ANGEL WALTZ 作:とくめい
アメリカ、ミシシッピ川の畔に、大柄で頑強な男が佇んでいた
川の流れをただ見つめ、物憂げな表情で、何かを耽るように
そこに小さなボールが転がってくる
男に当たり止まる
男はボールを掴み、転がって来た方向を見上げる
小さな女の子が、男を警戒しながら立ち尽くしている
男は微笑みながら、そのボールを差し出す
女の子は恐る恐る近寄り、そうっとボールに手を伸ばし、受け取る
ハニカミながら、「ありがとう…」と伝えた
その言葉に、男はポケットからチョコレートバーを少女に渡し、「気をつけて遊びな」と言うと、少女の頭を撫でた
撫でるその手は、ズタズタに傷付いていたが、大きく優しい手をしていた
走り去って行く女の子を見送り、立ち上がると、軽くホコリを払い「……さて、行くか……」そう呟いた
BLITZアメリカ支部
総隊長室
ジェシカと京介が出かける準備をしていると、総隊長室の扉が開く
なんだろうと二人が開いた扉に目をやると、小柄なアジア系の、少女と言っても差し支え無い女性が立っていた
メガネをかけ、赤毛のショートカットに、サイズの合わない白衣を着ていた
それに気が付くジェシカが声をかける
ジェシカ
「……アンタ科学班の、えーと……」
「アン・エイリアスですよ!いい加減名前覚えて下さい!!」
身長とは裏腹な、その好戦的な声のトーンに、京介は近親感を覚えた
ジェシカ
「悪かったって、そんなに怒らなくても良いじゃ無いかw、急にどうしたんだい?」
そう言うジェシカにトコトコと歩み寄り、タブレットと紙の資料を渡す
アン
「キャンディから預かって来ました、全く、通り掛かっただけなのに!お使いみたいな事させられて!これでも忙しいんですからね!」
凄まじい剣幕に、ジェシカは動じず、テーブルに残ったドーナツを差し出しながら、お礼を言った
ジェシカ
「悪かったよ、ありがとうな、ドーナツ食べるかい?」
アン
「食べますよ!」
ドーナツの箱をひったくると、プリプリと怒りながら通路を歩いて行った
その様子を笑いを堪えて見ていた京介に、ジェシカが話しかける
ジェシカ
「アレはアレでいい子なんだよ」
京介
「だろうなwうちにも似た様なのいるから、わかるわw」
そう言いながら受け取ったタブレットを見始める
その中には、ルーインの記録が消されている事や、閲覧出来ない記録があったと記されていた
そして紙の資料には、消去された記録の復元をアンに依頼した事と、その内容が記されていた
ジェシカ
「やっぱり可愛い所があるねぇ……」
ルーインの死亡記録、水星の任務から戻った後の記録、ルーインが無気力になった時の前後から、死亡するまでの足取り
ジェシカはそれを見ると、目頭を抑えながら苦悶の表情を顕にした
京介がその資料を手に取り、まじまじと見つめ、口を開く
京介
「さっきの子がやってくれたのか?wだからなんでそんな仕事が早ぇんだよw」
「まぁとりあえず、これは後で考えようw今は先にゲインの家に行こうぜw」
その言葉に数秒止まり、「そうだね」と返事をし、外に向かった
ゲイン・J・トンプスンの自宅は、アメリカ支部から30分ほどの所にある
そこそこ栄えてる街の外れに位置している
そこに車で向かう二人、車内でゲインの状態を話し合っていた
京介
「怪我の度合いとか、やられた時の状況って?w」
ジェシカ
「発見当時はそりゃあもう酷いもんさ、完膚なきまでに叩きのめされてたね、身も心も」
その答えにさらに京介が続ける
京介
「療養してから家には行った?w」
ジェシカ
「あぁ、1週間くらいしてからかな?、全治半年って言われてたから、うんうん唸ってたよ」
それに対して京介が少し考え込む素振りをする
少しして、口を開く
京介
「ゲインはもしかしたらBLITZ狩りの正体をわかって無いかもしれないw」
ジェシカはそう言われて動揺する
ジェシカ
「……ゲインの共犯の線は薄いって?」
京介
「う〜ん、とりあえず共犯だったら、そこまでボコボコにされないだろうしw全治半年、まして能力者をそこまで叩きのめすのは、流石に芝居だとしてもなぁ?w」
「さっきの医療記録もそうだけど、相手はBLITZを本気で叩きのめしてるんだよなぁw」
改めてそう言われると、確かに腑に落ちない
ゲインの容態も、怪我の具合も、総副班長が確認をしている時点で、信憑性がある
ジェシカ
「……副班長が共犯の線は?」
京介
「無いねw」
即答する京介に、ジェシカがさらに聞く
ジェシカ
「即答だね……何か根拠が?」
京介
「あのキャンディが総班長だからだよw、あの子はああやって、気も回るし目も鋭いw、それに、ナリが破天荒なだけで、信用もあるだろう?w」
確かに、医療班の総班長は、なるだけならいっときでもなれる、しかし班員の信用や医療技術が伴わなければ、その座に居続ける事は出来ない
京介
「それにさw背中任せる隊員信用しないで、何が総隊長よ?w」
最後の言葉にジェシカが目を丸くし、思わず吹き出す
ジェシカ
「……ッッ……ハッハッハッ、確かにwつくづくアンタには当たり前の事を再確認させられるよ、確かにその通りだね」
ジェシカのその笑顔を見ながら、満足気にカフェラテをすする京介
隊員を信頼出来なければ、総班長は務まらない
それをジェシカは改めて認識した
そうこうしてるうちに、ゲインの自宅近くまで到着する
モダンな様式のクラシックなアパートだ
京介
「なかなかオシャレな住まいだねぇw、ゲインはずっとここで?w」
ジェシカ
「いや、高校を出てからこっちに引っ越したらしいよ、ルーインはまた別に住んでたみたいだから」
京介
「実家近いの?w」
ジェシカ
「確か……ミシシッピーだったような気が……」
京介
「実家もオシャレだなw」
そんな雑談をしながら、ゲインのアパートに赴く二人、京介が疑問をジェシカ問い掛ける
京介
「そう言えば、アメリカ支部の小隊は呼ばないのか?w」
