ANGEL WALTZ 作:とくめい
みのりの放った、火星にはあってはいけない大津波に、眼前の景色が全て飲み込まれ、残ったのは、地平線まで広がる赤黒い大地だけになった
三月の能力のせいか、自身の能力の使い過ぎか、ペタンと座り込み、疲労困憊で息を切らせるみのり
みのり
「……ハァ、……ハァ、と、とりあえず、当面の危機は脱しましたか……」
誰に言った訳ではないが、それに答えるように三月が駆け寄り、みのりを抱き抱え、那由多の元へ運ぶ
三月
「……お疲れ様です、小班長……」
その言葉に、みのりは満面の笑みで親指を立てて答えた
少し動けるようになった那由多がそれを見て、みのりに向かってポケットから栄養バーを差し出す
言葉がまだ上手く出せない、那由多なりの気遣いだろう
震える手に握られたソレを、みのりは優しく受け取った
三月が那由多とみのりに治療を施しながら、一息つける事を安堵したが、まだ敵は残っている
虫の製造元の男、それとライオット
今襲われたらひとたまりもない、焦る気持ちもあるが、二人を動ける状態まで回復させないと、そう考える三月の希望は、アッサリ砕かれた
男
「素晴らしいなぁ!アレだけの虫を跡形も無く溶かし切ったか!」
今聞きたくなかった声が、背後から聞こえる
先程地中に落ちた時に、あわよくばどうにかなってて欲しいと願っていたが、やはりそんなに甘くはなかった
今ここで戦えるのは自分だけ?
みのりは肉体は問題無いだろうが、能力を無理に使った反動で、少し休息が必要だ
那由多は動愚の反動と、三月自身の能力で、まだ少し動きが鈍い
覚悟を決める三月、その姿を止めるみのり
みのり
「三月さん……、まだダメです、治療を優先して下さい……」
男に関わらせてはいけないと、みのりなりに言葉を選んだつもりだったが、三月にその言葉は届かなかった
みのりの言葉を振り切り、男に向かって歩き出す
三月
「……まだ生きてたの?、一旦帰って貰えたら嬉しいんだけども……」
男
「言うねぇ、たかが地割れに呑み込まれただけで、どうにかなる訳ねぇだろう?」
「それに、多少とは言えBLITZの隊長格が疲労困憊なのに、狙わねぇって手はねぇだろ」
敵としてアッパレな思考、確かに納得してしまう理屈、しかしそれをすんなり通す訳にはいかない
三月は腰にぶら下げた医療用ナイフに手をかける
自身の身体から精製した毒物を纏わせ、掠っただけでも致命傷になり得る武器に変えて
那由多は上手く話せない口で止めようとするが、三月が声に耳を貸さないのを見て取れた
男
「怖ぇな、単純などつきあいなら俺も得意だぜ?」
男がにじり寄って来る、お互いの間合いに入る
お互いが睨み合い、男の咥えてるタバコの灰が、ポトリと落ちた瞬間
三月がナイフを突き立てた
しかし男はそれを難なくかわし、カウンターで三月の襟を掴むと、力づくで岩へと叩きつけた。
岩にヒビが入るほどの凄まじい膂力。
だが、三月は直撃の瞬間に身軽な体を捻り、致命傷を避ける
そのまま岩を足場に跳躍し、再び鋭い一閃とともに男へと飛びかかった。
二人の激しい肉弾戦を、ただ為す術もなく見つめるしかない隊長格の二人。
(体術までいけるのか……) 那由多は、医療班の枠を超えた三月の動きに内心で舌を巻く。
一方のみのりは、一刻も早く加勢しようと、痺れる体に鞭を打ち続けていた。
みのり
「……段々、動けるようになってきました。那由多さん、行けますか……?」
問いかけに対し、那由多はコクリと深く頷く。
いまだ声が出せないのは、三月の放った毒が完全には抜け切っていない証拠だろう。
みのりはそれを見て、三月の能力の強さが、皮肉にもこの状況で仇となったことを悔やんだ。
目の前で繰り広げられる死闘。
自分たちが参戦できるようになるまで、あと数分。
だが、その数分が今はあまりにも遠い。
今のところ、三月と男は互角の勝負を繰り広げている。
だが、持久戦になれば体力に劣る三月が不利になるのは明白だった。
