ANGEL WALTZ 作:とくめい
日付は
クリムゾンインパクト当日
BLITZ本部
格納庫
対能力者特別攻撃隊の隊員と医療班が、所狭しと慌ただしく準備をしている
武装、補給、医療機器
おそらく何かが起きる事を予見して、十分以上の装備を積み込む
木星の衛星までは、戦闘用宇宙船とカテゴライズされる船で向かう
大きさは大型トラック3台分程度
1隻でその大きさが、3隻向かう
緊張もするだろう
隊員たちの表情が、幾らか強ばっている様に見える
小隊長クラスを覗いては……
小隊長や班長になると、かなり余裕があるのだろうが、医療班の7割を同行させるとなると、大掛かりな作戦には違いない
数名の小隊長、班長は少し緊張している
粗方の準備は終わった、そこへ陽気な声が響く
司
「ハイハイ皆さんおはようございまぁ〜す!!w、準備は良いですかぁ?w
現場に到着する前にここで大雑把な指示を出しますよぉ!w」
声の大きさよりも、緊張とは無縁の言い回しに、数名が吹き出した
ある程度強ばって居たのを、ほぐすための行動だろう
司
「壁のマップにちゅうもーく!w」
細かな指示を、テンションとは裏腹に出していく
船で衛星まで行き、調査対象から離れた所でまず拠点を構築
拠点は捜査対象を中心に3箇所、囲むように構築
構築してる間に、斥候、調査班を調査対象に向かわせる
それ次第で今後の動向を決定する
大雑把な指示を貰った
司
「だいたいはこんな感じで進めて貰いたい
何かあれば、各々の班長や小隊長に声をかけてくれ!
勿論俺たちでも構わない!間違いならそれで良い!
だがどんな可能性も確証を持たなければ、脅威になり得る」
今回は対能力者特別攻撃隊総隊長の俺と、医療班総班長の五条亜紀大佐が同行する
油断せず、必ず無事に帰って来よう!!
隊員
「おおおおおぉぉぉぉおお!!」
木星の衛星
さすが地球から離れてる星
寒さが異様さを帯びている
常人では30秒も持たないだろう
船が着陸し、隊員を搬送する
京介と司は建造物の正面側20キロの拠点に降りた
亜紀は調査対象の建造物の左後方
右後方にも同じ距離で拠点を構築している
拠点を作ってる間に、軽く調査をする事になった
通信機でのやり取りで、京介と司、亜紀ともう1人、2番隊小隊長と副隊長
少数で建造物に向かう
直線距離で20キロとは言え、なかなか遠い
いや、この極寒のなかだから遠く感じるのだろう
能力者でも、防寒着を着てても、寒いものは寒い
建造物に到着する頃には、自分達がとんでもない風貌になっていたのはわかる
建造物が視認出来る距離まで来ると、それの異様さが顕著にわかる
ピラミッドやパルテノン神殿、その他の地球にある歴史的建造物を複数混ぜたかの様な、
何にも例えられない、和洋折衷な建物が現れる
まず入口を探さなければならない
どこが入口か、スキャナーがあれば楽だが、拠点が出来なければ荷物は解けない
このまま強行するか?通信機で相談する
拠点が出来たらしく、一旦戻ろうと話した
自身の拠点に戻った後で、数時間後、また向かうとの指示を受ける
十分な装備と武装を持って
それまでは各自ゆっくり休養を取れと言われた
京介
「五条隊長……あの建造物は一体なんでしょうか……」
司
「分からない……が、明らかに新しい
だからもう戦闘覚悟で調査するw」
京介
そんな理由で突撃ですか……
司
「まぁ、本当はもっと時間かけたいんだけどなw
さっき調査した時に、カメラと誰かの視線を感じたんだw多分カメラの近くが入り口だろ?w
防寒着で誰かは分からないだろうが、多分BLITZだとは思われただろうw警戒はされただろうなwだから戦闘覚悟で乗り込むw」
京介
「なるほど……そう言う動きだけは早いですね
カメラは気が付きませんでしたが……」
司
「だから少しだけでもいいから、ゆっくり眠れ
寝るのが一番いい回復方法だからよw」
京介
「……了解しました、失礼します……」
作戦指示をした時間の直前
五条司が、テントの中でそろそろかと準備をしながらコーヒーを飲んでいた時
テントの入口が開く
初めは隊員か誰かと思ったが
それは異様な雰囲気を纏った人物だった
男とも女とも分からない風体
ただ1つわかるのは、決して味方ではないと言う事だけ
司
「…招かれざる客かな?」
謎の人物
「貴様達にとってはそうだろうな……」
司
「何をしにここへ来た?」
謎の人物
「少しだけ……話をしに……」
