ANGEL WALTZ   作:とくめい

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case26【他人(ひと)の名前と自分の名前】

京介達がホテルでのケーキバイキングを終えて数日後

 

日本 [???]

 

山中にある、少し大きなログハウスに、数名の男達が集っていた。

 

タケミカヅチ

「……わざわざこんな不便な所に居を構える事も無いだろうに……」

 

トール

「俺結構好きだよw田舎の不便な暮らしw」

 

ルドラ

「まぁ、騒いでも迷惑にはならんしな」

 

ライオット

「……」

 

エメラルドラゴンのメンバーが、一堂に会していた。

しかもそこには見た事のないメンバーも数名佇んでいる。

 

アイリス

「皆お待たせ、お茶入れたから、ゆっくりくつろいで」

 

盲目のアイリスが、大きめのトレイに乗ったティーポットと、菓子皿を持ってきた。

ルドラがそれを介助しながら、ありがとうと礼を言う。

 

不意にアイリスが鼻を鳴らして何かを確認すると、笑みを零しながら口を開いた。

 

アイリス

「わぁ!もしかして、アネモネ達もいるの?」

 

アネモネ

「良くわかるね、匂いで判別するなんて」

 

後ろで髪を結んだ勇ましい女性が口を開く。

 

ヘムロック

「相変わらず凄いわよねぇ、アイリスって、それともアネモネがお風呂入ってないとか?」

 

目が隠れているセミショートのおっとりした雰囲気の女性が続ける。

 

アネモネ

「あん?さすがそれは失礼過ぎるでしょ」

 

アイリス

「フフッ……わかるよ、みんな大切だもの……シスルの声も聞きたいけど、それよりお菓子かな?」

 

シスル

「……ング!そんな事ないよ」

 

アネモネ

「行儀悪いぞ、先にアイリスに挨拶くらいしな」

 

白髪、赤眼の色白の少女が、菓子を急いで飲み込み答えた。

 

それに対してアネモネと呼ばれる女性が叱る。

だが、それも微笑ましい団欒の様子だった。

 

アイリス

「それじゃあゆっくりして行ってね、私は向こうにいるから」

 

そのまま扉を開き出ていこうとするが、思い出したように立ち止まる。

 

アイリス

「あっ……ライオット?居る?」

 

不意にライオットに向かって呼びかける。

ライオットは紅茶を口に運び、ゆっくりと返事をする。

 

ライオット

「……なに?……」

 

アイリス

「……ライオット、ご飯あんまり食べないから、このクッキー食べて」

 

そう言いながら、ライオットの声の方に車椅子を進め、手探りでライオットに手渡す。

 

アイリス

「……苦手だったら捨てても良いから……」

 

ライオット

「……ありがとう……」

 

その言葉を聞き、微笑みを浮かべて部屋を後にする。

 

ヘムロック

「ライオットはアイリスに随分気に入られてるわねぇ?羨ましいわぁ……」

 

冷やかされるのも気にも留めず、変わらず紅茶を口に運ぶライオット。

 

しばらくガヤガヤとしていた室内に、ウルフが入ってくる。

 

ウルフ

「わざわざ集まってくれてありがとう」

 

穏やかな口調だが、その声色は何故か冷たい。

 

ウルフ

「BLITZに対して、そろそろ行動を起こそうと思うんだけど、みんなの意見を聞きたい、まして何人か接敵した経験もあるから、それを踏まえて意見を言って欲しいんだ……」

 

ウルフの言葉に一瞬静まるが、ルドラが初めに口を開く。

 

ルドラ

「事を起こすのは構わないが、アイリスを逃がす準備は出来ているのか?流石に巻き込む様な状況は、ここに居る誰もが望まんぞ?」

 

ウルフ

「……それなんだけど、ルドラかタケミカヅチに付いて貰いたいんだけど……」

 

その言葉で二人が立ち上がる。

 

タケミカヅチ

「待て、幾らなんでもそれは聞けない相談だ……お前たちだけでBLITZと戦争するつもりか?」

 

ルドラ

「それに付くなら同じ女の方がいいんじゃないか?ワシらでは気も利かん所もある」

 

その答えにやれやれとした顔で、数名の女性の方を向く。

 