ジェシカがそれをいなす様に答える
ジェシカ
「間違いがあったら嫌だからね、あくまで私の独断にしておきたいんだ」
「アンタも自分の部隊に怪我させるの嫌だろ?」
それを聞き、京介が顔芸込みの笑顔で返事をした
ジェシカも、京介でも同じ事をするんだと分かり、少し安心する
ジェシカが呼び鈴を鳴らす
しばらく待つが、返答が無い
もう一度鳴らす、それでも返答が無く、二人が顔を見合わせる
ドアノブに手をかける
「……開いてる……」
警戒しながら二人が室内に入ると、人の気配が無い
だが今まで居た形跡はある
整った内装、一人暮らしの割には、小綺麗に整理されている室内
テレビが点き、食事をした形跡があった
ジェシカ
「……コンビニでも行ったのかね?」
そう言うジェシカに、寝室から京介が否定する
京介
「多分違うなぁ……w」
その声を聞き、ジェシカも寝室に入ると、そこには血痕があった
争った形跡は無いが、ベッドと床に、ベッタリと血痕が張り付いている
ジェシカ
「これは……」
最悪の想定をするジェシカに、否定するように京介が話す
京介
「多分無理に動いて傷が開いただけだろw、見てみろよ、手当した形跡もあるw、けど問題は、その怪我を押してどこに行ったか、だなぁw」
部屋に入ったら、ウンウン唸って土産をせびるゲインの姿を想像していたジェシカ
しかし自分の理想とはかけ離れた室内に、思考が一瞬止まる
京介が肩に手を置き、ジェシカの心配を払拭しようと声をかける
京介
「とりあえず外行こうぜwここで困ってても心配は無くなんねぇからよw」
その言葉に力無く頷き、二人が外に出る
京介は室内を見回し、テーブルの上にある書類に目を止めた
それを掴み、ゲインの自宅を後にする
アパートの前でうずくまるジェシカ
余程心配なのだろう
そんなジェシカに待ってろと声をかけ、一人京介がどこかへ歩いて行った
思い詰めた表情で、ボソリと呟く
ジェシカ
「……アンタはどっちなんだい?……」
ゲインが裏切り者なのか、それともただBLITZとして狙われただけなのか、ジェシカは判断出来なかった
本当に裏切り者だったら?
そんな不安がジェシカの心を覆う
[背中任せる隊員信用しないで、何が隊長格よw]
さっきの西島のセリフが思い出される
頭を振り、悪い気持ちを切り替えようとしたジェシカに、戻って来た京介が炭酸水を手渡す
京介
「喉乾いたから、お前の分も買ってきたw」
それを受け取りながら、少し呆れたような、ホッとしたような表情で礼を言うジェシカ
ジェシカ
「……あんた本当にマイペースだよねぇ」
そうか?と炭酸水を飲みながら答える京介に、何となく温かさを感じる
京介
「さてさてwそれならゲインはどこに行ったのかしら?wと」
そう言いながらタブレットを取り出し、近辺の地図を表示させる
ジェシカ
「近くに居ると思う?」
京介
「多分居ないw車庫に車も無かったしw」
地図を見ながら京介が答え、ジェシカもそれを覗き込む
立体に切り替え、地図の範囲を広げ、先程持ってきた書類と見比べながら、アメリカ支部の隊員が襲撃された場所をポイントしていく
ジェシカ
「その書類は?」
京介
「ん〜?、さっきテーブルの上にあったの持ってきたw」
ジェシカ
「……アンタ……」
少し呆れながら、何かゲインの手がかりにでもなればと、藁をも掴む思いでその書類に目をやる
書類を手に取り、まじまじと読み進める
近辺の地図と、襲撃箇所、それとゲインの筆跡で何か考えをまとめるように殴り書きがしてあった
[ghost?(亡霊?)]
そう書きとめてある
意味が分からないが、ジェシカの中に確信めいたものが湧く
地図を見ながらジェシカに聞く京介
京介
「この襲撃箇所の多い所ってなに?w」
ジェシカ
「その辺りは治安があんまり良くないんだ、けど、教会や子供の保護施設があるから、BLITZの特殊部隊やうちの攻撃隊が、ちょっと頻繁に見回ってるんだよ、襲撃の数が多いのはそのせいだよ」
その話を聞き、少し悩みながら考える京介に、ジェシカが話しかける
ジェシカ
「……そこになんかありそうなのかい?」
京介
「いや、わからんから行ってみても良いかな?って思ってるだけw」
呆れ顔で京介を見つめるジェシカ
京介
「とりあえずまぁw手がかりも無いし、行ってみようぜw運良く襲われればそれも良しw」
そう言う京介の言葉に、一瞬呆れはしたが、それもそうかと賛同する
ジェシカ
「……まぁ、とりあえず行ってみようか」
二人がゲインの自宅にいた時、そのゲインは車を走らせていた
血の滲む包帯、息が荒く辛そうにしている
しかしその目には確かな意思が感じられた
先程京介達が言っていた、襲撃の数の多い区域
教会や児童保護施設がある区画を走っていた
荒廃した風景、ビルや施設がまだ手付かずで、人が住むには手入れが必要な程荒れていた
アメリカ支部の近くとは程遠い風景の場所
大戦時の急激な人口減少で、地球上の全てを復興、開拓するには至らない
こんな風景が地球の至る所にはある
孤児院や養護施設、教会を構えるにはうってつけの場所
広い土地を格安で手に入れ、子供達にも広い遊び場を提供出来る
いつの世も、金銭的にあまり裕福ではないその手の施設には、ありがたい立地だ
荒れた廃ビルの前で車が止まった
ゆっくりと車を降りるゲイン、車のシートには傷が開いたのか、血痕が付着していた
息が荒く、何かにつかまりながらでなければ歩けない程の状態で、無理矢理歩みを進める
廃ビルの中に進むゲイン
硝子の無くなった窓、風通しは悪くないが、淀んだ空気、コンクリート特有のカビ臭さが漂う
それを気にも止めず、今にも崩れそうな階段を登り、ゆっくりと上階に進む
最上階にたどり着き、部屋の扉を開ける
その中には、対能力者用の兵器と、医療班が使用する薬品、少々の医療器具、それと少しばかりの食料
こんな所に何故こんな装備があるのだろうか?