司
「…どんな話をしてくれるんだ?」
謎の人物
「…今すぐ帰れ……」
司はコーヒーを飲みながら、次の言葉を待った
謎の人物
「……建物の調査はするな……
今帰れば……手出しはしない……」
司
「アレには何があるんだい?」
謎の人物
「……知れば帰れなくなる……」
司
「そうか……他の拠点にも行ってるの?」
謎の人物
「……貴様にだけ警告に来た……」
司
「ありがたい事で…、けどすまない、それは出来ない相談だなw」
謎の人物
「…………」
司
「お前達は、スカーレットスコルピオなんだろ?」
謎の人物
「…そうか、ならば仕方ない…覚悟するんだな……」
そう言うと煙のように消えていった
司がテントの外を覗いても、足跡すら無かった
「ビンゴかぁ……本気にならないと行かんなぁ……」
それから少し経って
極寒の中、建造物に向かう1人の人影……
息が白く、凍る様に鋭くなる
対能力者特別攻撃隊総隊長
五条 司
たった1人で建造物に向かう
先程の来訪者に、スカーレットスコルピオだとの確証があった時点で、探索任務では無く、戦闘作戦に切り替わった
そして、それはたった1人で向かう理由になる
相手が相手では、手加減など出来ない
全力で戦うには、隊員は寧ろ足手まといになる
五条司は自身の能力を理解している
木火土金水の中で、発現率の異様に低い能力
奇しくも同じ能力者がBLITZに入隊した
その時から覚悟はしていた
いずれこうなると
次に繋がなければならない、平和を安寧を、次世代に繋ぐ事が自分の使命だと
建造物の近くに来た時、通信機から声が聞こえた
「司?…………居る?……」
一瞬耳を疑う
もう一度聞こえる
亜紀
「通信機の圏内なら、建造物の近くよね?……」
司
「…亜紀、何してんの?」
通信機から聞こえる
亜紀
「今そっちに合流するから!」
司
「来るな!」
司が通信機に叫ぶ
多分危険が及ぶのを、理解しているのだろう
司
「それより頼みがある…………」
返事を待たずに続ける
司
「隊員達を撤退出来る様に、先導してくれないか?
多分不味い事になってる、建造物が罠かも知れない
俺一人で目を引くから、その間に撤退してくれ」
通信機から怒声が聞こえる
亜紀
「そんな事出来ないでしょ!何を考えてるの!!」
司が繰り返し話す
「多分、隊長格の俺たちでも危うい……だから頼む……」
通信機から返事が来る前に、目の前の風景が変わった
さっきの謎の人物が眼前にいた
「帰れと言ったはずだ…………」
通信機のスイッチを切ると、ゆっくりと謎の人物に向かって口を開く
司
「優しいんだなw」
「ここがお前の終点だ…………」
司
「試して見ろよw」
拠点 左後方
五条 亜紀
「総員撤退準備!!五条司が接敵!他の拠点の隊員達に、大至急連絡を!連絡次第撤退!!」
亜紀の明らかに異様な指示に、隊員達は慌ただしくしたかったが、小隊長達はそんな亜紀を宥める様に言葉をかけた
「総隊長が接敵したなら、何故撤退させるんだ?
戦闘してるんだろう?応援に向かわないと……」
至極真っ当な意見である
しかし、BLITZの総隊長がたった1人で敵に向かうと言うのは、基本全力を出す事を意味する
しかし、その総隊長が事前に撤退命令を下すと言う事は、敵の力量が測れないと言う事だ
亜紀
「わかってるわよ……だから総員撤退させるんでしょ!!
あの人が私達を生かそうと命令を出したんでしょ!!!」
亜紀の剣幕に押されはしたが、小隊長達はなおも食い下がる、お互いに司を思っては居るからだ
見方や思いは違えど、慕っているからだ
その瞬間、例の建造物の場所から火柱が上がった
間違いなく、五条司の能力だ、その火柱が上がった直後に、周りの雪は一瞬に溶けだした
20キロと言う距離を、ものともしない熱波
総隊長クラスの戦いが、尋常では無いのを思い知らされる
拠点、正面
西島 京介が、司を探してウロウロしている
作戦指示の時間になったからだ
他の隊員や医療班は、もう準備万端だ
仕方ないので司のテントに潜り込み、コーヒーを入れて飲み始めた
「しばらくしたらくるだろう……」
タバコに火をつけ、コーヒーを飲んでいると、凄まじい音と熱気が拠点を襲う
隊員達はザワザワと淀めき、建造物の方を指さしている
誰かが言った
「アレは総隊長か?」
総隊長……作戦時間より大分早く行かないと、今の時間では着かない!……
何故1人で行ったんですか!!