アネモネ

「アタシは嫌だね、やっと仇をうてるんだ、外されるのはごめんだね」

 

ヘムロック

「流石に……私もそれはお断りするわ、どれほどBLITZを恨んでいるか、分からない訳じゃ無いでしょう?もし良かったら、歳の近いシスルに任せれば……」

 

シスル

「嫌だよ、私もBLITZに怨みはある」

 

穏やかに話しているが、皆BLITZに対する、なみなみならぬ怨みを口にする。

 

アネモネ

「だからアイリスを先に逃がしておけば良かったんだよ、ギリギリまで伸ばすから……」

 

呆れたように口を開くアネモネに、困ったように答えるウルフ。

 

ウルフ

「それを言われると耳が痛いな……」

 

ヘムロック

「ねぇウルフ……アネモネの言い分もわかるわよ……あの子はただの人間ですもの……」

 

シスル

「……アイリスはいい子だよ、とっても……けど能力者じゃ無いのに、連れて歩くのはあの子が危ないよ……」

 

もっともな反論に、ぐうの音も出ないウルフ。

助け舟を出すようにトールが口を挟む。

 

トール

「ライオットに任せたら?w元々根無し草みたいな動きしてるしw」

 

ライオット

「……?!僕が?……」

 

その発言に目からウロコと言う表情をしたウルフは続けて被せる。

 

ウルフ

「それはいいかも知れない、ライオットならアイリスも好意的だし、君の誘いなら受けてくれるかもしれないな」

 

ライオット

「……待ってくれ……僕はまだ何も……」

 

ヘムロック

「そんな事言って、あなたもアイリスを危険な目に合わせるのは本意じゃ無いでしょ?」

 

ウルフ

「ダメかい?……出来ればお願いの段階で良い返事を貰えると助かるんだけど……」

 

ウルフがライオットを見つめ、返答を待っていると、重い口を開いた。

 

ライオット

「……怪我くらいするかも知れないよ……」

 

真剣な眼差しを向けていたウルフは、その言葉でホッとした表情を浮かべる。

 

ウルフ

「そんな事言って、君はアイリスを無傷で守るのを皆知っている、お願いするよ」

 

ライオット

「……」

 

腑に落ちない顔ではあるが、不満を口にする事も無く、諦めたように紅茶を啜るライオット。

 

話を一段落させ、皆に向き直り再び話を続けるウルフ。

 

ウルフ

「それじゃあ続きを話そう、ルドラとトール、それにタケミカヅチは一応BLITZとの戦闘経験があるみたいだけど、どんな感じかな?」

 

ルドラ

「俺は戦っていない……スカーレットスコルピオに返り討ちにされたからな」

 

渋い顔で金星での顛末を話すルドラ。

アイリスを救うために向かった事、そこでBLITZの総隊長である京介と遭遇した事を、皆に詳細に語っていく。

 

アネモネ

「スカーレットスコルピオってそんなに強かったのかよ?」

 

シスル

「でもそのプライドが特別強かっただけでしょ?」

 

ルドラ

「多分逆だ、レヴィアタンが弱すぎただけだ……」

 

ウルフが神妙な顔で話を聞き終わり、ルドラにさらにその後を聞く。

 

ウルフ

「……けどそのおかげで、アイリスを助けられた、って事かな?」

 

ルドラ

「痛み止めがなければ、少々動くのに時間がかかったとは思う……」

 

トール

「その逃がした女の子ってさwタケミカヅチと一緒に会った子じゃない?w」

 

タケミカヅチ

「あの時の子供か?……確かに特徴は似てるな……」

 

笑みを浮かべながら話を聞くウルフと、戦力の分析をする者、何故か楽しそうに笑っている者がいる。

 

ウルフ

「その時に会ったのって、総隊長だよね?どうだった?」

 

核心を突く質問に、ルドラが渋い顔で一呼吸置き、ゆっくりと答えた。

 

ルドラ

「……戦いに関しては……バケモノ以外の何者でもない……」

 

ヘムロック

「あら……ルドラがそんな風に言うなんて……珍しい……」

 

