ANGEL WALTZ   作:とくめい

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case23【息子の意地と母の覚悟】

西島家

 

午後19:00

 

リビングには忍と響華が、テレビを食い入るように見つめていた

 

コメンテーター

「……ですから、一部の心ある能力者がいたとしても、未知の異形である以上、社会にとって脅威である事にかわりはありません。我々としては、BLITZという組織による、より厳格な管理と抑止力を求めざるを得ないのですが…………」

 

キャスター

「しかし、度重なる能力者による事件が、年々凶悪化傾向にあると言う事実もございますし、BLITZと言う抑止力が弱くなって来ているとの見方もありますが、これについてはどう見解を……」

 

能力者と言う存在が生まれてから500年、周りに認知され、ある程度理解されてきたとは言え、未だに未知の部分が多い存在

 

発現率の低さに加え、その強大な存在自体を驚異と見なされてしまう

 

戦闘が全く出来ないど素人が、能力を発現しただけでも警察や軍隊では相手にならない

 

能力者を倒せる者は能力者しか居ない

 

対能力者用兵器すら、その使用には一般人では耐え切れず、自壊や重症を負う

 

それも忌み嫌われる理由のひとつであろう

 

どんなに優れた軍事兵器ですら、能力者には傷一つ付ける事は敵わない

 

 

ニュース番組で、能力者の危険性や、BLITZの存在意義を議論するワイドショーに、ため息混じりに愚痴をこぼす二人

 

忍

「能力者って言っても、みんなすぐ悪い事する訳じゃ無いのに……なんでそんなに文句ばっかり言うの?」

 

響華

「……人間ってね、自分より強かったり、訳の分からないものには恐れるのよ……それが集団心理で、余計に騒がれちゃうの……嫌なところよね……」

 

忍

「お兄ちゃん怖くないよ?」

 

響華

「ふふっ、そうね、お兄ちゃんは全然怖くないものね、忍ちゃんの大好きなお兄ちゃんだもんね」

 

忍

「うん!いっぱいお菓子くれるしw」

 

微笑ましいやり取りの中、玄関を開ける音が聞こえる

出かけていた京介が、ダンボールを抱えて戻ってきた

 

京介

「ただいま」

 

玄関の開く、ガチャリと言う音の時点で忍が走りよっていた

京介目掛けて飛び込み、ダンボールごと倒れ込みそうになるが、それをものともせずに抱き抱える

 

忍

「お兄ちゃんおかえりなさい!」

 

京介

「……ただいま、急に飛びついたら危ないだろ、そんなにお土産楽しみだったか?」

 

片手にダンボール、片手に忍を抱えながら、諭すように話しかける

器用にバランスを崩さず、優しく微笑みながら話す

 

響華

「おかえりなさい、お兄ちゃん……あら?」

 

不意に響華が声をあげる、その目線は京介達の後ろ、開きっぱなしの玄関の外に向いていた

 

「こんばんはw、お邪魔しますw」

 

妙に明るい、聞きなれた声に驚きつつ振り向く京介

声の主が目に入った途端、驚いて声を上げた

 

京介

「……香奈恵、良く来たな」

 

そこには見慣れた、同じ死線をくぐり抜けて来た仲間が、BLITZの隊服とは違う可愛らしい出で立ちでニコニコとしながら佇んでいた

 

香奈恵

「隊長wおばあちゃんにコレ食べさせてって言われたw」

 

そう言いながら差し出した包みを、どうやって受け取るか悩んだところに、忍がひょいと手を伸ばした

 

忍

「香奈恵ちゃんだ!いらっしゃい!何コレ?……煮物だ!」

 

包みの中を覗き込んだ忍が、嬉しそうに声をあげる

相変わらず好みが渋い

特に香奈恵の祖母の煮物は、響華の作る料理と同じくらいの大好物だ

 

京介から離れ、香奈恵にしがみつきながら家に招き入れる

 

京介

「遠慮しないでゆっくりしていきな……」

 

響華

「良く来たわね、ご飯食べてく?」

 

