ANGEL WALTZ   作:とくめい

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case 夜千与紗夜 ACT3【消えたい怪物、肩に留まるカナリア】

次の日

 

ニュースキャスター

「次のニュースです、昨日起きた、局所的な謎の大熱波の影響で、気候変動が起きた模様です、1部では局所的な熱波の影響で、スコールが未だ降り止まず、作物等に影響が出ていると報告が入っています……」

 

医療棟 集中処置室

 

治療ポットが並び、その中には本来居ないはずの、医療班の総班長と、攻撃部隊の総隊長が入れられている

 

全身焦げ、焼け爛れた部分もある

ほぼ9割程焼けてしまった為、本来人間が行わなければ行けない皮膚呼吸が出来ない状態

 

さすがにそんな状態の隊員を、一般処置では治療出来ない

 

その傍らには、無理やりベッドが置かれている、ベッドの中には、八尺伽耶、総副隊長が横たわっている

ぼぅっとしながらポットの中の二人を見つめ、静かに涙が頬を伝う

 

コポコポと培養液の中で、二人が呼吸している音だけが響く

 

「……ごめんね……もっと強く……なるから……」

 

懺悔の涙か、悔しさの形か、己の不甲斐なさか、BLITZの要の二人に謝罪した

 

 

医療棟 病室

 

窓から吹くそよ風が、開いたカーテンを揺らす

そこには救出された少年少女が並べられていた

 

幸いほぼ全員軽傷や、軽いショック程度で済んでいたので、1日程度で元の生活に戻れるだろう

だだ一人を除いては……

 

夜千与紗夜

彼女だけは、能力の発現もあり、しばらくは治療と検査で家に帰れない

帰る場所も無くなった紗夜は、どうしようか悩んでいた

 

正確には帰れるが、あんな場所に帰らなくても良いと思っていた

 

それと折れた拳、想像とは裏腹に、だいぶ重症だった様だ

診察した医療班に経緯を説明したら、こっ酷く叱られた、非能力者であれば全治2年、そんな事を延々とお説教された

幸い、能力が発現した事によって、回復力も向上していた為、全治3ヶ月と言われた

 

粉砕骨折と言う事でギプスを巻かれたが、どう見ても片手に鈍器を装備してる様にしか見えないくらいに巻かれた

医療班の隊員が余程ご立腹だったらしい

 

水を飲むのも一苦労なギプスを支えながら、ベッドから降りる

能力の発現後、無理に身体を使った事により、筋肉や筋がズタズタになっていたらしい

 

本の少し歩くだけで身体中が悲鳴をあげる

食いしばり、痛みがとめどなく襲うのを耐える

でも、あの副班長はこれより酷い、総隊長、総班長は焼け爛れる程に辛い思いをした

 

同じ能力者として、自分だけ甘えたくない

 

紗夜

「……痛い……けど……」

 

 

紗夜が必死になって歩く、リハビリのつもりだろう、けれど昨夜まで普通の少女だったのが、急にそんな事をすればガタが来る

 

バタンッ!!

 

案の定倒れる

 

冷たい床に叩き付けられる、倒れたまま拳を握る、痛い、悔しい、辛い、この感情、感覚を、何万回BLITZの隊員は味わったのだろう

自分はまだ、それを一度しか味わっていない

 

病室に誰かが入ってくる

医療班の隊員が見回りに来たのか?

しまった、また怒られる

気まずそうに顔を上げた

 

そこには総副隊長の秋浩が見下ろしていた

 

秋浩

「……怒られるぞ?」

 

そう言うと片手で紗夜をつまみ上げ、ベッドに戻す

 

秋浩

「菜琉と伽耶がいないから、小隊の班長が統率取ってるけど、あいつらより怖いぞ?」

 

そんな風に言いながら、毛布をかけ直してくれる

ぶっきらぼうではあるが、総隊長と同じ優しさを感じる

この人も、自分が想像も出来ない程の経験をしてきたのだろう

それでも他人に、自分の様な子供に、こんな優しい言葉をかけてくれる

 

紗夜は少し気まずそうに、昨日の事を話した

 

紗夜

「……助けて頂いて、ありがとうございます……何て言って良いか……」

 

秋浩はそれを黙って聞く

 

紗夜

「御礼…したい……です…けど……」

 

