異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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怪物は一人だけじゃない

「数は……気にする必要ないか。数えるのも億劫になるし」

 

 杖を構えたリリーは、スッと目を細めて翼竜の群れに狙いを定めると、炎弾と光弾を数秒おきに、何回かに分けて連射し、次いで超高圧の水で作られたカッターを数十枚ノータイムで放った。

 

 命中の有無は確認せず、すぐさま次の魔法攻撃に移る。

 

「翼竜に乗る人間は無視。乗っている物が落ちれば、そのまま道連れ。翼竜まで魔法の対策をするのは難しいでしょ」

 

 そう呟いて放ったのは、氷柱による集中豪雨だ。

 

 更に、翼竜の顔面を射抜くべく落雷を前方に無数発射する。

 

 魔法が到達した最前列の翼竜と、それに登場するコルセア帝国の兵士たちは、遥か遠方からの正確な、そして苛烈な攻撃に舌を巻くも、必死に翼竜を操って回避するか、防御魔法や結界魔法を展開して守りを固めていく。

 

 リリーの予想通り、兵士たちには魔法の破壊力を大幅に軽減する装備が配られていたが、翼竜にまで魔法対策を完全に施す事は出来ていなかった。

 

 多少は威力を落とせる防具を着せられた翼竜もいるが、帝国の兵士は最大の武器である機動力の低下を懸念しており、必要最低限の防御力しか持たせていない者が多い。

 

 翼竜は、非常に小回りが効く魔物であり、直線飛行なら120kmhまで加速が可能だ。そこから急停止が出来るだけの、肉体的な強度も担保されている。

 

 攻撃手段はシンプルで、口から吐くブレスか、爪や尻尾による打撃、噛み付きぐらいである。しかし、威力はどれも折り紙付きだ。

 

 そこそこ頑丈、素早い、火力もある。そんな翼竜が、五万体。騎乗する帝国軍の兵士も攻撃に参加する為、その密度は凄まじい物となる。

 

「怯むな! 射程距離まで何としてでも詰め寄り、持久戦に持ち込んで削り続ければ、こちらの勝ちだ!」

 

 指揮官がそう叫ぶと、帝国軍の兵士たちは雄叫びを上げながら拳を突き上げる。

 

 一騎当千と言えるリリーだが、限界は確かに存在している。

 

 ワンオペで村を守らなければならないプレッシャーは相当な物であるし、膨大な魔力にも限りがある。魔法の効き目が薄くなっている今、終わりの見えない持久戦に持ち込みさえすれば、勝利は揺るぎない物となるのだ。

 

 無論、リリーもそれは理解している。故に、短期決戦を仕掛けるべく、自らがリスクを負う選択肢を取った。

 

 遠距離からの魔法攻撃だけ長けていても、ネイト村を一人で守り切るには無理がある。これまでも、リリーは必要があれば、果敢に近距離の戦闘を挑んできた。

 

 ただ魔法の扱いが上手いだけでは、世界で五本の指に入る実力の魔法使いにはなれないし、村をワンオペで守れない。遠距離であろうと、近距離であろうと、全く問題なく戦える技量と、魔力消費の徹底節約が求められる。

 

 肉体を強化する魔法を己に掛けたリリーが、空中に足場を次々と作って走り抜ける。

 

 接近中も攻撃魔法を絶やさず、村から離れた位置に張り付けにしながら、遂にリリーが最前列の翼竜に辿り着くと、杖をゴリッと頭頂部に押し付けた。

 

「さよなら」

 

 一筋の光のレーザーが翼竜の脳天を穿つ。

 

 グラリと地面に墜落していく翼竜と、その背に乗っていた兵士の悲鳴を気にする事なく、リリーは次の獲物に猛然と襲い掛かった。

 

 翼竜が反応するよりも先に、脳天に光のレーザーを撃ち込むリリーを何とか消耗させようと、同士討ちになる事を恐れずブレスを放ち、兵士たちも様々な属性の魔法を飛ばす。

 

 だが、多くは明後日の方向へ飛んでいき、仮に命中するコースであっても、直前に張り巡らされるピンポイントの結界に防がれてしまい、攻撃を通す事を許さない。

 

 魔力消耗は極力少なく。しかし、一撃で屠れるだけの攻撃力を維持する。

 

 例外を除き、本来なら難解を極める上に、長時間その状態を維持する事も出来ない。口にするだけなら簡単だが、それが出来れば苦労しないのである。

 

 だが、リリーはその例外に該当する、正真正銘の怪物だ。

 

 やがて、魔力の節約も兼ねて魔法の杖や己の手足による打撃で翼竜を討ち取るようになったリリーは、冷静に戦況を分析する。

 

(こいつら、対象の魔力を吸い取るマジックアイテムを全員が所持しているのか)

 

 マジックアイテム“魔吸炉”。設定した対象が、半径3メートル以内に入った際に、自動で魔力を少しずつ吸収していく効果を持っている。

 

 大きさは手のひらに収まるぐらいだが、並の魔法使いであれば、1分も効果範囲内にいれば魔力が枯渇する、恐るべきマジックアイテムだ。

 

 あまりない状況だが、一人を複数人で相手する際には特に高い効果を発揮するマジックアイテムであり、戦闘時間が長引けば長引く程、状況が不利になっていく事を指し示していた。

 

