異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に― 作:Hetzer愛好家
九七式戦闘機たちが、縦横無尽に駆け回って翼竜と帝国軍の兵士を威嚇する最中。三雄機は、また別の場所を飛行していた。
モールス信号に導かれ、とある地点に向かった三雄は、そこで大型の翼竜の背に乗り、全身からドス黒い魔力を放出する男を発見した。
その男が乗る翼竜を守るようにして、何重にも展開しているやや小型の翼竜も確認した三雄は、直感的に今すぐ排除するべきだと判断し、空中分解しないギリギリの速度で急降下して、一気に距離を詰めていく。
「我、四藤一番。敵軍に突撃する!」
『了解! 二番機より後続は、孤軍奮闘しているブラウン女吏の助太刀に参ります!』
「了解、頼むぞ皆!」
三雄は消音機能を敢えて解除し、驚いて空を見上げた一匹の翼竜の脳天に向かって機関銃を発射した。
時代が進んだ対航空戦においては豆鉄砲と揶揄される7.7ミリ機関銃であるが、生物相手に放つともなれば話は別だ。
短い一連射で、射撃された翼竜は脳漿を撒き散らして墜落していった。
急降下しながら、何度も機首の向きを細かく変えて撃ちまくった三雄機は、翼竜たちの下方へ潜り込むまでの間に数多の確実撃墜を積み重ねていく。
「何をしている! 早く撃ち落とせ!」
混乱する現場に飛んだライトニング大将の一声により、何とか落ち着きを取り戻した兵士たちが、恐怖から暴れ狂う翼竜を必死に制御して三雄機を付け狙う。
しかし、瞬きする間にかなりの距離を移動してしまう九七式戦闘機を、中々捉える事が出来ない。
そもそも、数百メートル以上離れた距離を高速で飛行する物体に、正確に攻撃を命中させるなど、本来は神業とされる技術である。
「クソッ、奴の進行方向目掛けて弾幕を張るんだ! 数撃ちゃいつかは当たるはず!」
「ダ、ダメだ当たらねえ! てか、何だよあの速度と機動力!」
「うわっ、もう上を取られちまったぞ!?」
「落とせ、落とせええっ!」
悠々と弾幕を抜けた三雄機が急上昇。1000メートル近くを一気に駆け上がると、宙返りして再度降下の体勢に入る。
機首が自身に向けられた瞬間、凄まじい恐怖を覚えた兵士たちが我を忘れて炎弾や風刃を飛ばしまくるが、掠りすらしない。
放たれた無数の凶弾によって、また多くの翼竜や兵士が血を撒き散らし、地面に叩き付けられていった。
「高高度を飛行する空の大要塞と比べれば、弾幕は大した事ないな。これなら、機銃を撃つより超近距離を飛び回った方が効率が良さそうだ」
無論、超近距離戦闘は三雄にも大きなリスクがある。
近くなればなる程、ラッキーで命中する魔法攻撃は増加するだろう。運が悪ければ、吹き曝しとなった操縦席に魔法が飛び込み、そのまま即死するかもしれない。
だが、残された時間が僅かだと無意識に悟っている三雄は、躊躇いなくハイリスクハイリターンな戦術に切り替えた。
「な、何だ。どんどん近づいて……」
「ボサッとするな! チャンスだ、撃て撃て! 撃ちまくれ!」
得体の知れない兵装で死をばら撒き、次々と頭数を減らしていく、鳥を模した鉄棺が、今度はグングンと距離を詰めてくる。
生き残っている兵士は、恐怖心を無理やり捻じ伏せて、接近する鉄鳥に向かって雨霰と魔法を撃ちまくった。
翼竜たちも、過去最高と思われる勢いでブレスを前方に吐いて壁を形成する。
が、バレルロールや素早い左右の切り返し、そして横滑りを駆使する九七式戦闘機には、ただの一発も命中しない。
そのまま九七式戦闘機は、甲高い金属音を鳴らしながら、翼竜と兵士が手で触れられそうなぐらいの距離を高速で通り抜けていった。
