ANGEL WALTZ 作:とくめい
菜流が横たわるベッドへ、京介はゆっくりと歩を進める。
その表情には、戦いを終えた者特有の安堵ではなく、深い悲哀が滲んでいた。
ルーインが引き起こした[BLITZ狩り]
それを食い止める力を持っていながら、自分は何もできなかった。
(もし、もっと早くルーインと出会えていたら……) そんな[叶わない我儘]を、頭の中で幾度も繰り返す。
どうしようもなかった。仕方がない。そんなことは分かりきっている。
だが京介は、それをどうしても己の不甲斐なさとして抱え込んでしまっていた。
手で顔を覆い、深く、深く息を吐き出す。
その様子を、うっすらと目を覚ました菜流が静かに見つめていた。
菜流
「……ルーイン総隊長……逃がしたんだ……」
京介は顔を覆ったまま、表情を見せず短く答える。
京介
「……あぁ……」
いつもの軽口すら出てこない。
ルーインの心を救えなかったという事実に、彼がどれほど打ちのめされているかが手に取るように分かる。
そんなどうしようもない重荷を、京介が一人で抱え込もうとすることを菜流は知っていた。
どんな言葉をかけたところで、彼の心からその痛みを消すことなどできない。
だからこそ、菜流は京介を見捨てないと決めている
いや、見捨てる選択肢などないからこそ、共に歩もうと誓った
『クリムゾンインパクト』以前から、その決意は一度も揺らいでいない。
菜流
「……大丈夫……京介くんは最善を尽くしたよ……」
その言葉に京介は答えず、近くにあったタオルを頭から被った。
今の弱った顔を、誰にも見せたくないのだろう。
菜流はゆっくりと起き上がり、京介の元へ歩み寄る。
何も言わず、タオル越しの京介の頭を優しく抱き締める。
ゆっくりとリズムを刻むように撫でながら、気休めだと分かっていても、言葉を紡ぐ。
菜流
「……大丈夫……皆わかってるから……大丈夫だよ……」
京介
「……おぅ……」
絞り出すようなその声は、ほんの少しだけ涙に震えていた。
菜流はそのことに気づかないフリをして、ただ静かに、温かく、その頭を撫で続けた。
どのくらいそうしていただろうか。
京介がおもむろに菜流の背中をトントンと叩き、身体から離れると小さな声で「ありがとう」と呟いた。
菜流もそれを察し、ベッドの横にあった飲み物を手に取り、京介へ手渡す。
特別な言葉はいらない。
京介が総隊長としての顔へ戻ろうとしていることを、菜流は痛いほど理解している。
だから彼女は余計なことは言わず、ただその手助けだけをする。
手渡された飲み物を空け、一息に流し込む京介。
その横顔を見つめる菜琉の瞳には、ほんの少しだけヤキモチを焼く少女のような、けれど、すべてを許し受け入れる慈しむ母親のような、複雑な色が宿っていた。
彼女は聞こえないくらいの声色で、「……見栄っ張り……」とだけ呟く。
京介
「さてさてwとりあえずジェシカ達と口裏合わせねぇとw」
飲み終わった京介の表情に、いつもの軽々しさが戻る
複雑な気持ちだが、仕方ないと自分を納得させる菜流
そんな二人の間に、通信機の音が割り込む
自分の通信機を手に取る京介
どうした?と声をかけ、向こうから聞こえてきたのは、医療班の総副班長の八尺伽耶の声
伽耶
「京介?、今は話せる状態?」
少し慌ててる様子の伽耶に、いつもの飄々とした口調で答える
京介
「おぅwどうした?、直接俺に連絡するなんて珍しいなw」
伽耶
「ごめん、不味い事になってるの」
不味い事
普段伽耶はそんな表現を京介に向かってしない
菜流もそれはわかっている、そんな曖昧な言葉を直通の通信機で話すとは、余程の事だと菜流が少し構える
伽耶
「……フリージアと、紗夜ちゃんが行方不明なの……」
京介
「何何何?!話が全く読めねぇんだけどw」
伽耶
「良い?最後まで聞いて!じゃないと話さない!」
京介
「お、おう……」
伽耶は可能な限り、事細かに状態を京介に伝えた
能力者に襲撃された事、現場には明らかな戦闘の形跡が残されていた事、何かの薬を打たれていた事、恐らく紗夜が拉致された事、フリージアが薬を打たれた状態で消えた事、最後に、総副隊長である秋浩がフリージアを補足、追跡してる事
伽耶も京介の性格がわかっている、だからこそ、説明を最後まで聞くように釘を刺し、状況を確実に伝えた
それは菜流も同じ、今にも飛び出しそうな京介の肩に、ずっと手を乗せ落ち着かせようとしていた
ヘラヘラといつものように笑い顔のままではあるが、明らかに目が座っている
それを横で見ている菜流が、意を決して口を開く
菜流
「伽耶ちゃん、ちょっと待ってね!」
「京介くん!」
バチン!!
