ANGEL WALTZ 作:とくめい
BLITZ本部、隊長室
PM:13時
「……お腹空きましたなぁ……」
新人隊員の実戦訓練を終わらせた京介は、隊長室で休んでいた
帰ってきてから書類仕事に手を付け、しばらくしたら空腹に気がつく
今回の任務はあくまで特殊部隊の延長上であるが故に、報告書は書く必要もない
医療班の八尺伽耶が報告書を出さなければならない程度だ
新人隊員の実戦訓練で、かなりふるいにかけられた
新人のうち9割は除隊
アレを見ても残ろうとしてる1割はまずまず形になるだろ
……が、新人担当の隊員には文句を言われた
「予定が変わるでしょうが!!戻った傍からほとんど除隊願いって何してきたんですか!!」
(……俺は何もして無い……断じて俺のせいじゃない……だがすまん……)
思い返しながら、心の中で謝る……
そんな状況を紗夜も近くで見ていた
帰還した香奈恵から話を聞き、新人隊員達の顔色を見、伽耶の疲弊した表情
何が起きたかは分からないが、何をしてきたかは察した……
紗夜は伽耶に労いの言葉をかけ、京介に言っておくと伝え、香奈恵に大人しくして欲しいとお願いをし、新人隊員の担当には頭を下げてすまないと伝える
この場で満面の笑みで満足そうな顔で笑って居たのは、無傷で車両が返って来た事が喜ばしい、整備班だけだ……
京介が意図せず派手になるのは知っていた
だから京介に何かを言う事はしない
紗夜は京介がどんな生き方をしているか理解しているからだ……
実際見た事は無いが、菜琉、伽耶、秋浩、この3人の話をちょっと本気で聞いただけでも壮絶過ぎて理解が出来ない程度の凄惨な経験をしているのは良くわかる
……それがより凄惨な経験の当事者なら?……
そんな人が、一般人基準の事なんか出来ない……
一般人がやり過ぎ、異常と感じる事は、隊長格には普通以下だ……
BLITZ、特に攻撃隊は、そんなに甘く平和な所で生きられない……
だから特殊部隊が一般人相手にきちんとしなければならない……
西島京介……彼を責めることは出来ない……
医療班を伴わない特殊部隊の今回の怠慢は、流石の紗夜も憤りを覚える……
京介に負担をさせるなんてと考えてるだろう
京介はわざと自分が悪者になる様に立ち回る……
自分が責められる対象になればと
……その不器用なまでの慈愛を……どれだけの隊員が理解しているだろうか……
……それを手助け出来ないのがもどかしい……
秘書として……紗夜と言う女として……
京介が書類仕事をそろそろ終わらせる頃に、紗夜が手に食事を持ち、入ってきた
「いらっしゃいw」
京介が軽く言う
「紗夜ちゃんのお昼?w美味しそうだねぇwまぁゆっくりして行ってw」
紗夜は一瞬何を言われたか分からなかったが、すぐに理解した
京介は常に他人の事を考える、自分の優先度は二の次に
だから紗夜が持ってきた食事も、紗夜のものだと思った
それを理解し紗夜は、クスクス笑いながら違いますよと答える
紗夜
「これは西島隊長のお昼ですよw
それともお食事は済ませましたか?」
一瞬驚いたが、すぐにありがとうと紗夜に感謝する
京介
「一緒に食べない?w紗夜ちゃんはお昼済ませたの?w」
京介の申し出に、喜んでと返事をする
秘書ではあるが、紗夜のこの素直な反応が京介は好感を持っている
妹や香奈恵に近い素直さ……自分にはもう無い素直さ……
紗夜は京介と食事をしながら、心配している事を伝える
紗夜
「……あの、西島隊長……」
京介は食事を頬張りながら、うん?wと聞いている
紗夜は言う
「……もう少し、ご自分を大切にして頂けませんか?……」
京介は言われた事の意味が分からない
しかし、紗夜が京介に伝わる様一生懸命に噛み砕いて言葉を選び、伝えた
紗夜の話を聞いた京介は、そういうつもりは無いんだけどねぇwと笑顔で答える
……紗夜は京介が意図せず自分にヘイトを向けさせているのを理解はしていたが、無自覚なのか意識してるのか、確認する為に話をした
……最早京介にとっては癖なのであろう……
おそらく、言葉で言っても矯正出来ない……
自分以外を第1に考え、優先させる……
トラウマから来る防衛本能なのだろう……
言葉を使うのをやめ、行動で何とかしようと紗夜が考えていると、京介が何気なく言った……
「紗夜ちゃん優しいねぇwだから好きなのよw」
途中までは予想していた、言葉としては大した事はないが、好きと言う単語は予想してなかった
少し照れながら、隠す様にコーヒーを入れ始める
紗夜と京介が食事を終わらせた頃、攻撃隊の隊舎が騒がしくなる
紗夜が片付けがてらに様子を見てくるとへやを出た後、ガヤガヤと窓の外から聞こえる
なんだろうと窓の下を覗く
数名の隊員達が騒いではいるが、何に騒いでるかは分からない
丁度隊長室の菓子が無くなったので、売店に行こうと部屋を出た途端、目の前の廊下にあまり見ない人影がいる……
浮浪者の様な佇まいで、フードを目深に被り、身体全体が汚れて居る……
匂いもあまり良いものではなかったが、京介が親しげに声を掛ける
「おぉ〜w大丈夫かw元気にしてたか?w
久しぶりだなぁw入れ入れw腹減ってないか?w今用意するからよw」
BLITZの特別攻撃隊の総隊長が、傍から見たら薄汚れた浮浪者を快く受け入れて居る……
なんと言う光景……
隊員が声をかけようとした時、紗夜が声をかけた
紗夜
「あの……隊長?……その方は?……」
京介