香奈恵

「いいの?w食べるw」

 

香奈恵にしがみつきながら仲良く忍達が歩いて行く様子を見ながら、響華にダンボールの中身をひとつ手渡す京介

 

京介

「サンジェルマンの余りもんですけど、良かったら」

 

響華

「あら?ありがとう、このパン好きなのよねぇ、その中身って、全部パンなの?」

 

不思議そうな響華の質問に、当然のように答える

 

京介

「閉店間際だったんで、全部買って来たんです、それと……」

 

一瞬の間を挟み

 

「秋浩の母ちゃんにも会いました……」

 

響華はその言葉に、すぐさま表情が変わった

優しそうなのは変わらず、その中に憂いを孕んだ悲しそうな顔

 

響華

「……そう、どうだったかしら?元気に、見えた?……」

 

京介はその質問の意図が少し分かっていた

同じ能力者の子供を持ち、片や身を挺して守り抜いた響華と、それが出来なかった秋浩の母親

 

やろうとしたのだろう、守っていたのだろう、だが秋浩の母親は、優しすぎた

優しすぎたが故に、周りの目に耐えきれなかった

それを未だに悔やみ、響華もまた、それをどうにも出来ないジレンマに心を痛めていた

 

京介

「……寂しそうでした……秋浩も、帰ってなかったみたいですし……」

 

その言葉に、響華はそれ以上何も言わず、ただ静かに視線を伏せた。

責めるわけでも、同情するわけでもなく――ただ、同じ母親としてその痛みを分け合うように。

 

響華

「……そう……お兄ちゃんは、何か言われた?」

 

京介

「……コーヒー奢って貰いました……たまには人に甘えろって……」

 

その言葉を聞き、ほんの少しだけ表情が和らいだ響華は、少しホッとしたのだろう

優しく京介に話した

 

響華

「さすが高校教師ね……今度お礼しなくちゃ、それにお兄ちゃんも、その通りよ?」

 

京介

「ハハッ……そうですね……」

 

京介は考えていた

幼い頃からずっと

 

……本当の母親じゃない人に、迷惑をかけたくない……

……嫌われたくない……

 

 

唯一の拠り所である響華に、拒絶される事を恐れ、甘える事すら出来なかった子供の、精一杯の意地

 

だが響華もその気持ちを分かっていた

京介は無理にでも意地を張り、決して弱い所を見せようとしない

 

それがずっと寂しかった

いつでも受け止められる覚悟と準備をしていた

 

しかし、今まで京介から甘えて来た事はない

待つのを辞め、自身から甘えさせに動く

それでも京介はぎこちなかった

 

忍にすら見栄を張り、良いお兄ちゃんを演じていた

奔放な忍は、京介の欠点を無意識ながら感じていた

だからいつも京介に付きまとい、常に心配している

 

幸いにも、京介はそんな忍の無邪気な優しさを拒まなかった。

そして、同じ地平を生きる香奈恵と共に――彼女たちが纏う飾らない温度が、京介の凍りついた心を少しずつ、時間をかけて溶かしていくのだった。

 

物思いにふける京介の耳に、騒がしくも落ち着く喧騒が聞こえた

 

香奈恵

「隊長〜w一緒にご飯食べよ〜w」

 

忍

「お兄ちゃん、早く一緒にご飯食べようよ!お腹空いた!お母さん!おばあちゃんの筍の煮物美味しいよ!」

 

リビングからハシャギながら声をかける二人に、ハッとしながら返事をする響華

 

響華

「ごめんね、今準備するから、香奈恵ちゃんもいっぱい食べて行ってね」

 

京介

「忍、貰った傍からすぐ食べるんじゃありません、お行儀悪いぞ」

 

忍

「だってぇ、美味しいんだもん……」

 

香奈恵

「いっぱいあるから大丈夫だよw」

 

ガヤガヤと食事の支度を終え、一同がテーブルで思い思いに食事を始めると、ふと気になった京介が口を開く

 