菜流は迷わず京介の顔を両手で挟み込み、無理やり自分の方を向かせた。
頬を押し付けられ、タコのような口になった京介の、座り込んだままの冷徹な瞳を、菜流は真っ直ぐに見据える。
菜流
「……京介くん!今秋浩くんが追いかけてるから、せめて少し落ち着いて!……戻るのは止めないから、今ここで伽耶ちゃん達の動向を聞くのが先決でしょ!」
京介
「……お、おう」
菜流の気迫に押され、京介は短く、力なく頷いた。
止めなければ、この男は思考を放棄して二人を探しに飛び出していたはずだ。
そんな彼に冷静さを説き、思考させる事ができるのは、唯一、菜流だけだ。
アメリカ支部の三人には、ルーインの事でまだそんなに気持ちを切り替えられる余力がない
そこにバタバタと騒がしい真似をすれば、図らずもこちらを優先してしまう
せめてルーインの事に対して、少しばかりでも気持ちを落ち着かせてあげたい、そう判断した菜流の苦肉の策
伽耶
「……だ、大丈夫?……」
京介
「そこそこ痛ぇwそれで?w詳しい状態は良いとして、とりあえず秋浩と合流する方が良いか?w」
菜流の剣幕に少し落ち着いた京介は、伽耶に指示を受けようと聞き返す
伽耶
「……ひとまずその方が最善かも知れない、フリージアは京介の言う事を聞いてくれるから、一旦本部に戻れる?」
京介
「来るなと言っても戻るぜw」
そう言いながら通信機を切り、何かを考えている
今この船にいるアメリカ支部の三人の事を考えて居るのだろう
余裕そうに見せてるが、些か焦っているのが伺える
それを察した菜流が口を開く
妹のように可愛がっている紗夜と、平和な場所にいて欲しいと願うフリージア、この二人を優先したい気持ちが、手に取るようにわかる
菜流
「あっちの三人には私がちゃんと話すから、京介くんだけ先に戻って、ちゃんと後で口裏合わせの話もつたえるから」
そう話す菜流に、言い淀むように口を開きかけた京介
何を考えてるか、良くも悪くも直情的な京介の事を、誰より理解出来るとの自負がある
菜流は京介が声を出す前に、先回りで言葉を続ける
菜流
「……大丈夫だよ、私達は一蓮托生、でしょ?」
菜流のその言葉に、一瞬悲しそうな目をする京介
自身の我儘にいつも付き合わせ、しなくていい心労をかけてしまっている
どうしてもそれが払いきれない
こんな自分に関わらなければ、そんな思いをさせなくて済んだのに
京介のその気持ちを、知ってか知らずか、菜流が続ける
菜流
「行ってらっしゃい、本部で待ってるからね!」
京介
「……おう!」
そう応えると、京介はハッチの方に向かう
だが小型艇は船尾の方にある
菜流
「京介くん?小型艇アッチだよ?」
京介
「いやw自分で行った方早ぇからw」
菜流
「……えっ?」
そういうや否や、勢いよくハッチの外に飛び出し、軽めの屈伸をした直後、異常な程の熱風が輸送船の中に流れ込んで来た
菜流 ジェシカ
「熱っつ!」 「ん?……熱っちぃい!!」
ゲイン キャンディ
「What?!」 「イヤァァァァァ!!」
輸送船の表面が、熱されてチリチリと音を奏でる
その金属の音以外、あたりは静寂に包まれた
キャンディ
「……い、今のなに?……総隊長さんだよね……」
菜流
「……自分で行くって……生身で……」
菜流を含め、アメリカ支部の三人も、今の一瞬で何が起こったのか全くわからなかった。 まさか文字通り身体1つで飛び出して行くとは、さすがの菜流も思いもよらなかった。
――けれど、流れてくる熱風の中で、菜流は小さく微笑んだ。
考えるよりも、先に動いた方が彼らしい「……良くも悪くも切り替えが早くて助かるなぁ……」
口元を緩ませ、菜流はアメリカ支部の三人を振り返った。
自身の能力を使い、ロケットやジェット機並の推進力を発する京介。
その凄まじいGと熱に耐えられる能力者は、世界でも数少ない。