ゲインが隠し持っていたのだろうが、一体何を相手にするつもりなのか
対能力者用兵器は、民間には流通してはいない、それだけ危険なものだからだ
薬品にしても、BLITZの医療班しか持ちえない薬品がほとんど、医療器具も同様に、民間には無いものだ
薬品を無造作に掴み、自身の傷の手当てをする
鎮痛剤を打ち、ようやく落ち着く
ソファに仰け反り、一息ついたゲイン
冷蔵庫から水を取り出し、一気に飲み干す
近くにあった、スコープ付きの対能力者用スナイパーライフルを持ち、ビルの窓から外を見た
何かを確認するように見回し、そのままソファに戻ろうとしたが、何かがスコープの端をチラついたように見えた、それが気になったのか、もう一度スコープを覗く
そのスコープの先には人影が映っている
ボロボロの衣類、傷だらけの顔、手には箱を抱えている
その姿を見た瞬間、ゲインはスナイパーライフルに弾丸を装填する
その人物に向かい、照準を合わせる
息が荒くなり、手が痺れる感覚、冷や汗をかきながら、片時も目を離さない
呼吸を整え、タイミングを見計らっている
対能力者用兵器は、通常の民間の兵器より、はるかに射程距離も威力も高く、非能力者が扱えば、大袈裟では無く腕が吹き飛ぶ
それほど強力な兵器を、躊躇無く人に向けている
それは銃口の先にいるのが能力者と分かっているからだ
手を何度か握り直し、深呼吸をする
そして意を決して引き金を引こうとした瞬間
スコープの先にいた人物がこちらを見た
十数キロ先にいると言うのに、気付かれた
しまったと思った瞬間、ゲインのいたビルが地面に飲み込まれる
10階建てのビルが、1階の平屋になった
命からがらビルから飛び出したゲイン
地面に転がり、危うく飲み込まれるのを躱した
息が荒いまま、先程の方向に目をやる
先程の人物が目の前まで迫っていた
その姿をじっくり観察するように見る
傷だらけの顔、日に焼けた肌、白くなった頭髪、大きな身体
全て見覚えのある容姿
ゲイン
「……親父ぃ!」
死んだはずの前総隊長、自身の父親でもある、ルーイン・J・トンプスンが目の前に立っていた
ゲインは驚いてはいなかったが、その瞳には、困惑と戸惑いが映っている
ルーイン
「……やはりお前が追いかけて来たか……」
ゲイン
「俺を襲った時に詰めが甘かったな!!」
何故かルーインはこうなる事が分かっている口ぶりだ
表情は変わらず、何を考えているのか分からない
ルーイン
「最後だ、このまま帰る気はないか?」
慈悲をかけ、ゲインに戻るよう促す
しかしゲインは動かず、ルーインに問い掛ける
ゲイン
「何故BLITZを襲った!何故わざわざ死を偽装した!」
ルーイン
「……答える気は無い、残念だよ……」
そう言った瞬間、先程のビルと同じように、地面がうねりながらゲインを飲み込もうとした
だがゲインは自らの能力を使い、それを無理矢理拒絶する
ゲインの能力は木属性、大地の恵を己の力に変える
ゲイン
「聞きたい事が山ほどあるんだ!それを聞くまでは大人しくしてやる気は無いぜ!」
ルーイン
「俺の能力は嫌と言う程知っているだろう?お前は相性が悪い」
そう言うと、ゲインの能力で成長した樹木が、見る見るうちに枯れていく
大地が木々の水分を吸い取って枯れさせて行く
それでも怯まず、何かの種をポケットからばら撒き、能力を使い成長させる
ツタを絡ませ、ルーインの動きを止めようとするが、能力を孕ませたツタを単純なフィジカルのみで引きちぎった
ルーイン
「まだ手品を続けるか?」
総副隊長と言う言葉が、凄まじく軽く感じる
前総隊長とは言え、これ程迄に力の差があるのかと驚愕する
ゲイン
「……手品かどうか、まだ分からねえぞ!」
「親父ぃ!何があったか話してもらうからなァ!」
そう叫ぶゲインの足元から、まるで生き物のように木々が蠢き襲いかかる
感心する様にそれを眺めるルーイン
蠢きながら、ルーインに狙いを定め、鋭い木々が襲いかかる
数、大きさ、どれほど余力があれば、辺り一面を覆い尽くす程の木々を生み出せるのだろうか
明らかに意志を感じるその樹木は、迷う事なくルーインに狙いを定めた
しかしそれがルーインに届く事は無かった
目の前で、全て枯れ落ち朽ち果てた
その光景に構わず、ルーインを睨みながら膝を付くゲイン、息も荒く、出血も酷く、力無く膝を付いた
明らかに能力を使い過ぎた、アメリカ支部の総副隊長が、それほどまで決死に対峙したにも関わらず、目の前の亡霊にかすり傷ひとつ付ける事は叶わなかった
ゲイン
「……ちくしょう……やっぱり……勝てねぇか……」
すべてが枯れ落ちた後、ルーインは汚れた手元を軽く払った。
そこには憐れみすらなく、ただの日常の一部のように淡々とした視線がゲインに向けられている。
ルーインがゆっくり近づいてくる
その大きな身体の重量を、大地に落とし込むような足音
規則正しい砂の音を聞き、最後かと覚悟を決め、目を閉じながらトドメを待つ
頭に感触を感じる
二、三度ガシャガシャと頭を擦られたあと、静かになった
しかし、そこから何もされる気配が無い、いくら待っても何も無く、怪訝に思い目を開ける
そこには、懐かしい表情のルーインが立っていた
何も言わず、何もしない、だが子供の時に見た[父親]の顔がそこにはあった
錯覚か、走馬燈か、そんな事はどうでもいい
見たかった顔が、もう一度見られた
ゲインは微笑みながら倒れた
出血と、能力の使い過ぎによる疲労で、意識が保てなかった
ルーインは静かに倒れるゲインを、しばらく見つめていた、そう長くない時間だが、気が済んだのか歩き出そうとした時、息を飲む間もなく、背後からジェシカが飛び込んでいた
その首元へ、鋭いマチェットの刃が真一文字に薙ぎ払われる
――かに見えた。
だが、激しい轟音と共に足元の地面が吹き飛ぶ。
突如発生した砂柱がマチェットの軌道を変え、奇襲を仕掛けたジェシカの体ごと吹き飛ばした。
頭を掻きながらため息を付くルーイン
何かを考えながら振り向く
ルーイン
「……今日は随分懐かしい顔ぶれに会う日だな……」
吹き飛ばされたジェシカを見ながら、ゆっくりと口を開く
その言葉に敵意を剥き出しで答えるジェシカ
ジェシカ