それを遮る様に秋浩が口を開く

 

秋浩

「いや仕事だし、別に気にする事も恩に着る事もないよ」

 

紗夜

「……でも」

 

紗夜が言いかけた時、秋浩が向き直り頭に手を置き、言う

 

秋浩

「助けられたから良かった、それに京介はそんな事気にもかけねぇよ」

「俺達BLITZは助けられるなら助けて当然なんだ、そこに見返りは求めないよ」

 

紗夜は思う

あんなに傷だらけになって、命を賭して、仲間の為に必死になって、それでもそれを当然と言い切る

 

何故世間は能力者と言うだけで、この心の優しい人達を嫌悪するのだろう

おおよそ一般人では想像もつかない経験をくぐり抜けて来ているからこその慈愛

自分の父親や母親もそうだった

 

本当の父親だけは、能力者も大変だと思いやりを持っていた

こんな人達に、嫌な思いをさせて良い筈がない

 

秋浩

「……心配すんなよ、また何かあったらまた助けてやる、君が助けられ飽きるまで助けるよ」

 

思わず目から何かが零れる

昨日の総隊長も同じ事をした

他人に向けて、ありえない愛情を注ぐ

話した事もない相手を、労い、認め、慈しむ

誰でもする訳ではないのだろう

けれど、自分がして欲しかった事、求めたものを与えてくれる

 

紗夜は思わず俯く、顔を見せない様に伏せる

目の前の副隊長は知らんぷりで明後日の方を見ていたが、変わらず手は頭に置いている

 

そして何も言わず、沙夜が落ち着くまで待っている

 

その時

医療棟のスピーカーからけたたましい警報と、アナウンスが流れてきた

 

ビクッ!っとする二人

 

スピーカー

「緊急招集!至急集中処置室に医療班は集まって下さい!繰り返します……」

 

緊急招集?

一体何があったのだろう?副隊長が慌てて出ていく

 

秋浩

「大人しく寝てろよ、医療班に怒られるぞ」

 

出て行き様に紗夜にそう言って走って行く

不安な面持ちで沙夜はそれを見送る

 

 

BLITZの医療班が、集中処置室の扉の前でざわめき立っている

秋浩が到着し、中に入ろうと医療班に声をかける

 

秋浩

「すまない、入れてくれ!」

 

医療班をかき分けて、集中処置室の中に入った秋浩の目に写ったのは

 

全身びしょ濡れで仁王立ちで佇む、西島京介の姿

思わず動きが止まる

 

ありえない、あれ程の傷をおった人間が、いくら能力者だとしても、本の数時間で完治する訳がない

 

騒ぎに気がついた京介が、振り向いて口を開く

 

京介

「……秋浩、腹減ったわw飯食い行こうぜw」

 

秋浩が呆れ笑いを浮かべ、京介に問う

 

秋浩

「ハハッ、何が食いてぇ?」

 

満面の笑みで応える

 

京介

「肉w」

 

 

 

集中処置室 少し前

 

伽耶が目を閉じ、ベッドに横たわる

昨夜のエメラルドドラゴンに、手も足も出なかった

格好をつけたは良いが、あれではざまあない

 

自分の弱さが情けない、弱さが歯がゆい

所々身体の骨が折られ、そこそこの重症ではあるが、相手に怪我ひとつ与えられなかった

 

悔しさと情けなさで涙を流す

 

そして、京介の心を再び守れなかった事を恥じた

 

ポットの二人を見つめ、ただ自分の不甲斐なさを悔やんでいた

 

その時、京介のポットが動く、出入口をこじ開ける京介が見える、一瞬理解出来なかった

京介は重症ではないのか?

 

何故動ける?いやそれよりも、何故ポットをこじ開けるのか?