だが西島京介だけは、まるで鼻歌を口ずさむかのように、あっさりとそれをやってのける。
かつて、一人の少女を救うためだけに500キロという距離を数十秒で踏破した、その異質な能力。
皮肉にも同じ少女の為に、遺憾無く発揮している
歴代のどの火属性の能力者も、この男と同じ事は出来ない。
西島京介という、この世で最も「異質な」炎だけが、今、それを行える
BLITZ本部
グランド
深夜のBLITZの本部、隊員達は眠っている者がほとんどだが、深夜警備や、当番制で職務に殉じている者も多い
警備の見回りをしているBLITZの隊員達が、息抜きに少し話をしている中、数名が急に空を見上げた
「今日は流れ星が綺麗に見えるなぁ」
そんな何気ない言葉に、皆一斉に空を見る
満天の星空に、流れ星が降り注いでいた
「…確かに綺麗だな」「いつまでもこんな空が見えると良いな」「その為に俺たちが頑張ってるんだろ」
口々にそんな事を言う
こんな平和に空を見上げられる事が続けば良い
そんな思いで口を開く
「見ろ!あの流れ星めちゃくちゃ長いぞ」
流星の中に一際大きく、長い流れ星が1つ
「願い事三回だっけ?早く願って見ようぜ」
ほんの一時、束の間の休息
皆その流れ星に向かって、思い思いの願いを込めた
三回願い事をした隊員が、違和感に気付く
「……なぁ、アレ、なんかデカくなってねぇか?」
「……消えねぇな……」
そう言うと、キィイイインと言う耳鳴りと共に、何故か少し周りが暖かくなっているのに気がついた
(やべぇええええええええ!!)
ソレが流れ星では無い事に気がついた数名が、慌てて警戒する
「おい!アレこっち来るんじゃねぇか?」
「マジか!隕石かよ!」
「ん?なんか聞こえねぇか?」
そういうや否や、轟音と共にその流れ星は、グランドに真っ直ぐ墜落する
バゴォン!!
落ちてくるスピードに対応出来ず、何が起きたか分からない隊員達
隕石にしては小さ過ぎるその物体を、観察するように見つめる
土埃の中から、何かが吹き飛んで来た
「着地ミスったアァァァァ!!」
ゴロゴロと転がりながら、そんな声が聞こえる
グランドの周りのフェンスに激突し、その塊は動きを見止めた
警戒しながら身構える一同、怪訝な顔で見ているが、何人かが気付く
「……?!総隊長!」
京介
「……お疲れw……」
些か間抜けな格好で着地した京介、何事かと焦った隊員達も、自分達の総隊長の姿を見て安堵する
「……何をなさってますか……」
京介
「……イヤァw……着地ミスっちゃって……w」
いつも京介の突拍子もない行動を見続けている隊員達も、まさか空から降ってくるとは思っても見なかったようで、呆れて良いのか笑う所なのか、判断に困っていた
「と、とりあえず起きましょう……」
そう言いながら手を差し伸べる隊員、京介を引き起こそうと手を掴んだが、フェンスにガッチリハマって抜けない
「……抜けませんねぇ……」
京介
「……うんw、そこそこ綺麗にハマってるなぁw」
「ちょっと金属性の隊員起きてるか確認ついでに、工具取ってきます」
京介
「いや、いいよw」
そう言うと、京介がハマっていた金属製の強固なフェンスが、まるでスライムのようにドロリと溶け、元からそこに何も無かったように、綺麗さっぱり無くなった
金属を蒸発させる程の熱エネルギーを、一体この身体の何処から発せられるのか
隊員達は一瞬身を引いた
いつも飄々と軽口を並べ、軽薄な態度を取りながら、隊員達の作戦を邪魔する(作戦の早期完了と言う意味で)この総隊長
そのせいで忘れかけるが、この男は、たった一人でBLITZを相手にしても勝てるレベルだと言うのを、再確認する
京介
「後で直せる奴いたら頼んで良いか?wダメなら俺に言ってくれれば良いからw」
「…は、はい……」
