ANGEL WALTZ 作:とくめい
不審な来訪者、クラッカーの帰還から数日後
BLITZの本部から車で約1時間半ほど離れた郊外にある、教会
そこに向かって京介は車を走らせて居た
鼻歌交じりにタバコを咥え、ややノリノリで車を飛ばす
しばらく走らせると、教会が見える
ちょっとした金持ちくらいの敷地の広さと、建物の大きさ
相変わらず大きいなァと見上げる京介
この教会は、第1次星間大戦後に建造され、家を無くした一般人や、子供達の避難所や教育施設としても活用されていた
今も、数人のシスターと十数人の子供達が暮らしている
そんな地域住民に差し伸べられる、本当の意味での最後の砦
そんな教会の名前は、聖ルシフェル教会
……キリスト教全体に喧嘩を売るような名前だ……
「まぁ中にいるのはサタンも真っ青だけどなw」
京介が苦笑いをしながら呟く
教会の礼拝堂の扉を開ける
中には誰もいない、神々しい聖母マリアとイエスキリストのふたつの像が正面にそびえ立つ
そこそこ高い壁の上には、この教会の名前の由来が長々と書かれている
要するにこの教会を設立した当時の司祭は、悪魔崇拝とかでは無く、純粋に堕天使ルシファーにも手を差し伸べれば、災厄は起きなかった、それを救うのも我々信徒の責務だ、と
その時のキリスト教を全体的に敵に回した
時代が時代ではあるが、なかなかぶっ飛んだ解釈をした司祭だと、京介はそう言う人間は大好きだった
当時の関係者の心中に思いを馳せていると、服の裾を掴まれた
身を捻り掴まれている方を見る
クラッカーが京介を見つめている
それを見た京介は、顔をほころばせ、挨拶と共にめちゃくちゃに撫で回し、抱きしめる
京介
「おぉ!クラッカーくぅーんwげんきだったかぁw」
犬でも撫で回す様に可愛がると、クラッカーは指を指す
礼拝堂から外れた場所にある小さな建物
シスターの詰め所
ありがとうなと頭を撫でながら、持ち上げたクラッカーを下ろすと共に、京介を見つめた後に背を向けて歩いていった
それを軽く見送ると、シスターの詰め所に歩いて行く
ドアをノックしようとよく見ると、ドアノッカーが天使が二人でリングを持った洒落たデザインに変わっていた
子供には良いかな?
そう考えながらノックをする
ハァイと優しそうな声が聞こえる
扉を開いたシスターが、京介を見て優しく微笑み、京介の頭を掴み、額にキスをする
シスター・マリア・ラファエラ
「まぁまぁ、良くいらっしゃいました、どうぞ中へ」
シスターが中へと招き入れる
中のシスター達に向かって、声をかける
「西島さんがお見えになられましたよ、お茶をお出しして」
京介はシスターに荷物があると伝え、いま取ってくると言い、乗ってきたバンを近くまで寄せた
バンから荷物を下ろすと、シスターは京介に感謝とお礼を言った
「ありがとう、本当にありがとう、貴方に神のご加護が有らん事を」
京介自体、神や仏を信じていない、だがそれは京介の事だと割り切り、他人の信じるものを否定はしない
信仰するのは人それぞれだと割り切っているからだ
食料、コーヒーや紅茶、日用品、その他もろもろを運び入れるシスター達
特に甘い物や紅茶は、ささやかな楽しみと共にご褒美だからだ
京介もそれをよく見ている故に、少し良い紅茶やコーヒー、お菓子を差し入れる
京介
「お節介ですみませんw別に金が無い訳じゃ無いでしょうがw気持ちで申し訳ないんですけどw」
シスター・セシリア
「何を仰ってますか!いつもこんなに差し入れて頂いて、本当に言葉もございませんよ」
シスター・カタリナ
「本当ですよ、貴重な文学書や楽器まで、西島さんに感謝しなかったら罰が当たりますよ!」
一段落して、詰め所で差し入れたお茶を貰い、一休みしようとした矢先、その場に居たシスター全員に加護の祈りを捧げられた
京介が苦手なやつだ
大した事でも無いし、それこそ自販機でジュースを買うくらいどうでも良い事を、ここまで崇められるとどうして良いか分からない
少し困った顔で、シスター達にまた持ってくるからと伝える
京介がシスター達に聞く
「クラッカーはどうです?w」
口を揃えて皆言う、とても優しく、勤勉で、慈愛に満ちてあどけなさもあり、何も言わないが、本当に天使の生まれ変わりかと思う程だと
京介はクラッカーがここに数回しか来てないのに、このくらい言って貰えるならばとホッとした
「あのですね……」
京介が次の話しをしようとした所、詰め所の裏口からシスターが入ってきた
とても美しい綺麗な金色の髪、透き通った白い肌、スラッとした長い足、傷もシワも無い美しい手、深い蒼さを持つ瞳、ぷっくり膨らむ厚みのある唇、そしてなにより、シスターには不釣り合いなグラマラスな肢体
彼女が悪魔だとしても、命を吸い取られても良いと言う男がどれほどいることか
そんな彼女に向かって、シスターが声をかける
シスター・アグネス
「あらシスター・ルシフェル、西島さんがお見えになられていらっしゃいますよ、また差し入れもあんなにたくさん」
シスター・ルシフェル
「あらあらあら、いらしてたんですか?ご苦労さまです、本当にいつもすみません、子供達も喜びます!」
この、聖書を砲弾に神々にバズーカを撃ち込みそうな名前のシスターが入ってきた途端、京介はいつもの軽口を言う
京介
「そのくらいは大したこと無ぇよwあぁ、ごめん、お前の分の黒いレースのセクシー下着は買い忘れちゃったw次持って来るからw」
修道女に向かって、ありえない単語を放ったと思ったら、シスター・ルシフェルは笑顔のままツカツカと京介の所まで歩いて近づき、顔面を鷲掴みにして持ち上げる
体重が90キロ以上ある京介を、片手に本を持ちながら、片手で肩より高く持ち上げる