 

目の前で起きている事を処理しきれないまま、ポットが開き、警報が鳴る

 

目の前に京介が這い出る

 

伽耶

「……きょう、すけ……」

 

伽耶の声に反応する京介、逆光で表情が見えない

 

だが、伽耶の顔を撫でる手に、確かに優しい温もりがあるのを感じた

 

京介

「……そんなにボロボロにしちまって、ごめんな」

「……ありがとうな、そんなになるまで頑張ってくれて」

 

伽耶は涙を流す

短い言葉でも、それが自分は言われる資格が無いと

だが目の前の男はそんな自分を認めてくれた

力及ばず、ボロボロになったのにも関わらず

 

伽耶

「……ごめん……」

 

京介

「謝ることなんかねえよ、頑張って、まだ生きてる、ありがとうなw」

 

伽耶はそのまま気を失った、安堵したのか、京介の手に触れながら

 

 

 

全裸でびしょ濡れの京介に向かい、医療班の隊員が話す

 

医療班

「総隊長!服を来てください!それとポットに戻って下さい、貴方まだ重症なんですよ!」

 

その言葉に自分の身体を見ながら応える

 

京介

「……イヤンっw」

 

いつもの京介のおふざけ、しかし怒る事も呆れる事も、今は出来ない

あれだけの炎に焼かれ、身体のほとんどが焼失していたのだ、そんな短期間に意識が回復し、完治するはずがない

 

数人の医療班が京介に駆け寄る

声を上げて驚愕する

 

医療班

「……ありえない……身体の表面の火傷が完治している、いや、怪我の跡すらない……」

 

その言葉を聞いて、なら良いだろと言わんばかりに京介が歩き出す

それを慌てて医療班が静止するが、構わず歩く

 

京介

「検査なら後で受けるからwとりあえず腹減ったんだよw飯食わせろよ!w」

 

さしもの医療班もそのセリフと傍若無人さに呆れる

 

ガッ!

 

そんな京介の頭を掴み、持ち上げる人影、一瞬京介がビクッと肩を竦める

恐る恐るその人物の方を見る

 

「あらあら、お元気そうで何よりです、でもせめて服を着て下さいね?ここは医療棟ですし、何より貴方は患者ですから」

 

自分より大きい女性が京介を見下ろす

2m程の女性は、物腰を柔らかく話すが、京介の頭を掴む手に力がこもっている

 

京介

「……へ、へい……w」

 

医療班、第1班班長

藺草 千恵(いぐさ ちえ)

特異系(24)

 

2mの長身と、恵まれた体躯、物腰の柔らかい話し方、優しそうな顔で微笑む姿は、母性に溢れた優しい姿、ではあるが、京介に対峙している今は、その笑顔が何よりも恐ろしい

 

藺草千恵

「どなたか衣類をお持ちでは無いですか?」

「総隊長さんも、せめて着替えてからお食事に行って下さいね」

 

そう言って京介を下ろすと、あまり騒がない様にと軽く注意してその場を後にする

 

医療班 隊員

「あ、あの、よろしいんですか?」

 

隊員の疑問に笑顔で応える

 

藺草千恵

「後ほど検査を受けると仰ってますし、総隊長さんですから、お腹が空いてると仰るなら、先にお食事を済ませて頂いた方がスムーズに終わりそうですからね」

 

そう言いながら、集中処置室を後にする

 

京介

「服は?w」

 

医療班

「今取ってきますから!待って下さい!」

 

京介

「面倒くせぇw直接行くわw」

 

医療班

「はっ?いや、それは…」

 

言うや否や京介が走り出す

早い

そんな所に本気を出さなくても良いだろうと思う程に俊敏な動きで駆け出していった

 

慌てた医療班や秋浩がその後を追う

 

秋浩

「それはダメだろ!」

 

どう考えてもダメな大人である

 

颯爽と走り去る京介、医療棟の中を自分の隊長室まで一直線で駆け抜ける

 

その騒がしい様子を、ベッドに座っていた沙夜が通路の窓越しに見ていた

京介が走ってる事に驚きを隠せないが、騒がしく追われている姿を見て、少しホッとした表情を見せる

 

 

総隊長室

 

部屋のソファに、フードを被った少女がうずくまっている

 

テーブルの上には、出されたであろうミルクティーが手付かずで冷めていた

 

京介の命令を守り、総隊長室で待ち続けていた

 

総隊長室の外からバタバタと喧騒が聞こえてきたが、疲れていたのか気付かず眠っている

 

総隊長室の扉が開く

 

京介

「……良かったw……待ってたw」

 

声を絞り起こさない様に総隊長室に入る

ロッカーから着替えを取り、それを物音を立てない様に着替える

 

冷めたミルクティーを手に取り、代わりに暖かいものに取り替える

 

