ANGEL WALTZ   作:とくめい

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case10 【蝉と蟷螂(セミとカマキリ)】

 

ガジョン……

 

コッキングレバーを引き、何かを排莢?し、熱くなったレールガンを抱え、みのり達の方に視線を向ける

身体をひねり、ゆっくりとBLITZの三人の方へと歩き出す

 

先程の戦闘で、手も足も出なかった相手を、いとも簡単に撃破したライオット

それがみのり達の所へ近づいて来るのを、警戒しながら身構える

 

みのり

「……この人達には、指一本触れさせないです!」

 

そう意気込むみのりに、ライオットはまたもや疲弊しながら答える

 

ライオット

「……だから殺す気は無いと言っている……」

 

みのり

「……なら、なんなんですか!」

 

その質問には答えず、那由多、三月を見回す

辛うじて動けるようにまでなっていた三月は、ライオットをまじまじと見つめ、口を開く

 

三月

「……スバル……」

 

そう言いながら手を差し伸べる三月、しかしライオットはその手を取ることはしなかった

這いつくばりながら、辛うじて手を出す三月をみのりが支え、その言葉の意味を考えていた

 

ライオットが跪き、三月に向かって言葉をかける

 

ライオット

「……姉ちゃん……」

 

まさかの発言、みのりは三月を落としそうになるほどに動揺した

 

みのり

「!!姉ちゃん?!」

「三月さんがスバルって……ご姉弟!???」

 

みのりが驚くのを尻目に、三月が続ける

 

三月

「……どこ行ってたのよ……、逢えたと思ったら、こんな所に……」

 

懐かしそうな声だが、何故か悔しそうな声にも聞こえる

 

ライオット

「……ごめん……」

 

先程とは違い、しおらしい表情と態度で、三月と接するライオットに、みのりは口を挟めなかった

 

三月

「……能力者になったのだって、エメラルドドラゴンになったのだって……知らなかったよ……」

 

スバル

「……ごめん……」

 

三月

「……ずっと心配してた。……会いたかった。生きてて、よかった……」

 

ライオット――スバルは何も答えず、首元から星型のネックレスを取り出した。

何かを確認するように、三月の胸元にあるものと対になる、記憶の破片。

彼はそれに触れた後、服の下にしまう

 

スバル

「……いつか、また会えるよ」

 

彼は立ち上がると、一束の資料を三月の前にそっと置き、背を向けた。 慌ててみのりが声をかける。

 

みのり

「ど、どういうことですか! どこに行くんですか!、えと、ライ…スバルさん!」

 

咄嗟のことで、自分でも何を言っているのか分からない。

だが、このまま行かせてはいけないという直感が、みのりに声を上げさせた。 ライオットは歩みを止め、振り返らずに答える。

 

ライオット

「……その資料は本部に送るといい。それと――」

 

彼はそこで言葉を切り、火星の赤い地平線を一瞬だけ見つめた。

 

ライオット

「……また、どこかで会えるさ……」

 

直後、彼の姿はキラキラと輝くダイヤモンドダストのような軌跡を残し、大気に溶けるように消え去った。 後に残されたのは、静まり返った荒野と、呆然とする三人のBLITZ。

 

 

火星の大気発生装置の外壁補修、及び害虫駆除の任務が、スカーレットスコルピオと、エメラルドドラゴンの介入により、嵐のように過ぎ去った

 

当然、補修と修理は、現在の状態(小隊長、副隊長、副班長の負傷)では続行不可能と判断され、代わりの部隊が急遽入れ替わりに送られる事となった

 

第一部隊と第五班の医療班は、当面の間、出撃自粛(と言う名の休養期間)となった

 

任務中の、弥生三月の命令違反は、補修任務の責任者、袈裟那由多によって、無かった事にされた

 

エメラルドドラゴンから手渡された紙の束は、スカーレットスコルピオの実験の首謀者、携わった人物、薬の効果、他に数箇所の拠点、幹部の情報、過去に起きた事件や事故等に因果関係のある人物が記されていた

