異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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再会

「よし、今日も今日とて完璧な焼き上がり……んっ?」

 

 帝国軍の大規模侵攻から一日後。三雄は、何食わぬ顔で平時の生活に戻っていた。

 

 穏やかな心持ちで、栗まんじゅうを作っていた三雄。だが、不意に何かを感じて、焼き上がった栗まんじゅうを皿に乗せると、その状態で弾かれたように走り出し、研究室に飛び込んだ。

 

「あ、三雄。栗まんじゅうはもう完成したの……って、どうしたの? そんな慌てた顔して」

「今すぐ空に上がります。何かが来る」

「え?」

「すみません。説明は後で!」

 

 鎖で一式戦闘機を外に運び出した三雄は、かつてない速度で離陸する準備を終えると、あっという間に大空へ上がってしまった。

 

 高度2000まで凄まじい速度で駆け上がると、辺りをキョロキョロと見渡しながら、何かを探す三雄。

 

 その目は、つい昨日に九七式戦闘機で一方的な戦闘を繰り広げていた時よりも、遥かに鋭く細められている。

 

「まさか……いや、自分の勘は嫌になるぐらい当たる。必ず、来る……!」

 

 無線の周波数を細かく調節しながら、三雄は何回かに分けてモールス信号を発信した。

 

 それは暗号であり、この世で伝わる相手はただ一人だけの代物であった。

 

『ホンジツノワガシモジョウデキナリ』

 

 本来なら、返答が来る事はまず有り得ない。異世界から日本にある基地へ向けた無線やモールス信号は、どれだけ送ってみても、返って来なかったのは実証済みだ。

 

 しかし、三雄はある種の確信を持って、固唾を呑んで待ち続ける。

 

 五分。十分。永遠に感じられた待機時間は、唐突に終わりを迎えた。

 

 これまでは、如何なる周波数に合わせても、ザーザーと砂嵐音しか聞こえてこなかった無線機が、何かの音を拾い始める。

 

 最初はぶつ切りにしか聞こえなかった音も、少しすると動作が安定していった。

 

『あー、あー、聞こえるか? あの信号を飛ばせるって事は、間違いなく近くにいるはずだが』

 

 機内であっても、聴力がおかしくなるのではと思うぐらいに喧しい発動機(金星)の駆動音に紛れて。確かな肉声が、三雄の耳に届いた。

 

 ギリッと操縦桿を握った三雄が、大きく深呼吸をしてから、長らく口にしていなかった応答文句を紡ぐ。

 

「こちら四藤一番。応答機に問う。貴官の名前と所属航空隊は?」

『おいおい、第一声がそれかよ。相変わらずだなァ、お前』

「……繰り返す。こちら四藤一番。貴官の名前と所属航空隊は」

『分かった、分かったよ。ったく、“二年ぶり”の再会だってのに、今になって軍人としてのアレコレを思い出すなんてな』

 

 苦笑いしているのであろうと分かる声音で、無線越しに男は返答を口にした。

 

『こちら、二〇三空戦闘三〇三飛行隊二番機。そして、第二十四戦隊第二中隊臨時副隊長機。九十九 礼一郎准尉だ。これで満足か?』

「……臨時副隊長の肩書は、君が勝手に自称しているだけだろう? 全く、そんなだからウチの副隊長と、頻繁に殴り合いの喧嘩になるんじゃないか。何度、“僕”は愚痴を聞かされたか」

『細けえ事は良いんだよ! お前の全力に、全く問題なく追従できる僚機は俺だけだったしな!』

「まあ、それは否定しないよ。 ……元気にしていたかい、“レイ”?」

 

 三雄がその言葉を口にするのとほぼ同時に。彼の視界に、日の丸以外が全て白く塗り潰された零戦の姿が映った。

 

 そのまま直進すれば、互いに激突するような軌道であったが。二機は示し合わせたように、機体を直角に倒した状態での飛行を開始。機体の腹を見せ合いながら、ギリギリの距離を駆け抜け、そしてすれ違う。

 

『んじゃ、やるか』

「大丈夫なのかい? 今の機動で、君らしくないフラつきが見えたけど」

『心配するな! 操縦は二年ぶりだが、身体に染み付いた動きは、そう簡単には消えねえからよ!』

「なら、遠慮は不要だね。ところで、二年ぶりってどう言う意味?」

 

 綺麗な円を描いて旋回する一式戦闘機と、稲妻のような軌道で急激に旋回した零戦が、再度向かい合うと、今度は互いにスロットルを全開にしてグングン高度を上げていく。

 

 上昇力が勝るのは、機体重量の軽い一式戦闘機だ。最終的に、高度優位を確保したのは三雄の機体であった。

 

 だが、金星を搭載した零戦は、高度優位の確保を早々に捨てた事で、一足先に加速。機動を行える速度を保持した状態で、カウンター攻撃の体勢を整える。

 

