異世界実戦審査録―金星換装型一式戦闘機と共に―   作:Hetzer愛好家

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✦キャラクター紹介
☆リリー・ブラウン

 天職:魔法使い

 在住:ネイト村

 役職:村長代理(村長の娘)

 年齢:二十代前半

 実績:それまでは個人の感覚に頼る事が多かった魔法だが、数理的に解明した事で技術を百年以上進めたとされる。また、対となる黒魔法の発見や、応用学の論文も多数執筆しており、既に生きる伝説として一部の人間からは崇拝の対象になっている。

 固有能力:“刻の支配者”。時間を操る事が可能になる。

 特技:無詠唱魔法の速射、速読、マジックアイテムの制作。

 備考欄:容姿端麗な上に極めて優秀な為、あらゆる国から婚約の打診が後を絶たないが、全て一蹴している。それと大の甘党。


世界を越える家族の愛

 思い立ったが吉日。

 

 茶を飲み干したリリーは、すぐ作業に取り掛かった。

 

「この鉄鳥の状態が、最も良かったのはどれぐらい前?」

「半年程前の事かと」

「オッケ。細かい調整は、鉄鳥に刻まれた記憶を読み取って行うわ」

 

 一式戦闘機の胴体部に触れたリリーは、目を閉じて集中を始める。

 

 機体に刻み込まれた、無数にある激戦の記憶を乗り越えた先にある、完成した直後の状態を探し当てると、リリーの身体から銀色の魔力が強く溢れ出した。

 

 魔力は先刻のように、ただ光るだけでは終わらず、一式戦闘機を包み込むようにして拡大していく。

 

「……時間軸固定。効果時間は永続に設定」

 

 ブツブツとリリーが呟く度に、魔力の輝きが増大していく。

 

 眩しそうにしながらも、この奇跡を一瞬たりとも見逃すまいと、固唾を呑んで見守る三雄。

 

 条件の設定が完了し、時を巻き戻す準備を整えたリリーは、何度か深呼吸をしてから集中のギアを数段階引き上げた。

 

 すると、一式戦闘機の真下に幾何学模様が出現し、何処からともなく聞こえる時計の秒針の音に合わせて光度を上げていった。

 

 秒針が、時を刻む音を鳴り響かせた回数は十度。最後の音は、ガチャコン! と一際大きな音を立てる。

 

 刹那、光が爆ぜた。

 

 閃光弾を間近で食らったかのように、ホワイトアウトしていく三雄の視界。

 

 だが、そんな状況でも三雄は笑みを浮かべた。

 

 視界が完全に白染めとなる直前。確かに彼は、奇跡の発現を目の当たりにした。

 

「……これは、凄まじいな」

 

 白塗りとなった視界が徐々に晴れていき、三雄の目に一式戦闘機と、肩で息をするリリーの姿が映る。

 

 荒れた呼吸を整え、目を開けたリリーは、自身が現実に引き起こした奇跡の結果を目にして、満足気に頷いた。

 

 僅かな色剥げすら見当たらない、漆黒色の塗装。そして、機銃痕一つ空いていない、美しい形状の“両翼”。

 

 黙りこくって機内に乗り込んだ三雄は、軽く操縦桿を引いたり照準器を覗き込み、計器類を確認してから息を漏らした。

 

「ふ……ははっ。あの日、こいつを受け取った時と全く同じだ」

 

 一通り確認を終えた三雄が地面に降りると、リリーはウインクして首を小さく傾げる。

 

 それに三雄は、首肯する事で応えた。

 

「ありがとうございます。この御恩は、一生涯忘れません」

「……別に、大した事はしてないよ。アタシにとって、この程度は朝飯前。そこまで感謝されると、逆に困るって言うか」

 

 ストレートに感謝され、何とも言えない気恥ずかしさを覚えたリリーは、素直に言葉を受け止める事ができず、つい誤解を生む物言いで返してしまった。

 

 しかし、三雄は特に気を悪くする事もなく、もう一度深々と頭を下げる。

 

「本当に、大切な物でしたので。図面は長兄の形見でしたが、この機体は……」

「父、次兄さん、そして弟さんの形見、だよね。鉄鳥に刻まれた記憶を覗いた時に、結構な量の情報が流れてきた」

 

 どのような思いを込められて、この機体が作られたのか。彼女は情報としてだが、正確に把握していた。

 

 最前線で戦う三雄が、少しでも長く生き残れる事を願って。家族総出で、既存品に大幅に手を加えた、家族愛の結晶とも言うべき機体だったのだ。

 

 正確には、長兄が図面を作り上げ、父親が軍の知り合いに話を通して手に入れた最新鋭の発動機(金星)を、次兄や四男と共に現地改装を行って搭載した物である。

 

「上層部にバレたら、きっと一族郎党処刑されていたでしょう。自分は勿論の事、事情を知らないであろう五男や母すらも、死罪となったに違いありません。でも、家族は迷いなく実行に移した。最も危険な前線に立つ私を、ただ指を咥えて見ているだけでは耐えられなかったのでしょうね」

「うん。記憶を探った時に、凄まじい強さの情念が大量に込められていたよ。息子の助けになるなら。可愛い弟を守る盾となるなら。大好きな兄の、最強の矛と化すなら。命は全く惜しくないってさ」