京介
「頼むわw、伽耶どこにいるか知ってる?w」
「……八尺副班長ですか?、戻られてから、医療棟にいたのをお見かけしましたが……」
京介
「サンキュw」
そう言いながら、後ろ手に手を振り、医療棟に向かって歩いていく
いつも通りの背中。
だが、隊員達は言葉にはできない違和感に首を捻る
目の前のフェンスの事も消化出来ないままだが、普段京介はこんな事をしない
自身の能力を見せびらかしたりする様な真似は……
違和感を拭えないまま、隊員達は唖然と京介の背中を見送る
BLITZ医療棟
医療班 総副班長室
部屋の中で八尺伽耶が、モニターと資料、何かの書類を見ながら険しい顔をしていた
先の能力者の襲撃で、恐らく拉致された紗夜と、フリージア、二人の安否が気になるのか、ソワソワしながら仕事をこなしていた
秋浩が追跡し、定期的に連絡は来るが、未だにフリージアに追い付いていない事に焦りを感じていた
そこにノックも無しに京介が入ってくる
京介
「ただいまw」
京介が帰って来た事に安堵する伽耶、総班長も一緒だろうと、行方を聞く
伽耶
「おかえり、菜流は?」
京介
「俺だけ先に帰ってきたw菜流は輸送船乗って来なくちゃいけないから、後で来るよw」
伽耶はその言葉に違和感を感じる
輸送船[乗って来なくちゃいけない]から?
伽耶
「京介は何に乗って帰って来たの?小型艇?」
京介
「あんなもんより俺の方が早いだろw」
何を言っているか分からない伽耶
頭にハテナが浮かんでいる
伽耶
「んんん?」
京介
「いや、だから飛んで来たw」
伽耶
「……生身でって認識で良いの?……」
京介
「あぁw」
伽耶
「……はっ?………さっきの音……アンタ?!」
京介
「オフコースw」
何処から何を突っ込めば良いのか全く分からない伽耶
こんな所で秋浩の苦労を味わうとは、露ほども思わなかったと、眉間を押さえる
通信してから、ここに到着するまでの時間が、明らかにおかしい
音速を超えないと説明がつかない時間で到着している
紗夜のような見えない動きを出来る隊員はいる、だがあくまでも地上限定、それをまさか空でやる能力者がいるとは……
多少なりとも飛行出来る能力者はいるが、生身で音速を超える者はいない
伽耶
「……ごめん、30秒頂戴……」
ニコニコしながらそれを待っている京介に、大きな溜息を着き、一通り眉間を抑えて悩んだ伽耶は、ひとまず簡易的ではあるが、医療用の検査機器をテキパキと取り付ける
体温、心拍、脈、骨、脳波、体表面の異常、バイタルのどれも異常無し
そのデータを見て、さらに崩れる伽耶
伽耶
「……ねぇ知ってる?……BLITZの高速艇より早く着いてるんだよ……」
京介
「だと思うよw」
伽耶
「ソレが異常だって言ってんでしょ!!」
伽耶は検査機器を掴んだまま、しばらく絶句した。
医療データ上は、何の問題もない。
「健康体」そのものだ。
だが、その数値は同時に、この男が物理的な制約を完全に無視したことを示している。
伽耶は深呼吸をし、乱れた呼吸を整えると、再び厳しい表情で京介を見上げた。
伽耶
(うん、知ってる、大丈夫大丈夫、京介は基本おかしいから、うん、アタシは正常、コイツがおかしい)
伽耶は自分に言い聞かせるように大きく頷くと、乱れた前髪を払った。
京介
「大丈夫か?wなんか食うか?w」
伽耶
「食べないわよ!!」
京介が差し出す栄養バーを、伽耶は一蹴し、息を整え、京介に向き直り話をする
伽耶
「……と言うか、京介?少し落ち着いて……お願いだから……」
伽耶のその言葉に、京介自身が何を言われているか分からない様子で、聞き返す
京介
「うん?w」
伽耶
「気付いてないのね……部屋の温度計、見える?」
その言葉に室内を見回し、温度計を見つける、その数字は[48.2℃]