「あぁwごめんごめん紗夜ちゃんにも説明するからさwこいつの分の食事、用意して貰えない?w」
紗夜は腑に落ちない表情だが、了解と準備に行った
不審な人物は京介に耳打ちをした
京介はおうそうかそうかと背中を支え、不審人物を自室に招いた
何が起きてるか分からない隊員達も、隊長室に入った時点で詮索をやめた
そんな事をしても意味は無いからだ
フードの人物に京介は何がいいと聞く
珍しくティーカップで紅茶を入れていた
それをフードの人物に出す、菓子が無いのを忘れていた、取ってこようと扉にきたら、丁度紗夜が入って来た
ついでに紗夜が菓子を持ってきている
紗夜にありがとうと伝えると、食事をフードの人物に差し出す
京介がフードの人物の頭を撫でながら、良いよと伝える
フードの人物は無言で食事を食べる
紗夜が京介にこの方は?と聞く
京介はそうだそうだと紗夜に説明をする
京介
「こいつはねぇ、攻撃隊の隠密部隊って言った方が良いかなw
公には公表出来ない部隊の子なのよw」
紗夜
「隠密部隊?ですか?……」
なんだそれはと言わんばかりに紗夜が聞き返す
京介
「まぁおいおいわかるよw菜琉と秋浩ぐらいしか把握して無いしw」
そう説明していると、フードの人物はゴソゴソと資料の様なものを差し出した
京介が目を通すと、コレか?と聞く
フードの人物はコクンと頷く
フードの人物は食事を終わらせ、紅茶を飲みながら待っている
京介がタバコに火をつけながら、資料を読む
時間にして10分程度だろう
資料を置き、フードの人物をフードごと撫でる
「ありがとうなwこれで確証が持てるw」
京介が何故そんな事をするのか、紗夜には分からないが、京介が信頼を置いてるのは良くわかった
京介
「紗夜ちゃんwお願いあるんだけどw」
紗夜が頭に?を思い浮かべると
京介
「コイツのこと風呂に入れてあげてw」
紗夜
「お風呂……ですか?……」
京介
「うんw多分一人じゃ入りづらいだろうからw」
意図が分からないが、紗夜はフードの人物と共に浴場まで向かった
幸いこの時間は誰もいない
紗夜も服を脱ぎ捨て、フードの人物が脱ぎづらそうにしているのを手伝う
京介が一人で風呂にはいるのはキツイと言った意味がわかった
身体全体が生々しい傷で埋め尽くされている
しかし、何より気になったのは、フードの人物が、女性だと言う事だ……
BLITZ、対能力者特別攻撃部隊の隊舎に現れた、浮浪者の様に小汚い人物は、隠密部隊の人物の一人
秘書の夜千与紗夜に、浴場に連れて一緒に入浴して欲しいと、京介に頼まれた紗夜
紗夜はその浮浪者のような人物の衣類を脱ぐのを手伝い、驚愕の事実を目の当たりにする
身体全体に広がる無数の傷……
治療痕、生々しい傷、取り返しのつかなくなってしまってる傷……
まだ血が滲んでる場所もある
身体だけでは無い……それは顔面にも及ぶ
血の滲む包帯が巻かれた左目、右の額から左顎まで伸びる刃物の傷……
それもさることながら、この傷の持ち主は女性だと言う事だ……
……紗夜は一瞬葛藤した……何故こんな姿になるまで隊長は放って置いたのか……
それともこんな傷が付くのを分かっているのに隠密部隊にしているのか……
京介に進言するべきか……黙るべきか……
……自分を犠牲にする隊長が、こんな事をさせているかと葛藤する……
……フードの少女は紗夜の顔を見て、光のない目で答える……
「……隊長のせいじゃ無いよ……」
紗夜はしまったと思った、少女に自分の考えがわかるほど顔に出ていたのかと、それと同時に紗夜は自分に呆れた、そう……自分が信頼する隊長は、お節介で誰よりも優しく、他人の事しか考えない…………だから好かれる……
シャワーで流しながら排水口に流れる液体は、お湯だけでなく、血液や泥、汚れ、膿…
色々なものが混ざりあって流れて行く……
……紗夜はその流れて行くものと一緒に、この少女の心の黒い物も少しでも流れて欲しいと考えた……
隠密部隊の少女の身体を流し終わり、髪も洗い終わった、栗色のショートカットの綺麗な髪の毛が顕になる
先程の薄汚れた酷い匂いの姿が、一度流せば年相応の可愛いらしい女の子だ……
紗夜は無言で考える……
……こんな年端のいかない子供に見えるのに……
少女の手を取り、身体を支えた瞬間、異様さに気付く……
……重い……明らかに少女のそれでは無い重量が自身の手に伝わる……
悟られない様に湯船に二人で浸かる……が
見透かされた様に少女の口が開く……
「……コレのせいだよ……」
少女が左腕と、覆われてない体内を脇腹から見せた……
紗夜もBLITZの隊員……自身も凄惨な過去を知っている……
しかし目の前の少女の身体は、紗夜の想像を超えていた……
金属製骨格……機械の義手……半透明な人造筋肉……
紗夜は自身がどれだけ優しい国で育ったかを理解する……
再び少女が口を開く……
「……皮膚が無くなったの……つけてから来たかったけど……」
この子も自分と同じ、でももっと重い所にいた……
皮膚をつけてから来たいと言ったのは、おそらく少女なりの恥じらいなのだろ…………
紗夜は考える……泣くのは違う……
……優しい言葉をかけるのもズレている……
……紗夜の答え……
少女の肩を抱き寄せ、胸の中に抱き締める……
優しく頭を撫でながら、優しく抱きしめる……
少女は反応しない、だが、胸に顔を寄せ、紗夜に身を委ねた
……自分に安心してくれたのだろうか?