一刻も早く、この均衡を打破しなければならない。
アクション映画さながらの体術で、一歩も譲らず火花を散らす二人。
片方は冷徹な殺意を。
もう片方は、背後の仲間を守るという唯一の矜持を。
だが、均衡は唐突に、残酷な形で崩れた。 わずかな焦燥が、三月の踏み込みを一瞬だけ早めてしまったのだ。
その隙を男は見逃さなかった。突き立てられた医療用ナイフを紙一重で躱すと、男は三月の体を掴み、そのまま容赦なく地面へと叩き伏せた。
三月
「……ッ、ガハッ!……ハァッ、……!」
肺の中の酸素をすべて強制的に吐き出され、三月は激痛に視界を歪ませる。
立ち上がろうとするが、体の芯が悲鳴を上げ、指先ひとつ動かせない。
男
「俺はよ?、地味な能力が発現してな、『身体強化』……ただそれだけだ。派手な超常現象は起きんが、宇宙空間でも数時間は活動できるし、能力者のさらに十倍程度の出力を維持できる」
男は無造作に、足元に落ちていた医療用ナイフを拾い上げると、あろうことか自らの腕に深く突き立てた。
三月が心血を注いで精製した、掠めただけで絶命するはずの毒。
だが、男は眉ひとつ動かさずに続ける。
男
「薬物への耐性も桁違いだ。お前が狙っていた事は、最初から企画倒れだったってことだよ」
男はナイフを引き抜き、ゴミでも捨てるように放り投げた。 その姿を地を這いながら見つめる三月だったが、その瞳の奥にある光はまだ消えていない。
三月
「……ッ、フフ……パッとしない能力ね……、そんな地味な能力で、私にトドメなんて刺せるの……?」
血の混じった不敵な笑みで挑発する三月。
男はわずかに眉根を寄せ、イラついた足取りでツカツカと三月へ歩み寄る。
だが、あと一歩で三月の手が届くという、その極限の間合いで、男はピタリと歩みを止めた。
男
「……何か狙っているな。流石にそこまで頭は悪くねぇよ。……このまま頭を潰させてもらう」
目論見を完全に見透かされ、三月は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
三月
「……残念。効くまで毒物の濃度を上げてみようと思ったのだけれど……」
男は、近くに転がっていた鉄なのか石なのかも判然としない、歪な塊を無造作に拾い上げた。それを三月の顔面に向け、容赦なく振り上げる。
三月
「……あなたはBLITZが余程嫌いみたいだけど、でも、決定的に違うところがあるわよ……」
三月の微かな、しかし凛とした声に、男はわずかに動きを止めた。
三月
「……いくら身体が強くても……あなたは、そこにいる小隊長の爪の垢にすら及ばない……」
不敵な笑みを浮かべながら、男に向かって余裕の表情で吐き捨てる
その一言が、男の逆鱗を正面から踏み抜いた。
男の表情から余裕が消え、顔中の血管が怒りで爆ぜんばかりに浮き上がる。
瞬時に怒髪天を衝いた男が、三月の頭上へ、その破壊的な質量を全力で振り下ろそうとした、その時――
男の背後から何かが飛んでくる。 それは、ほんの数センチ程度の極小の水球。
「爆ぜろ……」
微かな、しかし地獄の底から響くような声が重なった瞬間、水球は男の顔の真横で炸裂した。
爆ぜた水は散弾のごとき勢いで男の頭部を襲う。
だが、能力によって極限まで研ぎ澄まされた肉体を持つ男は、至近距離での着弾にも眉ひとつ動かさず、岩のように硬いその頭部で衝撃を弾き返した。
しかし、三月と「彼ら」に必要だったのは、致命傷ではない。
ほんの一瞬、男の意識を「殺害」から逸らすだけの、僅かな隙さえあれば良かったのだ。
続けざまに、大気を切り裂く音を立てて鋭利な水の刃が男の首元を襲う。
男
「……そう来たか ……」
男は苛立ちを露わにしながらも、焦る様子など微塵も見せず、いとも簡単にその水の刃を拳で殴り壊した。
砕け散る水の飛沫。
だが、その飛沫の向こう側――男の目の前には、いつの間にか麻酔を振り切り、自らの胸元に指先を添えて地獄の底のような瞳で自分を見据える那由多がいた。
「爆ぜろ……」