焦りながら謝る京介、やはり無意識だったのかと、伽耶はため息を着く
伽耶
「……エアコン全開でここまでって、余程焦ってるのね……大丈夫だから、落ち着こう?」
京介
「いやw悪ぃw悪気は無かったんだw」
伽耶
「……あったら殴ってるわよ……」
思いの他、自分でも気付かないうちに能力を漏れ出させてしまっていた事に、改めて自身が焦っている事に気が付く
総隊長としての立場上、良いものでは無いが、やはりあの二人を思った以上に気にしている
頭を振って切り替える
京介
「んで?w秋浩はどこに居る?w座標分かれば今行くぜ?w」
部屋の温度計が徐々に下がって行くのをみながら、伽耶がその質問に応える
伽耶
「とりあえず秋浩くんと合流するのは良いんだけど、本人がまだフリージアを視認してないのよ……」
京介
「そりゃそうだろw隠れんぼなら俺も勝てねぇw」
「隠密部隊って名前は、伊達じゃねぇよw」
その言葉に伽耶が興味ありげに聞く
伽耶
「詳しく聞いても良い?」
京介
「アイツだけなら多分視認出来てるだろうけどw隠密[部隊]だからなぁw」
「ほかの奴らが手伝ってるんだろw」
隠密部隊……
京介の思い付きで無理やり発足された部隊
その構成員は、殆どが年端もいかない少年少女、特異系の能力を有する者が多く、実質、BLITZの攻撃隊と言うよりは、京介の私設部隊に近い
クラッカーやフリージアのように、紛争に巻き込まれたり、実験のような物に使われ、捨てられた者が殆ど
それらを京介の独断と、単独行動の最中に拾い集めた
その実力は、攻撃隊の小隊でも何とか、と言う程には強く、追跡してる者を煙に巻く事など、造作もない
それを今更ながら痛感する
伽耶
「……それじゃあ見つからないって事?」
京介
「いや?w多分俺行けばすぐ見つかるだろw追い掛けてる事自体わかってねぇだろうし、そもそも一般人に見つからないようにしてるだけだろうからなw」
伽耶は考える
見つけるだけなら京介を今すぐにでも合流させた方が1番の近道、しかし、無意識に能力が溢れ出す程の動揺を見せているこの男を、すぐに向かわせても良いのだろうか?
フリージアを見つけて終わり
それだけなら即座に向かわせる判断をとるだろう、しかしそこに紗夜の問題が残る
間違いがあった時、そこに敵になり得る者がいたら?
友人としての伽耶と、BLITZの医療班の総副班長との伽耶、何が一番良いのか、二つの間で揺れ動いている
京介
「考えてる事はだいたいわかるぜw、けどまさか行くな、なぁんて言わねぇよな?w」
伽耶の肩を組み、真横に顔を寄せて話す京介
小憎らしいのが、自身がどう思われてるか理解している事
きっと伽耶や菜琉は間違いなく止めることをわかっている
それを押しても向かうつもりの京介を、無理に止める事はしない
だが、この男は身内の事に関して、見境が全く無い
それがわかるからこそ、あえて留めたい
伽耶
「アンタが言う事聞くなら止めるけどね!!……気持ちはわかるよ?、フリージアと紗夜ちゃん、忍ちゃんと被せてるでしょ……」
京介
「んふ〜wどうだかね?wお前らの方がそういうのは感じやすいだろw」
「けどまぁwわざわざ連絡までしたんだ、行かねぇ選択肢はねぇよな?w」
イタズラっぽく話す京介に、半ば呆れながら伽耶が応える
伽耶
「後で知ったらアンタめんどくさいんだもん、そりゃ連絡はするわよ」
「それに、紗夜ちゃんはアンタの秘書だけど、あの二人をBLITZから遠ざけたいのが見え見えだし、だからフリージアを紗夜ちゃんに預けたんでしょ?」
京介
「んふふwノーコメントにしとくわw」
「んで?w秋浩がどこにいるか教えてくれw」
京介が何を考えてるかは手に取るようにわかる、しかし明透になっていてもそれを隠そうとするのは、やはり総隊長の見栄もあるのだろうか?