京介が心の中での葛藤をしている最中、数名の隊員が叫ぶ
「敵襲!!」
皆一斉に声の方向を向いた
能力者であろう人物が居た
たった1人
その手には、BLITZの隊員が掴まれていた
その隊員の戦友であろう隊員が、怒りをあらわにしながら飛びかかる
しかし、ハエを落とすくらいに軽く払っただけで、息が絶えた……
未知との恐怖、恐らく今まで遭遇した事のない強者の出現に、隊員達は怯んだ
そこで京介が前に出る
そして背後の隊員達に言う
京介
「ここ、俺が受けるんで……総隊長の所に行ってもらってもいいですか……」
京介を良く知らない隊員は、辞めろや危ないと言ってきたが、全く意に返さないで戦闘を始める
不気味な敵に向かい、構えもせず、淡々と問いかける
京介
「邪魔しにきたの?」
敵は何も答えない
京介
「襲いに来たの?」
またしても答えない
京介
「死にたいの?」
そう聞いた瞬間、不気味な笑い声が聞こえる
そして続け様に
「死ぬのはお前だぁ!!」
その言葉と同時に、襲いかかって来た、が
それは一瞬で消えた
京介は何もしてない
呆気にとられて周りを見廻すと、3番隊小隊長がいた
3番隊小隊長
「大丈夫か?二人やられたのか、すまん…、間に合わなかった…」
京介は疑問を投げた
「どうしてここに?左後方の拠点でしたよね?」
3番隊小隊長が答える
「通信機の圏内から、ここはギリギリ外れてるんだな……五条司総隊長からの、撤退命令が出てるんだよ」
京介
「はっ?何も聞いてないですよ!」
3番隊小隊長
「……まぁそうだと思ったよ、だから来たんだ」
何故?いや、理由はわかる
1人で向かう理由も、己以外を排除する理由も、しかし、理解はできても飲み込めない
3番隊小隊長
「とりあえずだが、撤退用の船を呼んだ
到着するまでしばらく時間がかかるが、その前に撤退準備をして、ピックアップポイントに向かおう」
他の拠点の隊員達も、ピックアップポイントに向かっている
しぶしぶ指示に従う京介だが、やはり司が気になる
そのままピックアップポイントに到着はしたが、他の隊員も同じ気持ちでいたようで、戦闘能力の弱い隊員は残して、司の元に向かう準備をしていた
京介も便乗して向かおうとしていたが、他の隊員に止められた
船が来るまで、残る隊員達を護衛してくれと
腑に落ちないが、命令では仕方ない
しぶしぶ返事をした
3番隊小隊長が頭をガジガジ撫でる
「ありがとうな……」
言葉の意味も分からなかった
何故礼を言われるのか
ずっと後になってから気づいた、この時の言葉の意味が……
建造物周辺
息も絶え絶えに対峙している司
この時間で何人葬っただろうか……
ゼーゼーと息を切らして不気味な人物に問いかける
司
「お前達はこんな辺鄙な所で何をしてやがるよ…、何人こんな奴が出てくる…………」
おおよそ人とは呼べない異形の生物
それにその体躯よりも強靭な力
自分は一体何と戦っているのか分からない
不気味な人物が答える
「……教えてやろう……」
司
「へっ……優しいな…」
不気味な人物
「アレは元は人間だ…………」
予想しない答えに司が動きを止める
「なっ…」
不気味な人物は続ける
「この建物では……生体実験をしている……
……これは対BLITZ用の人造兵器だ……まだ試作だがな……」
司
「おうおうw随分ペラペラと話してくれるなぁ……」
不気味な人物
「……お前に対する敬意だ…お前はここで死ぬ……だからせめてもの敬意で答えた……」
司
「ありがとうよ……試作でこれかよ、ヘロヘロになってるってのに……ついでにアレが後どのくらいいるか、教えて貰えると嬉しいんだけどな……」
不気味な人物
「……アレはもう居ない……試作段階なんでな」
司
「へっ……ならこっちの勝ちかw……」
不気味な人物
「……いや、データは取った……もうすぐ本隊が来る……」
司の顔から笑みが消えた
本隊、スカーレットスコルピオの本隊が到着する……
最重要手配の能力者!、1人でも脅威になるのに、本隊ならそんなヤツらしか居ない!!
