異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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片翼の黒き鉄鳥

 突如現れた濃霧が、村全体を覆っている。家の中にまで立ち込めていて、マトモに動けない。

 

 そんな知らせを聞いて、何とか事態を解決しようと手を尽くすも、何故だか上手く行かず、頭を抱える者がいた。

 

「ああ、もう! 風属性魔法を一切受け付けず、火属性魔法で蒸発もしない! 時戻しも何故か作用しない! 本格的にお手上げなんだけど!?」

 

 村で一番どころか、この世界でも五本の指には確実に入るであろう魔法の才を持つ村長の娘であるリリー・ブラウンは、村の中心部で悲鳴を上げながら、長い銀髪をグシャグシャと掻き回した。

 

 あまりにも深い霧で、農作業をするどころか、ちょっとゴミを捨てに外出する事もできない程なのだ。一刻も早く解決しなければならない事案なのだが、現状どの策も効果を見せずにいる。

 

 しかし、投げ出す訳にも行かないので、必死に新たな打開策を練るリリー。

 

 そんな彼女を邪魔するかのように、徐々に爆音が辺り一帯に降り注いだので、それどころではなくなったが。

 

「今度は何よ! ほんっと喧しいんだけどって……霧が薄まっていく?!」

 

 爆音が近づくにつれて、濃霧はどんどん晴れていく。

 

 やがて、自身の発する声すら聞こえにくいと感じる程に爆音が近づいたところで、霧が完全に消え去った。

 

「えっ、何アレ……鉄で構築された鳥?」

 

 濃霧と入れ替わるようにして、耳を劈く爆音を鳴り響かせる大元が出現する。

 

 それは、“この世界”の人間は一度も見た事がない形状をしていた。

 

 パッと見は、片翼を失った鳥のようだと思わせる形をしている。だが、自然に命を宿した生物とは到底思えない冷たさと、何とも言えぬ異物感を持っていた。黒煙を上げている点も、その異質さに拍車をかける要因となっている。

 

 リリーの告げたように、鉄で構築された鳥、或いは鉄鳥と評すのが最も適切であろう。

 

 咄嗟に火属性魔法を構築し、炎弾によって撃ち落としてしまおうとしたリリーだったが、鉄鳥の中に人体が発する生命反応を感じ取った事で、その手を止めてしまった。

 

 そうこうしている間に、鉄鳥はフラフラと高度を下げていき、村の端にある大きな空き地の方向へ飛行する。

 

 翼の中に格納されていた車輪付きの支柱を展開し、速度を落としながら地面スレスレまで高度を落とした鉄鳥は、そのまま一度も弾む事なく綺麗に着陸を果たした。

 

 家の中にまで立ち込めていた濃霧が晴れ、それとほぼ同時に近づいてきた爆音の正体が気になった村の人々も、ゾロゾロと空き地の近くに集結し、事の顛末を見守る。

 

 少しの間、車輪を転がして空き地を移動していた鉄鳥だったが、やがて完全に動きを止めた。

 

 固唾を呑んで村の人々が様子を伺う中、ガラス造りの窓を内からスライドさせて、鉄鳥を操っていたであろう人物が顔を覗かせた。

 

「貴方たちは誰ですか? それに、ここは何処ですか。日本ではなさそうだし、日本人は見当たらないですが……」

 

 不思議そうに辺りを見渡しながら、鉄鳥から飛び降りてそう言葉を口にする。

 

 性別は男。年齢は三十代手前だろうか。穏やかな声音ではあるが、その身から溢れる覇気は隠せていない。全身を茶色の分厚い服で覆っていながらも、ガタイの良さが隠し切れていない辺り、かなり鍛え抜かれている事が窺い知る事ができた。

 

 村の人々は、顔を見合わせて首を傾げる。

 

 何を言っているのか、理解できなかったからだ。

 

 男が口にする言語は、村の人々からすると、全く知らない異国の言葉としか聞こえていなかった。

 

 唯一、男の言葉の意味を理解できるのは、魔法に精通しているリリーのみである。“言語理解”の魔法を常用している彼女は、如何なる言語であっても瞬時に理解する事ができ、そして相手に伝える事ができた。

 

 故に、村を代表して一歩前に出る。最大級の警戒心と、拭えない恐怖を抱えながら。

 

「ここはネイト村。貴方がさっき口にした、ニホンという村ではない」

「そう、ですか。なら、貴方たちは日本人じゃないですね」

 

 何処か遠い場所を見るかのような目で、鉄鳥乗りの男は空を見上げた。

 

 滲み出る哀愁の意。その理由を知りたかったリリーだが、それよりも先に聞かなければならない事があった。

 

「ねえ。貴方は何者なの。それに、この鉄の鳥は……」

 

 少しだけ思案顔を浮かべてから、男は背筋をピンと伸ばすと、ビシッ! と勢い良く敬礼する。

 

「第二十四戦隊第二中隊所属。四藤三雄(しどうみつお)准尉であります」

 

 朗々と響き渡る声に、辺り一帯の空気が震える。

 

 軍人特有の、芯と迫力のある声に、何人かは威圧感を覚えて及び腰になった。だが、すぐにその威圧感は露散して、男は鉄鳥を優しく撫でた。

 

「そしてこれは、私の半身にして愛機。一式戦闘機三型。通称“隼”です」

 

 あらゆる光を吸収してしまいそうなぐらい、濃い黒色で塗られた一式戦闘機は、搭乗者の言葉に照れるかのように。そして誇らしげに、輝いていた。




✦キャラクター紹介
☆四藤三雄
 所属:大日本帝国陸軍第二十四戦隊第二中隊

 階級:准尉

 年齢:二十代後半。

 略歴:中国戦線→マレー作戦→ニューギニア戦線→本土航空戦

 戦績:総確実撃墜数47。搭乗機を黒く染めていた事から、味方からは“黒い天使”と称され、敵からは“黒き死神”と恐れられた。

 愛機:一式戦闘機三型。金星搭載型な為、四型とも言える。

 得意戦術:一撃離脱戦法、カウンター、夜間奇襲

 特技:和菓子作り、折り紙、シザース機動、片翼飛行、曲芸飛行全般、狙撃。

 備考:陸軍の誇る単発の名機たち以外にも、双発機や四発機、挙げ句の果てには海軍機をも手足のように扱ったと言う噂あり。
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