そして少女の横に座り、ゆっくり顔を撫でた

少女はようやく気付く

そして京介を見つめ、無言で身を預ける

 

京介はそれに対して何も言わず、少女を撫でた

 

京介

「……遅くなってごめんな……」

 

静かに呟く、少女は寝息を立て、静かに眠り続けた

 

 

1時間後、隠密部隊の少女は目を覚ましてすぐ京介を見つめ、安心したのかそのまま消えていった

 

それを気付かない様、寝たふりをして見送る

 

京介

「……やっぱり、居てはくれなかったか……」

 

少し寂しい気持ちになったが、自身の空腹に気付いた京介は、秋浩の元に向かい、外に食事に行こうと誘い出す

 

いつも行く所で構わないと、肉を出す定食屋に行き、店主が引くレベルの量を注文する

京介の無茶をいつも快く聞く店主だが、さすがに1キロのとんかつと、2キロの焼肉定食、(しかもブロック肉)を指定されれば、さすがに引く

 

好きなだけ好きな物を食べろと言った秋浩も、さすがにそれは予定外過ぎて、料金よりも食べ切れる方が気になった

 

京介

「美味いやぁああ!美味すぎてふりかけが欲しぃやぁあああ!!w」

 

清々しい程完食し、店主に礼を言うと、颯爽とBLITZに帰って行った

 

 

BLITZ 喫煙所兼自動販売機置き場

 

秋浩

「……どこから突っ込んで良いかわからんのだけどよ……」

 

京介

「飯は美味かったぞwサンキュw」

 

秋浩

「……いやそこじゃねぇよ」

 

秋浩が京介にコーヒーを手渡し、京介が秋浩にタバコを差し出しながら話す

色々聞きたい事はあるが、まずどうして医療ポットから出れる程度に回復したのか

 

京介

「ん〜wわかんねぇw」

 

秋浩

「んぁ?!」

 

京介

「……ちょっと変な話だけどよ、昔の夢?走馬灯?が見えてな、ムカついて殴ろうとしたらポットに居たから出たw」

 

頭を抱える秋浩、抱えた頭を起こせず、そのまま話す

 

秋浩

「……昨日の事、覚えてるか?」

 

京介

「……悪りぃ……正直全く記憶にない……」

 

秋浩

「どこから覚えてない?」

 

京介

「ん〜、……ガキ共上に上げた後は、ほとんど覚えてねぇ……悪ぃ……」

 

秋浩

「別に謝る筋合いはねぇよ、それならいい」

 

京介

「……俺よ、なにか…」

 

小刻みに手を震わせ、京介が何か言いかけた時、秋浩が遮りながら言葉を言う

 

秋浩

「今生きてここにいる!、怪我人はいるけど、ちゃんとお前は人を助けた!誰も死んでねぇ!……」

「それではイカンか?」

 

京介

「……悪ぃ……」

 

二人が無言で飲み物を口にする

生きてここに二人共いる、秋浩は京介に余計な心配をさせない様に、それ以上は言わなかった

 

京介

「……菜琉んとこ、行って来るわ……」

 

秋浩

「……おう……」

 

 

医療棟 集中処置室

 

中には沙耶麻 菜流が入ったポットが、暗がりの中で照らされている

 

八尺伽耶総副班長は、先程の騒ぎで病室に移され、誰もいない

 

たった一人、西島京介がいるだけ

ゆっくり菜琉のポットに近づき、そっとポットを撫でる

 

京介

「……ごめんな……」

 

小さく呟く

何も聞かなくても、おおよその事はわかるのだろう

伊達や酔狂で総隊長の任についている訳では無い

 

己の未熟さ、不甲斐なさを悔やむ

 

京介

「……情けねぇ……」

 

膝を付き、菜琉に詫びる様頭を垂れる

ポットに頭を打ち付け、悔しさと情けなさ、菜琉や秋浩、伽耶に対する申し訳なさからか、涙がとめどなく溢れる

 

子供の様に泣きじゃくる

愛する人を傷付けてしまった事に、耐えきれない程の胸の痛みを覚える

 

誰も居ないと思っていたが、ポットの裏で藺草千恵が仕事をしていた

京介に気付かれないように息を潜めていたが、昨夜の状況を聞いていたため、胸が苦しくなる

 