司
「不味い!!もう少し時間を稼がないと!!」
不気味な人物
「…あぁ……もう来たか……」
司がマガジンポケットから出した1本のアンプル
科学班の研究室から拝借してきた物、科学班の隊員が失敗作だと言っていた物を拝借してきた
説明をしていた事を思い出す
回想
科学班
「これはですね、能力者の限界を一時的にですが、爆発的に飛躍させる薬なんですよ」
司
「ブースター?良いじゃないw便利そうで」
科学班
「とまぁ、そう思うでしょうが、勿論副作用が大きいです……」
「その前に、能力者には2種類居るのはわかりますか?」
司
「あぁ、限界が来ると能力が使えなくなる奴と、限界でも使える奴?」
科学班
「そうなんですが、もっと細かいのは分かります?」
司が首を振る
科学班
「能力を使える人間の方はですね……その……
命を削って能力を使ってるんですよ……」
司
「はっ?」
科学班
「つまり、限界を超えて能力を使用してる人間は、自ら死に向かって居るんです……」
「この薬は、能力が出ないものは、更に命を削って能力を使える様にしますし、既に命を削って使用しているものには、能力を強化する効能があるんですよ
それがこの薬の副作用なんです……」
現在
司
「パクって来といて良かったw」
退避用ピックアップポイント
各小隊長が司の元に向かった後、船野到着を待つよう言われた京介は、周辺の警戒をしていた
寒さは何とかなるが、通信が出来ず、いつ船が到着するか分からない
隊員達は、小隊長達が戦闘に向かったのを見て、自分達もと騒いではいたが、拠点での拠点での一件、単独で行動した総隊長、事の重大さは理解していた
しかし、総隊長に恩義を感じてる隊員は少なくない、故に葛藤しながら留まっていた
そんな最中、空に人が居るのを誰かが発見した
誰ともなく声が聞こえた
「おい!アレは誰だ!ここからじゃ見えない……味方か?他の隊員か?」
確認が終わる前に、京介が何かに気づく
その瞬間に、炎のカーテンを展開し、隊員達を包んだ
炎のカーテンに命中したのは、氷柱
鋭利で大きな氷柱である
即座に理解する
「敵だと……」
百戦錬磨の攻撃隊隊員が、呼応する様に叫ぶ!
「敵襲だぁ!!」
隊員の1人が言う
「西島!能力の弱い隊員を護る事だけ考えろぉ!!俺たちで何とかする!」
京介
「了解!」
数名のBLITZの隊員達が飛びかかる
敵はたった1人、BLITZがいればなんとでもなる……
そう確信していた……
だが……次の瞬間目に映った光景は
紙切れの様にバラバラにされた隊員達の姿だった……
護られていた隊員も含め、何が起きたか分からない
BLITZの、しかも最大戦力である攻撃隊、地球の要、幾らヒラ隊員とは言え、その力は一国を揺るがす力がある……
それが、何もせずに無力化された……
一瞬で出来た人間らしき山の上に、敵がゆっくり降り立った
「…隊長格が居ない……」
そう言葉を発した
「ならば……お前らは不要……」
その言葉に反応する前に、ピックアップポイントに居た隊員が全て氷漬けになった……
京介の炎のカーテンをも凌駕する冷気が、その場の全てを包み込んだ……
「…しまった……実験に使えたのに……」
京介は身体が動かない
何が起きたか理解が出来ない、だが何故か意識はある
何とか身体を動かそうとしても、指1本動かない
これまでか…………
そう覚悟したが、次の手が来ない……
何故?……
耳は聞こえる?目が開かない
能力で身体を暖める
ゆっくりと、でも早く
何とか見えるか?
何故自分だけ意識がある?……
そんな疑問よりも、現状を把握しないと……
何とか目が開いた、視力が戻って来た
そして、その目に映ったのは、般若の様な形相で、敵と対峙している五条亜紀の姿……
何か叫んで居る……まだ耳が聞こえない……
うっすら見えるのは敵と戦う亜紀さんだけ……
……亜紀さんの能力はなんだっけ……
左後方の撤退組
撤退用ピックアップポイントに、他の隊員達が続々と集まる
先に到着している隊員達は無事だろうか……
亜紀や小隊長達が不安を抱えながら向かう
もう少し、本の数十メートル
ピックアップポイントが視認出来る位置まで来た
何か見える、亜紀が目をこらすと
たった1人に襲われてるBLITZの隊員達
足元に赤い小山を築いた敵
それを見た瞬間、亜紀は全てを理解する
音速より早く、その敵に襲いかかる
横目で状況を確認する
数名の隊員は死亡、氷漬けにされてはいるが生きてる可能性のある隊員がまだいる
その確認だけを終えると、敵に向かって全力で拳を振り下ろす
「うちの隊員に触るなぁあああ!!」
亜紀が飛びかかるとほぼ同時に、背後に居た隊員や医療班が京介達に治療と護衛に回る
医療班は凍った隊員達を治療する
攻撃隊は亜紀の援護と京介達の護衛を
どの隊員も同じ疑問を抱えて居た
百戦錬磨のBLITZ、しかも最大戦力の攻撃隊が、たった1人の能力者に蹂躙されている……
それは亜紀も同じ疑問を抱えて居た……
考えたくはない事実……
BLITZの小隊を、たった1人の能力者が凌駕する……
亜紀
「……大人しく立ち去りなさい……そうすれば追わない……」
隊員達を横目に亜紀が言う
