異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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幕間その弐 鉄の白鳥

 誰もが、突如として出現した見た事のない鉄鳥……いや、鉄の白鳥に、目を奪われて口を開けない。

 

 だが、静寂は外部から大広間に入ってきた者によって、破られる事になった。

 

「何事ですかな。大広間の外まで、穏やかではない声が聞こえていましたが」

 

 大広間に足を踏み入れたのは、たまたま近くを通りがかったジーク・ホワイトである。

 

 シュトゥルム王国において、外交を主に担当する大臣の座を務めているジークは、大広間に入った途端、鉄の白鳥に目が釘付けとなった。

 

「これは……見た事のない。しかし、立派な“機体”でありますな」

 

 幼少の頃に抱いた大空への憧れを現実の物に出来る、夢のような筐体を王国に持ち込んだジークは、見ず知らずの機体を見ても動揺はしなかった。

 

 そして、その機体のすぐ近くに立つ、己を殺意の籠もった目で睨む男を見て、何となく事情を察したジークは、召喚された勇者に対する自国の強引な姿勢を思い出し、小さくため息を吐く。

 

 おそらくは、三雄と近しい存在か、同類である可能性もあったのだが。今は、それを確かめる余裕はない。

 

「勇者殿。此度は、貴殿を何の断りもなくシュトゥルム王国に召喚した事を、まずはお詫び申し上げまする」

「何度も言うが、俺は勇者なんて大層なガラじゃねえぞ。敢えて言うなら、“元”軍人のペーペーだ。」

「いえ、我らシュトゥルム王国の民から見た貴方様は、紛れもない勇者殿であります。しかし、勇者殿などと突然祭り上げられて、さぞ困惑している事でしょう。ですが、初めにいくつかお伝えしなければならない事があります故、まずは耳を傾けていただけますかな」

「……良いだろう」

 

 まずは謝罪から入ったジークに、軽く毒気が抜かれた男は、一旦殺意を収めて話を聞く素振りを見せた。

 

「まず、勇者殿。貴方様が、こちらの世界……貴方様で言うところの異世界から、故郷へ帰還を果たす術は確立されておりませぬ」

「はあ? 勝手に呼び寄せておいて、ふざけてるのかテメエら」

「そう思われるのも、当然の事でありましょう。しかし、無理な物は無理であると、理解していただきたい」

「はい、理解しましたなんて言える訳ねえだろ。勝手に呼び寄せておいて、帰る術はありません。挙げ句の果てに、自身とは何の関係もない世界を救ってくれ、魔王を殺してくれと来やがった。控え目に言って、バカなのか? 俺は、便利な捨て駒じゃねえんだぞ。そんなに魔王とやらがヤバい奴なら、今ここで剣を抜こうとしている兵士全てや、腕自慢たちを惜しみなく投入すりゃ良いじゃねえか。自分たちだけ、害が及ばない安全圏から見守ろうとしやがって。ここには腰抜けしかいねえのか」

 

 男の顔には、激しい苛立ちの表情が浮かんでいた。

 

 彼は、自分勝手な主張を嫌う気質を持っていた。そして、自身には被害が及ばない位置から、無茶苦茶な頼みをする輩は更に嫌っていたのだ。

 

 何もかもが男にとっては地雷であり、決して相容れる事が出来ない存在である事は明白であった。

 

 そのような思考に至るまでの、凄惨な過去を持っている事を見抜いたジークは、男の物言いを黙って受け止めていた。だが、竜騎士団の兵士たちはそうも行かない。

 

 多くの者が抜剣し、発言の撤回を行わないのであれば、たとえ勇者であっても切り捨てると覚悟する。

 

 ジークのように、言葉の裏に隠された悲痛な思いを感じ取れた者はその限りではなかったが、数としてはごく僅かである。

 

「落ち着きなされ、竜騎士団の諸君。勇者殿のお言葉は、悲しい程に正論なのだ」

「しかし、外務大臣殿! いくら勇者殿とは言え、我らに対し、あまりにも不敬な物言いだ!」

「このまま言われっぱなしでは、我らのメンツは丸潰れだぞ!」

 

 こうなる事を、ジークは最初から分かっていた。プライドの高い竜騎士団と、我の強い勇者。必ずや、意見やしそ思想の違いから激突すると。

 

 このまま、大広間で話を続ける事は不可能だろう。

 

 キリキリと痛む胃を不快に思いながらも、ジークは男に対して一つ提案をする。

 

「勇者殿。場所を変えてもよろしいかな」

「……ああ、構わねえぜ。アンタは、まだ話が通じそうだしな。それに、ここじゃギャーギャー喧しい輩が耳障りかつ目障りだ」

「き、貴様ァ!」

 

 もはや我慢ならんと、一人が抜身の剣を構えて突進しようとする。

 

 だが。鉄の白鳥が突如として、大気を揺るがす咆哮を上げた事で、驚いて動きを止めてしまった。

 

 具現化してから、まだ誰も操縦席に入っていない状態ながら、零式艦上戦闘機に搭載された発動機(ハ33金星)が起動したのだ。

 

「……良いねェ、相棒。最高だぜ」

 