シスタールシフェル
「えっ? なんですって? 誰が何時、そんなものを欲しました? 」
始終笑顔にも関わらず、言葉の語気が強い
首から下をプランプランさせながら、京介が言う
「あの〜wちょっと首が取れちゃうんでぇ、離して頂けると嬉しいんですよ〜wお願い出来ませんかね?シスターw」
教会には有るまじき光景ではあるが、周りのシスター達は老若落ち着いて微笑ましく二人を見守る
シスター・ルシフェル
「あなたが要らん差し入れを持ってさえ来なければ離しますよ、もちろん」
シスター・ルシア
「まぁまぁ、シスタールシフェル、西島さんも冗談ですから、その辺で」
シスター・アグネス
「そうですよ、ご自分が一番お解りじゃありませんか」
周りのシスターに諭され、京介を下ろす
ふざけて周りに、ねぇ!首裂けてない?大丈夫?とおちゃらけて見せる
それを周りのシスター達が微笑ましく大丈夫ですよと答える
シスター・ルシフェル
聖 牡丹(ひじり ぼたん)
彼女もまた能力者でありながら、一般社会に溶けこもうとして足掻いている1人である
能力が発現してから数年程度だが、往々にして京介の思い付きの被害者である
元々シスターでも能力者でも無く、一般的な養護施設の職員だった
務めて居た養護施設で、犯罪を犯した能力者が、逃走中で逃げ込んで来た
なんて事はない、とばっちりの災難である
問題はその後、逃げて来た能力者は、施設の職員、児童を全て殺傷した
他の身体の大きな職員が彼女に被さり、一命を取り留めた
周りを見渡し、惨状を確認する
一番小さな彼女に懐いて居た女の子すら、無惨な姿に変えられていた
BLITZが来たのはその後だった
本の少し、本の少しでも早くBLITZが来てくれていれば、こんな事にならなかった
警察組織が安いプライドをぶら下げ、BLITZに対する連絡を渋る……
それが悲劇をさらに産む
地域差もあれば人間の誤差もあるだろう
しかしこれはあまりにも酷かった
能力者とわかった時点で、本来連絡を入れていればこんな悲劇は産まれなかった
牡丹が訴えても、のらりくらりと言い訳を述べる、それは民間人だからだ
権力で黙らせられる……
しかし、能力者絡みではそうも行かない、BLITZが絡むのは必須だった
初めは局長が穏便に済ませようとした
しかし京介はそれを断固として認めなかった
総隊長会議の場で、局長を睨みつけて意見をする
前代未聞の行動である
周りの総隊長達も京介を咎める、しかし引かない
警察の管理や連携は、特殊部隊の仕事だと、責はそちらにもあるんじゃないかと詰め寄る
総隊長達の言い争いに発展しかけた時に、局長が言う
「それならば、西島隊長に一任します」、と
やり過ぎなければ構わない、そう言った
他の総隊長は何か言いたげだったが、局長の鶴の一声で収まった
それから京介を呼び出し、何をしたいか聞いた、勿論傷つける事以外で収めないといけない事は、二人とも了承しているからだ
京介は警察の現場にいる人間と、BLITZの隊員の入れ替えを提案した
警察を実際の戦場に連れていき、どんなものかを体験させる、勿論全力で安全は保証すると
京介に見えない様に、局長は悪い顔で笑った
その提案を京介に許可をする
秋浩はそんな提案に頭を抱えたが、隊員達はノリノリだった
作戦を遂行中の部隊と入れ替えで警察を送り、地域住民の対象にBLITZが対応する
警察の入れ替わりがBLITZと知らない住民は、問題があった時に迅速に対応してもらえる事に感謝し、戦場の警察は阿鼻叫喚の地獄絵図
その間の警察署に対してのクレームは激減し住民も静かだった
警察と入れ替えが終わり、元に戻った後のクレームが激増し、また住民の不満が溜まった
BLITZの隊員は別に特別な事をしなかった
当たり前の事を、迅速に、真摯に行うだけ
書類仕事も10倍程度のスピードで終わる、暇な隊員は未解決事件を解決し始めたり、とにかく早かった
それがまた警察官に戻ればクレームも増える
京介はそれを見計らって、秋浩に講習を開かせた
何が悪く、なぜ不満が出て、何に不満が多いか
警察官は疲弊していた
その時点で退職者がどれほど居た事か
それを警察所長に向かってイヤミったらしく言う
京介
「安いプライドをぶら下げて、職務を怠慢して、当たり前に出来る事を蔑ろにしたら、そりゃあクレームしか出ませんよね?w」
「それに、きちんとやってる何て言うくせに、権力をかさにきてのらりくらりしてたら、不満しか出ませんよw」
ぐうの音も出ない正論
京介は警察の返事を聞かないで、また似たような事が起きたら同じ事をすると伝え、警察署を後にした
背後には、何も言えず青い顔の警察署長が立ちすくむ
そのまま京介は、牡丹の住んでいる家に向かう
家に招き入れ、話しを聞く牡丹、京介は床に座り、牡丹に頭を下げた
済まなかった、これから先は二度と同じ事を起こさせないと
牡丹
「もう良いんです……」
諦めた様に言う
「あなたが何をしても、あの子達は戻らない……」
京介は何も言わず、頭を下げ続ける
牡丹
「……もう良いんです、ありがとう……」
涙を堪えながら言う
事件の事が頭から離れない牡丹は、以前と比べると何をするにも気力もやる気も全く持てなくなっていた
そんな折り、牡丹がフラフラ歩いていると、墓地に辿り着いていた
亡くなった子供達を思い出して、涙を流して居た
それが聖ルシフェル教会の墓地だった
マザー・クレアが、フラフラの牡丹に向かって声をかける
マザー・クレア
「お嬢さん、大丈夫ですか?一体どうしたんです?」
マザー・クレアの質問に、牡丹は答えられない
心配そうに牡丹の身体を抱えるマザー・クレアは、背中を擦りながら言う