京介

「……すんません……邪魔しちゃって……」

 

京介は藺草に気付いていた

その言葉を聞いた藺草は、裏から姿を表す

 

藺草千恵

「すみません、聞くつもりは無かったのですが……」

 

京介

「……いえ、わかってやってました……」

涙でくしゃくしゃになりながら、鼻を啜り何とか答えた

 

藺草はその様子と言葉を聞き、やはり総隊長なのだと遠慮する事を諦め、京介を抱きしめる

2mもある身長と、恵まれた体躯が、その装いのまま京介を包み込む

 

藺草

「……菜琉総班長は、戻ってから、ずっと貴方の事を気にかけてましたよ……治療を開始するまでずっと……」

「ごめんね…、大丈夫だよ、と貴方に伝えて欲しいと……」

 

菜琉が何故そんな事を言ったのかはわかる

しかし、わかっていても、自分を許せない

 

そんな心境を察してか、藺草が京介を抱きしめながら話す

 

藺草

「……私も、西島隊長がいてくれて、安心しました……」

「総班長には、貴方が必要ですから……」

「……今すぐ自分を許さなくても構いません、せめて、せめて総班長の為に、居ては頂けませんか?」

 

京介は藺草が言っている事が良くわかる、わかるからこそどうして良いか分からない

だが、菜琉の為にいて欲しいと言われた事に、京介は静かに頷く

 

どれだけたっただろう、そんなに経っては居ないかもしれない

泣き疲れて眠った京介を、藺草は抱き抱え、処置室に運ぶ

 

少し眠ってから検査をしてもらおうと、ベッドに寝かしつけた

 

藺草

「……総隊長とは言っても、完璧で無くても良いんですよ……」

 

 

 

少し前

医療棟 病室

 

先程嵐の様に騒がしかった事を詫びる為に、秋浩が沙夜の元を訪れていた

 

病室に入ると、何故かまた紗夜が床に寝ていた

 

秋浩

「……またか…怒られるぞ?」

 

昼間と同じく、つまみ上げてベッドに寝かせる

紗夜は終始気まずそうな顔をしていたが、彼女なりに頑張っているのだろうと、頭に手を置く

 

紗夜は俯きながら秋浩に話し掛ける

 

紗夜

「……すみません、早く治さないとって思って……」

 

そのセリフを聞いて、秋浩はそっぽを向いたまま、紗夜に話し掛ける

 

秋浩

「全治何ヶ月?」

 

紗夜

「……3ヶ月…です……」

 

秋浩

「なら大人しく寝てな?、ほんとに医療班に怒られるぞ?」

 

秋浩が向き直り、紗夜に続ける

 

秋浩

「焦ったって結果は出ねえからな、大人しく身体治して、それから焦っても遅くねぇよ」

 

鈍器の様なギプスを見ながら、秋浩の問いかけに応える

 

紗夜

「…ハイ……すみません……」

 

秋浩

「謝る必要はねぇよ、頑張るのは良い、ただ頑張る準備を整えねえとな」

 

紗夜はそう言われて驚いた

頑張る為の準備、そんな事をして良い何て思ってもみなかったからだ

 

妙に納得してしまった紗夜は、秋浩に向かって素直に頷く

秋浩はそれを見て、さらに頭に置いた手で撫でる

 

紗夜がそれを聞いて秋浩に質問をする

 

紗夜

「…あの…BLITZに、私がBLITZに入る事って…できますか?……」

 

秋浩は顎を掻きながら口をへの字にして考える

 

秋浩

「ん〜……入れるけど……そんな良いもんじゃないぞ?」

 

その応えに紗夜が続ける

 

紗夜

「……あの…隊長さん達のお役に立ちたくて……」

 

秋浩

「ありがてえけど、それだけで入らない方が良いぞ?」

「昨日も見ただろ?危ないんだ、死ぬかもしれない日常を送らなきゃならないし…」

 

紗夜はその言葉で昨日の事を思い出す

少し考える

幾ら医療班と言えど、副班長が赤子の様に手も足も出ず、目の前で蹂躙された

自身も能力が発現したが、あのまま敵が引いて無ければ、間違い無く危なかった

 

だが、それを踏まえても譲れない想いが芽生えていた紗夜は、秋浩の目を見ながら答える

 