紗夜と少女、優しい一時を過ごした……
無口な少女と一緒に入浴する……
少女との出会い
BLITZの総隊長になり、しばらくは自身の慣らし運転の様な状態を続けていた
アメリカの支部に連携の都合で出張した帰り
普段は関わらない地球の紛争地に出向いた
そこは凄惨な状況、環境であった
能力者の小競り合いに巻き込まれた一般人
一般人同士で起こる略奪
京介は頭を抱えた……
「なんで能力者でもねぇのに争うんだよ……」
そんな最中、京介が歩いていた裏路地の建物が爆発した
人間相手の兵器は、能力者には通じない
京介は誤爆か、分からない奴の襲撃か考えたが、なんて事はない……一般人の小競り合いの巻き添えだった
そのまま通り過ぎようとした時、爆発した建物の中に人影が見えた
中には身体が半分吹き飛んだ少女がいた
それが目に入った瞬間の京介の動きは、化け物にふさわしいスピードだった……
少女を抱え、能力をフル稼働でアメリカ支部に戻った
アメリカ支部の医療班に無理やり乗り込み、治せと睨む
怯えたアメリカ支部の医療班は、言われるがまま全力で治療した
そもそも少女のいた紛争地から、アメリカの支部まで約500キロある……
その距離をものの数十秒……
BLITZの輸送機や車両ならまだわかるが、それを生身で踏破した……
誰が見ても異常である……
少女にショックが行かないよう、寒く無い様、焼けない様……
優しく……優しく抱えながら
アメリカ支部の総隊長にドヤされ、支部長にドヤされ、本部の局長にもお叱りを受けた
それでも間違ってる事はして無いと堂々としていた
「子供を救って何が悪い!!」
BLITZと言う形式の話で京介を叱責したが、皆京介が正しい事を理解していた
身体の左肩から左の足の付け根までが吹き飛んだ少女は、蘇生液の中で目が覚めた
驚きも絶望もしなかった……
……何故生きているのかと疑問だった
そこには京介がいた……
少女がいた場所では見た事がない優しい微笑みを自分に向ける大人……
頭を撫でる手は、裏も無い純粋に自分を心配する手……
光が消えた目から、涙が自然とこぼれた
京介は少女の国の言葉で、良く我慢したなと話しかけた……
少女は死ぬなら今が良いと……絶望では無く
希望に満ちた気持ちでそう思った……
しかし、地球最強の能力者はそれが大嫌いだ……
どうにかして少女を幸せにしたいと考える……
医療班が言うには、骨や身体はBLITZの再生用培養液に浸かってれば再生する、それまではそのままだ
と
幸か不幸か治療中に能力が発現する、特異系の能力……
発現した当初は使い方がわからず、医療機器を破壊したりもしたが、それも相まって命は繋ぎ止められた
強化骨格を使って、ほかの体組織が育つまで、人工臓器や人造皮膚で補おう、育ったら移植しようと提案する……
しかし少女はそれを拒む
あなたの為に生きたい、あなたの役に立ちたいと懇願される
京介は説得したが、少女は頑として受け入れなかった
きっと自分の身体が治ったら、またあの場所に帰らなければ行けない
京介から離れなければ行けない、そう考えたのだろう……
違うと言っても受け入れない……嘘をつき続けられたせいだろう……
京介はそれを受け入れた……それが少女の幸せなら……
それが隠密部隊の一人の少女との出会い
京介は無口な少女が名前を持たないのを気にした……
名前をつけたくて少女に何が好きかと尋ねる
無言で京介を指さす
アハハと笑い、頭を撫でながら、そうじゃないと諭す
少女は困る
今まで好きな物など無かった
起きてから眠るまで、爆撃や銃撃に怯え、おおよそ年頃の女の子とは無縁な場所に居た……
食事もままならない、1日1食あり付ければ幸運だ
酷い時は5日や6日食事など出来ない
泥水を啜り、生き残るだけしか考えられなかった……
食べ物、花、色、なんでもいい、そう言った
少女は考えた、でもそれでも分からない
また京介を指さす
また頭を撫でながらそうかと答える
少女は京介にしがみつく
驚くが、抱きしめながら頭を撫でる
まあ良いかと諦める
攻撃隊、総隊長室
タバコを吹かしながら窓の外を見つめている
コーヒーを口に運ぶ……
京介
「今回はちょっと休んで貰おうかなぁ……」
京介が呟く
なんの事を言っているかは分からなくもない
おそらく京介は宿泊先の心配をしている……
脳筋故に単調な思考ではあるが、人のことを気にかけている
お節介で優しい………………化け物……
人の為に生きているが、人に理解されない……
まるでフランケンシュタイン博士の人造人間……
脳筋と言う響で、そこそこ賢くは無さそうだが、活字の本を読む趣味もある
京介の問題は思考する事を諦めた事
幼少期より、考え続けた、考え続けて行動した……
その結果が迫害……笑えない出来事……だがそれを京介は笑う
考えても仕方が無いから笑う……
笑っている京介を馬鹿にすれば良い……
……馬鹿にしてるお前らは、俺の人生に居ない……
京介が辿り着いた結果
世界に期待しない……
生きる事に期待しない……
…どんな人間より優しく、どんな人間より純粋な……最強の怪物が辿り着いた…
……何よりも誰よりも悲しい結果…………
物憂げに佇んでる京介の背後から、扉の開く音がする、浴場から戻った紗夜と少女
顔を綻ばせ京介が言う
「おーおーw可愛くなっちゃってw
さっぱりしたか?w」
屈託の無い笑顔で問う
少女は照れたのか、京介にしがみつく
紗夜に視線を向け
ありがとうwと言う
少女の頭を撫でながら、京介が思いついた顔をした
大抵あまり良い事を思いつかない……
京介
「紗夜ちゃんって、一人暮らしだっけ?w」
予想しない問に紗夜が間抜けな返事をする
紗夜
「ひゃい?」
構わず続ける
京介
「あ、いや無理なら良いんだけどさwこの子しばらく一緒に暮らして欲しいかな?って思ってw
勿論無理なら良いんだよw自分の家に連れてくしw
ちょっとしばらく休ませたくてw
勿論紗夜ちゃんの休みも、業務名目で入れられるからさw悪い話しじゃ無いかなっ思ったんだけど……どう?」
あまりにも唐突、突拍子も無い提案……
正直別に構わない、休みも増えるし、少女の事をよく知る為には必要かも知れない……
少女に目をやる
幸い嫌そうでは無い……
正直紗夜も母性の様なものがあるのか、慈しんでいる……
少し黙る紗夜に向かって、京介が続ける
京介
「俺ん家でも別に大丈夫なんだけどさ、忍もいるから騒がしいかなってw」
……いや、そこじゃないんです、と心で答える紗夜
美麗な顔立ちがあだとなって、周りにはやや憤って居るように見えるのが損だなぁと京介が考えてる
意を決して返事をする紗夜
「……ぃおっ、お願いします!」
緊張して、舌を噛む……
総隊長秘書だとしても、年相応の女の子だなぁと京介が微笑む……
京介
「マジで?w良かったぁwありがとうwもし本当にダメとかになったら、遠慮なく声掛けてw俺が引き取りに行くからw」
そう言う京介に、期待と不安が入り交じりながら、食い気味に答える
紗夜
「そんな事無いです!是非!引き取らせて下さい!」
紗夜が京介に歩み寄りながらそう答える
顔が少し近い……
京介も紗夜も照れながら離れる
お互いバツの悪そうな顔で取り繕う
京介
「じゃっじゃあとりあえず今日からお願いするよw
あっ、はいコレ」
京介がカバンから封筒を渡す
厚い……ポケット辞書の様な厚みの封筒を渡された……
京介が軽く答える
「あぁw生活費とか色々よw急に頼んじゃったしw」
受け取りずらい厚みの封筒を見つめていると、少女が京介の腕を引っ張って耳打ちする
京介は少女の頭を撫でて説明する
京介
「お前は気にしなくて良いんだよ、俺がしたいんだからwお前のお金はお前が良いって思った事に使いなさいw」
少女が出すとでも言ったのだろう
紗夜も言う
紗夜
「そのくらいは自分でも問題ないですので……」
そう言うと、京介が紗夜の手を取り封筒を握らせ、少し遠目の耳打ちをする
京介
「良いの良いのwBLITZからバイト代出ないし、俺の気持ちも済まないしw」
でもと言いかけると、京介が続ける
「紗夜ちゃんだからだよw」
また出た……そう言う言葉はズルい……
「承知しました……お預かりします……」
紗夜の精一杯の皮肉だった……
少女に顔を移し、
「良かったなぁwこのお姉ちゃんとしばらく暮らせるよw
俺ん家に遊びに来ても良いからさw」
少女は反応しないが、嫌では無さそうでホットした……
西暦3856
砂嵐の舞う戦場……
……地球か、はたまた遠い惑星か……
熱砂の舞う、その地で男が一人跪いている……
その腕には、小さな女の子の亡き骸……
……男が歯を食いしばりながら叫ぶ
「助けてってるガキの手も掴んでやれなくて…………何がBLITZだァああああ!!!