マザー・クレア
「……何があったかは存じませんが、宜しければ中に入ってお話を伺わせて頂けませんか?」
微笑みながら優しく声をかける
牡丹はその声に、藁をも掴む思いで頷いた
教会の詰め所の中に入れられ、暖かいミルクを差し出される
頭からブランケットを被せられ、隣で背中をさすられる
ゆっくり、ゆっくりで良いんですよ
そう慰められ、ポツリポツリと牡丹が話し始めた
事件の事、自分が生き残ってしまった事、これから未来があった子供達を守れなかった事……
泣きながら全て話した
マザー・クレアは何も言わず聞き続けた
話し終わって泣き崩れる牡丹、それを優しく抱き寄せ、あなたが悪い訳じゃ無い、あなたのせいじゃない、そう慰めるマザー・クレア
牡丹は自分を責め続けていた、いたいけな子供の血塗れの手のひらを握って、ゆっくり体温が消えていったあの日から
辛いですよね、苦しいですよね、悲しいですよねぇ……
マザー・クレアは言う
「今の私には、あなたの痛みを取り除けるか分かりません、しかし寄り添ってあなたを手伝わせて頂けませんか?」
そう言いながら牡丹を撫でながら慰める
黙ってうなずく牡丹
落ち着くまで、いつまでも居て構いませんからね
暖かい言葉をかけるマザー・クレア
数日間、牡丹は教会で過ごした
お祈り、子供の世話、教会の雑務、何をしても気が重い……
思い出すのはあの日の事だけ、満足に眠れず、寝てもすぐ目が覚める、ノイローゼなのかも知れない
そんな牡丹を、マザー・クレアは献身的にお世話をした
子供達はそれでも牡丹を慕う
本来の優しさと、養護施設での経験が役に立っている
丁度養護施設に居た子供達に近い年齢……
はしゃぎながら無邪気な少女が不意に声をかける
「お姉ちゃん見たいに綺麗になれる?」
牡丹は驚いて答える
「……ありがとう、綺麗かな?お姉ちゃんより美人になれるよ……」
少女は言う
「綺麗だよ、お姉ちゃんより美人じゃ無くてもいいの、お姉ちゃんが良い」
子供特有の言葉を知らないが故の純粋な賛辞
上手く笑えない笑みで、優しく頭を撫でる
そして夕方のお祈りの時間
礼拝堂でお祈りをする………牡丹は祈った
(あの子達の代わりに生きる資格も生きる価値も無い、考え続けても分からない……神がいるのなら、今すぐ私を死なせて)
その時、礼拝堂の扉が破られる
BLITZに追われて逃げてきた能力者が入ってくる
血だらけの衣類、柄の悪い風体、息を荒らげて飛び込んで来た
能力者は牡丹を人質に取り、背後のBLITZの盾にする
何の能力者だろうか?楕円形をした禍々しい氷の刃がBLITZと自分を見定め、狙いを付けている
ドラマの様なやり取り、どうでもいい騒ぎ声
牡丹がその瞬間考えていたことは、助かりたいでも無く、驚くでも無く
(これで良い、やっと死ねる)
「三下相手に手間ぁ取ってんじゃあねぇ!!」
そんな時に聞こえた、聞き覚えのある声
牡丹は目を開ける
開けた瞬間礼拝堂の天井が崩れる
木材や砕かれたガラス、降り注ぐ欠片や残骸の中、牡丹の目に見えたのは、天使の翼が生えた悪魔……京介
実際は何かの木材や欠片、金属が影になったりしたのだろう
それでも牡丹ははっきり見えた、ガラスの欠片だろう、金属の反射だろう、それらがキラキラと星屑の様に見え、その中に降り立つ天使の翼の悪魔が
その悪魔は、牡丹を押さえ付けている能力者を、見えない程の速さで叩き伏せる
牡丹が、その衝撃でよろめく、それを支える悪魔
もとい西島京介
無力化した能力者を尻目に、口調は軽く、表情は心配そうに牡丹に話しかける
京介
「大丈夫かい?w今度は間に合ったかね?w」
その言葉を聞いて、牡丹は泣き崩れる
安堵の涙か、死ねなかった後悔か、涙を流して座り込む
マザー・クレアが駆け寄る
牡丹の身体を支え、京介を見る、京介はBLITZの隊員達に能力者を捕縛するよう指示を出す
マザー・クレアに向き直り、天井を壊した事を詫びる
京介
「マザー、天井すみませんw後で修理の手配するんでw」
それにマザーは答える
「……天井は構いませんが、これは一体?!」
京介は申し訳無さそうに説明した
男が逃亡犯だと言う事、既のところで取り逃した事、そのせいで教会に迷惑をかけてしまった事
自分はBLITZの隊長だと言う事
それらを説明し、改めて謝罪する
それを聞いたマザー・クレアは、呆気にとられて返事をした
わかったのか分からないのか自分でも分からない状態で……
そして牡丹に話しかける
京介
「……死にたいと考えましたか?……」
牡丹は答えない
京介
「……生きてて良かったと思いましたか?」
牡丹
「……分からない……分からないんです……」
京介は悲しそうな笑顔で、牡丹の手を握る
京介
「……分からなくても、今は助かって生きてる、もう少し、本当にもう少しで良い、一緒に生きて見ませんか?」
牡丹は答えられない
その時、牡丹の身体に異変が起きた
感情が入り乱れ、人として生きてて良かったのか、死ねなかった後悔か、どうして良いか分からない
そして、自分を含め養護施設の人間を殺害した能力者、しかしその能力者は今自分を救った
感情が昂り、牡丹の中に乱気流の様に渦巻く
それが更なる異変に繋がった
能力の発現
京介は牡丹の手を握ったまま、彼女の顔を見つめる
そして言葉を続ける
京介
「あなたが感情のままに能力を使ってしまえば、マザーやここにいるシスター、なによりあなたの愛情を受けた子供達が大変な事になってしまいます……」
「…頑張れますか?、我々BLITZがそばにいます、深呼吸して、抑えて見て下さい……」
その言葉に牡丹は目を開き、周りを見た