ルドラ

「底なしの余裕、ありえない軽薄さ、まして敵に向かって施しをする奴だぞ……しかも命のやり取りの最中に……俺が隙をついても勝てんよ……」

 

敵を褒めるルドラの話を、皆聞き入っていた。

 

ライオット

「……そんな奴が総隊長なら……火星の隊員達の事も納得が行くよ……」

 

タケミカヅチ

「そう言えばお前は火星で接敵していたな……」

 

ウルフ

「ライオットはどう見えた?」

 

ルドラの話の後に、皆興味津々でライオットの口が開くのを待っている。

 

ライオット

「……攻撃隊は……命を捨てるだろうね……医療班も……身の安全は計算してない……」

 

トール

「だろうねw俺達の時にいた医療班もそんな感じだったしwタケミカヅチがうんざりしてたよw」

 

タケミカヅチ

「……命令なら普通だろう?」

 

軍事組織であれば、任務遂行を最優先にする、それが当然の事だが、ウルフが否定する。

 

ウルフ

「……多分命令じゃないね、攻撃隊の総隊長は、そんな命令をするタイプじゃないだろうし……」

 

ライオット

「……どうしてそう思うんだい?」

 

ウルフ

「実際に見た印象と、それに……アイリスが……俺と似ていると言ったんだ……」

 

アネモネ

「アンタと似てる?……」

 

シスル

「……そんなの今まで言った事ないのにね……」

 

ヘムロック

「……アイリスは能力者じゃないけど、勘が異様に鋭い時があるものねぇ……」

 

その言葉に、皆黙って頷く。

 

アイリスが何気なく口にした言葉が、後になって妙に的を射ている事は、彼らにとって珍しい事ではなかった。

 

それに、ウルフ自身も実際に京介と顔を合わせている。

 

僅かな時間ではあったが、あの男が妹に向けた態度は、少なくとも自分達がこれまで抱いていたBLITZの印象とは少し違っていた。

 

能力者だからと警戒する事もなく、アイリスが困っている事に気付けば自然に手を差し伸べ、最後には自分達と何の隔たりもないように笑っていた。

 

もちろん、それだけでBLITZに対する考えを変えるつもりはない。

 

仲間達がBLITZによって受けてきた苦しみを、たった一度の出会いで忘れられるほど簡単な話でもなかった。

 

それでも――

 

少なくとも、あの総隊長が自分達の想像するような人間ではない可能性はある。

 

そんな事を考えながら、ウルフはしばらく黙って皆の顔を見回した。

 

誰も口には出さない。

 

だが、先程までとは僅かに違う空気が、そこにはあった。

 

BLITZを壊滅させるという目的は変わらない。

 

ならば、これ以上考えたところで意味は無い。

 

必要なのは、相手を知った上で、どう動くかを決める事だった。

 

皆が黙り込む中、ウルフは一度だけ目を伏せる。

 

そして、すぐに顔を上げた。

 

考える事は尽きない。

 

だが、彼らは前に進まなければならない。

 

ウルフ

「攻撃隊の総隊長は停職中らしいから、せめてそれが明けてから事を起こそう、やるなら正面から叩き伏せた方が、相手に与えるダメージもデカい、やり方は各々に任せるけど、危なくなったら逃げてくれて構わない。怨みを晴らすにしても、死んじゃったら意味ないからね」

 

アネモネ

「あんたが一番危ないだろ……」

 

シスル

「頭のウルフが一番信用出来ないよ……」

 

ルドラ

「……まぁ、その時は俺が無理やり逃がすよう手配する……」

 

ウルフ

「……みんな酷いなぁ……」

 

話す内容とは裏腹に、軽いやりとりをする。

 

命をかけ、地球の要であるBLITZと真っ向から対峙するとは、とても思えない。

 

トール

「ライオットをアイリスの護衛にするのは良いけどw ウルフが帰って来なかったら悲しむよ?w」

 

タケミカヅチ

「頭が真っ先に突っ込むのは如何なものかと思うぞ……」

 

ウルフ

「ハハッ、頭が先に行かないと、後ろがつかえちゃうだろ? それに……」

 

一息つき、少しだけ表情を落ち着かせながら口を開く。

 