京介

「珍しく香奈恵が来たけど、どうかしたのか?……」

 

響華の料理を口いっぱいに頬張り、リスのようになった香奈恵が話そうとする

「ほああやんい、はいひょうを……」

何を言っているか聞き取れない京介は、香奈恵の頭を撫でながら、飲み込んでから喋ってくれ、と懇願する

 

香奈恵

「ゴクン……おばあちゃんに隊長のお家行くって言って来たのw」

 

京介

「お前はこの時間まだ仕事だろ?今日は遅番だろうし……」

 

香奈恵

「隊長がおやすみするから、私もおやすみしたのw」

 

京介

「……あん?」

 

忍

「香奈恵ちゃんもおやすみ?なら一緒にお出かけしようよ〜」

 

意外な答えに口が塞がらない京介を他所目に、忍はウキウキとはしゃいでいた

京介に続き、香奈恵までも停職処分を受けたのかと、ハラハラしながら響華が聞く

 

響華

「香奈恵ちゃん?どうしておやすみしたの?もしかしてBLITZで何かあったの?」

 

香奈恵

「隊長がおやすみするの良いなぁ、って言ったら、うちの隊の人にきゅうか届けを書いたら休めるって言われたから、書いたのw」

 

京介

「……そっか、休みたかったか……」

 

自由で奔放な香奈恵の答えに、いつもなら叱る京介だが、その言葉に何故か納得し、微笑みながら香奈恵の頭を撫でていた

 

忍

「ほらぁ、香奈恵ちゃんもおやすみなら、みんなでお出かけしようよ〜、香奈恵ちゃんもケーキ食べたいよね?!」

 

忍が駄々をこねながら香奈恵に賛同を求めると、口をモゴモゴさせたまま、満面の笑みで大きく頷いた

 

BLITZ内で何かあった訳ではないと安心した響華は、その答えにさらに提案をした

 

響華

「香奈恵ちゃんもおやすみなら、今日は泊まって行ったら?おばあちゃんには私が連絡するから、それと、忍ちゃんは学校終わってからよ?サボったらいけないわよ」

 

忍

「香奈恵ちゃんとお泊まり!嬉しい……けど……うぅ〜……早く週末にならないかなァ……」

 

香奈恵

「おばちゃんありがとうw忍ちゃんとお出かけするの楽しみw」

 

しょんぼりしながら香奈恵にしがみつく忍と、頬を膨らませながら食事をする香奈恵

甘いもの好きのこの二人を連れて行ったら、バイキングのスイーツコーナーは無くなるんじゃ無いかと心配になる

 

京介

「……一日くらい休んでも良いんじゃないか?」

 

普段、忍が学校を休むのはあまり良く言わない京介からのまさかの提案

正面に居た響華も、まさかの言葉に驚いて聞き返す

 

響華

「お兄ちゃん、忍ちゃんにズル休みさせるの?」

 

京介

「まぁ、響華さんが許してくれるならですけどね……」

 

いつもそんな事を言わない京介に対し、少し考え込む響華

 

京介自身、言ってる意味はわかっているのだろう、忍を大切に思うが故に、大学を卒業して欲しい気持ちは自分と同じだろうと

 

考え込んだ末、期待の眼差しで見つめる忍を見ながら口を開く

 

響華

「……ならせめて明日だけは行きなさいね?」

 

忍

「ほんと!?やったぁ!」

 

子供のようなハシャギようで、香奈恵にしがみつき喜ぶ忍を見ながら、京介が続ける

 

京介

「良いんですか?」

 

その問い掛けに柔らかい笑顔のまま、京介を見つめ答える

 

響華

「まぁ……たまにはいいかしら?あんまり頻繁だとダメだけど、せっかくだし」

 

舌をペロッと出しながらウィンクしておどける響華の表情を見ながら、京介はため息をついた

 

それを見た響華が続ける

 

響華

「お兄ちゃんがいたら多分安心だしね、でもあんまり遅くなっちゃダメよ?