「ルーイン!!なんで……なんで死んだアンタがここに居る!」
珍しく激高するジェシカに、ルーインが話す
ルーイン
「言う必要は無い……」
ジェシカ
「アタシにも、何も言えないってのかい!」
ジェシカの叫びにすら、ルーインは無言で対応する
それが余計に怒りを煽る
ジェシカ
「アンタにとって!アタシ達はそんなに安いって言うのかぁあああ!!」
咆哮とも取れるジェシカの叫び、自身の能力を発動させる
金属性のジェシカは、錬金術のように金属を精製できるが、それ以外にも電気自体を操れる
夜千与紗夜と同様、神経伝達信号の増幅により、尋常では無い筋力とスピードを実現する
[目に映らない速さ]でルーインに襲いかかる
ルーインの眼前にマチェットの刃が迫る
瞬きもせず、それを目で追うルーイン
ジェシカも仕留めるつもりで攻撃をする
だが先程と同じで地面に阻まれる
ジェシカの身体を砂が絡め取り、微動だに出来ない
そのままジェシカを再び吹き飛ばす
怯まずルーインを攻撃するジェシカ
何度も何度も何度も
その度吹き飛ばされては攻撃をする
何度目かの攻撃、ジェシカは動きを止められた瞬間、ルーイン目掛けて雷を落とす
数万ボルトの雷が、ルーインを襲う
硝煙と火花が散り、視界が白く焼ける。しかし、晴れた先に見えたのは、身体をわずかに焦がしながらも、意に介さない様子で佇むルーインの姿だった
ゆっくりと首を傾げ、焦げた肩を払う動作は、ジェシカの渾身の雷撃を、あたかも服の埃を払うかのように無造作に見せていた。
自分もまた総隊長にまで昇り詰めた身、それなのに、前総隊長との間には、言葉すら失うほどの圧倒的な隔絶がある。
「自分こそがアメリカ最強だ」と信じて疑わなかった。
自分がいれば、この国の平和は揺るがないと。
だが、目の前の前総隊長は、そんな彼女の自負を粉々に打ち砕くには十分すぎた。
力の差を突きつけられた絶望が、ジェシカの全身を冷たく侵食していく。
それと同時に、何故わざわざ死を偽装し、BLITZ狩りをしていたのか、疑問が膨らむ
ジェシカ
「……なんでそんなに強いのに……わざわざこんな事を……」
恨めしそうにルーインに問い掛ける
その表情を見つめ、ゆっくり口を開く
ルーイン
「……お前達は、先を生きる、だがそこにBLITZは必要無い……」
ジェシカ
「……理由になって無いんだよ……アンタが、アンタが死んでまでやりたかった事が!!アタシ達を裏切る事かぁあああああ!!」
ジェシカを中心に、広範囲に雷が暴れた
何百万ボルトと言う電流が、所狭しと暴れ続けた
電気を帯びた物は熱を持つ、帯電し、金属は溶け、磁気を帯びる物もあったが、その形を保てず砕けた
周囲の地面は高熱で硝子質に変質し、足元の砂がパチパチと弾けて跳ねる
怒りの雷鳴が、ジェシカの精神の破綻を告げるかのように、周囲を破壊し尽くした。
それほど凄まじい威力の電撃でも、ルーインは眉ひとつ動かさずに佇んでいた
身体は焦げ、煙が出る程熱されても、その強さと共に揺るぎないと示すように
能力を使い過ぎ、身体が限界を迎える
息が荒くなり、意識が朦朧とする
ルーインはジェシカの拘束を解き、ゆっくり近づく
それに気付き、ルーインを見上げる
ジェシカ
「……アンタは……なんで……」
そう言うとそのまま倒れ、気を失った
その姿を無言で見つめ、上着を被せて身を翻す
倒れたジェシカの顔をルーインは一瞬だけ、本当に一瞬だけ――何かを言い淀むような、複雑な眼差しで見つめた。
だが次の瞬間には、いつもの仮面のような無表情に戻る
京介
「あーららw自分の部隊に厳しい事でw」
唐突に軽薄な声が響く、ルーインはすぐには振り向かなかった。
ゆっくりと振り返ったその瞳には、先ほどまでの複雑な感情など微塵も残っていない、冷徹な仮面だけが張り付いていた
そのルーインの変貌の速さに、京介はどこか呆れたように見つめていた
ルーイン
「……お前は一体……どこの部隊だ……」
京介
「本部の攻撃隊総隊長ですよw先輩w」
ルーイン
「お前が五条司の後釜か……見事だ、気配の欠片も感じなかった……」
飄々とした雰囲気とは裏腹に、気取らせずに自分の傍まで近寄った事に、素直に賛辞を送る
それを素直に受け取り、続けて話をする京介
京介
「何故わざわざ偽装までしたんです?w」
ルーイン
「……俺が生きてるままだと、BLITZに気取られ、怪しまれる……」
ジェシカやゲインとは違い、素直に自分に話をするルーインに、何故だと疑問をぶつける
京介
「さっきとは違って素直に話してくれますね?w」
ルーイン
「お前には本気を出さないと負けるだろう……」
予想しない答えに、京介が目を丸くして続ける
京介
「そんなに評価してくれてるなんて、ありがたいですねぇw」
「それじゃあもう1つwなんでBLITZを壊滅させたいんです?w」
今回のBLITZ狩りの核心、どんな答えだろうと、ルーインを止める為に必要な答え
ルーイン
「……BLITZは、助けを求める者を、利用価値の有無で捨てた……そんな腐った組織なんぞ、無い方が良い……」
その答えに表情を変えず、しかしまっすぐ目を見て返す
京介
「どこにもあるんですねぇw、確かにそんな組織、無い方が良いですよねぇw」
京介の答えに少し驚いたルーインが、戸惑いながら京介に言う
ルーイン
「ならそのまま二人を連れて帰ってくれ、お前と拳を交えたくは無い……」
京介
「ちょっとそれは難しいですねぇw、アンタ死ぬ気でしょ?w
「だから今のアンタを野放しにしたくないんですよw」
ルーインはその言葉に、一瞬だけ――身体の芯が冷えるような動揺を見せ、小さく身を強張らせた。
だが、次の瞬間には何事もなかったかのように、氷のような仮面の下で淡々と京介の話に耳を傾ける。
京介
「俺もBLITZなんかどうでもいいんですよw俺の邪魔さえしなければw」
「もし俺の邪魔をするなら、BLITZと戦争になっても良いw」
そこまで聞くと、京介に提案をするルーイン
ルーイン
「ならばお前も、俺と一緒にBLITZを壊滅させる為に、手を貸さないか?」
その誘いに、大笑いする京介、まさか誘われるとは思わなかったと答える
笑いすぎでゼーゼー言いながらルーインに話す
京介