 高台に設置された対空魔法発射装置の援護を、直接的な攻撃ではなく目潰しに使い、一瞬の隙を突いて翼竜を物理攻撃で撃墜する戦法に切り替えたリリーが、残された制限時間を完全に把握する。

 

(マズイな。全力で戦える時間は残り15分ぐらいしかない)

 

 五万の軍勢全員から、魔力を吸収され続ける状況でも尚、15分も全力で戦えるリリーの魔力量は凄まじいと言うべきか。それとも、リリーでも途轍もなく厳しい戦況と言うべきか。

 

 翼竜のブレスを“防御”から“反射”に切り替えた結界で受ける事で、攻撃の手数を無理やり増やしながら、リリーが琥珀糖を一つ齧って突貫する。

 

 一層苛烈になるリリーの攻勢に、実戦経験の浅い兵士は心が折れそうになる。だが、割合的には熟練兵の方が多い軍勢の士気は落ちない。

 

 射程圏内で耐えれば勝ちという、明確な勝利条件に加えて、リリーの攻撃が届かない遥か後方で待機している“黒魔法”のスペシャリストが、とある魔法の発動を準備している事も要因の一つであった。

 

 その内容とは、ズバリ“死者蘇生”である。

 

 魔法陣の構築に大変な時間を要するが、魔吸炉による魔力吸収で、リリーの戦力が大幅にダウンする頃に、丁度魔法が発動させられる計算となっていた。

 

 死者蘇生の魔法を用意する、黒魔法のスペシャリスト。名はライトニング・ペーター。階級は大将。彼もまた、この世界で五本の指に入る実力者であり、今回の作戦の指揮を務めている。

 

「リリー・ブラウン。相変わらず、凄まじい実力だな。だが、もう間もなく貴様の命運も尽きる……」

 

 オリーブ色の短髪を、高まっていく魔力による暴風でバタバタとはためかせながら。ニヤリと小馬鹿にしたように笑う。

 

 表向きは禁術とされる“黒魔法”を極めたライトニング大将は、正道の魔法を極めたとされるリリーとは対極の存在とされてきた。

 

 彼は、正道の魔法の才はからっきしであった。故に、呪術とまで評される黒魔法に手を出すしかなかった過去を持つ。

 

 リリーの事は、その実力は認めつつも、強烈な嫉妬心を抱いており、いつか屈服させてやる事を夢見ていたぐらいである。

 

 もうすぐ。もうすぐだ。悲願は、もう間もなく達成される。

 

 そんな高揚感を覚えながらも、努めて冷静に魔法陣を構築していき。遂に、完成させた。

 

「通信兵。リリー・ブラウンの様子は」

「未だ戦力を維持しています! どうやら、魔吸炉で吸い取ったま魔力を逆に奪う事でわ経線能力を高めているようで、既に、三万近い軍勢が奴に討ち取られています……」

「狼狽えるな。こちらの闇魔法の準備も整った。間もなく、死者蘇生を執り行う。それまでは、何としてでも耐え抜くよう、全軍に指示を飛ばせ」

「ハッ!」

 

 ライトニング大将の指示が飛ぶと、全ての兵士の瞳に希望の灯が浮かび上がる。

 

 もう少しで勝てる。仮に死んでも、大将の死者蘇生で生き返れる。

 

 死を恐れず、同士討ちを躊躇わない圧倒的な攻撃意欲を胸に、果敢にリリーに立ち向かっていく。

 

 それらを一瞬で排除していくリリーだったが、鋭い彼女の直感は、全力で戦えなくなった瞬間に何が起こるのかを理解していた。

 

「あのクソ大将、やはり来ていたか!」

 

 魔法攻撃が届かない超遠距離から立ち昇る、ドス黒い魔力光。

 

 魔法は勿論の事、黒魔法に関する知識もしっかりあるリリーは、ライトニング大将がどんな黒魔法を使うつもりなのか、一目見て察せてしまった。

 

 一刻も早く、ライトニング大将を討ち取らなければ、この戦闘は終わらない。だが、まだ大量に残っている軍勢をほっぽりだせば、我先にとネイト村を焼き尽くしに向かうだろう。

 

 三雄に来るなと突っぱねた事と、逃げろと言えなかった事を、今更ながら後悔しそうになったリリー。

 

 しかし、三雄を戦場に再び立たせる事は、彼女のプライドが許せなかった。

 

 三雄だけでも逃げろとも、言える訳がない。ネイト村と、共に暮らす村人たちを愛しているリリーに、その選択肢は最初から存在していなかったのである。

 

 とは言え、非常に良くない状況に代わりはない。せめて、無人の鉄鳥による航空支援が行えれば、話は大きく変わってくるのにと、己の準備不足を呪いながら、無詠唱で空間を歪ませ、元に戻ろうとする際の衝撃波で軍勢を蹴散らしたリリーは、黒魔法の解禁も視野に入れて更に深くまで進軍しようとした。

 

キイィィィイン!

 

 リリーにとってはここ数週間で聞き慣れた。帝国軍の兵士は一度も聞いた事のない、“無数の”爆音。

 

 両軍の動きを、ピタリと止めた無数の爆音は、あっという間に至近距離まで接近すると、その姿を顕にした。

 

「あれは、三雄……じゃない。何あれ!?」

 

 現れたのは、何処かしらに損傷を負っている九七式戦闘機の編隊であった。

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