途端に、凄まじいプロペラ後流と翼端渦、そしてけたたましい騒音が近くにいた翼竜と兵士に牙を剥く。
真上を通過された翼竜は、その場でバランスを崩して地面へ落ちていく。その背に乗っていた兵士はもっと悲惨で、耳の奥から血を流して意識を消失し、無抵抗で翼竜から投げ出されて死へと向かっていった。
ほんの少し距離があった軍勢も、滅茶苦茶な暴風や甲高い金属音によって翼竜の背から吹っ飛ばされたり、平衡感覚を失って落下した者もいる。
たった一度の近距離飛行で、数百の命がいとも容易く失われた。
「ぐ、何なのだ、アレは……!」
ライトニング大将もまた、金属音によって三半規管を狂わされ、苦しげに呻きながら空を見上げる。
魔法陣の構築が崩れてしまい、また途中から組み直さなければならない現状に苛立ちながら、対空として放たれる魔法に未だ一発の被弾も許していない鉄鳥を睨みつけた。
彼には、三雄の駆る九七式戦闘機は、悪魔のような
一方、三雄が後続の軍勢を引っ掻き回している間、リリーがいた空域でも、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
三機で現れた九七式戦闘機の編隊は、触れたところで衝突事故のような事は起こらなかった。
実体を持たなければ、ただの虚仮威しに過ぎない。最初はそう考えた帝国軍の兵士だったが、漏れなく地獄を見る羽目になった。
機体が肉体を透過していった途端。近くにいた兵士たちは、一様に悲鳴を上げて翼竜の背から落ちていく。
もはや音響兵器と言っても過言ではない、鼓膜が破られる程には凄まじい音量の金属音を、超至近距離で耳にした結果、平衡感覚と精神の均衡を失ってしまったのである。
翼竜もただでは済まず、狂ったように叫んで辺りにブレスを吐き散らしながら、やたらめったらに飛び回り、最期はプツリと糸が切れたように意識を失って墜落した。
それを見て、必死に九七式戦闘機を撃ち落とそうと躍起になる兵士たちだったが、実体を持たない特性によって全ての攻撃がすり抜けてしまい、全く歯が立たない。
一切の回避行動を取ろうとしない点が、逆に恐怖を煽る。必死こいて追い払おうとしても、全てを嘲笑うように接近してくるボロボロの九七式戦闘機は、まるで陰り世の住人である悪鬼のようだ。
その様子を、リリーは唖然としながら見守る。
何故か、リリーだけは九七式戦闘機に触れても届く事のない爆音。人と翼竜が落ちていく直接の原因であると察していても、その光景は目を疑うような物であった。
自身が魔法で少しずつ削るしかなかった軍勢を、ただ飛行するだけで次々と頭数をゴッソリ減らしていく様は、現実味のない夢幻のような光景に思える。
「っ、いけない。早くクソ大将を仕留めなきゃ!」
大混乱に陥った戦場で、リリーは一人冷静さを取り戻すと、琥珀糖を食べて魔力を回復させてから、翼竜と兵士を次々と始末しながら前進していく。
途中、何度か進軍の邪魔をしようと立ち塞がる帝国軍の兵士もいたが、その数は疎らである。
リリーがその場を離れたら、ネイト村を攻撃できると思っていた兵士たちも、九七式戦闘機の小隊に邪魔されて動こうにも動けない。
立ち塞がった障害は一瞬の足止めにもならず、リリーはどんどん敵陣の奥深くまで進んでいき、遂にライトニング大将の姿を捉えられるぐらいの距離まで到達した。
そこでリリーは、戦場を荒らし回る銀色の流星を目撃する。
悪鬼たちとは異なり、ただの掠り傷すら許さず。最短効率で敵を無感情に排除していく、数多の戦場を駆けた亡霊の姿を。