「いゃあw頼もしい提案ですけどwそれはできませんねぇw」
ルーインはそれを無言で聞いている
西島京介と言う男が、何を考えているか分からない
クリムゾンインパクトで唯一生き残り、五条司の跡を継ぎ、総隊長の任に付くほどの強さを持っている
「アンタが憎いのはBLITZだけで、隊員は可愛いんでしょ?そこの二人にトドメを刺そうとしなかったw」
「アンタが死んだと思ったその二人は、アンタに対して本気で泣いたと思うんですけどw」
ルーイン
「……巻き込む訳にはいかない、俺たちより未来を生きる人間だ……」
京介
「良くも悪くも、アンタが良かれと思った方法は、その二人の傷を広げたんですよw」
京介のその言葉に、一瞬怯む
言われずともわかっていた、手塩にかけて育て、BLITZの在り方を説いたこの二人に、計らずも大きな傷を残してしまった
唇を噛み、悔しそうな表情をするが、すぐさま取り繕い反論する
ルーイン
「……それでも……先に生きる者の未来を、何と思われようと、どれほど疎まれようと、示さなければ行かんのだ!!」
京介
「なら本部の俺に直接相談して欲しかったですねw、少なくとも、ソイツらを泣かせず、アンタは亡霊でなく、ルーイン総隊長のままで変える事が出来たはずですw」
もちろん、考え無かった訳ではない。
本部の攻撃隊、あの五条司に掛け合えば、多少なりとも状況は好転したかもしれない。
だが、それでも駄目だと思った。
BLITZはあくまでBLITZだ。
組織の根底から覆さなければ、この巨大な腐敗は浄化されない。
内部の改革程度では、溜まりきった膿は無くならないと、彼は信じて疑わなかった。
だからこそ死を偽装し、すべてを捨てて、BLITZを壊滅させるための準備を粛々と進めてきたのだ
ルーイン
「……本部ですら、腐った部分はあるだろう?」
京介
「……だからアンタ一人で背負い込むなって言ってんですよw」
ルーイン
「……舐めるなよ……BLITZに受けた屈辱を!お前一人で!!どう出来ると言うのだぁああ!!」
激昂したルーインの足元から、地面が津波のように京介に襲いかかる
砂の津波に合わせ、ルーインも突進する
しかしそれをヒラリと躱し、廃ビルの上階にしがみつく京介
京介
「危ないっスよw」
ルーイン
「お前がいくら強かろうと!強いからこそ!俺の絶望なぞわかるまい!!」
ビルの上階にしがみつく京介を、砂の津波が追いかける
それを笑顔で躱しながら、話を続ける
京介
「アンタのその責任感の強い所が、良くも悪くもムカつくんすよw、支部だろうが本部だろうが、俺たちは同じBLITZでしょうよw」
構わず京介を付け狙う砂、砂に触れた植物が、瞬時に枯れ果て朽ち果てる
触れたら不味いのを理解した京介は、触れない所でギリギリの曲芸をしていた
京介
「支部の責任くらい、本部におっ被せて見て下さいよw仲間でしょうがw」
ルーイン
「責任を擦り付けた所で!助けを乞いながら死んで行った子供達が!報われるとでも言うのか!!」
京介
「だからそれも含めておっ被せろって言ってんですよwアンタの罪なんぞ、幾らでも背負ってやりますよw」
ルーイン
「俺の人生の4分の1すら生きられなかった子供達が!!涙を流しながら[生]を懇願する!!そんな当たり前の願いすら叶えられん大人なぞ!!……そんな事すらしないBLITZなんぞ!!この世に存在してはならんのだぁああ!!」
迸る怒りと悲哀、その凄まじい熱量に、周囲の空気が焼け付くように震える。
京介はひらりと砂の津波を躱しながらも、その瞳は、変わらず飄々としたままだが、その深淵には微かな悲しみが滲んでいた。
飄々と自身の攻撃を交わし続ける京介に、苛立ちを募らせるルーイン
ベルトに付けたナイフを持ち、地響きのような声で呟く
ルーイン
「唸れ……」
鉄錆色へと変色する。砂としての性質は残したまま、その内側で何かが決定的に変質していた。
他支部にも存在する[動愚]ルーインの死亡偽装とともに消失したと思われていたその遺物は、壊れることなく彼の手元で眠り続けていたのだ。
だが京介は焦りも、驚愕もせずに淡々と地面に降り立った
京介
「こんなもんが奥の手ですかwだから頼れって言ったんですよw、俺を味方に付けた方が、遥かにBLITZに対して脅威になるのにw」
そう言いながら地面を思い切り叩きつける
ルーインは京介が何かをしようとしてるのを見つめる
その刹那、地球上では感じられない熱波が襲いかかる
一瞬怯み、身を守るルーイン
肌が焼け、髪が焦げ、衣服に穴が空くほどの熱風
辛うじて防いだルーイン
その目に映るのは、たった今、京介を襲おうとした自身の能力が、京介のその一撃で焼き切られていた姿だった
[動愚]を使い、確実に仕留められると自信があった
その攻撃を、波打ち際の砂細工の様に易々と無力化されるとは、思いもしなかった
ルーイン
「それほどまでの力を持ちながら!何故BLITZに留まる!!」
そう吠えると、見渡す限りの地面が隆起し、一斉に京介目掛けてうねり出す
包み込まれた京介は、静かに沈黙するが、次の瞬間にはルーインの眼前に居た
京介
「アンタみたいな死にたがりが居るからでしょうがぁあああ!!」
そう叫びながらルーインを殴り飛ばす
殴られた衝撃で、ビルを三つ程貫通し、最後に叩き付けられた
見事に急所を殴り抜かれ、呼吸ひとつもままならない
「……カヒュッ……」
自身の能力を喰らい続け、無傷で殴り付けるその強さ
身体中の酸素を一気に吐き出され、動けない程の威力で廃ビルに叩き付けられる
廃ビルに叩き付けられたルーインに向かい、ゆっくりと歩み寄る京介。
(吹っ飛ばし過ぎたw)
(これ程の差があるとはな……)
敵意など無かった。いや、初めから殺し合いなど望んでいなかったのかもしれない。
(この男になら、いっそ殺されても仕方ない)
――ルーインはそんな風にさえ考え、目を閉じた。
だが、実際は違った。
ガサゴソと気配を感じる、しかし待てど暮らせどトドメを刺す様子がない
怪訝に思い目を開くと、京介は倒れたルーインの横にぺたりと座り込み、おもむろにタバコに火をつけて一息ついていた。
底知れぬ余裕。
底なしのお人好し。
そして常軌を逸した強さ。