紗夜

「確かに危険なのは分かります……けど……自分に誠実で…居たいんです……」

 

そう言われた秋浩は、何かを考えながら応える

 

秋浩

「なら入隊してみても良いけど、ダメなら辞めるんだぞ?結構キツイし、それに…」

「…それに京介はあんまり君見たいな子がBLITZに入るのは好きじゃないからな」

 

秋浩が言う

[自分見たいな子がBLITZに入るのは、総隊長が好きじゃない]

その言葉がわかるのは、少し後になってからだが、一応入隊しても良いと許可を貰った事が、少し嬉しかった

 

紗夜

「…が、頑張ります……」

 

秋浩

「おう、無理すんな」

 

 

 

数日後

 

沙耶麻菜琉総班長が治療を終え、ポットから出された

 

外傷は全て完治し、今はただ眠っているだけ慌ただしく医療班が菜琉の回復を準備している傍らで、西島京介が座る

菜琉の手を握りながら、ただ心配そうに佇む

 

ポットから出てどのくらいだろう、ゆっくりと、菜琉が目を覚ます

自分の状況を把握するために、少しだけ時間がかかる

そして左手の感触、ゆっくりと身体を起こし、左手に伝わる感触を追う

 

京介が不安そうに見つめている

それに向かって、菜琉が安心した様に微笑む

 

菜琉

「……おかえり……頑張ったね……」

 

京介が俯く

自責の念か、合わせる顔がないからか

そんな京介の頭を抱き寄せ、菜琉が言う

 

菜琉

「……大丈夫だよ……居てくれて良かった……おかえりは、言ってくれない?……」

 

少し意地悪そうに京介に言う

 

京介

「……お、かえり……」

 

菜琉

「ただいま……」

 

慌ただしく立ち働く医療班の隊員たちは、二人の再会を邪魔しないよう、あえて気付かない様、見ない様、作業に没頭していた

地球最強の組織「BLITZ」の隊長格といえど、その中身は傷つき、涙を流し、慈しみ合うただの人間

その当たり前の事実に安堵しながら、彼らは自分たちにできる最善のサポートを続ける

 

 

 

それから数日

 

科学班 研究ラボ

 

「総隊長の身体は完治、異常は何も見当たらない…まぁ、精神的な所は多少不安定ですが、人間の許容範囲ですし、それ以外は何ともないですな……」

 

「沙耶麻総班長も、外傷は完治、精神的な部分も問題無しですね」

 

科学班の検査結果を、秋浩が神妙な顔つきで聞いている

 

秋浩

「異常なし?問題無いんですか……」

 

科学班

「……自分で言ってて異常だと思いましたが、沙耶麻班長は置いておいても、西島隊長は、まぁ説明出来ないんですよね……」

 

秋浩

「科学班でも説明出来ないんですか……」

 

科学班

「悔しい所ですが、能力者の未知の部分でしょうな、それとそれが西島京介だからか」

「非科学的な事は言いたくないんですが、彼が異常なだけ、としか説明できません……」

 

秋浩が頭を抱え、天を仰ぐ

 

非科学的と言った後に、西島京介だからと言われ、釈然としないが納得してしまった

 

回復能力のある能力者ならいざ知らず、攻撃特化の京介の超回復

感情の増減を加味しても、かなりのレアケースだと説明される

 

その説明をリフレインしながら歩く秋浩

唐突に叫ぶ

 

秋浩

「アホか!アイツは!」

 

ビクッ!っと周りを歩いていた隊員は肩を竦める

 

 

医療棟 病院

 

静かない個室に、日中のそよ風が吹き込む

 

ベッドから起き上がり外を見ている人影

八尺伽耶がいる

 

そこに秋浩が入ってくる

 

コンコン

 

秋浩

「…良いか?」

 

ノックの方に振り向き、にこやかに対応する

 

伽耶

「……いらっしゃい」

 

秋浩は持っていた袋をテーブルに置き、伽耶に様子を尋ねる

 

秋浩

「…どうよ?、大丈夫か?」

 

伽耶

「うん、もう少しで大丈夫だって言われたw」

「すぐ復帰出来るから、心配しないで」

 

秋浩

「……そっちじゃねぇよ」

 