いや、見栄などではないだろう
[大っぴらに晒す]、その事自体を良しとする人間の方が少ない
きっとそれをわかっているから、癖がついてしまったのだろう
伽耶
「京介?、座標を教える前に、とりあえずお腹に何か入れて、少しで良いから」
そう言いながら、副班長室の冷蔵庫から、ボトルの飲み物と、カロリーの高そうなケーキを差し出す
京介
「随分良いもん隠してるなw」
「別にいいだろw食わなくてもwそんな時間ねぇしw」
伽耶
「良いから食べて!アンタ食事とって無いでしょ、ポケットのレーションがあるのが何よりの証拠だからね」
伽耶に半ば睨みつけながら言われると、さすがに躊躇する
たじろぎながら、渋々返事をし、それに手をつける
伽耶
「ちゃんと噛んで!」
京介
「園児かw」
その間に、秋浩にコンタクトを取り、座標を送って貰う
送られた座標は、今は倒産してしまっている、星間飛行場がある
それをモニターに映しながら、京介に聞く
伽耶
「ねぇ?、隠密部隊って、なんか秘密基地みたいなのあるの?」
その問に、ケーキをゆっくり頬張りながら京介が応える
京介
「イヤぁ、拠点は持ってないよwそもそも何処かに留まって何かする奴らじゃねぇしw落ち着く時はだいたい本部にくるか、支部とかホテルとかw」
伽耶
「なんで潰れた星間飛行場にいると思う?」
京介
「そこにいるの?w」
モニターを見つめながら、京介が伽耶に問いかける
伽耶
「三十分前くらいから、反応がそこから動いて無いんだって」
京介
「なら多分居るなぁw」
伽耶
「相変わらず視認は出来てないみたいだけど……」
それを微笑みながら聞いていた京介が、ケーキを食べ終え、飲み物を一気に飲み干し、伽耶のそばに近寄る
京介
「ここの星間飛行場って、周りには何も無いのか?w」
伽耶
「うん、山奥だし、だから秋浩も中に入らないで様子を見てるみたい、隠れられないから」
京介
「なんで隠れてんだよw、別に捕まえる訳じゃあるまいしw」
そう言われてハッとする、確かに捕まえようとしてる訳では無いが、秋浩が突っ込まないのは、恐らく……
伽耶
「多分アンタ程懐かれてないって思ってるんでしょうね…」
「アンタみたいにスキンシップしないから」
京介
「バッカでぇw秋浩にそこそこ懐いてるぜw」
京介は呆れたように笑い飛ばした。
「その証拠に、フリージアもクラッカーも、アイツと一緒に部屋で過ごしてるじゃねぇかw」
そう言いながら扉の方に向かって歩いていき、振り向いて言う
京介
「とりあえず菜琉戻ったら、待っててもらってくれw」
伽耶
「……うん、それは良いけど、もう行くの?」
京介
「早く行かねぇと秋浩が可哀想だからなw」
そう言いながら、扉からゆっくり出ていく京介の背中を見送った
伽耶
「ほんとに何も無いと良いけどねぇ……」
星間飛行場跡地
秋浩がフリージアを追跡し、ようやく追い付いた場所で、様子を伺っていた
木々に囲まれ、明かりも無い場所で、月明かりだけがその場を写していた
秋浩
「……どうすっかなぁ……入ろうか……」
「いや京介が来てからの方が良いかなぁ……」
BLITZの総副隊長が、普段は見せない姿でウロウロ考えながらブツブツと呟いていた
秋浩
「でもなぁ……ビビって逃げられてもなぁ……」
高い買い物を躊躇する一般人のような様子で、頭を捻りながら右往左往していた
そんな珍しい姿の副隊長の姿に、京介が声をかけようか悩んでいた
京介
(話しかけて良いんかなぁ……w)
意を決して秋浩の肩をポンっと叩く京介
秋浩
「おぅ!!!……お前かよ……びっくりするわ……」
京介
「いやwなんかめっちゃ悩んでたからw」
いつもの京介に少し安堵する秋浩
掻い摘んで状況を説明する
秋浩
「取り敢えずだけど、俺の土人形の反応があそこから動かねぇんだよなぁ」
京介
「お前の能力って誤差とかの精度は?wあと気付かれてそれ取られたとかw」
秋浩
「まず無いな、土人形はフリージアの服とか髪とかに紛れ込んでるはずだから」
「精度に関しても……一応俺副隊長なんだけど……」
それを聞いてクスクス笑いながら応える京介
京介