……うっ、があああああ!!!」
男の虚しい叫び声が響く……
……その悲しく切実な叫びは、吹き荒れる熱砂にかき消される…………
西暦3862
BLITZアメリカ支部
総隊長室
細身だが筋骨隆々の女性が隊長室のソファに佇んでる
昼食だろうか……食べ掛けのホットドッグが机の上に置いてある……
女性の背中には、その体躯にはに遣わない無骨な双剣を携えている
隊長室の扉を、ノックと同時に誰かが入ってくる
「Heyヘーイw聞きましたか?w
本部付けの特殊部隊が重症ですってw」
欧米人らしいテンションのゴツイ白人が入ってくる
「聞いてるよ!いちいち言うんじゃない!
それに本部の特殊部隊は、自分達が強いと勘違いしてるから、当然の報いだよ……」
呆れた様に答える女性
BLITZアメリカ支部
攻撃隊総隊長
ジェシカ・アルバロス
金属性
「これじゃほかの部隊の質も、たかが知れてません?」
BLITZアメリカ支部
攻撃隊総副隊長
ゲインJトンプスン
ジェシカ
「頭の弱い事言うんじゃないよ!西島はそんなヘマはしない……アレは別格なんだよ……
……アタシが1回も勝てないんだから……ったく……あんたもいちいち本部のスキャンダル漁らなくて良いんだよ」
ゲイン
「いやぁwでもなんか弱みは持ってた方が良いんじゃ無いですか?」
「……馬鹿は何しても馬鹿なんだねぇ……」
ジェシカが呆れた様に言う
ジェシカ
「だいたいヘマするのは目当ての部隊じゃ無いくらいわかんないの?そんな身内の粗探しするくらいなら、あたしから1本取ること考えな!」
ジェシカのそこそこな正論にゲインの薄ら笑いが消える
ゲイン
「まだそんなに負けて無いでしょ?w」
負け惜しみを言うゲインにトドメの一言
ジェシカ
「……あんた今月100$貸しだよ……」
ゲイン
「oh……」
アメリカ支部は、基本本部と部隊構成は変わりないが、銃社会の延長が故に、特殊部隊は警察組織、攻撃隊は軍やFBIとの連携が強い
それに土地柄と言うこともあり、ヒーロー気質な思考があるが故に、日本より能力者の事件が起こりやすい
勿論三大組織
スカーレットスコルピオ
エメラルドドラゴン
ヨルムンガンド
等の情報と認識は、本部と同一である
それに、何故かBLITZの襲撃も比較的起きやすい……(しかし、BLITZの支部を襲撃するのは、ただの目立ちたがり屋や力試しが多く、今の所被害は皆無である)
ジェシカが手を叩いてゲインを急かす
「ほら!あんた今日巡回当番だろ、五番隊がさっき外で準備してたよ!」
ゲイン
「ちぇw忘れられてるかと思ってたのにw」
ジェシカ
「サボろうとするんじゃないよ!示しがつかないだろ」
ゲイン
「サーイェッサー!」
ゲインが隊長室を出てすぐ、不意な来訪者が来る……
音もなく……気配も無く……
……いつからいたのか、ずっと居たのか……
しかし確実に今目の前にいる
ジェシカは来訪者を確認した一瞬、警戒はしたが、すぐホッとして立ち上がる
隊長室の扉のロックをした……
そしてようやく話しかける
ジェシカ
「あんたらはいつも音も気配も無いねぇ……」
呆れた顔で感心しながら言う
フードで身を隠した来訪者は、何も発せずジェシカに資料の束を差し出す
それを受け取りながらありがとうと言うと、軽く目を通す
ジェシカ
「これは間違いないの?」
ジェシカの質問にフード来訪者は頷く
「……ちっ!……」
予想が当たったのか、舌打ちをし、顔を顰めたがすぐフードの来訪者の元に行き、顔の見えないフードに向かって尋ねる
なるべく明るい声で
ジェシカ
「お腹すいてる?w」
来訪者はまたしても無言で頷く
来訪者の背中を支え、隊長室のソファに座らせ、飲み物を出す
ジェシカ
「ごめんよwコーラか炭酸水しか無いんだw好きな方飲みな」
そう言いながらテーブルに2つとも置いた
そのままオーブンでピザを焼き、電子レンジでホットドッグを温める
少し申し訳無さそうに
ジェシカ
「ここじゃレトルトしか無くてね、ごめんよ、多分不味くは無いとは思うんだけどねw」
簡素なピザにサラミを追加で載せる
ホットドッグに別口で具だくさんのサルサソースをかけ、来訪者の前に出す
来訪者の背中を撫でながら、召し上がれと進める
来訪者はピザもホットドッグも両手に掴んで頬張る
それを見たジェシカは微笑みながら背中をさする
ジェシカ
「そんなにがっつかなくても逃げやしないよwまだ食べる?」
来訪者は首を横に振る
ジェシカが出したのはフルサイズのピザ1枚とホットドッグは半キロほどの量だ
来訪者は少し小柄だ、量は申し分無いだろう
その姿が微笑ましくてジェシカが笑いながらフードや背中をさする
ジェシカ
「……懐いてくれてるのかね?……だとありがたいんだけど……」
来訪者に接してるジェシカは、まるで弟を世話する姉の様に見える
ジェシカ
「……西島の所に行くのかい?」
来訪者は首を横に振る
それに対してジェシカは続ける
ジェシカ
「……西島からあんたらに無理させんなって頼まれてる……やると言っても辞めさせろって……意味わかる?w」
ちょっと意地悪に言った
来訪者は食べる手を止める
それに向かって続ける
ジェシカ
「……西島からは、次アタシの所にきたら、本部に戻らせてくれって言われてんだ……あんたらが続けて仕事をしようとしたら、無理にでも辞めさせて良いってね?w」
ジェシカは少しだけ嘘を混ぜた