それに、お兄ちゃんもちゃんと息抜きしてくるのよ?」

 

響華の言葉の意味がわかった京介は、少し伏し目がちに返事をする

 

京介

「……なるべくなら……」

 

何かを抱えたまま、返事をする京介を見つめ、一瞬悲しい目を見せた響華

忍と香奈恵とは裏腹に、えも言われぬ淀みがあるのを感じた

 

忍

「せっかくだしお母さんも一緒に行こうよ!みんなで行った方が楽しいから!」

 

忍の提案に驚く響華、だがすぐに気を取り直して答える

 

響華

「お母さんも?、明後日は何かあったかしら?」

 

忍

「良いでしょ〜?行こうよ〜、香奈恵ちゃんもそう思うよね?」

 

香奈恵

「みんなでご飯食べると美味しいw」

 

甘えながら駄々をこねる忍に、やれやれとため息をつきながら、微笑む響華が賛同する

 

忍

「やったぁ!みんなでお出かけ!」

 

京介

「明日は学校いけよ?……」

 

忍

「うん!」

 

元気よく返事をすると、急いで食事を済ませ、先に入浴すると走り去っていく

 

香奈恵は変わらず口を膨らませ、響華の料理を頬張って堪能している

 

響華

「……香奈恵ちゃん?、おかわり……いる?」

 

香奈恵

「うんwおかわりw」

 

 

外の冷たい世間のニュースとは打って変わって、西島家のリビングには、底抜けにあたたかな時間が流れていく。

それが明日へ続く確かな導(しるべ)になるのか、あるいは神様がくれた最後の晩餐か。

誰も知る者はいない。

ただ、優しく揺れる灯りの下で、彼らの日常はいつまでも続くかのように――静かに、温かく、溶けていった。

 

 

その夜

 

 

ハシャギ疲れた忍と香奈恵は、早々と眠りについた

よりにもよって京介の部屋で

 

京介の持つゲーム機でエキサイトし、映画を仲良く見ながら、一喜一憂を二人が堪能しているのを、微笑ましく京介が見守っていた

 

 

だが二人を邪険には思わず、その状況を暖かいとすら感じていた

年相応にだらしない寝相を正しながら、明かりも付けずに一人佇む京介

 

ベランダを開け、夜の空気が頬を撫でた

それが心地よくて、当たり前に続いて欲しいと思いながら、夜空を見上げている

 

京介

「………こんな弱い俺が……あの人達が感じるはずの当たり前を……」

 

そう呟く京介の手の中に、五条司、五条亜紀、二人が写った写真があった

 

静かに涙をこぼし、音もなくすすり泣いている京介

二人が得られ無かった日常を、自分が得られる事が許せなかった

守れなかった自分自身を、今でも許す事が出来なかった

 

カチャ……

 

扉が開く音がした

薄暗い部屋の中に、響華が足を進める

 

京介

「いらっしゃい」

 

京介は涙を拭くこともせず、響華を迎える

暗くて見えないと思ったのだろう

だが目の前まで歩み寄る響華に、慌てて涙を拭う

 

忍と香奈恵を見ながら、優しく声をかけた

 

響華

「こんな暗くて、大丈夫?二人共遊び疲れて寝ちゃったのかしら?」

 

小声で起こさないよう、京介に問いかける

 

京介

「いいんですよ、たまにはこう言うのも悪くない」

 

そう答えた京介の顔を見つめ、ふぅっとため息を一つ、そしてゆっくりと近寄る響華、そのまま跪き、頬を優しく両手で包み込む

まっすぐ京介の瞳を見つめ、何かを確かめるように頬を触る

 

響華

「……お兄ちゃん、あなたがいつも何かを抱えるのはわかってる、無理に甘えて欲しい訳じゃないの……でもね?あなたが苦しいと、私達も苦しいの……」

 

優しい表情、いつもと同じだが、真剣な声で京介に話す響華

その質問に答えないでいると、響華が続ける

 

