異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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灰燼に帰す

 空飛ぶ悪鬼たちと共に道を切り開いたリリーは、遂にライトニング大将の眼前まで辿り着いた。

 

 ボロボロの九七式戦闘機たちは、一足先に加速すると、大将の聴覚が死なない程度の距離で、煽るようにして飛び回る。その中には、当然ながら三雄の機体もあった。

 

 小さく、誰にも気が付かれないようにため息を一つだけ吐いてから。リリーは口を開く。

 

「お久しぶり、クソ大将。随分と派手な軍事行動だったわね」

「っ、リリー・ブラウン……!」

 

 ライトニング大将は、忌々しげにリリーの名を吐き捨てる。

 

 二人がこうして顔を合わせたのは、今日が初めてではない。

 

 正道。そして王道を極めたリリーと、邪道であり横道を極めたライトニング大将。幾度となく、二人は激突してきた。

 

 立場的な衝突。思想の違い。個人の嫉妬。その理由は多岐に渡る。

 

 しかし、これまで完全な決着が付いた事はなかった。

 

 その理由は、ライトニング大将が途轍もない逃げ上手である事と、彼の黒魔法や普通の魔法に対する、異常なまでの理解の深さに起因している。

 

 戦況の見極めが上手いライトニング大将は、己の身に魔手が届くまでの時間を計算し、絶妙なタイミングで撤退する事を得意としていた。

 

 それ以上追えば、リリーでも最悪の場合命を落とすようなケースばかりであり、彼女はこれまで追撃を断念せざるを得ない状況を何度も経験している。

 

 だからと言って、直接戦闘が弱いかと言えば、全くそんな事はない。黒魔法は搦手重視な側面があるが、彼は魔法の解釈を拡張したり、黒魔法だけに存在する“効力の反転”を悪用する事で、本来の用途から逸脱した使い方をする事が多いのだが、これがまた嫌らしい効果を持つ物ばかりなのだ。

 

 例えば、今回の作戦の肝としていた死者蘇生魔法。この魔法の効力を反転させると、命中した生者に絶対的な死を与える禁術に化ける。

 

 相性的な話をすると、実はかなりリリー側が不利な対面である。魔法への対策は当然取られるし、自身が扱えない禁術を連発してくるライトニング大将は、討ち滅ぼすには中々厳しい相手であった。

 

 それでも、これまでは天才的な発想力と初見殺しの応酬で、何とか痛み分けに持ち込んでいる。

 

 だからこそ、今回のライトニング大将の様子には、リリーも表情には出さないながらも、かなり驚いていた。

 

(あのクソ大将が焦っている)

 

 そう。ライトニング大将は、かつてない程に焦っていたのだ。

 

 騒音により、魔法陣の構築がままならず、あまりの機動力から排除する事も叶わない。一度でも接近を許せば、如何なる生物にも平等に死を与える(鉄鳥)と、それを己の手足のように繰る死神(三雄)に。

 

「貴様の差し金か、リリー・ブラウン。この俺を確実に仕留める為の……!」

「……いいえ。全て、想定外よ。少なくとも私は、“彼ら”の助太刀を微塵も予想していなかった。敢えて言うならば、日頃の行いの違いなのかしら」

 

 その言葉に、我を失いそうになるライトニング大将だったが、ハッと後方を振り返ると、操縦席や片翼が損傷した鉄鳥が“音もなく”接近してくる様子が見え、必死に翼竜を操縦して高度を上げる。

 

 近くを飛び回る鉄鳥から発される爆音があまりにも大きい中で、スロットルを絞り、プロペラの回転数を落として飛行されると、まるで音もなく接近されたように感じるのである。

 

 それを知る三雄は、機外に見えるノモンハンの英霊たちに指示を飛ばし、ライトニング大将をとある地点まで誘導するよう列機を動かした。

 

 大将の乗る翼竜が上昇した先に現れた、尾翼を失った九七式戦闘機が、今度は爆音を鳴り響かせながら急降下。翼竜に怒鳴って命令し、急速前進させる事で触れる事は避けた。だが、かなりの近距離を通過していった為、また三半規管が狂わされる。

 

 それでも何とか翼竜の背にしがみつき、歪む視界の中でリリーの姿を確認すると、前進の勢いのまま接近しようとする。

 

 が、今度は下方から突然現れた、脚を失った機体が、大将の眼前を急上昇。驚いて急停止した翼竜によって、背から振り落とされそうなってしまった。

 

 その隙を逃す道理はないとして、リリーが数多の炎弾を撃ち込みながら、空間を跳躍したと錯覚する程の高速移動で接近。魔法の杖をライトニング大将の頭頂部に目掛けて振り下ろす。

 

「舐めるなぁ!」

 

 そう叫ぶと、ライトニング大将は全ての炎弾を素手で弾き、振り下ろされた魔法の杖も回避。即座に結界でガードを固めるリリーを蹴り飛ばす。

 

 だが、リリーは全く焦らない。翼竜が大口を開けて、特大のブレスを放とうとしても、無抵抗のままだ。

 

 今にもブレスが放たれる寸前。耳を劈く射撃音が鳴り響く。

 

 片側の機関銃が爆発によって壊れており、脚を失っている九七戦から放たれた弾丸は、正確に翼竜の口元を撃ち抜いた。

 

 機首付近がボロボロとなっている、翼竜の口元を狙撃した機体が翼竜と大将の前に躍り出ると、何度も華麗にロールを行い、着陸が出来るぐらいにまで速度を殺しながら、落とせる物なら落としてみろと盛大に翼を振って煽る。

 

「何処までも愚弄しおってえええ!」

 

 魔法陣をマトモに構築できない中でも、ライトニング大将は大量の魔力消費を代償に生み出した、存在消滅の概念が乗った極光を、四方に向けて滅茶苦茶に放つ。

 

 しかし、彼らの眼前を飛ぶ鉄鳥は、卓越した操縦技術で尽くを躱す。更に、凄まじい速度で横方向の旋回を終わらせると、機首を大将たちに向けながら前へ出た。

 

 大将も翼竜も、躍起なって眼前の鉄鳥を落とそうとする。極光とブレスを撃ちまくり、何としてでも眼前の脅威を排除しようとした。ただ、前だけを見て。

 

 故に、気が付かなかった。背後から、爆音を鳴らしながら接近した最初の悪鬼が、大将を透過していった事を。

 

「あ、が……!?」

 

 猛スピードで前方に抜けていった九七式戦闘機を目にした瞬間に、ライトニング大将は目と耳から血を流し、這いつくばるようにして翼竜の背に倒れた。

 

 翼竜の方も無事ではなく、凄まじい恐怖心を覚えて本能的に暴れ狂いそうになる。だが、他の個体よりも賢い、大将専用の翼竜であったが故に、自身が暴れたら主が助からぬと分かっており、それを何とか堪える。

 

「すま、ぬ、すぐに離脱を……」

 

 弱々しい手つきで翼竜の背を撫でながら、何とか逃れようとする大将だったが。どう足掻いても助からない、所謂“詰み”の状態である事を、少し遅れて理解した。

 

 機体の影が、大将と翼竜を覆ったかと思えば、唯一この現し世において質量を持つ、三雄の駆る九七式戦闘機が、その脚で無慈悲に一人と一匹を踏み潰した。

 

 それだけでは終わらず、高速で回転するプロペラが翼竜の首を一瞬で寸断する。

 

 すぐさま機首を真上に向け、急減速した三雄機は、墜ちていく翼竜に巻き込まれず、無事離脱する事に成功するのだった。

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