殆どはその通りだが、無理やり辞めさせても良いとは言われて無い
説得はしてみて欲しいと言われていた
まあ、ジェシカの中ではあまり変わりないだろうが
それを聞いて来訪者は動きを停めた
変わらずジェシカは背中を撫でる
もう少しつついて見る
ジェシカ
「久しぶりに西島に顔を見せたら?安心させてあげなよ……」
来訪者は頷いた
それを見たジェシカは安心した様に少し笑う
ジェシカ
「そっかw良かったよw……ほら、いっぱい食べな?w少し眠っても良い、アタシが側にいるから……」
来訪者はまたゆっくり食べ始めた
ジェシカに背中をさすられながら
ジェシカ
(この小さな身体に、どれだけの絶望を詰め込まれたんだろうねぇ……
アタシ達じゃあ想像なんて出来ないくらいの絶望を……)
ホットドッグを食べ終わり、あとはピザが本の少しある
来訪者は食べる手を止め、ジェシカの手のひらを握る
ジェシカは何事かと覗き込むと、ジェシカの手のひらに今まで無かったクリスタルの狼が載せられていた
ジェシカ
「おwお土産かい?wありがとう、かっこいいねぇw嬉しいよwありがとうなw」
その言葉を聞いた来訪者は残りのピザを食べ始めた
ジェシカは来訪者が微笑んだ様に見えた……
顔なんか見えては居ないが、そんな気がした……
BLITZ本部から少し離れた郊外
1台の車が街灯も無い田舎道を走っている
ある物と言えばコンビニとドラッグストアと販売機
その先に閉店時間が早いがスーパーがある
車はスーパーの先のアパートで止まる
その車以外は住んで居ないのか、明かりがひとつも無い
車から降りて来るふたつの人影
片方が話しかけながら階段を上がる
鍵を開け、扉を開ける
部屋のスイッチを手探りで明かりをつける
明かりに映し出されたのは
夜千与紗夜と少女だった
紗夜は少女に入る様促すと、お腹すいた?と笑顔で尋ねる
少女は答え無い
いや、返す言葉が分からないのである
紗夜は一瞬考え、ごめんと言いながら訂正する
一緒にご飯を食べようw
少女は小さく頷く
今までどんな環境に置かれていたのだろうか
自分の意思を発する事が許されない世界……
理不尽しか存在しない世界
自分の意思を殺され、周囲の理不尽にYESしか言えない世界
少女に背を向けながら唇を噛む
辛いと思ってた自分が情けない
しかし紗夜も程度は同じくらいの凄惨な状況だった
西島京介が紗夜に手を差し伸べた時は物理的に紗夜の命がかかっていた
それは紗夜の防衛本能なのか、それとも隣の芝が青く見えているのか
……おそらく京介に言わせれば、日本か海外かの違いで、二人共レベルは一緒だと答えるだろう……
それを紗夜は自覚が無い
紗夜は少女に向かい話し続ける
日本でのいい事、悪い事、美味しい物や綺麗な物
少女は動けるまでは、BLITZの治療ラボにいた
ラボから出てもあまり周りに気を配る事も無く、ただ淡々と任務の為に行動している
場合によっては血腥い場所にもいたが、感情が欠落し、自由も知らない少女が、それらに関心を持つのは土台無理な話だ
少女の関心は京介と任務
好きな物は京介、綺麗な者は京介
依存や執着とも取れるが、それ以外が分からないのだ
紗夜もそれを感じ取り、少しでも良い、なにかの切っ掛けになるだけで良いと話し続ける
その話の中で、このアパートは自分の所有物だと、隣の部屋は食料庫だと他に人が居ないから安心だと
とにかく話した、手当り次第に話した
夕食を作りながら少女の様子を見ると、何かに釘漬けになっている
目線の先を見ると、花束が花瓶に活けて有る
紗夜が気分転換に生花を活ける花瓶
今活けているのはフリージア
白と黄色と赤と紫のフリージアが活けてある
生花で、日も浅い、甘い香りがする……
少女が小さい鼻をスンスンしている
ここぞとばかりに紗夜が少女に寄る
紗夜
「これはね、フリージアって言うお花だよw」
紗夜が教える
少女が口を開く
か細い声で……フリージア……
香りが良いのか視線を外さない
紗夜が花瓶を少女の前に置く
紗夜
「良い香りがしない?w」
少女が確認する様に口に出す
「…………香り……」
紗夜が触っても良いと促す
視線を離さず手を出す
白い、一際大きく白いフリージアを手に取る
それを顔に当てて呼吸する
今まで分からなかったのか、知ってても意識しなかったのか
ずっと顔に当てている
それを見て少女のあたまを撫でる
それを横目に料理に戻る
料理をテーブルに置きながら紗夜が話す
紗夜
「お花にはね、花言葉って言うのがあるの」
少女がピクリと耳を動かす
続ける紗夜
「白いフリージアはねw純潔、あどけなさ、無邪気って意味があるの」
「他の色にもあるのよw」
紗夜が話してるのを聴きながら、少女はずっと花を顔に当てる
不意に紗夜が言った
「……あなたみたいな花よね……」
食事を並べ終えた紗夜が少女の傍で言う
そっと頭を撫でる
「白いフリージアの花言葉そのままよ……」
少女の顔色が読めない紗夜はただ己の心で接するしか無いとわかっている
だから考えてる事や思いを少女に伝える
不器用な隊長の1番わかりやすい方法を真似て、不器用な愛情を伝える……
紗夜が少女に食事が出来たから食べる様提案する
少女がそれに頷く
テーブルについた二人、紗夜が首を傾げる
少女がフリージアを顔から離さない……
いや、もしかしたらどうして良いのか分からないのか?