 

驚くべきは、全て手書きで、調べあげるまでには途方もない労力を要したと認識できる程だった事

 

本部に向かって、隊長格のみ先に緊急搬送され、隊員達は後からゆっくり入れ替わり後に帰還となった

 

その帰路の中、幻十郎はみのりや三月、那由多の話を聞き、愚痴をこぼす

 

幻十郎

「ワシもそっちが良かったのぅ……」

 

みのり

「仕事増やさないでください!」

 

その掛け合いを遮るように、医療班第一班班長、藺草千恵が、穏やかではあるが逃げ場のない言葉をかける。

地球からの緊急搬送には、彼女たち第一班が招集されていた。

 

藺草千恵

「まぁまぁ、幻十郎さん?寝言にしては随分ハッキリ仰いますねぇ、それとお元気なのは構いませんが、今はあなたも患者ですからね?みのりさん?」

 

藺草の優しいが、どこか逃げ場を塞ぐような威圧感。

百戦錬磨の幻十郎が苦笑いし、血気盛んなみのりが思わず口を噤む。

第一班班長の貫禄は伊達ではない。

 

那由多

「まさかここまで勝ち目が薄いと、自分の実力を疑いたくなる……」

 

三月

「たまたまですよ……、万全なら勝ち目はあったでしょうし……」

 

那由多の強い責任感が、自責の念となって彼を苛んでいる。

三月はそれを「たまたま」という言葉で包み込み、静かに慰めた。

 

藺草千恵

「そんなにご自分を責めなくても大丈夫ですよ……、そもそも弱かったら、第一部隊にはなれてませんから」

 

軽い調子の那由多が、ここまで自分を責めるのは珍しかったのか、藺草は那由多の実績を認めつつ、視線を三月へと移した。

その瞳に、厳格な医療班としての光が宿る。

 

藺草千恵

「弥生さんは、戻ったら検査が必要ですねぇ、みのりさんから聞きましたよ?、能力がオーバーシュートしかけたって」

 

三月は決まりの悪そうな顔をして視線を逸らした。

医療班が自身の能力で危険に晒されることは、本来なら守るべき隊員の命を危うくする失態。

三月はその重みを、誰よりも理解していた。

 

 

緊急搬送用の船に収容される前、みのりは三月に紙の束を渡すのと同時に、声をかけていた

 

みのり

「……これはかなり機密性の高い情報です、三月さんに渡しておきます」

 

ライオットが置いていった紙の束を、班長であるみのりでは無く、副班長の三月に手渡す

この行為が何を示すのか、みのりは理解しているのだろうか

 

みのり

「報告義務があるとは思います、ですがこれは三月さんの弟さんの伝言です、判断は三月さんに任せます」

「家庭の事情に首を突っ込める程、野暮ではありません、隠しても責めないし、報告するなら庇護します、大切なメッセージ、受け止めてあげて下さい……」

 

すぐに返事が出来なかった三月は、本部に到着するまで、ずっとその事を考えていた

 

 

 

BLITZ本部

医療棟 処置室

 

菜琉

「あらぁ、だいぶ酷くやられましたねぇw、幻十郎さんは、ん〜、絶対安静で2週間ですねぇ…」

 

菜琉が治療をしながら言葉をかける

 

先に搬送された隊長格は、医療班の総班長自ら治療をされた

 

幻十郎

「そんなにかかるのか!、もうちょっと、こう、何とかならんか?」

 

焦るように答える幻十郎に、菜琉が穏やかだが、確かに威圧的に答える

 

菜琉

「それなら総隊長とお話しましょうかぁ?、私が火星に向かわなかっただけでも、良いと思って下さいねぇ」

 

その言葉で、横で助手をしていた伽耶が吹き出す

 