絞り出すような呟きと共に、「動愚」によって限界まで増幅された破壊の意思が、逃げ場のない至近距離で男の肉体へと叩き込まれた。
男の巨躯が、一瞬、激しく震える。 だが、男は倒れない。
目からはどろりとした血涙が溢れ、鼻や口、耳からも、内圧に耐えかねた血液が濁流となって垂れ流される。
目を見開いたまま、男は一歩も動かず、直立不動の姿勢で「物」のように固まった。
外殻を強化しすぎた報いか、逃げ場を失った衝撃がその内臓を、細胞を、ことごとく磨り潰したのだ。
その異様な光景に、三人は止めていた息を深く吐き出した。
みのり
「……終わった……んですか?」
恐る恐る、確認するように尋ねるみのり。
那由多
「直接打ち込んで、生きてたら人間じゃねぇよ……」
三月
「……そもそも、人間だったのかも怪しいものですけれどねぇ」
三月はふらつく足取りで立ち上がり、忌々しそうに男の死体から視線を外した。
ようやく三人が本当の意味で一息つけると安堵した、その瞬間――。
背後から伸びた剛腕が三月の首元を掴み、その細い身体を軽々と高々と持ち上げた。
三人は、目の前の光景を理解できずに凍り付いた。
たった今、確実に那由多が至近距離で「中身」を爆ぜさせ、トドメを刺したはずの男が、そこに立っていた。
那由多
「……っ! な、…に…!」
トドメを刺した那由多本人が、誰よりもその「異常」に驚愕していた。
男の顔面は、穴という穴から溢れ出した血液で真っ赤に染まっている。
だというのに、男は裂けた口角を吊り上げ、愉悦に満ちた笑みを浮かべながら三月を掴み上げている。
男
「フゥ……、カハハッ! 今のは流石に効いたぜ。だが、BLITZの隊長格の力がこの程度とは、些か拍子抜けだなぁ……」
「言ったはずだぜぇ……俺の能力は『身体強化』だってなぁ!」
いくら身体を強化していようと、動愚の力で増幅された破壊をまともに受けて、五体満足で立っていられる人間などこの世に存在するはずがない。
だとしたら、目の前の現象は何なのか。
宙に吊るされ、意識が遠のきかける中で、三月は男の肌を凝視し、戦慄と共に口を開いた。
三月
「……ッ、コイツ……ただの身体強化じゃ、ないですね……。おそらく……超速再生……!」
三月は気づいた。男の身体には、先ほど突き立てたナイフの傷も、体術で負わせた打撃の痕も、何一つ残っていない。
流れる血さえ止まれば、そこには傷ひとつない「新品の肉体」が再生されていた。
那由多は三月を助け出そうと、男に飛びつき能力を使う
男の腕が四散するそばから、炸裂した肉片同士が瞬時に結合、癒着する
常軌を逸した男の再生能力、そして単純なフィジカルの差
能力が発現した能力者の10倍と男は言った
名実共に、BLITZ以上の化け物と対峙している
那由多
「……なかなかの面白い逸材だな、京介だったら喜んで飛びついて来るぜ…」
皮肉を込めた精一杯の嫌味
しかし嫌味何かではどうにも出来る状況では無かった
掴まれた三月は、先程から劇薬や毒物、薬物を男に浴びせ続けているが、毛ほども効いて居ない
みのりは疲弊した身体で、無理を承知で能力を使うが、切り口が鋭利過ぎて、技術の高さが仇となっている
何とか男の身体を裂こうと、様々に攻撃するが、刃物のようにしてもダメ、頭を狙って水の刃を放っても、何事も無いように元に戻る、何をしても男は倒れ無いどころか、膝すらつかない
みのり
「……超速再生だけじゃ無いですね!、もしかして、あなた何か薬を打ってますね?!」
みのりは今の男の容貌に見覚えがあった
正確には、直接見覚えがある訳ではなく、BLITZの過去の報告書で見た事があった
沙耶麻総班長、西島総隊長、三条総副隊長が遭遇した、スカーレットスコルピオの一人、スロースが研究、実験していた人造能力者の薬
夜千与総隊長秘書、が誘拐された時の記事を見ていた
その時、投薬された被験者の状態と、今目の前にいる男の外見が、非常に酷似している
みのり
「……スロースと言う名前に心当たりがありますね?」