 ニヤリと不敵に笑った男と、いち早く冷静さを取り戻したジークは、竜騎士団の団員たちが呆気に取られている間に、大広間から退出した。

 

 二人の後を、無人の零戦が追従する。低回転でプロペラを回し、ゆっくりと足並みを揃えて走行する様は、見る人が見れば卒倒するだろう。

 

 やがて二人と一機は、大広間と大差ないぐらいの広さを持つ部屋に辿り着いた。

 

「バカみたいに広いな。ここも広間か?」

「いえ、私の個人的な執務室であり、応接室ですよ」

「……マジか。零戦が入っても余裕がある個人の部屋って、いつの時代もお偉いさんは変わらねえのな」

 

 毒を容赦なく吐き捨てる男には、隠そうにも隠せない、深い怒りと悲しみの奔流が、背中から常に滲み出ていた。

 

 しかし、それ以上に。何かに対する渇望と、尋常ではない焦燥感がジークには見えていた。

 

 まずは、少しでも気持ちを落ち着けてもらう必要があると考えたジークは、冷蔵庫に入れていた箱から取り出した“羊羹”と、魔法で温めた煎茶を盆の上に乗せると、豪奢な椅子に遠慮なく腰を下ろした男の前に鎮座するテーブルの上に置いた。

 

「ここ最近、王国内で人気が爆発している菓子と、付け合わせの温かい茶をどうぞ。もてなしが遅くなってしまい、大変申し訳ございませぬな」

「気が利くじゃねえか……ふぅん、羊羹と煎茶ね」

「おや、ご存知でしたか」

「ご存知も何も、定番中の定番である和菓子だろ。特に、故郷の村には腕の良い職人がいて、しょっちゅう口にしていたんでな。俺の舌は、バカみたいに肥えてるぞ。不味かったら、遠慮なく吐き出してやるからな」

 

 男はそう言いながら、まずは煎茶を小さく啜ってから、羊羹を手に取って一口頬張る。

 

 そして、目を大きく見開いた。

 

「……おい」

 

 先程までの、敵対者に向けるような、圧を強く感じさせる声ではない。震える声で、ジークに言葉を投げる。

 

「こいつを、何処で手に入れたんだ」

「おや、お気に召したので「そんな事はどうでも良い!」は、はい?」

「何処で手に入れたと聞いている! 今すぐ答えろ……いや、答えてくれ!」

 

 ただならぬ様子の男の剣幕に圧倒され、ジークは正直に答えた。

 

「ネイト村に住まう、菓子職人殿から……」

ネイト(九七式戦闘機)、だと……!? おい、その菓子職人の名前は、まさか四藤三雄か!?」

「え、ええ。お知り合いで——」

「知り合いなんて、そんな安い言葉で片付けるような浅い仲じゃねえよ! 俺と三雄は、唯一無二の……クソッ、こんなところでダラダラしてる訳には行かねえ!」

 

 男は残りの羊羹を食べ切り、煎茶を飲み干すと、勢い良く立ち上がる。

 

「なあ、ネイト村とやらの方角はどっちだ! 今すぐにでも出発する!」

「お、お待ちくだされ勇者殿! 竜騎士団や召喚士殿、そして国王様たちへの誤解が解けていない貴方様が、王宮の外へ出ては……!」

「どう思われたって関係ねえ! 第一、俺は世界を救うつもりなんざサラサラねえんだよ! あー、もう良い! 勘で何とかしてやらァ!」

 

 部屋から飛び出した男は、そのスピードに合わせて追走する無人の零戦と共に、王宮内をテキトーに走り回る。

 

 その後をジークが必死に追い掛けるが、叩き上げの軍人である男との距離はみるみる広がっていく。

 

「! 見つけたぜ、出口!」

 

 この男は、異様に勘が鋭い人間であった。

 

 零戦を真横に倒せば、ギリギリ通れるぐらいの大きさの、開け放しとなっているテラスへの出入り口を、ものの数分で見つけてしまったのである。

 

 走る速度を緩めた男は、未だに前進を続ける零戦と向かい合わせになると、タイミングを合わせて動く機体の翼にしがみ付き、そのまま操縦席に滑り込んだ。

 

 風防を閉じ、計器類に高速で目を通して今すぐの離陸が可能である事を確認した男が、操縦席で叫ぶ。

 

「行くぜ相棒! 全開でブチ抜け!」

 

 男の挑戦的な笑みに呼応するように、零戦のプロペラは回転数を一気に上げていき、速度を乗せていく。

 

 機体後部が持ち上がる程に加速した零戦内で、男は操縦桿を軽く引くと同時に脚を格納して加速。出入り口に激突する寸前に、ある程度速度が乗ってきた機体を9()0()()()()()()()()()()()()して外に出ると、今度はテラスの柵にぶつかる事を避けるべく、機体の向きを元に戻しながら機首を大きく引き上げた。

 

「ッシャア! 腕はまだまだ鈍ってねえな!」

 

 結果、男は機体を超絶技巧で完全に支配し、爆音を辺りに振り撒きながら、大空へと飛び立った。

 

 神業的な操縦の一部始終を見ていたジーク。そして、明らかな異常事態を察知して飛び出したニックたち竜騎士団の兵士は、その様子を見て開いた口がいつまでも塞がらなかった。

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