それに対して敵が答える
「我々は、スカーレットスコルピオ、BLITZを滅ぼす者だ……」
亜紀
「……そう……帰ってはくれないのね?うちの隊員にオイタした代償は、高くつくわよ!」
言い終わるか否かのタイミングで、亜紀が能力を発動する
五条亜紀は医療班の能力者、木火土金水の木属性の能力
しかし、それはあくまで治療に振ったが故に回復に特化した能力だが、地に足が付いている戦場であれば、空以外の万物は亜紀の支配下になる……
地表の全てを巻き込んで、仲間を護り、敵を抑える
亜紀の能力は凄まじい規模と威力
小隊長達すらも驚愕する
しかし、不気味なまでに敵が静かに佇んで居る、防ぐ訳でもなく、攻撃するでもない
怪訝に思っていると、敵が不意に口を開いた
「…自己紹介をしよう……BLITZの医療班総班長…」
亜紀は何も答えていない、何故総班長だと言う事がわかるのか……
理由は1つ、それらの情報をわかった上で、BLITZを襲撃している……
亜紀
「……リサーチ済みって事ね…呆れる…」
「わざわざ知ってて襲って来るって事は、勿論それなりの覚悟があるんでしょうね!!」
敵
「…フフッ……勇ましい事だな……差し詰め戦場のヴァルキュリアか……
申し遅れた、我が名はマモン……七つの大罪の強欲になぞらえて名付けた……」
亜紀
「……意外と文学的ね?」
マモン
「お褒めに預かり光栄だ……だが、君は勝てない……」
亜紀
「…かもね、でも、勝てなくても…黙って負けてやる気は無いわ!!」
京介の身体が回復し始め、何とか動ける程度には回復した
その目に映る信じられない光景
幾ら医療班とは言え、隊長格の亜紀が苦戦している……
自分より強い亜紀が苦戦する程度でならば、京介ではまさに足手まといになる
己の無力を痛感する
自分より遥かに手練の隊員達が紙切れの様に命を散らされる
それに対して何も出来ない
何も
何も
何も
……無力……無力……無力
そんな自分を生かそうと奮闘している隊長格
京介は動く事が出来ない
自信はあった、刺し違えても勝てる自信
しかし、目の前の班長は自爆紛いの戦法を決して許さないだろう……
それも理解している……矛盾の葛藤が京介を包む
優先するのは隊の安全か、ひとの想いか……
戦争は起きるし、人も死ぬ……
頭では理屈も理由も理解している
しかし、人で在りたいと望んだ者には飲み込めない事柄もある……
亜紀も限界が近いのはわかる……
息が詰まり、能力が弱くなる……
亜紀の能力は、限界を迎えると使えなくなるタイプだ……
亜紀もそれは理解していた……
そう考えていると、マモンが口を開く
「終わりにしよう……これ以上の収穫はない……医療班……お前は生かして連れていく……良い実験材料に使える……」
そう言い終わるか否かで、周りの景色が止まった
亜紀はそれを瞬時に察し、生き残った隊員を護ろうと、そちらに全能力を使う……
数秒……
本の数秒ではあったが、そこには絶望の景色が広がった……
隊員を護ろうとした亜紀が氷漬けにされ、動かない像になっていた……
隊員達は氷漬けから崩れている者、原型は留めているが時間の問題な者……
たった1人の能力者に……
BLITZの隊員が壊滅させられた………
マモン
「…ふむ……他の隊員は持ち帰る意味がないか……」
マモンは亜紀を片手で持ち、他の隊員を観察した
マモン
「ふむふむ……所詮ヒラ隊員か……火属性の隊員が居るとは聞いていたが、どれかは分からない……大した事が無かったのだろう……氷漬けの者は時間の問題だ……収穫はこれだけか……」
マモンは亜紀の像を片手に、壊れない程度に持ち、その場から消えた
残された隊員の中で、蘇生が間に合う隊員は皆無であった……
……京介を除いては……
亜紀の最後の力なのか、京介の能力のせいかは判断出来ないが、西島京介と言う男だけが、その場のたった1人の生き残りになった
……どのくらい時間がたったのだろう……
京介が普段の様に動けるまでに回復はした……
しかし、時間が経ちすぎて何が何だか分からない……
京介は建造物に向かった小隊長や司の元に向かう……
一縷の望みをかけて……
木星の衛星、建造物付近
氷漬けの木々が森になって道を作る
何故この星の大気が安定しているのか、何故樹木がここまで育つ程に気候が変わるのか、そんなどうでもいい事を考えながら、建造物に向かう
もう少しで到着する…もう少しで何か希望が見える……
そう願って足を進めた…多少開けた場所に差し掛かった時に、予想はしていたが、見たくないものが見えた……
BLITZの制服……
正確には、BLITZの制服と一緒に落とされた左腕……京介が唇を噛み、歯を食いしばる……
亜紀があれ程苦戦した相手……
小隊長クラスでは手も足も出ないだろう……わかって居た……理解していた……
だが……京介は飲み込めない……事実を理解はするが、許容出来ない、したくない……
足を進める程に、BLITZだったものの数が増えてきた……総隊長の応援に向かった小隊長達だ……
……この先に行っては行けない……
京介の内に警鐘が鳴る……勝てる勝てないでは無い……
見ては行けない……見たく無いものがある……