確かに、幻十郎の目に関しては、菜琉が早急に治療をしていれば、その場で治ったであろう、しかし、盲目の状態で、あまつさえ動愚を使用し、心臓にまで負担をかけた事が致命的になった

 

本来であれば、2週間でも早いくらいである

 

総隊長との話と聞いて、幻十郎は萎縮する

 

幻十郎

「……アレは止めてくれ、分かったから……」

 

畳み掛けるように念を押す

 

菜琉

「2週間!絶対安静!ですからね!」

 

幻十郎

「わかった、わかったから、そんなに怒らんでくれ……」

 

伽耶が堪えきれずに吹き出してケラケラ笑う

 

みのりには、伽耶が軽く検査と治療を行ったが、能力の使い過ぎで、身体の疲労だけが顕著だった他は、特に異常が無かった

大事をとって3日程入院させられた

勿論、三月の生成した毒物を体内に摂取した事により、尋常では無い苦さの飲み薬を、3ヶ月程(日に3回)処方された

 

那由多は思いの外重体で、肋骨(ろっこつ)、頭部、の骨折、ヒビ、靭帯の裂傷、肉離れが主だった症状だが、ラースに気絶させられてなければ、血管が切れそうになっていたと言う

 

幻十郎より酷い、全治1ヶ月で治療ポットに入れられた

初めは抵抗していたが、藺草と菜琉、伽耶の三人に詰められ、しかもみのりと三月を戦闘部隊に配備した事を咎められれば、了承する他の選択肢は無かった

 

一方、三月は能力のオーバーシュートこそ起きたが、幸いにも外傷はそこまで酷くなかった。

首周りの打撲と、筋が数本切れていた程度。しかし、制御不能な出力に体が耐えきれず、オーバーロードを引き起こした代償は大きく、体内組織は多少なりともボロボロになりかけていた。

 

医療ポットに入れる程重症では無いので、通常の入院にされた

 

入院となった三月の病室には、静かな月光が差し込んでいる。

彼女は独り、みのりから託された資料をゆっくりとめくる。

 

資料にはスカーレットスコルピオの実験首謀者、薬の効果、虫の製造方法、拠点の情報、そして過去の事件との因果関係……その一つひとつが丁寧に記されていた。

所々に汚れや血が滲んでいる。スバルがどんな思いでこれを調べ、どんな気持ちで筆を走らせたのか。

自責と覚悟が、詳細で分かりやすいまとめ方に滲み出ていた。

 

――まるで、自分が読みやすいように。

 

資料には、かつて二人の父親を惨殺した者の正体まで記されていた。

自らこれを調べるのは、ガラスを飲み込むほどに辛い作業であったことは想像に難くない。

一枚一枚、丁寧にページをめくっていく。膨大な量の手書き資料を、三月は一語一句受け止めるように読み進めた。

 

空が白み始めた頃、ようやく終わりが見えてきた。

最後の数ページは資料ではなく、日記やメッセージのように綴られていた。

 

自分自身のこと。

エメラルドドラゴンに所属した経緯と謝罪。 そして、どれほど時が経っても、今も姉を思っていること。

 

血で薄汚れたページの最後に、こう記されていた。

 

[俺がいなくなっても、姉ちゃんが生きられますように]

 

その一言を見た瞬間、ページに涙がポタポタと滴り落ちた。

父親が死んでから経済的理由で離れ離れになり、復讐を優先させて弟のことまで後回しにしてしまった自分。

そんな自分を、あの子はずっと、あの子なりに支えようとしてくれていた。

 

「……バカなお姉ちゃんで、ごめんね……」

 

悔しさと嬉しさ、そして情けなさが混ざり合い、整理のつかない感情のまま、三月は静かに涙を流した。

形は違えど、スバルはずっと寄り添っていてくれたのだ。

 

夜が明け切るまで、三月のすすり泣きが止まることはなかった。

 

 

 

数日後

医療班 医療棟

 

火星の任務の後、比較的早く退院したみのり

だが職場復帰は総班長に咎められた

要はゆっくり休めと言う事である

 