「悪いwそうだなw副隊長が精密性ガバガバだと、さすがにかっこ悪いなw」
少し談笑し、おおよその検討をつけた京介、秋浩が入りあぐねて悩んでいた場所に、堂々と向かおうとする
それに慌てて止めに入る秋浩
秋浩
「そんなすぐ行っても大丈夫かよ!」
京介
「ん?w別に悪い事してる訳じゃねぇし、捕まえる訳でもねぇのに、何をそんなに慎重になってんだよw」
言われて見れば確かにそうだ
何かの犯人でもなければ、指名手配犯でもない
BLITZの隠密部隊、ただの仲間を迎えに来ただけ
秋浩は今まで悩んでいた事が、少し恥ずかしくなった
自分の妹のような少女を、ただ迎えに来ただけだ
秋浩
「……ん〜、まぁ、そうだよな……」
それを何も言わずに笑顔で見た京介、秋浩の肩を組み、ゆっくりと星間飛行場に歩いて行った
錆び付いたフェンスをこじ開け、堂々と中に入る
秋浩
「……昔は結構繁盛してたんだろうなぁ……」
京介
「なんでココ潰れたの?w」
秋浩
「潰れたって言うか、調べたらなんかじい様が1人でやってたらしいぜ、それが亡くなったから閉鎖されたみたいで」
京介
「ほうほうwだからちょっと船のグレードが良いのかw」
京介はそう言って、放置された整備用ドックに目をやった。
雑草に埋もれかけているが、確かにそこにある設備は、辺境の飛行場にしては不釣り合いなほどに高精度の機材が並んでいる。
彼は秋浩の肩を組んだまま、まるで近所の公園を散歩するかのように、整備された通路を進んでいく。
一定の所まで来た時、不意に京介が立ち止まり、建物の方をじっと見つめ、何かを探るように見ている
秋浩
「どうした?」
京介
「めーっけたw」
そういうや否や、脱兎のごとくかけていく京介
化け物じみた脚力で、明かりのない建物に走り向かう
建物の壁面を垂直に登る勢いで、窓を蹴って屋上まで一目散に到着する
下から見ていた秋浩は、何が起きたか良く分からなかったが、暗闇の中で、不意に京介の笑い声が聞こえた事に、危険は無いと判断し、自分も京介の元に向かった
京介
「みぃつけたぞぉwお前かぁ?wうちの副隊長の能力を撹乱してたのはw」
目深にフードを被った人物を、京介が頬ずりしながら愛でていた
フリージアやクラッカーと同じ、京介になすがままにされている
秋浩が到着し、その大型犬を愛でてるような京介に声をかける
秋浩
「……フードちゃん?くん?」
京介
「あぁw、ほら、自己紹介してみ?wうちの副隊長だからw」
そう言いながら京介がそのフードの人物の背中を押し、秋浩の正面に誘導する
フードの人物
「……」
フードの人物は口を開かない、それに京介がどうしたのかと覗き込むが、話さない理由は人見知りでは無く、同じフードを被った人物が、いつの間にか二人を囲んでいた
京介
「一人じゃないから話さなかったのかぁw」
いつの間にいたのか、いつからいたのか、秋浩ですら気が付かなかった
10名程の同じ風貌の少年少女が、ゆっくりと京介に近付く
何も知らなければ不気味だが、京介は何も無いように皆の頭を撫でたり、声をかけて愛でていた
秋浩
「……俺も気づかなかったのに、しかもこんなにいたとはな……」
京介
「仕方ねぇよw隠れんぼと鬼ごっこは俺も勝てねぇ奴らだしw」
秋浩
「なんでわかった?」
京介
「いや、普通に見えたぜ?w多分俺の姿が見えたから警戒しなかったんだろwあとBLITZの隊服もあるのかなぁ?w」
フードを被った少年少女を、まるで動物のように分け隔てなく愛でる姿は、まるでテレビのブリーダーのようにも見えた
だが悠長にもしてられない、秋浩は一瞬のその微笑ましい光景を遮るように、京介に促す
秋浩
「この中にフリージアは居ないよな?」
思い出したように口を開く京介
京介
「あぁそうだそうだw、えっと、ナナシちゃん居ただろ?名前決めたんだwフリージアだw皆覚えてくれよ?w」
「訳は後で話すけど、フリージアはどこにいる?どうやら薬打たれてあんまり良くないみたいなんだw」
先頭のフードの人物が京介に近寄り、それに応える
「……薬は、治療した……」