……きっと京介自身も予見しているであろう
18歳の少年の心を破壊するには、余りある光景……
しかし、それを確認しなければ確証は無い……
重い足を進める……
木々を抜けた先に建造物がある
そこに大き目の岩に背を向けて座り込む司が見える……
筋肉が音を立てる……耳の中にザワザワと聞こえる……
京介は司の元に走り出した……躓き、盛大に転倒しても、歩を停めない、本の数メートルが遠い……
息も絶え絶え司の身体にたどり着いた
司の身体に触れた……冷たかった……
おおよそ常人では間違い無く息がない体温だった……
……恐る恐る声をかけた、振り絞る様に、怯えながら
京介
「…つ……つかさ……さん?…」
京介の声に反応したのか、触れられた事に気づいたのか、司が反応した
「……お……う…」
それを見た京介は、司を暖めようと上着を脱ぎ、司に羽織らせた
付近の燃えそうなものを探し、急いで火を付けようとはしたが、上手く能力が使えない
司はそれに構わず、京介に言葉をかける
「…きょう…すけ……」
京介は慌てて司の言葉に耳を傾ける
「……すまん…負けた…他の隊員は?……」
京介が言葉を選んでいると、察した様に司が言う
「……そうか…お前だけか……」
胸を締め付けられる……
京介は司が安心出来る答えを持ちえない
そう思っていたら、司が言う
「……お…前……だけでも……生き…て……良かった…」
京介は総隊長では無く、五条司としての言葉に意表をつかれた
この人は自分を案じてくれた、こんなにボロボロになっても…今際の際に…それほどまでに思ってくれた……
そんな人に何も出来ない悔しさと、歯がゆさが、1層心を打ちのめす……
司は京介が知りたい情報を伝えようと口を開く……
司が安心出来る材料を、伝えなければ行けない
口を開きかけて止まる
……安心させられるのだろうか?……
京介達の頭上には、未だにスカーレットスコルピオの船がある……
亜紀さんはまだ間に合うのか?まだ助けられるのだろうか?……
京介の考えと裏腹に、司が言葉を続ける
「……お……前は、生き……ろ……」
そう言うと、京介に触れていた腕が、力無く落ちた……
司の方に視線を向ける
予想通り……しかし、当たっては行けない、その通りになりたくない結果……
京介の心に大きな亀裂が入った……
司の死が自分の目の前で起きた
京介はそれを飲み込める程熟成されては居ない
叫ぶのを既のところで耐えていた……
その時、頭上から何かが落ちてきた
それなりに重量がありながら、ある程度の柔らかさがある物体
…………ドサッ!……
この喜ばしく無い状況、人は必ず悪く考える
当たっては欲しくない予想…恐る恐る、落ちた方を見る……
BLITZの隊員が横たわる…手が見える……BLITZの制服……左手……薬指に指輪……見た事のある指輪……セミロングの髪を結んでいる……見た事のある髪留め……
京介の当たっては行けない予想が全て的中した……
見たくはないものが視界に映し出された……
京介は亜紀を抱き起こし、せめて生きてて欲しいと願い、声をかけた
「……亜紀さん?……亜紀さん!…あきさん…アキサン……」
薄らとした意識の中で、亜紀が答える
「……ごめんね……間に合わなかった……」
亜紀の言葉を聞くや否や、何とか蘇生して活かそうとした京介を遮り、亜紀が京介に抱きつき、か細い言葉をかける
「…………貴方は逃げて……生き…て……
ごめんね……ご飯……また……一緒に…………」
先程の司同様、力無く身を京介に寄せた……
抱き受けながら、京介は声にならない叫び声をあげる
西島京介と言う、18歳の少年の心は、この瞬間、粉々に砕け散った……
対能力者特別攻撃隊総隊長と、BLITZ医療班総班長の二人を失い、同時に家族にもなり得る人を失った……
粉々になったものは砕ける前には戻らない……
そんな京介の前に、スカーレットスコルピオのマモン、謎の人物が降り立つ
マモン
「…惜しい事をした……総班長が暴れなければ……」
謎の人物
「……油断したな…危うく死んでいたぞ……」
マモン
「……まぁこの生き残りを持ち帰るか……」
マモンが京介に向かって、巨大な氷柱を振り下ろす
しかし振り下ろした氷柱が消え、一瞬で周囲に水蒸気が充満する
マモンも謎の人物も、驚いて距離をとる
2人は顔を見合わせ、即座に警戒したが、2人が何が起きたか理解する前に、あれだけ隊長格を手玉に取った二人の能力者が炭と化した……
ある意味幸せだっただろう……痛みも何も無く……刹那に風に流される……
西島京介の、粉々に砕かれた心は、二度と戻らない……
しかし、この瞬間……宇宙でたった1人の最強無敵の能力者が誕生した……
今まで何が起きたか理解出来ずにいた京介の頭が、ゆっくりと事象を飲み込み、理解し始めた……
理解し始めると同時に、覚醒した能力が暴走し始めた……
声にならない叫び声から、声を出せる叫び声に……
ゆっくりと、ゆっくりと事象を理解し始めた京介に起きる現象は…人としての精神崩壊である……
……あ……ああ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!