その問いに男が嘲笑しながら、感心したように答える
男
「ハハッ、お前みたいな若い奴がその名前を知ってるとは、随分勉強熱心だな」
「まぁ、元々はマモンとかいう半端野郎が残した研究だがな」
こんな所でその名前を聞くとは思わなかった
……マモン……
前総隊長、前総班長を亡き者にし、この世の厄災を生み出すきっかけとなった元凶
那由多はその名前を聞いて、歯を砕けんばかりに食いしばり、男を睨み付ける
みのりはそのまま男に問いかける
みのり
「……貴方は、一体何者ですか!」
余裕の笑みを浮かべ、掴みあげていた三月を放り投げ、首を鳴らしながら気だるそうにその質問に答える
男
「俺の名前をまだ言ってなかったか?、スカーレットスコルピオのラースと呼ばれてる」
「なかなか洒落てるだろ?七つの大罪になぞらえた名前をつけるまでは良いけどよ、サタンなんて安直な悪魔の名前は嫌だったんでな」
ラースは、今までの攻撃が何も無かったように綺麗な身体のまま、余裕な表情で饒舌に答える。
那由多
「……お前が……、お前達が、総隊長を殺したのかぁあああ!!」
いつもは軽口を言って場を和ませる役を担っている那由多が、珍しく感情を表に出し、本能のままラースに飛びかかる。
みのり
「ダメです!……、那由多さん!!」
みのりの制止も聞かず、感情の赴くまま、ラースに攻撃を仕掛ける。 その感情に呼応するように、動愚が那由多の身体を侵食する。
那由多
「……砕け散れ!」
那由多の怒りに呼応した動愚は、その能力を数十倍に引き上げる。
ラースはそれを防ぎもせず、その身に受ける。
一瞬炸裂する予兆が見えるが、超速再生が那由多の能力を上回る。
第一部隊の小隊長の攻撃を、易々と受け流すラース。 何事も無かったように佇む。
三月
「……あの大きさの虫を仕留められた能力を、生身で受けて生きてるなんて……」
ラース
「終わりか?」
そのわかりやすい挑発と、仲間の声が聞こえていない那由多。
動愚に侵食され、その負荷に耐えられない肉体。その弊害はすぐに現れる。
目から血を流し、身体中が動愚に侵食され、常に鮮血が吹き出し、獣のような雄叫びをあげ、狂ったようにラースに攻撃を繰り返す。
頭や顔を血だらけにして、効いていない攻撃を繰り返す那由多。
ラース
「……そろそろ飽きた。ちょっと動くな」
そう言うと、ラースは那由多の頭を無造作に掴み、逃げ場のない地面へと叩き付けた。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃波が荒野を震わせる。 メキメキと骨の軋む音が周囲に響き渡り、その瞬間、那由多の咆哮は嘘のように途絶え、沈黙した。
みのり
「那由多さん……!!」
那由多の指先がピクリとも動かない。 人類の存亡を背負い、幾多の死線を潜り抜けてきたBLITZの小隊長が、こうも易々と、ゴミのように無力化される。
目の前の男は、一体どれほどの強さを隠し持っているのか。
BLITZの隊員は決して脆弱ではない。絶望の中で刃を研ぎ、常に最前線に立ち続けてきた精鋭だ。 その精鋭を、赤子を捻るように凌駕するこの男は、本気で、そして確実にBLITZという組織そのものを根絶やしにしようとしている。
ラースは気だるそうに頭を掻きながら、三月とみのりの方を向く
三月に近寄り、その細い首を掴みあげる
抵抗するが、文字通り無駄な抵抗に過ぎない
みのりはそれを阻止しようと、必死に能力を使おうとするが、動揺が大きいのか、上手くラースを狙えない
みのり
「……三月さん!」
最後の手段と言わんばかりに、肉弾戦でラースに挑む、飛びかかり、頭を殴りつけるが、まるで効いていない
能力者になれば、常人には到底勝ち目の無い身体能力が目覚める
医療班と言えど、それも例外では無い
しかし、その力を持ってしても、この男を怯ませる事すら出来ない
掴まれた三月、無力化された那由多、何も出来ないみのり
ラース
