異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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空への憧れは捨てられない物である

 3時間後。シュトゥルム王国からの使者が、村の入口に姿を現した。

 

「リリー殿、お元気でしたかな? 以前見た時よりも、顔色が良くなったように感じますが」

「特段変わりなく。顔色は……最近、新しい趣味が出来たのが関係してるかもです」

 

 前日姿を見せたコルセア帝国の使者たちとは真反対の、丁寧で落ち着いたやり取りに、三雄は少しばかり安堵した。

 

「ところで、そちらの御仁は?」

「彼は三雄。異世界人ですよ」

「初めまして、四藤三雄です。つい最近、ネイト村に住まうようになりました」

「なんと、異世界人でしたか。これはご丁寧にありがとう。私はジーク。ジーク・ホワイトと申します。以後、お見知りおきを」

 

 一通り挨拶を済ませた三者は、使者の護衛を引き連れて、リリーの研究室に足を運んだ。

 

 扉を開いてすぐに、ジークは唖然とする。

 

 所狭しと置かれた数々の鉄鳥(航空機)たち。一見異様な光景だが、何処となく美しさを感じさせる鉄鳥たちの姿が、違和感よりも先に感動を脳に感じさせた。

 

「これは、壮観ですな。リリー殿、この鳥のような物は一体?」

「三雄が元いた世界で、大空を自由に駆けていたとされる、鉄鳥たちの形をした、体験型遊戯の筐体です。そして、依頼を受けていた、異世界に関する研究の成果になりますわ」

「ほう、大空を! して、体験型遊戯とは?」

「大空を自由に飛ぶ体験ができる、夢のような遊戯ですよ」

 

 その言葉に、ジークと護衛たちは目を剥いて驚嘆した。

 

 シュトゥルム王国では、定期的に異世界人を召喚する試みを行っている為、三雄の存在自体には大して驚かなかったのだが。目の前にある無数の鉄鳥たちは、魔法単体では難しいとされる自由飛行を体験できる、夢の筐体だと言うのだ。

 

 そのような絵空事は、本当に可能なのか。そんな疑念は僅かにあるが、彼らが相手にしているのは、この世界の中でも五本の指に入るとされる偉大な魔法使い、リリー・ブラウンである。

 

「試しに体験してみますか?」

「! 是非ともお願いしたい!」

 

 食い気味に答えたジークを見て、リリーは既に勝ちを確信した。

 

 ここから、どれだけ彼が。そして、護衛たちが食い付くか。

 

 好感触であれば、シュトゥルム王国の力を借りる事で、大々的に宣伝する事が可能となる。

 

「ではジーク殿。こちらにお乗りください」

 

 三雄がジークに乗らせた機体は、複葉機の九五式戦闘機である。

 

 最高速度は控え目だが、素直な操作性であり、操作難易度が「梅」であれば、比較的容易に動かす事ができる。

 

 筐体に銅貨を入れると、風防に精巧な魔法陣が出現。三雄が軽く操作をすると、ナビゲーターが「承知致しました、四藤准尉」と受け答えした。

 

 機体から飛び降りた三雄が敬礼すると同時に、低級任務である「基本飛行訓練」がスタートする。

 

「おお、これは凄い! 結界やガラスに、景色を映し出しているのですかな? 何にせよ、リリー殿の腕は相変わらずのようだ!」

『基本飛行訓練へようこそ。私が、貴官の訓練を担当する教官だ。よろしく頼む』

「おお、何卒よろしくお願い申し上げます、教官殿」

『うむ。それでは早速だが、まずは機内の計器の説明からだ』

 

 特に問題なく進行していく様子を、三雄とリリー、そして護衛たちは固唾を呑んで見守る。

 

 護衛たちは気にしていないが、ジークと教官の会話内容が噛み合っている事に、三雄とリリーは内心ヒヤヒヤしている。

 

 頼むから、下手な問題は発生してくれるな。そんな思いの二人とは裏腹に、ジークは大空へ飛び立つ時を、今か今かとワクワクしながら待つ。

 

 そして、遂にその時はやって来た。

 

『では、離陸するぞ。操縦桿を握ったまま、スロットルを全開にしろ。私が先行する』

「スロットル……これですね。全開!」

 

 景色が少しずつ移動を開始する。速度が乗り、揚力が発生する。その直前に、教官が叫んだ。

 

『今だ、操縦桿を引け!』

「う、ぬうう……!? 浮いたっ。浮いたぞ!」

『気を抜くな! 操縦桿を目一杯引くと失速する! 軽く操縦桿を戻して、まずは安定した水平飛行からだ!』

 

 厳しさを表に出しながら。しかし、事故なく確実に飛行させる強い意志を滲ませる教官の声を受けたジークが、ハッと気を取り直して機体の状態を安定させていく。

 