礼拝堂の入口には、子供達が不安な顔で中を覗いている
養護施設の子供の記憶を思い出す
能力者が憎い、あんなに可愛いらしかった子供達を、物言わぬ塊に変えた能力者……
しかし今ここで目に映ったものは、少々破天荒ではあるが、誰も傷つかないよう立ち回り、あまつさえ子供を護れなかった自分を肯定する
謝罪に来たのを無下にしたのにも関わらず、自分を救った
そしてその表情は、自分を襲った能力者のそれとは違う、慈しみに溢れる……
子供達を傷付けたくない……子供達を未来に繋げたい……
牡丹はそう思いながら耐える
唇を噛み締め、耐える
京介が手を強くにぎる、マザー・クレアが祈る様に牡丹を抱きしめる
どのくらいの時間そうしていただろう、しばらくして牡丹が落ち着く
京介は牡丹の様子を見、真剣な眼差しで見つめ、マザーに向き直り話しかける
京介
「……マザーすみません、1度BLITZに彼女を運んで検査をしたいんですが、構いませんか?」
マザー・クレアは心配そうに答える
「……彼女も辛い思いをしてきました、あなた方BLITZは、彼女の心を土足で踏みにじらないと約束できますか?」
鋭い目つきだが、優しさと慈愛に満ちた目で京介を見る
京介も真剣な目で答える
「……必ず、お約束します、彼女の心を土足で踏み荒らす真似はしません」
その答えと京介の眼差しに、マザー・クレアはお願いしますと答える
牡丹に向き直り、優しく言葉をかける
マザー・クレア
「牡丹さん?、この方々に、適切な治療と検査を受けて頂けませんか?、あなたの身体が問題無いとなれば、例え能力者だとしても、我々聖ルシフェル教会の神の信徒は歓迎致します……いかがですか?」
牡丹はマザーの言葉にさらに涙を流す
差し伸べられたマザーの手を握り、京介の手をさらに強く握る
あまつさえ忌み嫌われ、しかも自身も嫌悪する能力者になっても尚、自分を受け入れると
牡丹は頷く
京介もその姿を見て、外のBLITZに声をかける
京介
「医療班!頼むこの人を運んで貰えるか!」
「丁重にな、ゆっくりで良い!」
医療班が彼女をゆっくり運んで行く、それを確認し特殊部隊の隊員達に叱責をする
「後で特殊部隊の総隊長と話ししねーとなぁ……」
京介が嫌そうに頭を搔く
その後教会の修復の手配を済ませ、後処理をし、BLITZに運ばれた牡丹の様子を見に、医療棟に向かった
医療班班長室
菜流が運ばれて来た牡丹のカルテを見ながら、パソコンにデータを打ち込んでいる
そこに京介が顔を出す
京介
「お疲れ様w今大丈夫か?」
菜流がやっぱり来たなと言わん顔で、笑顔に対応する
菜流
「いいわよ、来ると思った、その心配性もう少し治ったら良いんだけどねぇw」
京介は苦笑いを浮かべ、持っていた飲み物とドーナツを菜流に渡すと、対面の椅子に座り話しを聞いた
菜流が処置を施した内容、牡丹の状態を京介に話す
外見的外傷はあまり見受けられないが、能力が定まらない
京介
「定まらない?ってどういうこと?」
当然の疑問に京介がさらに聞く
菜流は自分の見解と状態を照らし合わせながら話す
おそらく牡丹の中で能力を発現したくないと言う意識が、身体全体でそれを拒絶している
故にその影響で体内がボロボロになりつつある
以前の事件の事でPTSDになっているが故の反応では無いかと
事件のデータを見ながら話す
今は投薬と処置のお陰で安定はしているが、それもいつまで持つか分からない
京介も菜流も、同じ事を考えた
子供を助けられなかった思いの最中、己が憎悪している能力者になってしまった
心の傷は治すのにとてつもない時間がかかる
場合によっては一生付き合わなければ行かない
それがこんな短期間で目まぐるしく起きてしまえば、普通の精神状態では耐えきれなくなり自己崩壊を起こす
それに能力が乗れば、暴走と言う結果になり兼ねない
菜流
「それとね、そのせいか分からないけど、身体に変化が見られるの……」
京介
「変化?」
菜流
「見た方が早いわよ」
そう言って牡丹の病室に京介を連れて行く
病室に着き、京介に向かって心の準備をしてねと伝える
その言葉に京介は身構える、身体変化の度合いはよく分からない
異質な形状になってるか、何か得体の知れない形になっているか、心を病んでそれが表に現れるが、それが起こるのは比較的能力の強いものだった
意を決して扉を開ける
京介が見たものは、綺麗な金髪に透き通った肌、スラッとした長い足にグラマラスな肢体……
男なら誰でも誘惑されそうな女性が横たわっていた
京介
「……だれ?」
菜流が答える
「こちらが貴方がここに運ぶよう指示をし、私が処置をした、聖牡丹さん」
京介
「はっ?……」
京介は考えた
自分が助け、能力が暴走しかけ、涙を流し、献身的に教会に尽くした女性は、艶の無い黒髪を後ろで三つ編みにし、可愛いらしいが疲れきってやつれて居た顔、スタイルは悪く無かったが控えめな胸、畑仕事や水仕事でガサガサな肌だった
それから比べれば、火を見るより明確な別人である
呆気にとられている京介に菜流が説明する
全て推測に過ぎないけれど、と前置きをして
おそらく、子供や教会のシスター、養護施設の子供を守れなかった自分が彼女自身を拒絶する部分、死にたかった部分、その後に憎悪した能力者になりたく無いと思った部分が、彼女の中でせめぎ合って、こうなったのでは無いかと
自分を消したくて消える事も出来ず、憎い能力者になってしまう、それでは教会に申し訳ない、ならば自分を変えてしまいたい、その結果が能力が起因でこうなったのか、と説明をした
菜流も自分で言っていて、何を説明してるか定かでは無いが、京介もそんな事があるのかと驚いている