「隊長格が三人いても、俺には勝てないか?拍子抜けだな、こんなもんに手こずってるなんてな」
ラースが呆れたような表情のまま、三人に対しての落胆の言葉をかける
みのりは歯を食いしばり、悔しさに震えた
何が医療班か、何が隊員を無事に帰還させるだ、そんな自問自答を繰り返しながら、為す術無く対峙している自分を呪った
ラース
「……もう良いか?」
三月の喉仏が、ラースの指の圧力で悲鳴を上げる。
トドメを刺そうと力を込めた、その瞬間。
――閃光。
音もなく飛来した極細の光の筋が、ラースの右腕を肘の先から鮮やかに両断した。
ラース
「……うん?」
あまりにも一瞬の出来事に、ラースの脳が痛覚を認識するよりも早く、切断された腕が三月と共に地面へと落下する。
ラースは自分の欠損した右腕の断面を、不思議なものを見るように見つめた。 超速再生が発動しない。
いつもなら、切り離された瞬間に肉芽が奔流となって噴き出し、一秒と経たずに腕が接合するはずだ。
だが、断面はまるで熱で焼き切られたかのように沈黙し、不気味なほど静かだった。
ラースは落ちていた自分の腕を拾い上げ、無理やり傷口に押し当てた。 接合面が癒着し、ようやく元通りにくっ付く。
自身の指先を何度も動かし、その感触を確かめながら、ラースは眉根を寄せて首を傾げた。
ラース
「……どういう事だ?……」
視線の先。
砂塵が舞う荒野の向こう側に、一人の人影が立っていた。
ラースは接合したばかりの右手を数回握り込み、顔に残る血を拭うこともせず、光の飛来した方向を睨みつけた。
ラース
「…てめぇ…やりやがったな…」
視線の先、砂塵の向こう側に立つ男、ライオット。
かつてみのりや幻十郎を弄び、「BLITZを殺す気はない」と告げて消えた謎多き能力者。
みのりはその姿を視認した瞬間、心臓が跳ね上がるのを感じ、焦りと共に先程と同じ熱量の怒りをぶつけた
みのり
「……また来ましたね! よりによってこの状況で!」
三大組織のうちの二つ――
スカーレットスコルピオとエメラルドドラゴンの幹部が目の前に揃い踏みしている。
彼らが手を組めば、満身創痍の自分たちが消されるのは火を見るより明らかだった。
しかし、ライオットの瞳には、みのりたちの姿など映っていないようだった。
彼は退屈そうに首を振り、ラースだけを見据えて言葉を吐き捨てる。
ライオット
「……雑魚が。やっと見つけた。探したよ、めんどくさいからあんまり逃げないで欲しいな……」
ラース
「言ってくれるじゃねぇか……、誰が雑魚だって?」
ラースの額に、青筋が浮かぶ。 「憤怒」の男に対して、ライオットはまるで路上の石ころでも見るかのような、徹底した蔑みの眼差しを向けていた。
ライオットがラースに向かい更に続ける、気だるそうだか、確かな殺意を込めた言葉
ライオット
「……うちの組織の奴に手を出しておいて、そのままトンズラとは感心しないな、しっかり責任を取ってもらわないと…」
ラース
「なんの事だ?いちいち覚えちゃいねぇんでな、説明してくれるか?」
相変わらず人を食った態度のラースに、ライオットは冷静に答える
ライオット
「……その、煩わしい薬の実験に組織の何人かが付き合わされた、そいつらは全員死んだよ、実験が原因でね」
「亡骸は人の形を保って無かった、それと、さっき最後まで行方不明の奴の亡骸も見つけた、肋(あばら)が外に開いてたよ……」
そこまで聞いて思い当たる節があったのか、ラースは笑いながら口を開いた
ラース
「あぁ、思い出した、それこそ雑魚だったな、でもまぁ、虫の宿主にも使えたし、おかげで薬もほぼ完成出来たからな、感謝するぜ」
ライオット
「そう言うと思ったよ……、もう良い、欠片も残らないほど、すり潰してやる」
ライオットがそう答えると、遥か上空からラースに向かって光の雨が降り注ぐ
ラースはいつものように無抵抗でそれを受けようとした。
だが、光が肉を貫いた瞬間、彼は目を見開く。 先ほどと同じだ。傷口が塞がらない。