ウルフ

「妹を残して死ぬつもりはないよ……あの子から、二度も家族を奪ったりはしないさ……」

 

その言葉を聞き、ルドラが大きなため息をつく。

 

口には出さない。

 

だが、思い悩む事があるかのように、悲しみと憂いを帯びた瞳でウルフを見ていた。

 

アネモネ

「それじゃあ、一旦おしまいにしようか? 腹減っちゃったよ」

 

ヘムロック

「言葉が悪いわよ、アネモネはその話し方でだいぶ損してると思うんだけど」

 

シスル

「アネモネは容姿以外は全部0点……」

 

アネモネ

「あぁん?!」

 

話を切り替え、唐突に笑い声が響く室内。

 

一瞬まで張り詰めていた空気が、みるみるうちに溶けていく。

 

それは、これからBLITZと命を懸けて戦おうとしている者達とは思えないほど、穏やかな時間だった。

 

まるで――

 

ただ家族が、一つの部屋に集まっているような。

 

ルドラ

「久しぶりに皆で食事をするのも良いだろう、俺は竈の支度をする」

 

トール

「じゃあ俺買い出し行ってくるよw多分足りないでしょ?w」

 

タケミカヅチ

「……俺も一緒に行く、お前は菓子ばかり買いそうだからな……」

 

シスル

「あっ……シャンプー持ってきてない……」

 

ヘムロック

「じゃあ私たちも一緒に買いに行きましょうか?シスルは肌弱いものね」

 

直前まで命のやり取りを相談していたのに、今はまるで旅行にでも来ているかの様な雰囲気になっている。

 

エメラルドラゴンと言う組織の、底の知れない雰囲気。

 

しかし、BLITZとはまた違う場所で、心を壊された者達が寄り添い、お互いの心を繋ぎ止めているようにも見える。

 

意図せずエメラルドラゴンと接敵し、不思議な青年であるウルフ達と遭遇してから数日後。

 

西島京介は、BLITZの本部に向かっていた。

正面から入らず、直接医療棟に車を走らせた。

 

受付で、担当の医療班に驚かれながらも対応され、紗夜とフリージアのお見舞いに来ていた。

 

病室に入り、二人の姿を見つめながら、大きなため息をつき、持ってきた花を花瓶に活けた。

 

京介

「……まだ起きないか……」

 

フリージアの頬をそっと撫で、悲しそうな表情で見つめる。

すぐさま顔を覆い、何かを思い悩んでいた。

 

菜琉

「……京介くん……」

 

入口から、驚きと不安が入り交じったような表情で声をかける菜琉。

停職処分を受けてから十日、病室の二人もさることながら、京介自身も心配していた。

 

京介

「おぅ?いたのか、邪魔してごめんな」

 

京介が驚きながら返事をすると、そばに寄りながらそれを聞き流し、京介の手を握る。

 

菜琉

「……貴方は大丈夫……なの?……」

 

その問いに答えず、表情を伏せたまま菜琉の手を握り返す。

 

菜琉

「……忍ちゃん……大丈夫?……」

 

京介

「……俺が休みだと思って、はしゃいでるよ……」

 

そこで話が終わってしまう。

 

普段は飄々とした話し方をし、おちゃらけながらいつも接してくれる京介と、二人が目覚めない事に責任を感じている菜琉。

 

どちらも何かを言い淀んで、空気が重くなっている。

 

暫くそのまま沈黙していた二人。

どのくらいたったのだろうか、菜琉がようやく重い口を開いた。

 

菜琉

「……京介……くん……」

 

京介は答えず、そのまま聞いている。

 

菜琉

「……金星で……二人を包んでた炎、なんだけど……京介くんの能力って……」

 

京介

「……アレは俺もよくわかってねぇ……この二人を助けたくて、必死だったから……」

 

菜琉

「……そう」

 

そんな事が聞きたかった訳じゃない。

能力なんてどうでもいい。

 

菜琉がそんな事を考えていると、背後からいつもの声が聞こえた。

 

伽耶

「おっ?京介久しぶり、元気してた?」

 

不意に聞こえた明るい声に、思わず振り向く二人。

何故かホッとした自分がいる事に、菜琉が気がついた。

 