少し考えた京介が、菜流に向けて言う
「…………でもまぁ、能力、なんて謎パワーが有る時点で、別に不思議じゃないんだろうなぁw」
不本意だが、菜流は今回ばかりは京介に賛同し得る
確かに未だ解明しきれていない、能力者……
ある種では何でもありなのは否めない
何が起きても不思議では無い
続けて菜流に言う
「研究は俺らの本分じゃ無いからさwそりゃ研究班の仕事だしwなったもんはしょうがねぇよw」
「それに、指紋や血液、DNAは本人のだろ?w」
菜流は確かにハッとした
確かに、まるっきり変わったのは外見の容姿だけ、血液型や性質、勿論詳しく検査しないと分からないが、それは紛れも無い聖牡丹のもの……
菜流も諦めたのか吹っ切れたのか、京介に向かって笑顔で答える
「そうね!仕方ないかもw」
菜流の頭を撫で、二人で納得した
ただ、能力が何なのか定まっていない事、心的障害で目が覚めたらどうなるか分からない事、これからどうなるか、どうするか彼女が何も言ってない事
目の前の課題を説明した
京介はしばらく考え、菜流に提案する
京介
「起きたら俺に話しさせてもらえる?その前に混乱するから、菜流がある程度話してくれるとありがたいけどw」
菜流
「勿論それは構わないわよw京介も当事者だしねw」
京介
「ありがとうなw」
そう言いながら京介は菜流の肩を抱き、少しふざけて頬を寄せ班長室に戻った
翌日
京介が教会で後処理の手伝いをしていると、医療班から連絡が入る
菜流からの直接の通信、牡丹の事かと思い付く
京介
「どうした?w麗しの姫君よw」
菜流
「ふざけないの、勤務中なんだから」
いつもの調子で軽口を言う京介を諌める菜流
予想通り牡丹が目を覚ました
任務が終わったら来て欲しい旨を伝えられる
少しぼーっとしながら考え事をする京介
おそらく何から話すか考えているのだろう
これから先の人生を、牡丹はどう捉えているんだろうか……
そして、自身をどう捉えて居るんだろうか……
そんな事を考える
医療棟
菜流に軽い説明を受けてから病室に向かう
ある程度の説明はした、今は良いがいつ不安定なって暴走の兆しが出るか分からない
もし京介が話してて気になる事があれば、メモに残して欲しい
わかっててあえて言うが、慎重に(ここだけ強めに言われる……)
牡丹の病室
コンコンとノックしながら、声をかける
中から返事が返る
扉を開けると、鏡とにらめっこを続ける牡丹かいる
京介
「目は覚めましたかね?調子の方はどうです?」
差し支えの無い言葉をかける
牡丹はその問に鏡を置き、京介に向き直る
改めて見るととてつもない美人になっている
日に当たりキラキラ光る金髪、艶っぽい唇、憂いを帯びた表情、深い蒼い瞳……
これはどんな男でも放っては置かないだろう
京介は感心しながら牡丹に近づく
京介
「座っても?」
牡丹は頷く
京介
「ありがとうw」
持っていたクリップボードをテーブルに置き、柔らかく話しかける
京介
「ある程度聞いてはいるとは思いますが、あなたの身体には我々ですら解明出来てない症状が起きてます、それに能力が発現はしていますが、私が聞いた時は、どんな能力か分からないと聞きました、自分が把握しているのはそのくらいです」
話しながらポケットに入れていた、ボトルの紅茶を差し出す
牡丹はそれを受け取る
京介
「どんな気分です?」
ゆっくりで良いと補足しながら、答えを待つ
牡丹
「…………あ、の……」
京介は牡丹が話し出すのを、ゆっくり、ゆっくり、優しい眼差しで待つ
牡丹の手を取り、優しく握る、牡丹はそれに応えるよう、強く握り返す
牡丹
「……正直、何が起きて何から理解していいか分からないです、この顔も、この体も、能力者になったのは、自分でも分かります……でも、さっき能力を使おうとしたんですけど、ダメでした、やっぱりわたしは、能力者が憎いんだと思います……」
京介が手を握ったまま、肩をさする
良く話してくれた、ありがとう、と
京介が少し考える、牡丹はそれを不安そうな顔で見つめる
思い出した様に口を開く
京介
「それじゃあ、まず不安要素の切り離しをしていきましょう」
「あなたの希望をなるべく叶えられる様、我々も全力で協力しますよw」
牡丹は意味が分からないが、目の前の男は憎い能力者とは違う、それを心で分かっている
京介の話しを聞きたいと申し出る
牡丹
「……切り離しって、どうするんですか?」
京介はポケットから小さなチップを出して、牡丹の手のひらに載せ、良く見て良いと説明を続ける
京介
「そのチップは、能力者の抑制に使うものです、人畜無害で後遺症も無い、外す事だって出来るし、外しても害は無い」
牡丹が不思議そうに聞き返す
牡丹
「……抑制?能力が無くなるんですか?」
京介が続ける
「正確には能力は無くならないんです、あくまで抑制するだけ、しかしそれをつけると能力が無い状態にはなれますが、身体の強化は残ったままなんです」
牡丹が理解しようと頭を捻って考えている
京介
「あぁ、ややこしく言い過ぎましたねw、早い話し、しこたま身体が強い一般人になれる装置です、能力者はおろか、その辺の男性になんか負けませんよ」
牡丹は納得した、が
疑問を伝える
牡丹
「この装置をつければ、みんな能力が無くなるんじゃないですか?、どうして付けないんです?」
京介が頭を掻きながら話す
「それなんですが、最近、本当にここ10年以内くらいでようやく完成したんです、それこそ何も不具合や副作用が無い状態を、一応非戦闘を望む一般人や、捕らえた能力者には装着していますが、地球人だけが能力者では無いので、全ての人間に装着するのは危険なんです……性能も、これが今の精一杯です、……すみません」