試しに聞いてみる
紗夜
「フリージア、気に入った?」
少女は応えない
紗夜
「手から離したく無い?」
少女が頷く
紗夜はにこりと微笑む
一輪挿しを準備して、少女の近くに置く
紗夜
「食事の時は、ここに置いて置くと、無くならないでしょ?w」
少女は一輪挿しにフリージアを挿す
頭を撫でて正解だと伝える
テーブルにはシチューが並んでいるが、少女が手を付けない
紗夜は少女の隣に自分の食事を置き直す
紗夜
「私の真似、してみて?w」
持ち前の洞察力からか、それとも少女が自分に被るのか、何故か何となくではあるが少女が反応出来ない時の対処ができている
どうにか一緒に食事をし始め、何気ない雑談を試みる
勿論食べるのを辞めなくても良いと先に言う
何時も食事は何を口にしているか問う
少女に対して紗夜が問いかける、たどたどしく少女が答える
「……レーション……」
紗夜がその答えを聞いて止まる
他には何を口にしてるか聞く
「……水……」
紗夜は罪悪感で押し潰されそうになった……
おそらく自分よりは年下の女の子……
口にするのは水とレーション……
涙腺が決壊しそうになる……
それを察した少女が答える
「……前よりは良い………水も透明だから………」
紗夜の限界を超えた
少女を抱きしめる
泣いた……
泣いて……
泣いて……
泣いて……
紗夜は少女に謝り続ける
辛い思いをさせたこと……
そんな事を気付け無かった事……
少女の傍に生まれなかった事……
生まれた国が違う事……
冷静に考えれば、当たり前にどうしようも無い事だが、紗夜はそれを全て自分の責任として少女に謝り続けた…………
少女が初めて自発的に動いた
紗夜の首に手を回し、背中をさする
耳もとで少女が言う
「……隊長が言ってた通りになった………」
その言葉にさらに涙が溢れた
京介が具体的に何を言ったかは分からない
けれど、自分がこの少女に対して涙を流すのを予見していた……
少女が言う
「………ありがとう……」
謝り続け泣き叫ぶ紗夜の耳に聞こえるありがとうと言う言葉……
少女に向かってどうしようも無いにも関わらず涙を流すことに対しての感謝の言葉
紗夜の涙は流れ続けた……とめどなく流れた……
少女に対して何も出来なかった自分の無力さを……
涙を流してる意味がわかってしまった少女は紗夜を離さなかった
紗夜を慰める様に、紗夜に慰められながら
どれくらいたっただろうか……
抱きしめ合い泣きじゃくる紗夜
泣き過ぎて過呼吸、脱水症状、脱力を起こした
人間が行動出来ない程度の状態になる……
少女はそこまでなるとは予想はしていなかったが、京介に自分がされてきた事を思い出しながら、たどたどしく紗夜の身の回りの世話をする
ベットに運び、紗夜を寝かしつける
一般人で例えると、泣き疲れて眠る、などと言う状態では無い
昏倒している
自宅と言う概念が無い少女にとって、日本のアパートは未知の場所だ
水の飲み方も分からない
紗夜を寝かしつけて、フリージアの一輪挿しを抱え、紗夜のベッドの横でうずくまる
任務で慣れているいつもの体勢
……ただ違うのは、隣で寝息を立てているのが、自分に好意を向ける京介以外の人間だと言う事と、フリージアを手に握っている事
翌朝
紗夜が呻きながら目を覚ます
数秘考え、昨夜のことを思い出す
周りを確認する、すぐ傍らに少女
目を覚ましている
再び少女に抱きつく
安堵する
頭と背中をさする
少女も同じ事をする
紗夜が落ち着くまでに、昨夜程時間はかからなかった
落ち着いた紗夜が少女に声をかけ、テーブルの上に目をやる
頭を抱える
やってしまった
興奮し過ぎて気絶したのだろう
傍らで少女が自分を見張ってくれていた
ありがとうと声をかける
少女はフリージアを抱きながら紗夜を見つめる
笑みを返すとテーブルを片付ける紗夜
声をかけながら朝食を準備するねと微笑む
少女に昨夜みたいにならないからねと自虐的に言う
思い返すと入浴もしていなかった
朝食を作りながら頭を抱える
でも少女に好意を向けて貰えたのは確信出来た
せめて自発的に少女が行動できると嬉しいなと考える
時間が戻って
アメリカ支部の総隊長室
来訪者がモソモソと起き上がる
ジェシカは頭を撫でながら起きたかい?と声をかける
来訪者はジェシカの手を握る……
ジェシカはそのままゆっくり待つ
ジェシカ
「行くのかい?」
来訪者は頷く……手を握ったのはお礼のつもりなのだろう
扉に向かう来訪者の背中に声を投げる
ジェシカ
「気をつけるんだよwまた待ってるよw」
来訪者が一瞬止まる、呼応したように見えた
次の瞬間来訪者は消えた
ジェシカは微笑む
ジェシカ
「気をつけなよ……」
……小さく呟く
BLITZ本部
朝の訓練をする隊員たち
本部の護衛任務に当たる隊員たち
まだ街が動くには早い時間
そこに薄汚れたフードの来訪者が歩み寄る
来訪者は歩く……
京介がいる場所に
しかしその異端な来訪者が目につく隊員が数名
呼び止める
来訪者は返事をしない
隊員が強く問いかける
それでも返事をしない
いや、厳密には返事が出来ないのだ
隊員がそれを知っている訳でも無く
さらに強く問いかける
来訪者を不審人物と認識した隊員
木属性の能力で拘束する、が
拘束されたのはその隊員……
クリスタルの様なガラスの様な鋭利な柱で雁字搦めにされていた
それを見た隊員が次々来訪者を襲う
BLITZ内に響く警報
敵と認識された来訪者
頭に過ぎる残影、フラッシュバックする記憶
来訪者は逃げる
非常に不味い
特異系の能力者
京介と同じ制服の人間
攻撃したくない
襲われる
来訪者を襲う不安と恐怖
防衛本能が働く
クリスタルの氷柱か地面から隊員たちを襲う
来訪者は争う気が無いのに、BLITZの隊員に襲われる
混乱する
任務と違うのは、京介と同じ制服姿の人間に襲われる恐怖
来訪者の精神が崩壊する、そちらこちらでクリスタルの氷柱が隊員を拘束
1番近い隊員に向かって、クリスタルの鋭い先端が後数センチという所で、土に包まれ止まった
一人の男が声をかける
「朝から何してんの……」
来訪者に目をやり、笑顔で声をかける
「俺の事覚えてる?フードくん」
その言葉に隊員たちがざわめく
副隊長、お知り合いですか?