京介

「伽耶か、久しぶりだな……相変わらず元気か?」

 

伽耶

「あんたは辛気臭いねぇ?秋浩から聞いてたまんま、まだ沈んでるの?」

 

伽耶の歯に衣着せぬ物言いに、思わず京介が笑みをこぼす。

 

京介

「そんなに辛気臭いか?」

 

伽耶

「こっちまで陰気になっちゃうよ、もう陰陰滅滅って感じ」

 

京介

「ハハッ……酷ぇな」

 

久しぶりに見た京介の笑顔に、菜琉も少しだけ安堵する。

 

伽耶

「ほら、菜琉もそんな顔してないで笑いなよ」

 

菜琉

「えっ……?」

 

伽耶

「せっかく京介が来たんだからさ。アンタまで暗い顔してたら、京介が余計気にするでしょ?」

 

菜琉

「……」

 

菜琉が少しだけ顔を上げる。

 

伽耶

「まあ……アンタが元気ないと、こっちまで調子狂うんだけどねぇ」

 

京介

「……そうか?」

 

伽耶

「そうだよ。アンタ、いつも馬鹿じゃん」

 

京介

「馬鹿w」

 

伽耶

「そこは否定しないんだ?」

 

京介

「酷ない?w」

 

ほんの少しだけ、いつもの空気が戻る。

 

だが、その笑い声も長くは続かなかった。

 

伽耶

「……まあ、元気で戻ってきてくれれば、それでいいよ」

 

京介

「……」

 

その言葉に、京介の表情が止まる。

 

伽耶

「……何よ?」

 

京介

「……いや」

 

一度だけ口を開き、何かを言おうとする。

 

だが、言葉が出てこない。

 

京介はいつものように誤魔化そうと小さく笑おうとした。

 

けれど――

 

上手く笑えなかった……口元が僅かに歪むだけ……

 

京介

「……伽耶」

 

伽耶

「ん?」

 

京介はゆっくりと伽耶の首の後ろに手を回し、額をつける。

 

伽耶

「……ちょ、近いよ……」

 

京介

「……すまねぇ……」

 

伽耶

「……何よ、急に」

 

京介

「……お前にも、そんなに無理させちまって……」

 

伽耶

「……」

 

京介

「……すまねぇ……俺が不甲斐なさ過ぎて……」

 

声が僅かに震える。

 

伽耶は何も言わない。

 

京介

「……俺のせいで、お前らにも無理させて……」

 

そこで言葉が途切れる。

 

京介

「……だせぇよな……菜琉にも気使わせて……お前にも、そんな気使わせてよ……」

 

伽耶

「……何、言ってんのよ……」

 

京介

「……ごめんな……」

 

その声と共に、京介の目から涙が落ちる。

 

自分でも泣いている事に気付いたように、京介は顔を伏せる。

 

京介

「……ごめん……」

 

伽耶

「……」

 

菜琉がそっと京介の背中に手を添える。

 

京介

「……約束する……」

 

涙を拭いながら、京介は何度も頷く。

 

京介

「停職処分が開けたらよ……また元通りになるからよ……」

 

京介

「元の俺で……戻ってくるからよ……」

 

いつの間にか、膝をついていた。

 

伽耶も菜琉も、そんな京介を責める事は出来なかった。

 

常に前線で身体を張り、誰かの身代わりになり、ボロボロになりながら、それでも飄々と笑っていた男。

 

クリムゾンインパクトから今まで、京介が人前で弱気になるところを、伽耶はほとんど見た事がなかった。

 

だからこそ、今だけは何も言わず、京介を支える。

 

京介

「……情けなくてすまねぇ……」

 

伽耶

「元気で……戻ってきてよ……」

 

菜琉

「……あたしも……しっかりするから……」

 

三人は静かに涙を流しながら、お互いを慰め合っていた。

 

長い時間、お互いがお互いに大丈夫だと言い聞かせるように。

 

その様子を、病室の入口から秋浩が見ていた。

 

扉を背に立ち、誰も入らないように見張っている。

 

秋浩

(……この場面で入ったら野暮かなぁ……)

 

秋浩は小さく息を吐くと、そのまま何も言わずに入口に立ち続けた。

 

 

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