牡丹は京介のやるせない表情を見つめる
あぁ、この人は本当に自分を助けようとしている
そう感じた牡丹は、優しく京介の手を握り返し
ありがとうと微笑みながら話す
牡丹
「それじゃあ、装置をつけて頂けませんか?……お願い……します」
京介は微笑み、牡丹に答える
京介
「はいwわかりました、それに関しては医療班の総班長の方に伝えさせて頂きます、それから……」
続ける京介、近くにあった鏡を見て、牡丹に向き直り言う
京介
「……容姿の方なんですが、いかがですか?」
牡丹は手鏡を取り、鏡の中の自分をまじまじと見つめる
目線を京介に戻す
牡丹
「……西島さんは、どうお思いですか……」
京介
「男なら全員放って置かないですねw」
牡丹は違うと言い、京介はすみませんと謝る
京介
「すみません、少しふざけましたね、こればかりは完全に個人の話しになってしまいますから、BLITZ、果ては能力者の総意とは取らないで頂きたいんですが」
軽口を言い、場を和ませようとした京介だが、少しタイミングが早かったようで、訂正する
そして前置きをした上で、京介個人の意見として言った
京介
「……自分は、あなたを以前から、優しく、芯のある女性だと思ってます、ですが、平和に暮らしていた中で突然起きた惨状に対応出来ないのも当然です、罪悪感も、憎悪も、悔しさも、それは全てあなたが、[優しい人]だからなんです、貴女を優しく育てた環境を、我々BLITZが作らなければならない、恥ずかしながら、まだそれには至ってませんが……」
牡丹は食い入る様に京介を見つめる
京介は少し考え、再び話す
京介
「……まぁ、色々言いましたが、要は自分は貴女が生きてて欲しいですし、勿論安心しました、嬉しいです、自分からすれば何も変わっていない、容姿が変わってもあなたは貴女です、それに必要なら幾らでも貴女を受け止めます、貴女が出来ない事を代わりに手を貸します、それをあなたの弱さと責めないで下さい、責められるべきは我々BLITZなんです、貴女にそんな思いをさせる事が、我々BLITZの責任なんです!」
牡丹は顔を俯かせ、考えてる
京介
「貴女に辛い思いを、悔しい思いを、悲しい思いをさせた、それはBLITZの恥なんです……」
「……すみません、自分はあまり話すのが苦手で、牡丹さんの得たい言葉を言えたか分からない、すみません」
牡丹は涙を流す
生きて欲しい、安心したと、子供達を救えず、能力者になり、周りに不安や恐怖を与え兼ねない自分を、受け止める、支えると
なんの涙か牡丹本人も分からない
京介に向かい精一杯の笑顔を作る、涙でくしゃくしゃになりながらも京介に向けて笑顔を作る
牡丹
「……わ……たし……いきて……いい、んですか……?」
しゃくりあげて話す牡丹の涙を手で拭いながら京介が話す
京介
「自分は貴女に生きて欲しいです、罪なら我々が背負いますので」
牡丹は泣く、京介が言った言葉を聞いた瞬間、生きてて欲しい、生きても良いと望まれた事に感情が溢れる
こんなわたしを背負っても生きてて欲しいと
ひたすら泣く、涙が枯れてしまう程に
京介はそれを静かに見守る。何も言わず、ただ手を握り、背中をさすり、静かに寄り添って佇んでいた。
長い時間がたった
外はもう暗い、ようやく落ち着いた牡丹は、京介にすみませんと伝える
ずっと京介の手を握りながら……
京介
「このままおやすみになっても大丈夫ですよ、自分がずっと傍にいますから」
牡丹は少し考えた
泣き過ぎてあまり定まらない思考で出した答えを言う
牡丹
「……大丈夫です、すみません、少し楽になりました」
暗い病室に明かりが灯る
菜流が心配そうに声をかける
菜流
「大丈夫?、何か必要な物ある?」
それに対して京介は飲み物が欲しいと答える
笑顔で分かったと言うと、飲み物を取りに行った
変わらず背中を擦りながら、牡丹の隣で京介が佇む
牡丹
「……少しなら、少しだけなら生きたいと思いました……」
京介は何も言わず背中をさする
牡丹
「あなたが……あなた達が居てもらえれば……甘えてしまいますが……」
京介が微笑みながら言う
「我々に甘えて済むならそれで良いんですよ、貴女が第一ですから、好きなだけ甘えて、その分生きて欲しいですw」
牡丹
「……ありがとう、ございます」
牡丹が京介に微笑む……
それから数日後
菜流と牡丹が医療班の処置室で、チップを装着する準備をしている
菜流が説明をする
「安心して下さいね、痛みも無いですし、説明した様に付け外しで何か後遺症が起きる事もありません、外したくなれば好きな時に外せますから」
牡丹が説明を聴きながら、菜流に話す
「……あの、……西島さんって、面白い方ですね」
菜流
「……あぁwまた何か言いましたか?、いつもふざけてるんですよ、総隊長としての威厳も何も無くなりますよ」
準備をしながら菜流が言う
それを聞いて牡丹は微笑む
菜流は首の後ろで処置をしながら続ける
「まぁ、そのおかげで助かる命が増えるんで、あまり文句も言えませんけどね」
牡丹もその一人になった
好きなだけ甘えて欲しい、その分生きて欲しいと言われ、思う所もあった
牡丹
「わたし、あの教会にお世話になろうかと思うんです」
菜流
「……良いと思いますよ、正直、今の牡丹さんの容姿は、女の私から見ても歯ぎしりする程羨ましいですからw」
「街で暮らしたら、別の問題が間違い無く出ますよ」
牡丹は菜流の言葉が少し信じられない
菜流自体も、白衣とBLITZの隊服から見て取れるシルエットは、美しくとても羨ましく見える
菜流はそんな牡丹の考えを読み取り答える