その問いに答える
秋浩
「京介の身内だよw、お前ら良かったなぁ、止めなきゃお前らが死んでたぞ」
「フードくんにやられるか、京介に生でケツ引っぱたかれるかだけどなw」
西島京介の名前が出た途端、全員青ざめた
万が一来訪者を怪我させたら、自分達の生命線が消える
秋浩
「フードくん話せないんだよwまぁタイミングが悪かったなw」
そういうと、来訪者に向き直り、頭を撫でながら続ける
秋浩
「ごめんな、びっくりしたよな……許してくれ」
「京介が来るまで中で待ってようぜw俺と一緒にいれば大丈夫だからなw」
対能力者特別攻撃隊、総副隊長
三条 秋浩
来訪者の騒動を秋浩が収め、本部の警報も、隊員たちの誤認だと伝えた
その足で、来訪者を連れ立って自室に入る
副隊長室の中に来訪者を招き入れ
声をかける
秋浩
「よく帰ってきたなwおかえり」
来訪者はその言葉を聞いても答えない
だが秋浩はそれが当然の様に続ける
副隊長室の冷蔵庫からミルクを出し、同時に紅茶を入れながら話す
秋浩
「京介の部屋みたいに食いもんは無いんだwごめんなwそれは我慢してくれ」
来訪者は静かに佇む
秋浩も来訪者の背中を擦りながら話しかける
京介も隠密部隊の存在を隠してる訳ではなく、聞かれれば勿論答える
しかし、設立(京介の独断)した事実すら正式では無い為、明確に知っているのは本部の局長や1部のオペレーター、各部隊の総隊長や総副隊長、小隊長、副隊長になる
そして隠密部隊の人員の経緯を知っている秋浩もまた、彼等を平和な日常に戻してやりたいと考える一人である……
秋浩
「仕事の報告?今回はゆっくり出来るんだろ?wゆっくりしていきな」
隠密部隊の経緯は知っているが、その場にいた訳では無い
秋浩はそれを承知している
だからなるべく優しく、不器用な愛情を注いでいる
隠密部隊の隊員達も、本部の総隊長、総副隊長が自分達に何もしないのは理解しているが、その特異な人生の為、上手くそれに答えられない
BLITZ本部 エントランス
音楽を聴きながら、映画「MASK」のジム・キャリーの様な陽気なステップを踏み、京介が歩いて来る
BLITZは基本一般人の出入りも出来る
それは能力者と言う特異な物の、あくまで対処が目的だからだ
能力者だからと言って何も皆犯罪を犯す訳では無い
京介の様に迫害されたり、また制御が未熟だったり、使い方が分からなかったり、自覚が無かったりする発現者を、正しく導く為の指針を教える事も、またBLITZの仕事である
唯でさえ、能力が発現してしまえば煙たがられる可能性がある人間……
それを上手く社会に馴染ませ、平穏な暮らしの手伝いをする事もBLITZの責務と考えている
対能力者特別対応管理局時代からのBLITZの本質である
(京介の幼少期は、特殊部隊の慢心で、これが上手く機能してなかった)
京介が受付を通り過ぎようとしたところ、受付のオペレーターに呼び止められた
「西島隊長」
京介は首だけオペレーターに向けて話しを聞く
「どうしたの?w愛の告白?w」
ふざけた態度で答えるが、オペレーターはいつもの事かと能面の様な笑顔で続ける
「朝からおふざけが吹かし気味ですね、いつも通りで安心します」
……オペレーターは笑顔だ……が、いちいち京介のおふざけをまともに受け止めて居てはキリがないのを理解している故に、眉ひとつ動かさず、張り付いた笑顔で対応する
京介がコメディアンの様な顔芸で、思っても居ないショックを受けた顔をするが、相手にされてないのを理解しているので、そのまま続ける
京介
「どうしたの?なにかあった?w」
オペレーター
「今朝隊員宿舎の方で、警報がありました、それで三条副隊長が……」と言いかけたオペレーターを遮り
京介
「アレ?w秋浩帰ってるの?w早くないw」
オペレーターは無反応で続ける
オペレーター
「……三条副隊長が、西島隊長にお客様がお見えになっていると言伝を承っております、副隊長室でお待ちしていると」
京介
「了解wありがとうw」
受付のオペレーターに手を振りながら受付を後にする
京介の対応をしたオペレーターの隣にいた若いオペレーターは、天下のBLITZの、それも戦闘部隊の要の総隊長の扱いと、オペレーターの態度に困惑していた……
若いオペレーター
「……あ、あの……今の総隊長殿ですよね?……何時もあんな感じなんですか?……」
オペレーター
「いちいちあんなのに対応してたらキリがないわよ、あなたも早く慣れないとね」
また能面の様な笑顔で答える
若いオペレーター
「……はっ、はい……」
副隊長室の扉前
何やらゴソゴソと不穏な動きの京介……
……大抵ろくな事を考えて居ない……
副隊長室内
ソファに来訪者が座り、静かに飲み物を飲む……
秋浩は窓に背を向け、腕組みをしながらコーヒーを口にする……
副隊長室の扉が開く……
サンバのダンサーの様な手のひらを上にあげた両手を開き、腰をくねらせ微動だにしない陽気なポーズ……
顔にはボディビルダーの様な異様な笑顔……
……秋浩は今自分の目に何が映っているのか理解出来ないまま、扉が閉まる……
再び扉が開き、京介が陽気な声で入室する
秋浩は1連の状況を把握仕切った時、額に血管が浮き出る……
京介
「やぁやぁやぁwおはよう秋浩くん❤」
秋浩はコーヒーを口元から離さず言う
「……朝から陽気なご登場やのぅ!!」
怒りはしていないが、総隊長らしからぬいつもの登場に頭を悩ませる……
京介
「いやぁwはっはっはっ!何?隠密部隊の子に吹っ掛けたって?wwwアホだなぁwあいつらw」
秋浩
「まぁ周知させてねぇからなぁ……仕方ねぇよ……唯まぁ、俺が居たからすぐ収まったけどよ……そろそろ何かは言っといて良いんじゃねぇか?」
京介
「まぁ、何かは言っとくわw……それよりw」
京介はソファの来訪者に向かって視線をズラす
アメリカンコメディアンの様にソファになだれ込み、大袈裟に足を組み、来訪者の肩に手を回しながら言う
京介
「まぁぃブロぉ〜!w元気だったかぁい?www会いたかったぜぇい!w」
来訪者は反応しないが、満更嫌でも無さそうだ
秋浩は慣れたもので、別段反応もなくコーヒーを飲んでいる
京介
「お前はどの子だぁい?w」
京介がフードの中の頬に優しく手を伸ばす
来訪者は嫌がる素振りも拒絶もせず、京介の顔を見たままなすがままにされる
京介