さしものみのりも、総班長にダメと言われれば、口答えすら出来ない

 

それならばと、入院中の三月のお見舞いがてら、様子を見に行こうと病室に足を運んだ

 

開いた扉から、三月が見える

窓から吹き込んた風に、三月の髪がたなびいている

 

 

みのり

「三月さん」

 

みのりの声に振り向く三月、笑みをこぼして歓迎する

 

三月

「いらっしゃいw」

 

お見舞いのシュークリームを、一緒に食べようと誘い、飲み物を抜かりなく用意していたみのりに、三月が声をかける

 

三月

「みのりさんが一番早く退院出来たんですよね?いかがですか?」

 

みのり

「……退院はできましたけど、職場復帰はダメと言われました、元気なんですけどね」

 

その答えに三月は当然と言わんばかりに笑いながら言う

 

三月

「アハハ、それはダメって言われますよ、私が意図せず作った毒物を口にしたんですから」

 

みのり

「むぅ、身体はなんとも無いんですよ!」

 

三月

「私も心配なんです、効果が読めないから、後遺症が出ても嫌なので、少しゆっくり療養して頂けませんか?」

 

みのり

「三月さんも、菜琉さんも、心配し過ぎです、それに貰った薬、苦すぎるんです」

 

膨れながら不満を露わにするが、これ以上心配をかけたく無いみのりは、それ以上は言わなかった

 

三月はそんなみのりに、言葉をかける

 

三月

「あの、この間の資料なんですけど……」

 

ちょっと気になっていたみのりは、三月の話を興味津々で聞く

 

三月

「……総班長にお渡ししようかと思って……」

 

みのりはその答えに、驚きもせずに言う

 

みのり

「大丈夫ですか?、本当に」

 

三月

「はい、弟の想いを、しっかり受け止めましたから」

 

みのり

「わかりました、所で、ライオット?スバルさんの事、お伺いしてもよろしいですか?」

 

おそらくそれが一番気になっていたであろう事を、みのりが聞いた、三月は快く答えてくれた

 

三月

「……あの子は、弥生 昴、私の2つ下の弟です、ちょっと家庭の事情で、離れ離れになってしまっていて、消息が分からなくなってしまっていたんです」

 

みのりは三月の言葉を、逃さないように聞き耳を立てた

 

三月

「とっても甘えん坊で、お姉ちゃん子だったんですよ?……それがいつの間にか能力者になってたみたいで、しかもエメラルドドラゴンなんて入ってて……」

「もし、もしそれがBLITZでダメな事だったら、除隊します……」

 

お姉ちゃん子で甘えん坊……

遭遇したライオットからはとても想像出来ない話を耳にした

だが除隊する、と言う言葉を聞いて、みのりが三月の手を取る

 

みのり

「まぁ少し小言くらいは貰うでしょうが、除隊勧告や軍法会議なんかは無いでしょうね!、総隊長の一存でだいたい決まりますし、何よりうちの総班長はそんな事で除隊させないですから」

 

BLITZの隊員の家族が、三大組織の一員、本来ならスパイや裏切りを警戒するもの

それをアッケラカンと無いと言い切るこの隊風、良くも悪くも、自由過ぎる

 

しかし、その自由さが、隊員の心を守り続けているのも事実

 

みのり

「まぁその話は後にして、とりあえずシュークリーム食べましょう、ちょっと多いけど、食べれますか?」

 

そういいながら開けた箱の中には、色とりどりのシュークリームがこれでもかと言わんばかりに詰まっていた

 

それを三月が覗き込むと

 

三月

「イケます」

 

迷いのない、嬉しそうな返事。

 

――ほんの一時の、穏やかな時間。

過酷な戦場に身を置く「能力者」たちに、こんな当たり前の時間を作ってやることこそが、総隊長の本懐なのだろうか。

窓から差し込む柔らかな光の中で、二人の小さな笑い声が静かに響いていた。

 

