異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に― 作:Hetzer愛好家
「ニック中隊長、大変です!」
「……ノックぐらいしろ。全く、常識を教わらなかったのか。それで、随分と慌てた様子に見えるが、何があった?」
書類の山と格闘を繰り広げていたニック・ドランは、執務室にノックもなしに駆け込んできた部下を軽く睨みながら、要件を伝えるように促した。
「ハッ、実は……」
まず部下が報告したのは、コルセア帝国がネイト村に大軍で攻め入ったが、全滅したという知らせであった。
中隊長なだけあり、ニックは連隊を総括する者から話は聞いていたが、その詳細では確認していなかったので、黙って続きを促す。
「まずはこちらの戦闘経過を。現場に出撃した者の目を借りて、帝国内から見ていた者が作り上げた物だと聞いています」
「相変わらず、帝国の上層部は安全圏から戦況を眺めるのが好きだな。どれどれ……銀色の、鳥の形をした鉄の塊たちに襲われ、形成が逆転。更に、あのライトニング大将が戦死しただと?」
「そう、そうなんです! 鳥の形をした鉄の塊と来たら、ここ最近爆発的なブームが巻き起こっている“飛行体験遊戯”と酷似していると思ったんです! でも、あの筐体が飛ぶ事は有り得ないですし……」
ニックは、一つだけ思い当たるフシがあったのだが、まさかなと思い直した。
リリー・ブラウンが実際に動かせる鉄鳥を作り出し、三雄がそれに搭乗したとなれば、一応辻褄は合う。
しかし、帝国軍を襲ったのは無数の鉄鳥だ。流石に三雄が分身できるとは考えていないニックは、その線は薄いかと早々に見切りを付けた。
「ブラウン女吏が、また何か作ったんじゃないか? 空を自在に飛び回るマジックアイテム辺りを」
「最初はそう考えたんですけど、おかしい点がまだあるんですよ。報告にある鉄の鳥は、限りなく低く見積もっても
「発想と機転の天才様だぞ、リリー・ブラウン氏は。何とでもするだろう」
「いやでも、透過する事で攻撃を無効化するのは有り得なくないですか? それに、翼竜や人体をズタズタにする何かを、超遠距離から、途轍もなく短い間隔で連射してきたともあります。ブラウン氏が優れた魔法使いである事は認めてますけど、これまでの発明品の完成度と照らし合わせると、ちょっと辻褄が合わない気がするんですよ」
部下の考察は、中々に的を得ている物であり、ニックは頭ごなしに否定が出来ない。
確かにリリーは天才だ。辺境の村で隠居生活を送るには、とてもではないが勿体なさすぎると、様々な国の重鎮が考える程には。
しかし、改めて報告書を眺めてみると、あのリリーでも本当にこれだけのマジックアイテムが複数開発が可能なのか、断言は出来なかった。
「……これは、こちら側でも調査する必要があるかもしれんな。連隊の責任者に相談してみるよ」
「ありがとうございます! あ、それともう一つ報告がありまして」
「おい、既に腹いっぱいなんだが?」
「異世界人の召喚が、成功したとの報告が入ったんですが」
「コルセア帝国の惨敗報告よりも先にそれを言え! シュトゥルム王国を揺るがす一大事じゃないか!」
処理していた書類をほっぽり出して、ニックは部下と共に執務室を飛び出した。
異世界人の召喚。シュトゥルム王国が、定期的に執り行う儀式である。
目的は、王国からおよそ数千キロ離れた場所に位置する大陸にある“魔国シュトゥルモヴィーク”で、人間族を滅ぼそうと計画しているとされる“魔王”を討ち滅ぼす“勇者”を呼び寄せる為だ。
基本的に召喚が上手く行く確率は低いのだが、数百回に一度の割合で成功する事もあり、その際は国中がお祭り騒ぎとなる。