「おうおうwクラッカーくんじゃないですかぁwよく戻ってくれたねぇw」
まるで大型犬を可愛がる様に頬をスリ寄せ、頭を大袈裟に撫でる
京介
「ありがとうな……無事に帰ってくれて……」
秋浩自身、隠密部隊が居るのは理解しているが、人員までは把握し切れてない
何人居て、どんな能力か、どんな身体か……
それを全て把握しているのは、京介だけ
実際に手を差し伸べた本人だけだ……
ただ共通しているのは、衣類が皆フード付きの物を着用している事だ
顔を見せたくないのか、はたまた周りを見たくないのか、皆共通して目深にフードを被っている……
秋浩が言う
「そのフードくんには少し怖い思いをさせちまったけどな……まぁうちの隊員もこれで理解しただろ……」
秋浩の言葉を聴きながら、フードの中の頬を両手で捏ね撫でながら京介が言う
京介
「ごめんなぁw怖かったなぁw俺ん家知ってるだろ?w遠慮なく家来て良いんだからなぁw」
京介になすがままにされながら
来訪者、クラッカーがゴソゴソとファイルを京介に差し出す
京介がそれに気付く
片手で受け取りながら礼を言う
撫で回すのを辞め、ファイルに目を通す
無表情で読み進める
……パタンとファイルを閉じ、クラッカーに視線を戻す
その顔は慈愛に満ちた笑顔のまま
京介
「ありがとうなw」
クラッカーは小さく頷く
京介が続ける
「こんな時間にありがとうなw後はゆっくり休もうぜぃwどこか希望のとこあるか?w」
クラッカーが手のひらを京介に見せる
何も無い手のひらから、クリスタルの像のミニチュアが現れる
教会の像
京介が何かを察し、クラッカーに話す
「教会?w良いよw場所は覚えてるか?w」
クラッカーが頷く
フードを撫でながら京介が言う
「そかそかw偉いぞうwんじゃ行っててくれるか?w後で俺も顔出すからなw」
クラッカーが頷く
立ち上がろうとするクラッカーに京介が声をかける
京介
「……あっ、コレ、シスターに渡してくれよw後で顔出しに行くからってw」
受け取って小さく頷くとクラッカーはまた消える
初めから何も無かった様に
残るのは飲みかけの紅茶とミルク
秋浩が口を開く
「クラッカーって?」
京介
「……アイツ拾った時に食ってたんだよ……好きだったのかそれしか無かったのか……名前が無かったからクラッカーってつけた」
秋浩
「口……聞けないんか?」
京介
「あぁ……声帯と喉焼かれてた……」
秋浩
「教会って?……アレか?暴力シスターのとこか?」
京介
「あぁw……アイツは子供には聖母マリアだからなw……俺らには魔王だけどwww」
二人の淡々とした会話……
必要な事を確実に交わす
……二人の能力者の信頼が見える会話……
秋浩
「何渡したん?」
京介
「備品とか経費とかw要は俺のポケットマネーw」
呆れた顔で秋浩が鼻で笑いながら言う
「……はっ……またそうやってお節介な真似を……」
京介
「いいじゃねぇかw別にお前に出せって言ってねぇんだからw」
秋浩
「それがお節介だって言ってんだよ!俺にも出させろ……後で送っとくわ……」
京介程感情を顕にしない秋浩の不器用な思いやり
京介はそれに礼を言う
「ありがとうなw」
秋浩
「ところでさっきのファイルって何よ?」
京介
「あ〜……一応気になって調べてたんだけどなぁ……元BLITZの除隊者の一人がなぁ〜……」
ため息混じりに続ける
「……隊員狩りしてるみたいなのよねぇ……」
秋浩が驚く
「隊員狩り?そんな報告は受けてないぞ!……」
京介
「あぁ、日本じゃないのよw海外w」
秋浩
「……」
京介
「なんか向こうのBLITZが軒並み重症で再起不能にされてるらしいのよw」
秋浩
「そんな事になってるんか?」
京介
「そうそうwしかも小隊長クラスもやられてるんですってw」
秋浩
「なかなか笑えんなw」
京介
「だろ?wんで、詳細を調べてたのよw」
「複数点在する拠点と、まぁ後は主要な実行犯とw」
秋浩
「向こうの支部の仕事じゃねーのか?」
京介
「……なんだけどねぇwお釣りが来たから俺たちが動くのよw……めんどくせぇ……」
秋浩
「……支部もなぁ……場所によっちゃなあなあだからなぁ……」
副隊長室
「そういえば……お前居るのに紗夜ちゃん居ないな?いつもお前より早くきてんのに、どうかしたんか?」
その問にニコニコしながら京介が答える
「ん?……あぁw休みだよw、正確にはしばらく好き勝手に来たり休んだりして良いって言ってんのw」
また思い付きで……と言う顔をしながら更に聞く
「なんかあったんか?」
京介
「ん〜w、もう1人来てたんだよw隠密部隊の子wそっちを任せたw」
タバコを咥えながら紗夜と言う人間の事を考え、秋浩が言う
「まぁ……紗夜ちゃんなら大丈夫だろ……」
夜千与家
静かな朝、先程のひと騒動の後、比較的ゆっくりした時間が流れた
鼻歌混じりに朝食を準備する紗夜
相変わらずベッドの横に蹲り、フリージアを顔に当てている少女……
横目に見ながら朝食をテーブルに並べる
全てを並べて少女に声をかける
紗夜
「一緒に食べよう?w」
少女はゆっくり立ち上がり、紗夜に支えられてテーブルにつく
変わらず紗夜は少女の横に陣取る
頭を撫でながら食べる様に促す
昨夜とは違い、フリージアの一輪挿しをテーブルに置いて食事の準備をした少女に
紗夜は関心と賛辞を述べ、再び頭を撫でる
しかし、食事を取らず紗夜を見つめる
ハッとする紗夜
ごめんと言って、笑いながら食べようかと紗夜も食事をする
そうしてようやく少女も口に運ぶ
とても静かで穏やかな時間が流れる……
紗夜は、時間をかけてゆっくり食事をするのは何年ぶりだろうかと考える
少女はこんな時間を過ごした事があったのかと……
自分は総隊長秘書……休みも取れるし買い物も出来る……
そんな……そんな当たり前の日常が、この少女にはない……
……紗夜は考えるのを辞める
また昨夜の様になってしまうと頭を振る……
その姿を少女が見つめていた
紗夜はしまったと考えたが、極力それを顔に出さない様にした……
……少女は何かを口にする事は無かったが
紗夜の服の裾を掴んでいた……
……感情も、生きる理由も無くした少女の精一杯の思いやり……
紗夜は身体を密着させ、食事に妨げにならない様、片手で裾を掴んでる少女の手をしっかり握った……
目に涙を滲ませながら、笑顔で静かに食事をする……