 

 

それから更に数日後、未だ療養期間を終えない三月が、総班長に資料を渡し、そこから総隊長が話をしようと提案した

さすがに病室から出す訳にはいかず、三月の病室での面談となった

 

西島京介、三条秋浩、沙耶麻菜琉、三島みのり、そしてなぜか当たり前のように座ってお菓子を頬張る、第四部隊副隊長の八神香奈恵

 

特別攻撃隊の総隊長と副隊長、医療班の総班長が、一同に病室にいる

何か悪い事をした訳では無いのに、無駄に緊張する

 

その疑問に真っ先に総副隊長の秋浩が口を開く

 

秋浩

「……なんで香奈恵がここにいる……」

 

京介

「いや、何故か着いてきたw」

 

秋浩は頭を抱えてため息をつくが、菜琉がそれを慰める

 

菜琉

「ほ、ほら、大人しくしてるし、大丈夫だよ」

 

秋浩

「いや、もう良いんだけどさ……まぁ、うん……」

 

菜琉が秋浩の背中をさすり、どう言葉をかけていいのか分からないのが手に取るようにわかる

不思議な光景

厳格だと思っていた、攻撃隊の幹部と、医療班の戸惑う姿

(自由ですねぇ……)

 

三月は勿論、みのりも戸惑っている

 

その状態に真っ先に口を開く京介

資料に予め目を通し、貴重な情報だと言う事や、欲しかった答えが記されている事を伝える

 

京介

「ここまで調べて貰えたのは、本当に有益な事で、作戦にも関わるから、ありがたいよw」

 

秋浩

「確かに内容は、こっちも欲しかったもんがチラホラある、それに、過去の事件の再調査も特殊部隊にさせられたし、助かったよ」

 

特別攻撃隊の総隊長と総副隊長から、一応は褒められた

しかし、問題はその後、情報源の事

 

三月

「ありがとうございます……それでなんですが、あの……」

 

三月が口を開き、言いかけたのを遮り、京介が問う

 

京介

「ある程度は聞いてるよ、弟がエメラルドドラゴンだって、その弟に今回の資料を貰ったってのもねw」

 

それを聞いて三月は口を閉ざす

どんな処罰を受けるのだろう、覚悟はしている、甘んじて受けようと

そんな覚悟をしていた三月の耳に入ってきた言葉は、おおよそ信じられない言葉だった

 

京介がみのりに向かって問いかける

 

京介

「ねぇねぇみのりんw三月ちゃんって、裏切るの?w」

 

みのりは理解出来ない質問を受けたが、その言葉だけの意味では、答えが決まっていた

 

みのり

「(みのりん……)ありえないです!三月さんが裏切る事なんて、絶対に!有り得ません!」

 

その必死な訴えを、まっすぐ見つめ、振り返り秋浩に言う

 

京介

「だってよwなら良いんじゃねぇの?w」

 

秋浩はまたもや顔を覆って天を仰ぐ

 

秋浩

「いや、他にあるだろうよ……」

 

隣の菜琉は苦笑いである

それでも総班長の言葉を伝えようと、口を開く

 

菜琉

「弟がエメラルドドラゴンだからと言って、弥生さんが裏切り者やスパイって言うのは流石に早計すぎないかな?」

 

菜琉の言葉に秋浩が答える

 

秋浩

「だからそこじゃねぇよ……、そもそもそんな心配してねぇって……総隊長の威厳も何も無いのか!、ったく」

 

京介

「あっwそっち?w、でもまぁ、そもそも信用出来ねぇなら、ハナからBLITZなんてやってねぇわなw」

 

総隊長と総副隊長の不思議なやり取り

自分を咎めるのでは無く、総隊長の話し方を咎める総副隊長

そもそも前提がおかしい、いくら副隊長とは言え、医療班の小隊の班員を、無条件で信用しているように聞こえる

 