「ちなみに、医療班の男性隊員は何人か鼻の下伸ばして牡丹さんを目で追いかけてましたけどね、副班長に怒鳴られるまで」
えも言われぬ罪悪感を牡丹が襲う
そんなに綺麗なのだろうかと首を傾げる
菜流
「まぁしばらくはまだ出られないので、少し大変な思いをするかも知れないですよ」
牡丹はなんの事かと菜流に問う
菜流
「教会に戻られると言うのは、とても良い事だと思いますし、素晴らしいと思います、しかし、牡丹さんは能力が無いだけなので、ここで肉体の訓練をしばらく、と言ってもひと月ほどですが、行ってもらいます」
牡丹は少し覚悟をしていたみたいで、はい、と答える
それに菜流が続ける
「それとその容姿の分、違う危険がありますので、格闘技や肉体的な訓練も少し参加して頂きます、とは言え、それを超えたら教会の方や、貴女自身の事も、きっと護れると思いますよ」
少し疑問があった牡丹は、それを聞く
「あの、逆にひと月で大丈夫なんですか?」
菜流
「ん〜、西島隊長にも相談したんですけど、彼がひと月って言ったんです、牡丹さんなら大丈夫だって」
京介が、牡丹を信用してくれていると感じた
牡丹は言葉にしない
強く心で期待に応えたいと思った
思わず口元がほころびる
それから牡丹はBLITZの隊員達と訓練を共にする
男性隊員の目線を気にしつつ、女性隊員の羨望の眼差しを受け、厳しい訓練をこなしていた
勿論そんな事は基本ご法度だが、特殊な経緯と京介のお節介(独断)が故に成り立っている
頭を抱える秋浩、慰める菜流、男性隊員を怒鳴りつける伽耶、笑い転げる京介
BLITZの隊長格に愛され、共に生きようと言われた牡丹、この人達ならと、訓練を耐え抜いた
力の調整も上手くなり、訓練もいよいよ大詰めになり、いつもの京介の思いつきで、地下訓練場に連れて来られる
牡丹はこんな所があるのかと訓練場を見上げる
高い天井、広い土地、東京ドーム何個分だろう?と感心した
牡丹
「あの、ここで一体何を……」
京介が牡丹に軽く言う
「にししw、俺を殴り飛ばして下さいw」
牡丹
「はっ?」
秋浩や菜流、伽耶が見守る中、牡丹は困惑する
まぁまぁと京介が説明する
京介
「今まで本当にお疲れ様です、良く耐えて頂きました、本当にこれで最後なんですが、牡丹さん、人を傷つけた事はありますか?」
牡丹は首を振る
京介
「だからなんです、いざと言う時に、人を傷つける覚悟が無いと、誰も護る事ができません、本当に心苦しいんですが、自分を殴って下さい」
牡丹は恐る恐る平手をした、京介は笑顔で言う
京介
「違うんです、今までの訓練で得た技術で、貴女の全力で、自分を殴って下さい」
牡丹は訓練で理解した能力者の身体能力、それを自分を支える人に向かってぶつけるなんて、と
京介は牡丹の不安を拭いたくて更に話す
「もし、また貴女に危険が及んだ時、少しでも身を護れるよう、踏ん張って下さい、まぁ勿論無理にやらせる気は無いんですが」
牡丹は考える、殴らなくても良いなら殴りたくない、しかし、子供達や教会の人たちは普通の人間、護れるのは自分だけ
葛藤してる牡丹を心配そうに見守っている菜流、秋浩、伽耶
菜流が口を開く
「勿論無理なんかして欲しく無いんですよ?、でも牡丹さんは優しすぎるから、わざと京介もこんな事したんです、普通の人になんか絶対しないですし」
それを聞いて牡丹は京介を見る
変わらず優しく笑っている、少し心配そうに
意を決して頷く牡丹
京介
「大丈夫ですよ、多分殴られても俺痛く無いですしw」
牡丹の緊張をほぐす為だろう、いつもの軽口を言う
実際、能力者に殴られてもケロッとしている姿を、秋浩は良く目にする、菜流や伽耶も、京介がそんな事でどうにかなるとは欠片も思っていない
むしろ伽耶に関しては強めで良いと牡丹を応援している
BLITZの総戦力と言っても過言では無い、総隊長を本気でぶん殴ろうとする身体強化のみの一般人
状況が前代未聞すぎる
殴る為に集中する牡丹
こんなに優しい男を殴らなければいけないと言う葛藤、しかし自分が甘いだけでは子供達も教会の人達も、自分すら護れ無い
少なくとも、京介達が来る本の少しだけでも自分だけが頼りなのだから
牡丹
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
刹那の瞬間だった
京介に向かい、十分な助走、腕を振り下ろすタイミング、渾身の一撃
多分これが京介たちの相手にしている能力者でも、いい具合に吹っ飛んだだろう
皆息を飲んで見守る中、砂煙が晴れて姿が現れる
微動だにしない京介、目を瞑り、涙を浮かべる牡丹
牡丹のあたまに何かの感触を感じた
恐る恐る目を開く
見えたものは、いつもの優しい笑顔で牡丹の手を取り、頭を撫でる京介
京介
「頑張りましたね、本当に、良く頑張りましたw」
安堵して一気に泣き崩れる牡丹
よしよしと頭を撫でながら慰める京介
頑張ったと駆け寄る3人
牡丹
「……こわ……かった……よう……」
菜流
「頑張ったね、怖かったね、もう大丈夫ですよ」
頭を撫でながら慰める京介
支えながら安心させようと抱きしめる菜流
これなら大丈夫だと言葉をかける伽耶
飲み物を差し入れる秋浩
BLITZと一般人の垣根を超えて、5人に絆ができた
皆に認めて貰えた牡丹は安堵した
こんなに甘えて良いんだと
訓練を終え
訓練が全て終わり、いよいよ教会に戻る時が来た
牡丹は少し不安そうに考える
事前に教会のマザーには了承を受け、いつでも歓迎すると菜流や京介に言われてはいたが、いざ向かうとなると不安が募る
大丈夫だと言われたが、様々な憶測が頭の中を交差する
聖ルシフェル教会
マザーは礼拝堂に居ると聞き、京介と牡丹は向かう
緊張しながら京介に促され、礼拝堂の扉を開ける