覚醒した西島京介は、最早能力の制御など出来ない、ただの暴力の塊になっていた
己の無力さ、虚しさ、悲しさ、全て垂れ流している能力の権化
言葉と認識出来ない言葉で、ただひたすら亜紀と司の名前を呼び続ける……
ア゙ギざん!!ア゙ギざん!!ア゙ギざん!!ア゙ギざん!!
づがざざん!!づがざざん!!づがざざん!!
ごべんなざい!ごべんなざい!!まもれなくてごめんなさい!!
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!
雄叫びとも似つかわないその叫びは、木星の衛星に響き渡った……
本の少し、ピックアップポイントに救助用の船が早く到着すれば、この惨劇は回避出来ただろうか?……
京介の覚醒を確認したのか、スカーレットスコルピオの船は消えていた……
それと同時に衛星の大気圏に、救助用の船が迫っていた……
京介の覚醒と暴走で、衛星の核まで届いていた熱は、星を崩壊させる……
実験施設はその炎で焼き尽くされ、何があったかすら分からなくなってしまった
紅く染まる京介と、隊長格の身体……
何より紅く写った……とても鮮やかに……
ピックアップ船には、三条秋浩、沙耶麻菜琉も乗船していた
京介の座標に向かっていた救助隊が目にしたものは、砕けて隆起する大地と、雪の様に降りしきる真っ白な灰……
一体何が起きたのか考えたくもない……
考えるより先に京介を見つけなければならない
降り積もる灰の中、1箇所だけ紅く染まった場所があった……
視認出来るが、船を着陸させるには地盤が安定しない
上空からホバリングして様子を見ていたパイロットに、秋浩が問う
秋浩
「もう少し寄せられません?ダメですか?」
パイロット
「無理だ!地面には降りられない、それにこの灰だ!
機器に詰まってまともに動けなくなるかもしれん!ここが限界だ!!」
苦々しい顔で秋浩が言う
「了解です!なら自分がこのまま下に降ります!菜琉!!ザイルは?!」
そう言うと、菜流は秋浩にザイルとワイヤーを装着する
秋浩はそのまま地表に飛ぶ
船内では何時でも治療出来るように、医療班が万全の準備をしている
秋浩は叫び続ける京介に近寄る
「京介、撤退しようぜ……」
しかし秋浩も、京介が抱えてる二人を見て察する……
いや、西島京介と共に歩んで来た秋浩だからこそ、察するまでも無かった……
京介の肩に手をかけ、声を掛ける
「……先に隊長達……収容してもいいか?……」
京介は泣きじゃくって答えない……
だが秋浩は泣きじゃくる京介からゆっくりと預かり、丁寧に二人を船に収容した……
収容された二人を見た船の乗組員達は、言葉を失う……
BLITZの最大戦力と医療の要が、物言わぬ者になっていたからだ……
京介を収容しようと準備していた秋浩を静止して、菜琉が自分が行くと交代した
京介を思った故の提案だろう……
秋浩もそれをわかって菜琉に変わった
京介の元に降りた菜琉は、泣き叫ぶ京介を抱きしめ、優しい声をかけた
「……お疲れ様……頑張ったね……間に合わなくてごめんね……戻ろう?………」
京介の身体を抱きしめ、安定剤であろう注射を首に打ち、そのまま抱えて船に戻った……
菜琉はここで起きた事をとても想像出来ない
できたとしても、京介の心を支える事しか出来ないと……
クリムゾンインパクト エピローグ
西島京介
五条司
五条亜紀
3名を収容(内2名死亡)
BLITZ、対能力者特別攻撃隊、及び医療班
死亡者数 不明(木星の衛星が消滅した事により、遺体が確認出来ず)
BLITZ本部にある名簿により、遺族に報告、補償を実施
総隊長、総班長2名の遺体を、BLITZ内にて葬送す
特別攻撃隊 西島京介
能力の暴走により、BLITZ医療棟を半壊させる
クリムゾンインパクトより1年
医療棟強化医療収容室を建造、西島京介をそこで収容、及び治療実施
面会者記録
沙耶麻菜琉
三条秋浩