京介

「命預けてる部隊を疑っちゃ、戦場で背中なんか任せられねぇわなw、それに、人から即答でありえない、なんて言われるやつが、裏切る訳ねぇよw」

 

秋浩

「それこそ人質取られてるとかで裏切ったらどうすんだよ……、あと共謀して庇ってたりとか……」

 

京介

「そん時はそん時だろ?それ言い始めたらキリねぇよ、隊員信用するのが、俺たち隊長格の仕事だろw」

 

その答えに、やはりと言わん顔をする秋浩

香奈恵に小銭を渡し、飲み物を買ってきて欲しいと伝える

一息つきたいようだ

香奈恵は元気よく走り出し、飲み物を買いに行った

 

三月がまとまらない頭で、京介に質問する

 

三月

「あの……、それでは今日は……」

 

京介

「うん?、いや、心配そうだったからわざと話に来たのよw最初から何もさせる気無かったしw」

 

みのりも更に聞く

 

みのり

「それじゃあ、あの、お咎め無し、ですか?」

 

京介

「お咎めも何も、だから最初から何もする気無いってwそっちの心配事の解消に来ただけよw」

 

安堵する二人、菜琉はやっぱりと言わん顔で微笑んでいる

そこへ香奈恵が帰ってくる、皆に飲み物を渡し、再び椅子に座りお菓子を頬張る

 

京介が香奈恵の頭を撫でながら、ありがとう、と言葉をかける、香奈恵は喜んではにかんでいる

 

一体何を見せられているんだろう

 

 

 

三月の心にそんな素朴な疑問が浮かんだ。口に出すべきか悩んでいると、京介がまた、穏やかに口を開く。

 

京介

「しばらく行方知らずだった弟くんが、能力者になって……立派にお姉ちゃんを助けるために頑張ったんだろう? それ以上は家庭の事情だ。BLITZとしては、あんまり首を突っ込めないからなぁ」

 

その言葉を継ぐように、菜琉も優しく微笑みながら三月に語りかける

 

菜琉

「それに、能力が発現したのも、エメラルドドラゴンに入ったのも、弥生さんの知らない所で起きた事でしょう?、一切の繋がりのない状況で、いつの間にか起きていた事に、私たちもそこまで言及出来ないから」

 

二人の言葉は、三月が心のどこかで自分を責めていた「知らないうちに弟が敵になっていた」という負い目を、拭い去ってくれた

 

秋浩は呆れたように香奈恵を見ながら、言葉を続ける

 

秋浩

「まぁ、要は医療班の班員を何とかする気は無いし、仮に何かするにしても総班長が決める事だから、攻撃隊としては何もしないよ、ひとまずゆっくり休む事だ」

 

ライオットからの情報提供の件、家族が敵対組織に所属している責任に関しては、無かったものとされた

 

直接的にちょっかいはかけられたが、それよりも隊員を救った方に重きを置いた

 

三月

「……あの、総隊長……」

 

思い詰めた表情で三月が口を開く

うん?と三月の方を向いた京介に向かって、言いづらそうに言葉を続ける

 

三月

「……総隊長は、またライオットが敵として現れたら……、殺しますか……」

 

その質問に病室の中が張り詰める

 

BLITZに敵対する組織の人間、たしかに気になる事だが、聞かずにはいられなかった

 

京介

「……殺して欲しい?」

 

まさかの返答に、総班長の菜琉も息をのむ

 

俯き、戸惑いながら三月が答える

 

三月

「……言って良いか分からないです……」

 

京介

「構わんよw三月ちゃんの気持ちが知りたいねぇw」

 

秋浩もその答えを黙って聞く、勿論みのりもそれを固唾を飲んで待つ

 

三月

「……、姉として…家族として、弟には生きて欲しい…です……」

 

そうであって欲しかった答えが聞こえた事に、一同が胸を撫で下ろす

京介を除いては

 

京介

「……それが仲間や、みのりんを殺したりしても同じ気持ち?」

 