その言葉で伽耶が俯く、何を言っているか分かっている

 

伽耶

「……ごめん……」

 

秋浩

「謝んなよ、京介も同じ事言うと思うだろ?」

 

伽耶

「……うん…」

 

頭を掻きながら秋浩は言葉を選ぶ

何とかしてやりたいと思っているが、京介程言葉を持ち合わせていないからだ

 

秋浩

「俺は京介程感情で話せねぇが、お前がアイツの近くで心から笑ってくれてれば、それが一番良いんじゃねぇか?」

 

伽耶は無言で聞く

 

秋浩

「……いつも京介が言ってるだろ?、適材適所だって、出来る事を、出来る時に、出来る奴がやればいい、ってよ……」

 

伽耶

「……分かってるんだけど……」

 

秋浩

「亜紀班長にならなくて良いんだよ、菜琉じゃなくて良い、伽耶は伽耶にしか出来ない事が多いんだからよ」

 

分かっている、わかっているからこそ辛い

自分は彼女達にはなれない、だからこそ自分が出来る精一杯をやろうと思った

けれどそれすらも出来なかった悔しさで、言葉が出ない

 

その様子を秋浩が言葉を続けながら見ている

 

秋浩

「正直、京介はお前らにBLITZを辞めて貰いたいだろうさ、菜琉も伽耶もアイツには大事だからな、多分俺もだろうけど」

「けどよ、それを押してここにいるんだからさ、お互いに協闘しねえか?」

「アイツの言うことなんか聞いてやらない様にさw」

 

その言葉に顔をあげる伽耶

秋浩が微笑みながら自分にかけた言葉、みんなで京介の傍に居てやろうと、京介の思惑には乗らず、あえて逆らうのに協力しようと

 

ばかばかしくも、ある意味全うな秋浩の策略

伽耶はそれを喜んで受けると秋浩に答える

 

伽耶

「……うん、居たい……」

 

秋浩

「なら無理しねえで、自分を責めんな、それを京介は一番嫌うぞ?素直に甘えろ、京介じゃねぇんだからw」

 

伽耶

「…うん、ありがとう…」

「少し…楽になった…」

 

昔、クリムゾンインパクト直後に自分が京介にこぼした独り言

今、それを秋浩に言われている

 

受け止めるつもりの自分を、逆に受け止められている

自分も甘えて無かった、それを皆は知ってた

 

涙目ではあるが、伽耶のいつもの笑顔に戻った事を、秋浩は安堵し、伽耶の頭に手を乗せた

 

 

それからまた数日

 

対能力者特別攻撃部隊 隊舎

 

 

秋浩

「京介てめぇ!また仕事サボりやがったな!」

 

京介

「やべw」

 

秋浩

「お前が目ぇ通さねぇと不味い書類幾つあると思ってんだ!!」

 

隊舎内に轟く秋浩の叫び声

それから脱兎のごとく逃げ出す京介

 

いつもの光景に隊員達も京介を冷やかす

 

隊員達

「また仕事溜めたんですかw」

「そりゃ怒りますよw」

 

京介

「机にしがみつくのは苦手なんだよw」

「目ぇ痛いしw、それに机に座るなら妹とゲームしてぇw」

 

その子供の様なセリフに、隊員一同笑って追われる京介を見ている

 

走り疲れた秋浩が、頭を抱えて立ち止まる

息を切らし、肩で呼吸を整える

 

秋浩

「…ハァハァっ、あの、野郎……」

 

隊員達

「元気になりましたね」

「まぁアレはアレで安心できますが」

 

そんな隊員達をキッと睨みつけ、言葉を続ける

 

秋浩

「なら、お前達が、書類見るか?、ハァ、ハァ」

 

そう言われた隊員達は、くるりと踵を返し、皆一様に知らんぷりをする

 

秋浩

「ったく…」

 

呆れた様な言葉を吐くが、その顔は少し笑って居た

 

秋浩は少し考える

そして京介の様に、悪い顔になり思いつく

 

その表情をたまたま見かけた隊員は、これは総隊長に対して、あまり良くない事になりそうだ、と笑っていた

 

 

 

医療棟 病室

 

紗夜は床に倒れて居ない

机に向かって勉強をしていた

BLITZに入隊する為の筆記の予習をしている

 