西島忍
西島響華
八尺 伽耶
BLITZ局長
科学班が検査を申し出たが
医療班総班長、沙耶麻菜琉により拒絶
科学班の検査に関しては、正式な退院後とした
治療に際する投薬
西島京介の症状は、基本的に完全にPTSDではあるが、能力の暴走が原因なのか、能力者の拒絶なのか、一般の投薬が効かない
能力者用鎮静剤
抗うつ薬
麻酔類
どの投薬も無効(体内分解が異質な速さで行われる)
入院中の西島京介について
面会者がいる時いない時に関わらず、精神的に安定せず
状態が良好な時は、ぼーっとして何も無く窓を見ている(特段の害無し)
子供の様に泣きじゃくり、頭を抱えて泣き叫ぶ
状態が悪化する場合、五条亜紀、司両名に対しての謝罪を繰り返し、能力が暴走する
暴走の範囲は、能力者本人にも及ぶ
身体中を焼き付くし、掻きむしり、全身から血が吹き出ても辞めない
鎮静剤が効かない為、室内の酸素濃度を調整して、気絶させる他ない
医療棟強化医療収容室を破壊まではしないが、それでも半壊する程度には能力が暴走する(医療棟強化医療収容室は、現存の支部の隊長格に耐久試験を行ってもらった折り、傷1つつかない結果になっている)
面会者がいた時に不安定になった場合
沙耶麻菜琉班長の場合
西島京介に被さり、抱きしめてると取られる状態になり、西島京介が沙耶麻菜琉の背中を掻きむしる
菜琉班長は、それを押して声をかけ続け、その後西島京介は落ち着く
三条秋浩の場合
仁王立ちで西島京介の暴走を身体に受け止め、全身焼け焦げた状態で西島京介に声をかけ、その後落ち着く
西島忍、西島響華の場合(特異例)
不安定に暴走はするが、この両名のみ能力の影響が無いように保護されている 両名が西島京介に触れる事も可能(逆に、両名が居る所以外、西島京介も含め焼ける、若しくは破壊される)
BLITZ局長と八尺伽耶の両名は、医療班総班長命令により、病室には一切入室させていない(両名の身の安全を考慮して)
クリムゾンインパクトより1年後(3856年)
西島京介の治療完了
これにより、自宅療養を推奨する
万が一、能力の暴走が起きた場合に備えて、沙耶麻菜琉、三条秋浩、八尺伽耶の3名に監視及び護衛任務を、局長よりの密命が下る
西島忍の言葉(医療棟医療強化収容室カメラより)
お兄ちゃんはいっぱい頑張ったから、もう頑張らなくていいのに……
早く良くなるといいなw
菜琉ちゃんも一緒にケーキ食べに行こうねって言ってくれたから楽しみw
菜琉ちゃんもお兄ちゃんも怪我してるから、お仕事休んで欲しいな……
沙耶麻菜琉の手記
クリムゾンインパクトの1件から、京介の心は壊れてしまった……
未だに自分を責め続けている……
私が出来る事は、それを解消出来ないけど
一緒に居て軽くしてあげたい……
八尺 伽揶の愚痴(同医療班隊員からの聴取)
……何時までも無理してるからああなるのよねぇ……
少しくらい甘えてくれても良いのに……
三条秋浩のインタビュー
Q、BLITZの総隊長が亡くなられたと言う事ですが?
A、問題ありません、我々の戦力は揺るぎないものですのでw
Q、BLITZの戦力は大丈夫なんですか?人類や地球は護って貰えるんですか?
A、そちらも問題ありません、我々は万全の状態を常に維持しております
Q、生き残りの隊員がおられると言う事が?
A、そちらに関しては、詳細を控えさせて頂きます
Q、一説にはその生き残りの隊員が原因で全滅したとのお話がありますが?
A、……うるせぇんだよ!こんな時だけBLITZ叩きか!他にやる事あるだろうが!
西島響華の手記
……ダメなお母さんでごめんね……、何時もお兄ちゃんに守ってもらってばかりで………待ってるから……どんな姿でも、京介は京介だから……
クリムゾンインパクトから1年
西島京介の心は砕けたままではあるが、様々な人の温もりが、砕けた欠片を組み立て、再びBLITZの隊員として復帰する……