これが、今の本部の攻撃隊総隊長。
クリムゾンインパクトの、たった一人の生き残り。
ルーイン
「……お前……手加減したな……」
京介
「……んふふっw……言わないでおきますw」
諦めた様子のルーインと、単純に休憩をする京介
一連のBLITZ狩りの結末が、こんな形で幕を閉じるとは誰も予想しなかっただろう
京介
「……アンタが子供に情をかける気持ちもわかる……助けられずに悔やむ思いも……だからこそ、俺たち本部の攻撃隊に一言かけりゃ済んだんですよw」
京介の言葉を、静かに聞くルーイン
動きたくても動けないと言うのが本音だろう、先程自分を吹き飛ばした一撃は、正確に急所を打ち抜いていた
京介
「……BLITZの中でも、俺は疎まれてるんでw」
「俺はアンタが死んだ3856年にはまだ隊長じゃ無かったけど、次の年には総隊長になったんですよ……それから一度でも、うちの隊で殉職者を出した事は無いっすねw」
ここまで実力差があれば、言っている事も信ぴょう性が高い
この総隊長の言う通り、やり方を間違えてしまったのかと、今更ながら呆れた
ルーイン
「……お前に……もっと早く出会っていれば……この結果は変わっていたか?……」
その問に、タバコを一息吸い、ゆっくりと煙を吐きながら答えた
京介
「勿論余裕ッスねぇw」
その屈託のない笑顔を見たルーイン
懐かしくも見覚えのある雰囲気、前総隊長の、五条司の姿が重なる。
ルーインは「ふんっ」と小さく鼻を鳴らすと、それ以上は何も言わなくなった。
タバコを咥え、思い出したようにジェシカとゲインの所に向かう
二人を抱え、丁度建物の陰になっているゲインの所に運んで来た
運んでいる途中に、二人に辛うじて意識があるのに気がついた
意識が戻ってはいるが、ゲインは出血が酷く、ジェシカは虫の息
ドサリと二人を寝かせると、またどこかに歩いて行った
ジェシカ
「……」
ルーイン
「……すまなかった……」
ジェシカ
「……アタシを……トドメを……刺さなかった……」
ルーイン
「……殺すつもりは無かった……」
ジェシカ
「……アンタもアイツと一緒だよ……」
言葉が少なく、他愛もない二人の会話、しかし一度でも絆で結ばれた攻撃隊の中で、多くは必要無いのかも知れない
ルーインと西島の会話は、ジェシカとゲインの二人にも聞こえていた
それ故多くは語るまいと、ジェシカの気遣いなのだろう
それに西島京介が、黙っていてもヘラヘラ話を聞かせてくれる
そう考えていた
京介
「あったあったw」
そう言いながら京介が箱を抱えて戻って来る
先程ルーインが抱えていた箱を、わざわざ探して見つけて持ってきた
京介
「中身無事だと良いなぁw」
おどけて見せながら箱を開ける。
中には菓子や衣類、子供用の玩具や勉強用の参考書が、ぎっしり詰め込まれていた。
それを見た京介はニヤニヤと笑みを作り、「やっぱりなw」と呟きながら、ルーインの隣にそっと置く。
からかうようにルーインの横顔を見る京介。 その笑みの意味がわかってしまうルーインは、何も返さない。
数秒の沈黙の後、向き直り、ジェシカに声をかける
京介
「通信機、持ってる?w」
話すのが辛いのか、ジェシカが小さく頷き、通信機を取ろうと動けない手をもぞもぞと動かすのを、京介が手で制する。
器用に彼女のポケットへ手を入れ、通信機を探り当てると、ジェシカに向かって言った。
京介
「医療班、呼んでも良いだろ?w」
その問いに辺りを見回し考えたが、自身も満身創痍、ゲインも重症、ルーインも京介による攻撃で動けない
支部の医療班を呼ぶのも、いたし方ないと頷いた
BLITZ狩りの犯人が、まさかの戦死した総隊長、これをどう報告すればいいのか
何より、ゲインはこの事に気付いていたのか?
自宅にあったメモは、おおよその目星をつけていたように見えた
聞きたい事は山ほどあるが、そんな事を聞けるコンディションでは無い
今はただ、傷を癒すことを考えよう
そう思ったジェシカは、そのまま意識を手放した
数時間後。
ジェシカは静かに目を覚ました。
(……ここは……アメリカ支部の医療センター?)
ぼんやりとした視界で周囲を見渡し、彼女の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
白い天井。
しかし、見慣れた医療センターの無機質な造りとは明らかに違う。
かといって、医療用搬送車の中の揺れや音もしない。
違和感の正体を探ろうと、重い身体を起こそうとした瞬間――。
「痛っ……っ!」
激しい痛みが全身を駆け抜ける。
限界近い出力で能力を使った代償と、ルーインに手酷くあしらわれた記憶が、その痛みとともに生々しく蘇ってきた。
「あ、起きた?、数時間で起きるなんて、支部とは言え、やっぱり総隊長は丈夫なんだねぇ……」
聞きなれないが、明らかに聞き覚えのある声、何故?と言う疑問を抱え、声の方に目を向ける
菜流
「あんまり無理しないの、ひとまず横になってて、まだそんなに動ける程じゃ無いんだから」
その有り得ない人物がそこにいた、本部の医療班総班長、沙耶麻 菜流がいる事に驚愕するジェシカ
「……な……んで……」
その疑問を聞こうと、口を開きかけたジェシカに、菜流が言葉を続けた
菜流
「なんで?って顔してるねぇ、まぁ予想通り、うちの総隊長の命令無視と単独行動の後処理、と言う名の回収業務なんですよぉ」
「それに、BLITZの管轄は地球であって、支部がどこまでとか、本部がどこまでとか、垣根は無いはずだよ?」
菜流の言葉が頭に入らないジェシカは、キャンディの事や、ルーイン、ゲインの事、そして何より京介の事を聞きたかったが、上手く説明出来ず、あやふやな言葉を吐いた
菜流
「副隊長さんはとりあえず医療ポットに入ってもらって、アナタも、そうだなぁ、全治1ヶ月かな?、戦時じゃ無いから能力では治さないからねw」
「……それともう一人は……前のアメリカ支部の総隊長さん?、向こうでアナタと同じ、安静にして貰ってるよ」
ジェシカ
「……なんでここにいるんだ……、うちの医療班は?……」
菜琉がジェシカの聞きたい事を掻い摘んで説明はするが、支部の医療班が見当たらないのが気になり、質問する