響華

「……あなたはこの火傷を自分のせいだと思ってるだろうけど、これは私の勲章なの……あなたの母親で居られる事の勲章なのよ……お兄ちゃん……あなたは私の息子で居てくれる?……」

 

 

背面から左腕にかけて、取り返しのつかない火傷の跡

幼少期の自分が付けてしまった過ち

 

それを勲章といいのける響華の言葉に、京介は何も言えず俯く

 

火傷を抜きにしても、響華は誰が見ても美人の部類に入る、自分を捨てて幸せになる選択肢を、そこで一つ潰してしまっている……

 

響華

「……あなたの停職の事、ちょっと気になったからBLITZの人に聞いたの……」

 

その一言にハッと顔を上げる京介

不安げな表情が浮かんでいる

 

その表情をまっすぐ見据え、言葉を続ける響華

 

響華

「……一応ね?、お兄ちゃんの事があるから、BLITZの担当者みたいな人がいるんだけど、詳しくは言えないって言われちゃったけどね?」

 

「前の隊長さんの敵……討てたんだよね?」

 

その言葉に、再び俯く京介

絞り出しながら口を開き、ようやく話す事ができた

 

京介

「……こんな弱い俺が……討てる敵(かたき)だったんです……こんな俺が……勝てる相手だったんです……」

 

そこまで言うと、響華が口を閉じさせた

優しく頭を抱きしめ、子供をあやすように静かに

 

響華

「……クリムゾンインパクトの時に、お兄ちゃんを助けてくれた人達よね?……わかるよ……五条さんって名前だったね……私も、お話してみたかった……お食事の誘い……楽しみだったのよね……」

 

優しい口調で問いかけられても、自身の弱さを飲み込めない京介は、そのまま静かに聞くしか出来なかった

 

響華

「……その人達を助ける事すら出来なかった、弱い弱い自分が、敵討ちをしちゃった、でも?、その弱い自分が勝てる相手なら、なんであの時助けられなかった……そう思ってるんでしょ?……」

 

自分の思ってる事を、事も無げに見透かされた京介は、静かに頷く

 

響華

「……お兄ちゃんはほんとに自分に厳しいわね……それだけ五条さん達にお世話になったんだろうけどね?……」

 

場を和ませようと少しおどけて話すが、依然京介の肩は小刻みに震えて居た

 

響華

「……どんな経緯で、何が起きたかは分からない……でもね?クリムゾンインパクトの後に、BLITZの病院で苦しんで……苦しみ抜いて出てきたお兄ちゃんは、その五条さん達が認めるくらいに強くなったんだと思うよ?……気休めじゃない、本当にお兄ちゃんは強くなった……だから、お兄ちゃんが隊長になってから、BLITZの隊員がみんな家に帰れるんだって……その担当者の人も言ってたよ?」

 

京介

「……」

 

響華

「……そろそろ自分を、許してみない?……もう十分だよ……あなたは十分罰を受けた……十分償った……私の火傷も、忍の事も、もう十分だよ……だから……甘えても良いんだよ……」

 

響華の言葉に、堰を切ったように涙が溢れてきた

身体を小刻みに震わせ、止めたくても止まらない涙に躊躇しながら、声を殺して響華の腕を掴み、涙を流した

 

響華

「……すぐには無理なのはわかってる……お兄ちゃんは責任感が強くて……優しくて……自分に厳しくて……他人に甘い……口下手だしね……だから少しづつで良いの……」

 

そのまま京介の背中をさすりながら言葉をかける

子供のような姿を顕にし、長い時間泣いている京介を、大丈夫だと知らせるように

 

……能力が発現し、ただでさえ人付き合いが苦手な子供は、ずっと孤独に耐えて来た

まわりには恐れられ、畏怖と恐怖の対象でしかなかった

 

この人は、そんな自分をいつも優しく受け入れてくれた

 

忍が産まれて、いよいよ自分を捨てても良いと、準備が出来たと覚悟をした、幼い子供が生まれて初めて、捨てられる覚悟を……

 