そこに秋浩がノックをしながら入ってくる

 

コンコン

 

紗夜がそれに気がつき、笑顔で迎える

 

秋浩

「おっ勉強中か?、今日は床に倒れてないなw、偉いw」

 

少し茶化す様に声をかける

紗夜はそんな秋浩に向かって笑って答える

 

紗夜

「そんないつも倒れてませんよw」

 

それを聞きながら、手土産のお菓子を沙夜に見せ、ちょっと休憩しないかと提案する

 

少し高くて手が出ないお菓子を目の前にし、沙夜は子供の様にはしゃぐ

 

紗夜

「……これ、興味あったんですけど、高いし予約取れなくて、なかなか買えない奴ですよね」

 

目をキラキラさせて秋浩を見る

 

秋浩

「らしいな、全部食べて良いよ、足りなきゃ俺か京介に言えば食えるだろうしw」

 

なかなか手に入らないスイーツを前に、どれにしようか、食べるのが勿体無いと迷う姿は、美麗で整った容姿とは裏腹に、歳相応の少女のそれである、忍ちゃんに似通う部分、

 

あまり若い子をBLITZに入れたがらない京介の気持ちも良くわかる

それを見た秋浩は、紗夜に問いかける

 

秋浩

「……まだBLITZに入りたいか?」

 

質問の意味が分からないが、そんな事を言われた沙夜は、急に不安になる

出されたスイーツを、BLITZに入れない為の手切れ金代わりか、と変な解釈をした沙夜

スイーツを食べる手を止め、恐る恐る秋浩に聞く

 

紗夜

「……やっぱり…入ったらダメですか?……」

 

何か勘違いをされたと、すぐにわかった秋浩は、慌てて訂正する

 

秋浩

「あ、いやそうじゃねぇんだ、ただの確認よ、お菓子は単純にお見舞いだから、変な解釈しないで良いから」

 

頭に手を置き、紗夜を宥める

 

不安そうに秋浩を見つめる紗夜

それを大丈夫だ、疑うなと宥める秋浩

 

秋浩

「入れたく無かったらそもそもハッキリダメって言うだろ」

 

それもそうかと、妙に納得した沙夜は、スイーツに向き直り続けて食べ始める

 

淡麗な容姿とは裏腹な、少女らしい振る舞いに、少し安心した秋浩は話をする

 

秋浩

「BLITZに入って、どこか希望の部署とかあるか?」

 

紗夜は考える

漠然とBLITZに入りたいと思ったが、特に希望している所がある訳ではない

それを秋浩の様子を伺いながら応えて見る

 

紗夜

「あの…隊長さん達と、働きたい…です…」

 

秋浩

「そうかw俺たちと働きたいかw…ありがとうな」

 

頭に手を置き、笑いながら応える

 

秋浩が続ける

 

秋浩

「それじゃあお願いがあるんだけど、BLITZに入ってからの話になっちゃうんだけどな」

 

改めて言う秋浩のお願いに、なんだろうと聞く

 

秋浩

「うちの総隊長は実戦は好きなんだけど、事務仕事が嫌いなんだよ、それでな、やっぱり常に見てくれる人が欲しいと思ってるんだけど、そこでせっかくBLITZに入ってくれる子がいるからお願いしたいんだけど」

 

「総隊長の秘書になって貰えないか?」

 

紗夜

「秘書…ですか?…」

 

まさかの提案に少し驚く

 

秋浩

「そうそう、まぁ、主に京介の体調管理とか、書類仕事させて貰えるだけで良いんだけどな」

「今すぐじゃなくて良いから、考えてくれると助かるw」

 

秋浩の提案と、秘書と言う響きに魅力を感じた沙夜

 

紗夜

「…なれ…ますか?…」

 

秋浩

「余裕余裕w心配なら、俺たちとか医療班の総班長に聞けば、多分自分の仕事はわかるから」

「構えないで気楽にやってみてくれると助かる」

 

気楽に、と言われたが、大丈夫だろうかと不安を覚える、が、副隊長のたっての頼みに、期待と不安を抱え、頑張って見ると秋浩に応える

 

秋浩はそんな紗夜を見ながら、多分これなら京介も納得出来るだろうと考える

そしてあわよくば、書類仕事をさせてくれと、切実に願った

 

 

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