その当然の疑問にも、菜流はゆっくりと応えた
菜流
「あの派手な子?、あのメイクはびっくりしたけど、しっかりお仕事してくれて助かったよ、さすが総班長だね」
驚きながらも、医療班の総隊長の風体とは裏腹な仕事ぶりに、賛辞を述べる
そして言葉を続ける
菜流
「一応、うちの総隊長の回収って名目だけど、本部の医療用輸送機持って来ちゃったのはグレーだから、内緒だからね?w」
そう言うと、唇に人差し指を当て、イタズラっぽくおどけて見せた
菜流
「ちなみに何も聞かされて無いんだけど……何が起きたの?」
ジェシカ
「はっ?……」
菜流のその言葉に少し冷静に考えたジェシカ、そもそも医療用輸送機は、大きさの違いはあれど基本的に大型で、大気圏を離れる様な任務の時に出すもので、あまり地球圏で頻繁に飛べる程小型では無い
それを呼び出せる京介の事も然ることながら、理由も聞かずに平然と持ってくるこの本部の総班長にも驚かされる
しかし、裏を返せば今回のBLITZ狩りの件、本部としてもそれ程重要な案件だと認識していた、と言う事なのだろうか
ベッドに横になりながら、掻い摘んで菜流に説明するジェシカ
菜流が真面目な顔で真剣に聞いていると、隣の部屋から派手な声を響かせ、キャンディが入ってくる
キャンディ
「とりあえず副隊長さんのバイタルは安定したし、ルーイン総隊長の処置も終わったよ〜」
菜流
「ありがとう、手際が良くて本当に助かったよ、思ったより早く終わっちゃったね、さすが総班長」
キャンディ
「本部の総班長さんがそれ言う?、でもお世辞でもありがとう」
「けど、手加減しててアレ?、骨はボキボキだし、内蔵が破裂寸前、幾ら前総隊長とは言え、あそこまでって……本部の総隊長さん、何食べたらそうなるの?」
キャンディが総班長になってから、菜流とは初めて会ったはずだが、思いの外仲が良さそうで、少し安心した
だが、キャンディの口にしたルーイン総隊長の事を、どうすればいいのか、今のジェシカには決められなかった
沈んだ顔をしたジェシカに、菜流が口を開いた
菜流
「あとは京介くんが戻ってから、お話しましょうか、多分もうソロソロ戻ると思うけど、タバコ吸いたいって言って出ていっただけだから……」
そんな事を口にした傍から、外からの扉が開いた
京介
「自販機まで徒歩だとキツイなw、おっ、ジェシカ気がついたかw」
相変わらずマイペースな事を言いながら入ってくる京介
こんな惨事の直後に、自販機まで歩いて行った事に、ジェシカも菜流も呆れ顔で見つめた
菜流
「……自販機って……」
ジェシカ
「……もうなんにも言わないよ……」
キャンディ
「アタシの分ある?」
菜流、ジェシカ
(……キャンディ……)
人数分の飲み物をテーブルに置き、ジェシカに声をかける
京介
「しばらく安静だって言われたろw、医療班の言う事は聞いておいた方が良いぞw」
菜流
「京介くん?、鏡見てお話になられていらっしゃる?」
本部の隊員の息の合った掛け合いに、思わずキャンディが吹き出す
そのまま隣のルーインの所に向かおうとする京介、ハタと足を止め、ジェシカにそっと言葉をかける
京介
「とりあえず、この件は本部が預かっても良いか?」
ジェシカは京介の言葉に、一瞬言葉を詰まらせた。
BLITZ狩りの被害者は圧倒的にアメリカ支部の隊員が多く、支部としてのプライドや意地からも、できることなら自分たちの手でケリをつけたい。
しかし、その主犯が死亡したはずの前総隊長ルーインである以上、ジェシカ自身、彼を糾弾することに深く躊躇していた。
襲撃された隊員たちに命の危険(致命傷)がないとはいえ、BLITZの隊員として見逃すわけにはいかない。
かといって、本部にこの件を丸ごと持っていかれるわけにもいかない。
だが、それ以上に――。
恩師であるルーインを、組織の規律ではなく「ジェシカ・アルバロス」という一人の人間として裁くことなど、彼女にはどうしてもできなかった。
ジェシカは、すぐに応える事が出来なかった
黙り込むジェシカに向かって、そっと肩に手を置き、話しかける
京介
「何考えてるか、大体わかるよw、そんなに辛いなら、見なかった事にすればいいw」
「心配すんな、悪いようにはしねーからw」
そう言葉をかけると、隣に向かって歩いて行った
ジェシカ、菜流、キャンディが残された部屋に、重い空気が流れる
それを断ち切るように、菜流が口を開く
京介の単独行動、数々の命令無視、それと様々な思い付きで怪我(精神的)を負っているが、どの支部、どの隊員よりも京介を理解し、支えて来た
そんな菜流が、呆れとも諦めとも似つかない顔で、眉間を抑えながら呟く
菜流
「悪いようにはしない…ねぇ……、見ない振りかぁ……、またろくでもない事をしようとしてるんだろうなぁ……」
「……秋浩くんの苦労が良くわかるなぁ……」
横たわる大柄な男の横に、静かに歩み寄る京介
大袈裟な装置をつけるほど重傷では無いが、少なくとも、京介が躊躇なく殴りつけた事で、それなりには動けない
京介
「話せます?w」
大柄な男、ルーインは目を開き、京介の方を向く
ルーイン
「……何が聞きたい……」
京介
「ジェシカがアンタの事を心配して、困ってますw、ルーイン総隊長は、このままBLITZに捕らえられたいですか?w」
飄々と話す京介に、ゆっくりとルーインが返す
ルーイン
「BLITZの責務を果たせ……」
京介は頭を掻きながら、ため息混じりに呆れながら言う
京介
「そうじゃないんですよw、アンタはどうしたいか聞いてるんですw」
それはまるで、ここでBLITZに捕えられる以外の選択肢がある様な口ぶりで、質問をしていた
意図が分からないが、自身の本音を京介にぶつける
ルーイン
「BLITZに捕らえられ、屈辱をうけるなら、このまま死なせてくれ……」
京介
「んじゃ捕えられないなら、どうしたいです?w」
耳を疑う質問を投げかけられ、どう答えて良いか分からないルーイン
その様子を見ながら、さらに続ける京介
京介
「BLITZに一度は囚われ、激戦の末の捕獲が故に治療を施していたが、隙を突かれて逃亡、あぁなんて事だ、そこに本部の総隊長の西島京介がいれば、取り逃がさずに済んだのに、BLITZ狩りの犯人は、どこの誰かは分からないが、BLITZに嫌と言うほど叩きのめされ、二度と姿を現す事は無かった……wなーんて報告書が上がるかもしれないですよねぇw」