肉が「再生」を拒絶し、貫かれた穴から命が零れ落ちていく。
ラース
「…なんだこりゃあ!!」
初めて見せる剥き出しの焦燥。
ラースは、降り注ぐ断罪の光から逃れるように、地面を蹴って勢いよくその場から飛び退いた。
呆気にとられた様子でそれを見ていたみのり、那由多と三月を治療しながら、思わず手を止めてしまう程に
隙をついて何時でも離脱できるように、二人を治療していた
辛うじて意識が残っていた三月も、その光景を目だけで追っていた
三月は目を見開き、驚愕する
ライオット
「……君の身体はただの超速再生なだけで、体組織が変異した訳じゃ無い……」
「わかりやすい言い方をしようか?、傷口を焼き切れば、再生より早く破壊出来る」
言葉を続けながら光の雨が絶えず降り注ぐ
ラースは躱しようがないその攻撃に、逃げながら反撃の機を伺っていた
みのりはライオットの能力を注視する。
熱? 焼き切ると確かに言ったが、ただの光にしては貫通力と破壊力が異常だ
みのり
「……金属性?……電気?」
光の性質を考えていたみのりが思わず口を開いた
その言葉が耳に入ったライオットが、みのりに向き直り、丁寧に答える
ライオット
「良くわかったね……、サービスだよ、俺の能力は金属性、電気だ……もっと分かりやすく言えば、そうだね……理屈はレールガンかな?」
みのり
「私たちを襲った時、幻十郎さんは致命傷を負ってません!、レールガンだとしたら、アレで済むわけは無いでしょう!、それに鏡に反射してたじゃないですか!」
自分たちが襲われた時のことを、やはり根に持っていたみのりが、逃さじとライオットを問い詰めた。
その問いに、ライオットは心底めんどくさそうに、疲弊した顔で応える。
ライオット
「……だから君は苦手なんだ……、それに、殺す気は無いと言ったろうに……弾丸を使っていたら、鏡に反射しないだろう……」
決して頭の悪くないみのりは、その言葉の意図を察して「あ……」と言葉を漏らした。
レールガンの本質は、電磁気による「実体弾」の射出。
しかし、あの時のライオットが放ったのは、鏡に反射する性質を持った「光」そのもの――つまり、殺傷力を極限まで削ぎ、反射を前提とした非致死性の照射だったのだ。
ライオットにとって、BLITZの命を奪うことは「できない」のではなく、最初から「選んでいない」のだ。
鏡を使って弾道を制御するような、あの繊細なまでの出力調整。
もしあの時、彼が「弾丸」となる金属を込めていたなら?
自分たちは今頃、二階級特進で墓の下にいただろう。
背筋が凍るような事実に、みのりは言葉を失った。
そんな二人に向かって、存在を置いてけぼりにされたラースが、青筋を浮かび上がらせ、怒り心頭で怒鳴りつける
ラース
「戦闘中におしゃべりとは随分余裕じゃねぇか!」
ライオット
「……すまない、今すぐ消し飛ばしてやる……」
そう言いながら、ライオットは、懐からパチンコ玉より小さいベアリングの玉を、空中にばらまいた
ばらまいたそばから、それらが消え去る
いや、消え去った訳では無く、光速を超える弾丸として、ラースに撃ち込まれていた
ライオット
「君は光の速さですり潰された事はあるかい?……」
土煙が舞う中から、防ぎ切れなかったラースが姿を表す
その目には純粋な殺意を宿し、ライオットを睨み付ける
ラース
「……てめぇ、図に乗りやがって…、その薄ら笑いをできなくしてやる!」
その怒りを露わにしながら、ポケットから注射銃を取り出す
それを首筋に打ち込み、注射銃を無造作に投げ捨てる
ラース
「この薬は完成系だぁ! 俺の能力を極限まで増幅する! お前のチンケな能力じゃあ、俺を殺し切れねぇぜ!」
筋肉が膨れ上がり、皮膚を突き破って「龍」の如き硬質な鱗が全身を覆う。
おどろおどろしい風貌、理性を捨てた凶暴性。
それはもはや殺意の塊であった。
だが、ライオットは眉ひとつ動かさず、冷淡な一言を放つ。
ライオット
「……見世物小屋なら、人気が出るかもね」
ブチンッ!!
