くて苦しいかもしれないけどカバンの中に入ってくれる?」
「私が後ろからついていくのはダメなのですか?」
それをすると変な噂ができそうだ。流石にできないだろう。
「ごめん、それはできない」
「わかりました、それでは中に入りますね」
「紅葉、僕がいいって言うまで話しちゃダメだからね」
「わかりました!」
紅葉は自らカバンの中に入る。僕は制服に着替え、カバンを肩にかける。教科書プラス紅葉の重みがずしりと肩にかかる…だが、ここで重いなどと言うと、紅葉に悪いだろう。僕はずっしりとした重みを肩に感じながら部屋を後にした。