それでも俺を捨てなかった……そればかりか、忍と分け隔たりなく、愛情を注いでくれていた……

 

甘えたい気持ちと、捨てられる恐怖がせめぎ合い、出した結論は、二人を守らなきゃ行けない、迷惑をかけちゃいけない

ずっとそう思っていた……

 

忍や響華さんは、この二人だけは巻き込んじゃいけない……そう思っていた

例え上辺だけでも、俺の拠り所で居てくれた事を、感謝していた

だから……心の準備をしながら、いつ離れても良いと思っていた……

 

だがこの人は、初めから巻き込まれようとしていた

自らの意思で巻き込まれ、あまつさえ同じ場所にいようとしていた

……わかっていた

見えていた……巻き込みたくない一心で、見ないフリをしていた……

 

いつか捨てられても良いように……いつか、いなくなっても良いように……

 

 

響華

「……私はあなたの母親で、あなたは私の息子なのよ?……ねぇ?……京介……」

 

思いも寄らない言葉に、言葉を失いただひたすらに泣き続ける京介

甘え盛りの時も、ずっと我慢していた、いつかいなくなると思って耐えてきた

 

その思いが、一気に駆け巡った

 

モゾモゾと響華の視界の端で何かが動いたのに気が付く

眠っていた忍が音で起きたのか、ゴシゴシと目を擦りながら京介達を見た

 

忍

「……お兄ちゃん?……寂しかったの?……」

 

寝ぼけ眼で、アクビをしながらのそのそと京介に近づき、躓くように響華に倒れ込む、が、そのまま二人を抱きしめるように倒れた

 

足元に目をやると、香奈恵がしがみついている

 

忍

「……お兄ちゃんには私達がいるからね……」

 

寝ぼけながらも、兄を思う忍の姿に、クスリと微笑む響華

忍に聞こえていないのをわかったまま、呟く

 

響華

「……そうね……お兄ちゃんには私達がいるものね……」

 

兄思いの妹は、どこか抜けてはいるが、兄の心に寄り添おうと、無自覚なまま傍にいようとしていた

 

母親は、息子の心を踏み荒らさないように、いつも気にかけていた

息子が自分を押し殺し、いつでも居なくなれる準備をしていた事を、当然のように無視しながら

 

響華

「……お母さんは……決してあなたを離さないわよ……」

 

京介

「……」

 

響華の問いかけには答えなかった、だが掴まれている腕を、さらにしっかりと掴み直したのはわかった

今だけでもいい、ちゃんと甘えてくれている事を、響華は受け止めた

 

 

 

 

BLITZ本部

統括管理室 AM2:00

 

 

真っ暗な広い部屋の中で、パソコンのモニターから出る薄明かりに写された顔が浮かんでいた

 

「……まぁ、うっかり口を滑らせてしまいましたが……、西島さんには言っても問題無いでしょう……」

(……凄い剣幕で気押されしてしまいましたが……)

 

ボソリと呟く表情は、少し微笑んでるようにも取れる

 

統括管理部、篠宮 凪(しのみや なぎ)

局長直属の護衛隊の一人(28歳)

能力 特異系

火属性の能力者が発現した場合、ケアや監視、保護を受け持つ者は、部隊の人間では無く、BLITZの局長に近しい者から選出される

 

その体制になった理由は、図らずも西島京介が関わる

京介の幼少期のずさんな管理体制が引き起こした悲劇を軸に見直しを行い、改めて局長の責任を持ってケアや管理をする形になった

 

 

凪

「……調べれば調べる程、前の管理体制は一体どうなってるんでしょうか?……ザルより酷いですね……」

 

西島京介の幼少期よりの監視状況、及び保護体制について調べていた凪は、そのずさんな状況に呆れてため息を吐いていた

 

凪

「……本来攻撃隊が把握しなければいけない事の引き継ぎも、まともに出来ていない……特殊部隊が担当……管理は……副局長?……」

 

火属性の能力者に対しての、発現時のマニュアル、その扱い、それらの粗を隠す事も無く、ただ言い訳のような報告書を見つめながら呟く

 