脳内で何かが切れる音がした。
完全に頭に血が上ったラースは、咆哮と共にライオットへ肉薄する。
地面を蹴る一歩がソニックブームを巻き起こし、大気を切り裂く衝撃波が周囲を襲う。
能力者の中でも上位とされる「金属性」の機動力を、薬物で無理やり引き上げたラースの爆発力が凌駕していく。
ライオットは正面から来るラースに対し、無感情に光の弾丸を連射した。
だが、ラースはその巨躯からは想像もつかない軌道で全弾を躱し切り、ライオットの懐へと潜り込む。
そのまま速度を威力へと転換し、全力の拳を叩きつけた。
決まった。
ラースが勝利を確信して歪な笑みを浮かべた瞬間、背後から無数の光弾が彼を襲う。
誰の目にも直撃したと映ったが、ラースの「龍鱗」は無傷のまま。
振り向きざまにさらなる連撃を繰り出すラースだったが、ライオットはそのすべてを、まるで最初からそこにいなかったかのような速度で躱し続けていた。
ラース
「チョロチョロと逃げ回りやがって! 大人しく殴られりゃ、すぐに終わらせてやるからよ!」
吠えるラースに対し、ライオットは溜息混じりに呟いた。
ライオット
「……埒が明かない。硬すぎるな。仕方ない……あまり威力があるから避けたかったんだけど」
彼はそう言いながら、自身のベルトやポケットから金属のパーツを取り出し、手際よく組み立て始めた。
組み上がったそれは、アサルトライフルのようなシルエット。
だが、銃器にしてはあまりに異質だ。全体が軽量なアルミ合金のような光沢を放ち、マガジンがあるべき場所には不格好な長方形の箱。
そして、時代錯誤なシングルアクションのコッキングレバー。
ライオット
「……説明しても理解できないだろう。これが――レールガンだよ」
銃身がバチバチと激しい放電を開始し、ライオットは無造作に狙いを定める。
ラース
「おもしれぇ……そんな玩具で、傷がつくとでも――」
ラースの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
彼の左肩から先が、文字通り「消失」したからだ。
脳が欠損を認識するよりも早く。
着弾から遅れて、空気を引き裂く爆音と突風が戦場を蹂躙した。
「……なっ!」
痛みより、消し飛んだ事もだが、何より腕が再生していない
ライオット
「……フゥ……、風で振られた……」
そう言いながらコッキングレバーを引いた
ガジョン、と言う音と共に弾かれたのは、薬莢では無く、何か板状の塊
ラース
「てめぇ……何しやがった!」
ライオット
「……だから説明しても無駄だっただろう?……再生能力を上回る熱で焼いただけだよ……」
ライオットがそう応えている間に、ようやく再生能力が発動した
時間を持て余したライオットが、みのりや三月達に視線を向ける余裕すらあった
ラース
「……そんなもんに、俺の再生能力が劣るってのか!、有り得ねぇ、あってたまるかぁ!」
そう吼えながら、ライオットに向かって飛びかかる
先程より強靭な肉体に変貌したが、遥かに遅く、ライオットがあくびをする程度には余裕があった
再びライフルを構え、自ら放電をする
「……今度は善人に生まれなよ……」
至近距離から、先程より遥かに高い威力でレールガンを撃ち込む
ラースの身体は霧散し、初めから何も無かったように、跡形も無く消え去った
「……無駄足だったかな……、アレなら僕で無くても良かった……」