鎮静剤と能力抑制薬を、普通の能力者でも昏倒する量を打たれたフリージアを、このフードの集団はそれをしっかり治療してくれていた
京介
「ありがとうなwそれだけでも嬉しいよwそれじゃあフリージアはどこに居る?w」
フードの人物は、おもむろに指を指す
その指が示す方向には、一際綺麗に整備された星間飛行用の高速艇が、今にも飛び立ちそうになっていた
京介
「なに!!」
秋浩
「アレに乗ってるってのか?!」
焦る二人を置き去りに、高速艇は暗闇の空へ飛び立って行った
京介
「あぁ〜、一足遅れたなぁw」
秋浩
「マジかよ……」
京介は頭を掻きながら高速艇を見送り、身を翻し、フードの集団に話しかけた
京介
「どこに行くか言ってたか?w」
目線を合わせ、優しく頭を撫でながら、怖がらせない様に聞いた
フードの人物は首を振り、分からないと伝える、変わらず優しい口調で、それを聞き入れる京介は、改めて薬の事に感謝を伝える
京介
「薬の治療してくれてありがとうなwそれだけでも嬉しいぜw」
そう言いながらクシャクシャと頭を撫でつけ、頬を挟んでこねくり回す
秋浩
「参ったな……」
京介
「まぁ仕方ねぇよwこいつらだって仲間の手当しただけだしw俺も別に悪いと思ってねぇもんよw」
「むしろ薬抜いて貰っただけでも助かるだろw」
秋浩
「……まぁそうだよな……何が起きてたか把握はしてねぇもんな……」
おそらくフリージアの乗る高速艇を見送り、為す術が無く立ち尽くす二人
そのまわりには、隠密部隊のメンバーが立ち並ぶ
隠密部隊は京介にとっての不利益をもたらしたのかと、些か動揺している
静かに佇んでいるが、小刻みに身体を震わせる者が数名いた
秋浩
「どうする?追いかけるか?」
京介
「追いかけるも何もwどこ行ったかわかんねぇしwひとまず本部に戻ろうぜw」
「あっ、お前の能力でわかる?w」
秋浩
「……総隊長さん……さすがに大気圏突破したら無理っすよ……」
京介
「ですよねぇw」
ふざけながらフードの集団に向き直り、全員を抱えるように抱きしめる
京介
「フリージアの事、治療してくれてありがとうなwこれからも皆で仲良くしてくれると嬉しいw」
唐突に感謝を述べる京介、大袈裟な動きで安心させるように分かりやすい言葉を使う
[お前達は間違っていない]そう言い聞かせるように優しい口調と大きな動きで、フードの集団を抱きしめている
それが終わると、皆を離し、手を叩く
京介
「ありがとうなw休める奴らはゆっくり休みなw俺たち二人は本部に戻るからなw着いてきたい奴は一緒に行こうぜw教会に行ってもいいしなw」
そう京介が大声で伝える、一同が無反応だが、先程小刻みに震えていた者の震えが、納まっていた
次の瞬間、皆思い思いに散って行った
それを見ながら寂しそうな表情を浮かべる京介
秋浩に聞こえるかどうかでボソリと呟いた(……だ〜れも残んねぇでやんの……)
秋浩に向かい、「しゃあないw戻るかw」と声を掛け、建物の下に降りる
ほんの一瞬だけ見せた表情を、秋浩は見逃さなかった
隠密部隊として、京介の管理下に置いてはいるが、やはり本音では任務などに関わらせたくないのだろう
悲惨な目にあった少年少女を、平和な場所に置きたいと思うのは、妹の影がチラつくからか?
そんな京介の肩を叩き「本部で打ち合わせだな」と共に歩く
京介
「……索敵部隊の総隊長に応援頼まないといけない奴かぁ?w」
気だるそうに話す京介
索敵部隊は、基本的に人類に対して脅威になり得る能力者や、兵器、異星人等の偵察や監視を行うが、例に漏れず京介の単独行動に振り回されている事で、あまりいい顔で迎えては貰えないと考えている
秋浩
「お前が何もしてないなら、そんなに警戒されねぇだろ……」
そう言われ、京介が頭を捻る
秋浩
「……なんかしたんか……」
京介
「……してない……と思う……w」
頭を抱えて深くため息をつく秋浩
秋浩
「……まぁ、行ってみたらわかるわ……」
そう言いながら、二人は星間飛行場を後にする
寂しさをひた隠しにした京介と、それを分かりながら背中を支える秋浩
飛び出して行ったフリージアを追いかける為に、気まずそうに索敵部隊の話をしながら