凪

「……前任者も報告がだいぶ後になってされたと言っていましたが……その当時の特殊部隊の総隊長は……?!……殉職?……クリムゾンインパクトより前に?……」

 

クリムゾンインパクトと言う大規模作戦以前には、小規模な争いこそあれど、そうそう死亡者が出るような戦闘や作戦はなかった

 

しかも総隊長の殉職、いくら地球勤務の特殊部隊とは言え、そう易々と命を落とすことは考え辛い

 

腐っても能力者、しかも総隊長の任についてる者が、命を落とす事など考えられない

可能性として考えられるものとしても、寝込みを襲われるか、相手を侮りすぎるか、命の危険を感じない状況で殺害されるか

 

全て憶測の域を出ないが、難しい顔でモニターを見つめ、誰に言う訳でも無く呟く

 

凪

「……組織特有のややこしい事態ですかね……」

 

局長から言われ、古い資料を調べていた中で、あまり目にしたくない事実と向き合う事になる

椅子に仰け反り顔を覆いながら、部屋の天井を仰ぐ凪は、そのまま深いため息を付き、これから起きる苦難を懸念していた

 

 

 

同じ頃

地球

日本のどこか

 

 

ロッキンチェアーに揺られながら、タブレットに目をやる若い男の姿

その画面には、西島京介のデータと思しき情報が映し出されていた

 

氷の入ったグラスを、タブレットから目を離さず口に運ぶ

 

コトコトッ……カチャンッ……

 

キィ〜……

 

少しの物音のあと、男の部屋の扉が開く

 

「……お兄ちゃん?……まだ起きてるの?……」

 

車椅子に座り、瞼を閉じながら伺うように声をかける、金髪の少女

 

「……あぁ、悪い……起こしちゃったか?」

 

グラスとタブレットをサイドテーブルに置き、立ち上がり少女に近寄る男

 

気配が伝わったのか、慌てて少女は兄に向かって話す

 

「……ち、違うの、ちょっと眠れなくて……目が冴えちゃったの……」

 

男は少女の頭に手を起きながら、優しくゆっくり撫でる

 

「……そうか、ならホットミルクでもどうだ?、温まるし、少しは落ち着くだろ?」

 

少女に話しかけるその表情は、優しさに溢れ、菩薩のような雰囲気が漂っていた

 

「ありがとう……ごめんね……邪魔しちゃっ……」

 

小ぶりな鍋をコンロにかけながら、ミルクを温めている男は、その質問に振り返らずに答える

 

「ありがとうまでは嬉しいけどな、邪魔なんて思った事もないよ、それに……お前が居るからお兄ちゃんは頑張れるんだ」

 

その答えに、少しだけ俯いて申し訳なさそうな表情を見せた少女、そんな少女に歩み寄り、車椅子をテーブルに推し歩く

 

「父さんや母さんが居なくなって、さすがに辛かったけど、お前が生きててくれてる事が、俺には何より嬉しい事だからさ、お前が幸せなら、笑ってくれさえすれば、俺は何も要らないよ」

 

その言葉に、不安げに俯いていた少女が少し表情を柔らかくした

 

「……ありがとう……私もお兄ちゃんが居てくれたから、生きて来られたから……」

 

男は少し鼻を鳴らして笑顔を見せる

そのまま二、三、少女の頭を撫でると、コンロにかけていた鍋を取り、マグカップにミルクを注いだ

 

はちみつを回し入れ、かき混ぜながら少女の目の前に差し出す

 

「何も心配しなくても良いよ、お兄ちゃんはずっと一緒だからな」

 

少女は差し出されたマグカップを、そのまま口に運ぶ

その様子を笑顔で見つめていた男は、一瞬タブレットに目をやる

その表情は、変わらずにこやかではあるが、少女に向ける眼差しとは違っていた

 

 

傍から見たら微笑ましい兄妹だが、サイドテーブルにあるタブレットの表示が、不穏さを拭いきれなかった……

 

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