 そんな様子を見て、三雄は過去の記憶を思い返しながら、優しい表情を浮かべて見守る。

 

「……三雄」

「懐かしいなと思いまして」

 

 純粋に、大空へ駆け上がる事への楽しさだけを知っていた頃の記憶が蘇る。

 

 やはり、そう簡単に過去の記憶から切り離せる物ではない。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、しかし明るい表情を浮かべている三雄を見て、どんな言葉を投げ掛ければ良いのか分からないリリー。

 

『……准尉。四藤准尉!』

「っ、教官?」

『貴官も空に上がれ。これより、編隊飛行の訓練を開始する!』

 

 教官の声に弾かれるようにして、三雄が九七式戦闘機に飛び乗った。

 

 すると、銅貨を入れていないにも関わらず筐体が起動し、機体の近くに人影が現れる。

 

『準備は全て終えてあります! いつでもどうぞ、四藤さん!』

「四藤機、出ます!」

 

 顔馴染みであった整備兵に手を降ると、三雄は空へ上がった。

 

 九五式戦闘機と比べて、速力面で大きく勝る九七式戦闘機を駆る三雄は、すぐにジーク機に追い付いてピタリと横付けすると、速度を調節して編隊飛行を行う。

 

『よろしい。陣形はこのまま。高度を少しずつ上げていくぞ』

「了解!」

「りょ、了解!」

 

 教官機を必死に追い掛けるジーク機と、スロットルを細かく調節しながらほぼ同じ速度で上昇していく三雄機。

 

 あまりにも速度のズレが見られず、陣形の崩れが起こらない様子に、護衛の人間たちは少しずつ異常を感じ始めた。

 

 三雄を見ると、彼は前方は一切確認していない。ひたすら横にいるジーク機を見つめながら、ノールックでスロットルレバーを何度も細かく弄っている。

 

『上昇止め。各機、水平飛行に移行』

「上昇止め。水平飛行に移行、了解致しました」

「は、はい。 ……うわあ! 何という高さなのだろうか!」

 

 高度3000メートル。航空兵からすれば、まだまだ低空に近い領域であるが、大空へ初めて駆け上がったジークにとっては、雲の近くを飛ぶという未知の体験である。

 

 その後もジークと三雄は、教官の指示に従って旋回を行ったり、下降をしたりと一通り動き回った。

 

 何か新たな動きがある度に、護衛たちは声を上げる。

 

 磁石で引き寄せられているかのように、三雄機はジーク機の翼が触れるかどうかのギリギリの距離で、前にも後ろにも出る事なく飛行を続けているからだ。

 

 ジーク機は、時折教官機に離されたり近寄りすぎたりしているので、全く安定した飛行ではないのだが。それにも関わらず、三雄は常に速度を同程度に合わせ続けている。

 

 やがて、空での訓練過程が完了し、いよいよ着陸のみとなった段階で。三雄が、勢い良く斜め後方を振り返った。

 

「っ、左上方に敵機発見! 数は一機のみの模様!」

『了解。四藤准尉、やれるな?』

「! ハッ、お任せを。教官とジーク殿は、先に高度を落とし、着陸を行ってください。確実に仕留めて参ります」

 

 絞っていたスロットルレバーを全開にし、三雄は機体をグングン昇らせていく。

 

 敵機の機影がハッキリする頃には、三雄機は同高度まで上がり、数秒の水平飛行で失った速度を取り戻してから反転。猛烈な速度で敵機へ向かっていった。

 

 その様子をジークは、高度を落として飛行しながら心配そうに眺める。

 

『案ずるな、訓練生。それよりも、瞬きする間すら惜しいからな。しっかり見ておけよ』

 

 だが、教官は楽しげに声を掛ける。

 

 三雄機は、発砲された機銃を横滑りによる最低限の回避機動で躱すと、機体同士がすれ違った瞬間にラダーペダルを踏み抜いて操縦桿を引き、更にスロットルレバーを絞って急速旋回を敢行した。

 

 敵機も旋回を始めたが、ただの旋回で全力機動中の九七式戦闘機を振り切れる訳がない。

 

「捉えた……!」

 

 三雄が、敵機が移動する場所を目掛けて機銃を短く連射。すると、敵機は機銃の雨霰に自ら飛び込んだ。

 

 操縦席を綺麗に撃ち抜かれ、敵機は黒煙を噴き墜落していく。

 

 あまりの早業に、ジークや護衛たちが目を剥く。ほんの一瞬で、勝敗が決してしまった。

 

『奴は、帝国陸軍でも指折りの腕を持つ戦闘機乗りだ。そこらの敵機に落とされるような、ヤワな兵士ではないさ』

 

 何処か誇らしげな教官の声が、ジークたちの胸を打つのだった。

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