『お前こそ、何を言って……いや待て。三雄、お前が未帰還となったのは、1945年の8月だったよな? そこから、お前の中で何日が経過している?』

「え? うーん、大体一ヶ月ぐらいかな?」

『……マジかよ。だが、なるほどな。道理で話が噛み合わない訳だ』

 

 機体がバラバラにならない速度ギリギリで突っ込んだ三雄機を、礼一郎の駆る零戦が“地面を飛び跳ねるような”左右の切り返しで躱し、照準から外れた上に大きくついた速度差を利用して、そのまま背後を取ろうとする。

 

 が、三雄は降下の勢いを活かしてそのまま離脱。減速している零戦との距離をあっという間に空けると、安全圏でドリフトのような旋回をして最短距離で反転した。

 

 およそ、無線越しに雑談をしながら執り行う機動ではないのだが、二人は帝国陸海軍におけるトップエースの一角だ。この程度、造作もない。

 

「レイ、どう言う事?」

『三雄。先に忠告しておく。驚きすぎて、機体の操縦を誤るなよ』

「滅多な事では驚かないって知ってるでしょ。それで、どうしたのさ」

『俺はな。お前が未帰還になってから、大体二年が経過した世界から来たんだ』

「……はい?」

『ほれ見ろ。操縦が少しガタついた』

 

 螺旋のような軌道を両機描きながら、背後を何とか取ろうとする最中に炸裂した、特級の爆弾。

 

 一瞬だけフラついた三雄の機体だが、瞬時に立て直して模擬戦に戻る。

 

 互いに機体の特性を大いに活かし、何とか細い勝ち筋を掴もうと必死だ。

 

 凄まじい加速力と、多少減速しても問題なく浮いていられる三雄機(事実上の一式戦闘機四型)と、異様なまでに高い横転性能と低い失速性能(すぐに失速する)を逆に活かし、瞬間的に落下する事による加減速を得意とする礼一郎機(零戦五四型丙のような機体)

 

 だが、複雑な機動で交差を重ねる中でも、二人の口が止まる事はない。

 

「二年後って、ええ!? それじゃあ、君は自分よりニ歳上になっているって事かい!? うわあ、先輩呼びはしたくないんだけど」

『……真っ先に出てくる言葉がそれって、相変わらずだなお前。普通、戦争の行く末を気にするだろ』

「あんな絶望的な戦況なら、いつか必ず負けるでしょ。半年どころか、二週間ぐらいで終戦したんじゃない?」

『流石。まあ、実際は火事場泥棒(ソビエト連邦)と殺り合う事になったから、完全に戦闘が終了したのはもうちょい先なんだがな』

「その口ぶりだと、火事場泥棒とも戦ったみたいだね……はい、王手」

『うへぇ、こりゃもう無理だな。今回は俺の負けだ』

 

 照準器に相手機を一定時間捉えた三雄の勝利宣言で、礼一郎は苦笑しながら水平飛行に戻った。

 

 その隣を、三雄機が翼が触れ合いそうなぐらいの距離で飛ぶ。

 

「それじゃあ、レイ。一度、僕が世話になってる村に降りようか」

『へえ、未帰還になってからはそこで生活してたって訳か。どんな村なんだ?』

「良い村だよ。故郷に似て、静かで落ち着きがある場所なんだ。村人たちも、みんな優しくて思い遣りがある」

『お前がそこまで言うって事は、マジなんだろうな。んじゃ、俺も長く世話になるとするぜ』

「許可はちゃんと自分で取りなよ? 口添えはするけど」

 

 二機による異次元の模擬空戦を目撃した人たちが、かつてない程に大騒ぎしている事を知らない二人は、着陸の為に少しずつ高度を落としていくのだった。




✦キャラクター紹介

☆九十九 礼一郎
 所属:大日本帝国海軍、二〇三空戦闘三〇三飛行隊二番機。第二十四戦隊第二中隊臨時副隊長機(自称)

 階級:准尉

 年齢:三十代

 略歴:中国戦線→真珠湾攻撃→ミッドウェー海戦→ラバウル航空戦→トラック島の戦い→台湾沖航空戦→フィリピン沖海戦→沖縄戦→本土航空戦→占守島の戦い。

 戦績:総確実撃墜数68。搭乗機を日の丸以外、カウルも含めて全て白く塗り潰していた。対峙した敵軍からの呼び名は“ゴースト・ゼロ”。

 愛機:零式艦上戦闘機五二型。重火力に振り切った武装や、金星搭載機である都合上、五四型丙が最も近しい機体であるが、翼端が左右50cmずつ切り落とされている。

 得意戦術:一撃離脱戦法、巴戦、太陽や雲を使った奇襲

 特技:カレールウ制作、手近な物を使った玩具制作、書道、高G機動全般、戦闘機によるドリフト、雲間飛行、曲芸飛行。

 備考欄:根明で異性と関わりを持つ事も多いが、平時の緩い三雄の事をバカにされて激怒→破局が殆ど。また、最後の戦いでは現場に残されていた一式戦闘機を真っ白に塗り潰して搭乗した。
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