ドキッ、とした質問に、みのりも息を飲む

少し考えるような面持ちで、三月が答える

 

三月

「……考えたくないです…、けど、そうなったら、私が……私が、その時にケリをつけます……」

 

深刻な表情で、思い詰めた様子で答えた、誰しもそれは思う事、身内であれば、戦場に身を置く者として、1度は最悪を想定してしまう

 

震える声。

だがそこには、逃げない覚悟があった。 その瞬間、京介は唐突に手を叩いて笑い声をあげる

 

京介

「アッハッハッハッハッ!悪い悪いw、趣味の悪い質問だったなw悪かった、すまないw」

「まぁ、質問の答えだけど、俺は殺す程弱くないから、何か起きても捕縛できるよ、それと、誰かが死ぬ前に応援さえ呼んでくれれば、その最悪も回避出来るさw心配しなくても、ちゃんと連絡さえ取れれば、三月ちゃんの考える事は、100パーセント回避出来るよw」

 

甘い考えかもしれない、組織として、部隊としては、決して許されない言動

しかし、この男はそれをゴリ押してでも通して来た

 

それが、BLITZの生存率が高い理由

総隊長自らの単独行動と命令無視

 

暗黙の了解として、弟を殺さない――。

京介からその言葉を引き出したことで、三月の心にこびりついていた不安の澱(おり)は、ようやく晴れていった。

どんな形であれ、弟に生きていてほしい。家族を想う、あまりにも当たり前で切実な願いが、ここでは許されたのだ。

 

いつの間にか、三月のベッドの傍らに香奈恵が歩み寄っていた。 彼女は自分の顔ほどもある巨大なクッキーを三月に差し出し、無邪気に告げる。

 

香奈恵

「ハイw、お菓子食べると幸せになるよw」

 

戸惑いながら受け取り、お礼を言う

 

三月

「……あ、ありがとう?……」

 

香奈恵ができる気遣いに、京介も頭を撫でながら褒める

気を良くしたのか、香奈恵は病室にいる全員にクッキーを配り始める。

 

菜琉は快く受け取り、みのりも驚きながら受け取った。(デッカい……)

 

一人、クッキーを手に持たされた秋浩だけが、目頭を押さえて深いため息をつく。

 

秋浩

「……ありがとう……、いや良いんだけどよ……もうちょっと、こう……なんか……」

 

その姿を、クッキーをかじりながら笑って京介が見ていた

 

 

 

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます
拙い文章を読んで頂き、皆さんの心に少しでも何かが芽生えれば良いなと思います

サブタイトルの【蝉と蟷螂】ですが、これは、日本昔ばなしから取りました

昔、力自慢の夫婦がいて、村では誰も力比べに勝てる事が出来なく、周りの村にもその夫婦に勝てません
ひょんなことから神様が老人に化けて、その夫婦に勝負を持ちかけます
「ワシを動かしたら勝ちで良い」

そう夫婦に言うと、夫婦はあらゆる手段を用いますが、ピクリとも老人を動かせず、何故だと降参した所、老人は正体を現しました、力に自惚れて、本来見えるものを見失ってしまうのはいけない事だと夫婦に問います

しかしながら、今まで見た事が無い力持ちなので、夫婦に願いを叶えてあげよう、そう神様は提案しますが、夫婦は自分達が自惚れ、過信していた事を恥て、夫は蝉になりたい、妻は夫と一緒に居たいから、同じ虫にしてくれ、と願います

その虫が、蝉と蟷螂で、それからと言うもの、蝉の近くには蟷螂が佇んでる

と言う昔ばなしからサブタイトルを取りました

目的と結果が入れ替わり、本来見えるものが見えなくなったと認識した時の気持ちを、上手く表現したかったのですが、皆さんに伝わるか不安で、今回珍しく補足させて頂きました

まだまだ終わりませんが、引き続き楽しんで頂けると、ありがたいと思います。
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