ルーイン
「……貴様…自分が何を言っているのか分かっているのか……」
少々芝居がかった講釈の後、組織として有るまじき事を平然とのたまう京介に、動けないルーインが、目線のみでギロリと睨みつけながら言う
京介
「言いたい事は分かりますけどw、俺はジェシカやゲインの心配してるんですw」
「ジェシカはアンタの事をBLITZで裁きたくない、けど俺に丸投げしたくても、立場上出来ないw」
「だったら見ない振りしてもらうしか無いんですよw」
総隊長のセリフとは思えない内容を、流暢に話す京介に、何も言えないルーイン
ようやく捻り出した言葉を、京介に伝える
ルーイン
「……呆れたものだ……そんな事で……BLITZの総隊長が務まるものか……」
京介
「だからBLITZなんかどうでもいいんでスよw……隊員の辛い顔見ないようにするのが、総隊長でしょ?w…組織なんてどうでもいいんですよw…少なくとも俺はねw」
その言葉を聞き、宙を見つめる
隊員の辛い顔……
悔しさ、悲しみ、自責
そんな顔を見ないで済むならば、もちろんそれに超した事はない
だが、能力者相手に命のやり取りを前提とした組織に、それは度台無理な話
しかし目の前のこの男は、無理にでもそれを実現出来る程の強さと、組織を組織とも思わない思考……
いや、人間を守るならば、組織を蔑ろにする
組織を守れば、人を、心を蔑ろにする……
この男は、本当の意味で人を守ろうとしているのか
ルーイン
「……俺は……何を守ろうとしたんだ……」
京介
「未来でしょ?w」
ルーインの呪縛が、目の前の男のせいで軽くなった気がした
未来……
確かに未来だろう
子供達(隊員達)の未来……
ルーイン
「……もし、辛いなら辞めさせて構わない……、俺はジェシカの判断に従おう……」
アメリカ支部は疎か、とばっちりで他支部の隊員を重傷にした自身を、この期に及んで許してくれとは考えてはいない
だが、自分の[家族]の決めた事であれば、どんな結果であろうと従おう、とそんな想いで言葉を捻り出した
無言で微笑みながら、ルーインのいる部屋を後にする
隣で不安気に佇んでいる三人に、再び声をかける
京介
「ジェシカw、今回の件、お前はどうしたいか答えを出せるか?w」
その問に、再びジェシカは考え込む
ベッドに横たわりながら、シーツを握り締め、自身の中で葛藤する
しばらくの沈黙、どれほど悩んだだろう
決して短くない時間、皆一様にジェシカの答えに固唾を飲む
気付けば涙を流しているジェシカ、自責の涙か、ルーインの生存が嬉しいのか、自分の中の答えを、どうして良いか分からないのだろう
悔しさの滲むその表情に、かけられる言葉が見当たらない
そしてゆっくり口を開いた
ジェシカ
「……どうして良いか分からないんだ……アタシは……あの人が生きてて嬉しい……でも隊員を傷付けた……アタシは……隊長失格だよ……」
「……あの人を許したら……隊員達が報われない……けどさ……そんな風になったのを止められなかったアタシ自身も、憎い……」
その言葉を黙って聞いていた三人、それに向かって京介が口を開く
京介
「ならBLITZ狩りの犯人には逃亡して貰うってのは?w」
菜流
「ちょっと!何言ってるのよ」
キャンディ
「ものすごい事言うねぇ、本部の人って」
耳を疑う言葉、まさかルーインをこの場から逃がすと言う提案をされるとは
その提案を素直に受け入れられないジェシカ、何より息子であるゲインは、自分達を騙していたしルーインをどう思っているのだろうか
考え抜いてようやく出した言葉
ジェシカ
「……アタシ……じゃ、決められない……ゲインだって、どんな気持ちでいるか……」
支部の総隊長のジェシカですらこの様子
余程ルーインを慕っていたのだろう
その気持ちは痛い程よくわかる
京介自身、五条司に同じような感情を抱いていた
だからこそ、ジェシカの苦悶をよく理解出来る
京介
「まぁwそうだろうなぁw」
「……菜琉?、ゲイン治せる?w」
菜琉
「治すのは簡単だけど……大丈夫かな……」
支部の医療班によって、全治半年と診断されたゲインを、事も無げに治せると言う二人
本部の医療技術と回復能力は、確かに目を見張る物があるが、こんな設備も何も足りない所でそんな事が出来るのだろうか……
キャンディ
「治すって……完治させる気?ここで?……」
菜琉
「支部や本部に運んだら、流石に大事になっちゃうから、ここで出来る限り治しちゃおうと思ってるけど……問題は副隊長さんの方なんだよね……」
薬品の並ぶ棚を見ながら、確認をする菜琉がさらに言葉を続ける
菜琉
「意識が無いから経口で栄養取れないんだけど、点滴になるとここにある分で足りるかどうか……」
「患者の身体にかかる負担が大きいからね……」
京介
「外傷に関しちゃ問題無いけどなw意識が持つかwまぁ総副隊長だから大丈夫だとは思うけどなぁw」
事も無げに話す二人、支部の医療班が全治半年と診断した怪我を、ここで治すと言う事に対して、流石に不安を隠せない支部の二人
キャンディ
「……えっと……そんな事出来るの?治療用ポットとか使っても結構かかる怪我なんだけど……」
菜琉
「いやぁ……本部の攻撃隊って……ほら、結構好戦的だから、大人しく治療受けて貰えないし……戦場とかで戦闘復帰すぐしないといけなかったり……医療棟で大人しくしないから悪化したりしちゃうから……」
ルーインのあの凄絶な状態、そして目の前の京介という総隊長の異質さ。
彼らが「治せる」と言い切るのならば、それは紛れもない真実なのだろう。
本部の医療班総班長――『戦場のマリア』。 その圧倒的な医療技術や能力については噂に聞いていたが、キャンディは今まで、それをどこか現実離れした「おとぎ話」程度にしか考えていなかった、隊員達の大袈裟な噂だろうと
だが、今目の前にあるのは、死さえも技術でねじ伏せる、あまりに生々しい現実だ。 彼女は、自身の支部の常識がいかに狭い井戸の中であったかを突きつけられ、喉の奥が引き攣るような戦慄を覚えた。