迎え入れた勇者を歓迎し、全力でサポートする体制となる他、王国最強とされる竜騎士団の者は常に誰かしらが警護に就く事になるのだ。
その為、今ある執務を全て後回しにしてでも、ニックたち竜騎士団の団員はいち早く集合する必要があった。
竜騎士全員が集まっても尚、余剰スペースがある大広間には、既にかなりの数の団員が集まっている。
その中で、ニックは一人の男に声を掛けた。
「連隊長殿」
「おお、ニックか。すまんな、まだ正式な連絡が行ってなかっただろうに」
「いえいえ、お気になさらず。それよりも、召喚に成功した異世界人とは、どのような人物です?」
「あー、それなんだがな……」
渋い表情を浮かべた連隊長に、ニックは何事かと身構える。
「元いた世界に帰せと言って聞かないらしい。その場にいた召喚士を殴り飛ばして、警護の竜騎士団の団員も数名気絶させられた。今は手当を受けている状態だ。召喚された異世界人は、現在も暴れていると聞いている」
「え、それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫、ではないだろうな。しかし、何とか宥めて気を落ち着けてもらい、王国側の現状と望みを聞いてもらわなければなるまい。最悪の場合、連隊長クラスの団員や、中隊長クラスの団員も鎮圧に駆り出されるだろう」
となると、かつてない豪傑の召喚に成功したと考えるべきだろう。
竜騎士団の団員が気絶させられるなど、只事ではない。ましてや、連隊長や中隊長まで鎮圧に駆り出されるなど、これまでの召喚にはなかった事だ。
四藤三雄とはまた別ベクトルの怪物が召喚されたとなれば、扱いには相当苦労をするだろうとニックは考えて、軽くため息を吐く。
早めに覚悟を決めておこうと思い、立ちながら瞑想をして集中力を高めようとしたニックだったが、すぐに目を開けて大広間の扉の方に視線を向けた。
何者かが怒鳴りながら、大広間に向かっているのが分かったニックは、腰に提げた剣の柄を握って待ち構える。
やがて、大広間の扉が乱暴に蹴倒され、足にしがみついた召喚士や竜騎士団の兵士を引きずりながら、一人の男が姿を現した。
「だから、いい加減にしろと言っている! 俺は日本に帰り、行方不明となった親友を探さなきゃならんのだ! テメエらの都合に付き合っている時間はないんだよ!」
召喚士や兵士を蹴り飛ばして引き剥がした男は、そこでようやく自身に向けられた無数の視線に気が付いた。
「ああ? 誰だテメエら。日本人、には見えないが……」
一切物怖じした様子を見せず、ギロリと周囲を見渡した男が身に付けている、何かの破片をチェーンで繋げただけのペンダントが、にわかに光り出した。
その場にいた全ての人間が驚愕し、見守る事しか出来なかったが、男だけはいち早く何かを理解したようで、チェーンを引き千切ってペンダントを強く握る。
「……そうかい。また、俺の相棒になってくれるのかい」
何処か嬉しそうに呟いた男が、光を発するペンダントを地面に投げ付けた。
すると、爆発的に輝く光源が出現し、竜騎士団の団員たちの視界を白塗りにする。
しかし、その光もすぐに収まり、兵士たちの視界は早い段階で元に戻った。
正常となった視界に映った物を見て、誰もが目を見開く事となったが。
真紅に染まっている“日の丸”以外、全てが真っ白で染め上げられた全身。そして、角張った特徴的な翼端が、団員たちの胸を何故だか強烈に打つ。
顕現した“鉄鳥”は、しなやかな曲線を持つ体と、無骨な角張った翼端との激しいギャップが、一種の感動すら覚える美しさを持っていたのだ。
「“終戦間際”に、被弾して発動機が死んだ時以来だな、相棒。もっとも、相棒の翼端は常に肌身離さず持っていたが。だが、こんな新品同然の姿を見れるとは思わなかったぜ」
なあ、