「……そうでしたか」

「正直、圧倒された。ここまで深い家族愛を、見た事がなかったから」

 

 自分の両親が、愛情を注いでくれなかったとは一切思っていないリリーだが、三雄の家族が彼に向けていた愛情の強さは、過去類を見ない程に強烈な物だった。

 

 その成果は、確かに上がっていたと言えるだろう。現に三雄は、あの地獄に長年身を置いていながらも、こうして五体満足で生きている。

 

「ただ直すだけじゃ勿体ないと思ったから、ちょびっと手を加えたよ。破損してもすぐ新品の状態に巻き戻るし、鉄鳥を動かす燃料が尽きた瞬間には元通りになる。搭載されている武器も同様。これなら、貴方の故郷に帰る時に壊れるような事はないと思う」

「何から何まで、本当にありがとうございます。しかし、故郷への帰還を果たすには、あの濃霧の出現を待たねばなりませんね」

「そうだね。でも、問題点が複数ある」

 

 困ったように眉を顰めたリリー。

 

 三雄も、先程の会話の内容を思い返して、確かにと頷いた。

 

「原因不明なんでしたっけ」

「そう。時期はバラバラだし、場所も毎回変わる。オマケに、世界間を移動する方法も一定じゃないの」

 

 三雄のように、濃霧を抜けた先が異世界だった者もいれば、普通に就寝して目が覚めたら世界間を移動していた者もいる。

 

 他にも、所謂“転生”によって前世の記憶を保持したまま来訪した者がいたり、魔法陣によって召喚をされた者も存在していると、リリーは口にした。

 

「一応、この村から山を五つ越えた場所にある“シュトゥルム王国”や“コルセア帝国”では、魔王討伐を成す勇者を呼び寄せる目的で、高頻度で異世界人の召喚を行っていると聞いてる。まあ、成功する確率はお世辞にも高くないんだけど」

「……召喚とやらに巻き込まれたら、否応なしに戦う事になるところでしたね。あ、でも呼び寄せる術を持つなら、送り返す術も持っているのでは?」

「それが、送り返す手段は現状確立されていないんだよね、悲しい事に」

 

 素晴らしく高い魔法の技量を持つリリーですら、その方法を確立できていないと言う。

 

 故郷への帰還が、現時点では絶望的な事を理解した三雄は、何も言う事なく目を閉じる。

 

 しかし、すぐに目を開けると、ならば仕方がないと微笑んだ。

 

「それならば、残りの人生をこの世界で生きましょう。どう生きていくかは、少し考える必要がありますが」

 

 一見、割り切りの良い大人の発言のように思えるそれは、リリーには悲痛な叫び声のように感じ取れた。

 

 困っている人間を放置する事はできない性分であるリリーは、気がつけば何か力になれないかと考えて始めていた。

 

 やがて、一つの案に思い至る。

 

「なら、余っている一室をあげるから、ここを生活拠点にしなさい。その代わり、異世界人に関する研究を手伝って」

「え、いや流石にそれは……」

「貴方は私からすると、極上の研究対象なの。逃がすつもりはない。それに、外界に出ても、アタシのように言葉が通じるとは限らないのよ?」

 

 嘘は言っていない。事実、リリーが魔法の超天才であり、“言語理解”の技能を常用していなければ、三雄は身振り手振りだけで己の意思を伝えなければならなかった。

 

 異世界人に関する研究も、実際にリリーがシュトゥルム王国から依頼を受けたは良かったが、身近に異世界人がいなかったので、ずっと手詰まりとなっていた物である。だが、これを機に、わざわざ村から出ずとも研究が大幅に進むかもしれない。

 

 もっとも、全て建前なのだが。

 

「それとも、何か不満でも? これ以上の好条件は、多分他にないと思うけどね」

「いえ、不満は一切ありませんが、本当によろしいのですか? 知り合ったばかりの異世界人。しかも異性なんて、色々と周囲の目が面倒なのでは」

「あー、もう! アタシが良いって言ってるから良いの! 人の目なんて気にする必要ないし、何か言われても無視するだけ! 兎に角もう決定事項だから!」

 

 かなり強引に話を畳んだリリーは、プイッとそっぽを向いて研究室から立ち去った。

 

 頬に普段以上の熱を持っている事は、双方気が付かぬままであった。




【四藤家長男が書いた図面より引用】

★一式戦闘機二型(後期型)★

✧発動機:ハ一一五(離昇1130馬力)

✧最高速度:548km/h / 高度6000m

✧上昇力:高度5000mまで6分17秒

✧降下制限速度:600km/h

✧武装:機首12.7mm機関砲2門

*図面隅の書き置きより
…初期生産型と比べ、随分と洗練された機体となった事は、実戦に出ているお前らが一番分かっているだろう。以前よりも更に無理が効く上に、被弾にも弱くない。格闘戦で負ける相手は、それこそ同型機か海軍機ぐらいなもんだ。

 しかし、得意な領分にわざわざ乗る敵は、もう存在しない。徹底的に、当機の弱点を突こうとしてくるだろう。

 良いか。防弾設備があるからと言って、無闇に突っ込む事だけは控えろ。そして、単独行動を極力減らせ。卑怯だ何だと言う奴らは無視しろ。俺たち設計技師は、一人も欠ける事なく皆が帰る事を、心から祈っているぞ。
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