礼拝堂の掃除をしていたマザーがそれに気付く
緊張の瞬間、牡丹が声をかける前に、マザーが気付く
マザー・クレア
「まぁ……まぁまぁまぁまぁ!、牡丹さん、こんなにお綺麗になって、良くぞいらして下さいました」
牡丹に駆け寄り抱きしめる
牡丹は一瞬怯む
こんなに変わり果てた自分の容姿を、なぜわかったのか
本来なら、京介達が教えたのかと考えるが、来る途中に京介はそれは話して無いと言っていた
恐る恐る牡丹が尋ねる
「あ、あの、マザー……なぜ私とわかったんでしょうか?」
逆にマザーが牡丹に不思議そうに聞く
「なぜ?って、だって牡丹さんは牡丹さんじゃ無いですか、少々容姿が変わった所で、間違えなんかしませんよ」
牡丹はその言葉を聞いて口元を抑え、涙を流す
京介と同じ事を、マザーにも言われた衝撃
わたしは私と認めてくれた事
この二人は、本当の意味で自分を見てくれている
本当に、自分を必要としてくれている
これほど嬉しい事はない、生きてて良いと、生きて欲しいと、今まで感じた事の無い感情を、皆から与えられた……
教会の詰所
牡丹を教会で引き取る準備をしながら、詰所で細かい話しや雑談をする
牡丹
「あの、マザー?……」
マザー・クレア
「はい、なんでしょうか?」
おずおずと牡丹が話す
「ここでの名前を頂くんですよね?」
その質問にマザーはゆっくり話す
「ええ、神の信徒として使える為に洗礼名を頂きますので」
申し訳無さそうに牡丹が言う
「……あ、あの、付けたい……名前があるんですが」
マザー・クレア
「ええ、勿論、あまり俗世的なものでなければ、大歓迎ですよ」
牡丹
「……ル、ルシフェルのお名前を頂きたくて……」
マザー・クレアは目を丸くして、ダメなら、と言いかけた牡丹に対して大笑いした
「アッハッハッハッハッw」
牡丹はお淑やかで慎ましいマザーが、口を開けて笑う姿に驚く
何か変な事を言ったのかと、やはりダメだったのかと不安だったが、落ち着いて口を開いたマザーに、まだ余韻が残りながらも言われた
マザー・クレア
「当教会の名前と共に、堕天使の名を洗礼名にしたいと仰ったのは、牡丹さんが初めてですよ、すみません、あまりにも偉大過ぎて、思わずはしたなく笑ってしまいました」
牡丹
「……やっぱり、イケませんか?」
マザー・クレア
「イイエ、いけない事なんかありませんよ、それに、今の貴女はその名を冠するのにピッタリなほどお美しいですから、身も心も」
牡丹は少し照れながら、小声で呟く
「……身も、心、も……」
にこやかに笑うマザー・クレアは、牡丹の背中をさすり、京介に少し準備があるから、20分ほど開けていいかと尋ね、待ってますと答えると、詰所を後にした
牡丹と京介が2人きりになった詰所
牡丹が口を開く
「あの、本当にありがとうございます、ここまでして頂いて、なんて言っていいか」
京介は牡丹ににこやかに答える
京介
「当然の事ですよ、それに前も言いましたけど、それが我々、自分の役目ですからw」
牡丹は当然の様に言う京介にお礼をしたい、が今の自分には何も無い、それを伝える
京介
「お礼なんぞ要りませんよ、それなら、もっと甘えて、もっと頼って、もっと生きて下さい、牡丹さんに会えないのは、寂しいですからねw」
あまり言われ慣れない言葉に、牡丹は少し顔をあからめる、京介に気付かれない様、少し俯く
京介が提案をする
「それなら呼び捨てにして下さいよwいつでも甘えて、頼って良いんでw敬語なんか使わないで、当たり前に話して貰えれば嬉しいですねw」
牡丹はそれを聞き、それならばと言う
「じゃあ私にも敬語使わないで下さい、あの、歳も離れて無いので、牡丹って」
二人は少し考える、高校生の恋愛かと思うくらいのたどたどしさ
片や幼少期から悲惨な体験ばかりしてきた男
片や凄惨な事件に巻き込まれた女性
当然と言えば当然の反応である
二人が同じに声をかける
牡丹!
京介!
気恥しいような不思議な感覚に包まれる
意を決して牡丹が呼ぶ
牡丹
「き、京介!本当にありがとう、いつでも来て!」
京介
「お、おぅ、また来るよ牡丹!キツかったら、すぐに言ってくれよ!迎えに来るから!」
……中学生の様な二人、それに対して牡丹が微笑みながら、何かを思いつく
意を決した様に、京介に言う
牡丹
「ね、ねえ、京介、こっち向いて」
京介
「うん?」と正面に向き直る
目を閉じてと牡丹が言う
言われるがまま、目を閉じる
牡丹が左手で首の後ろを掴み、それに京介がなんだよと言う
右手で京介の目を覆い、口付けをする
本の1分程だが、京介は固まり、牡丹は恥ずかしくなり後ろを向く
京介が何かを言おうとするのを遮り、牡丹が強めに話す
「ご、ごめん……みんな綺麗だって言うから、お礼のつもり……調子に乗っちゃった……」
京介はそれが彼女の精一杯の気持ちだと理解し、軽口とは少し違う優しい口調で言う
「調子に乗って良いんだよ、ありがとう、本当にありがとう、牡丹の気持ち、しっかり受け取ったからw」
牡丹
「……ごめんね、菜流ちゃんと付き合ってるのは知ってるんだけど……」
京介が牡丹の頭を優しく撫でながら
「謝らないで良いよ、自信もって大丈夫だから」
牡丹
「言われる前に言うけど、もうしないから、多分京介は、そういうのは大切な人としろとか言うだろうし……片思いで良いの……」
京介は返答に困ってしまう
そんな事を言われると叱れない
でも後半はその通りだと納得する
恋愛下手がそろうと、あまり発展しないのがよくわかる
京介
「わかって貰えてるなら良いんだ、信じてるから」
捻り出した精一杯の答え
頭が回ってない京介は、マザーが遅い事を考えていた
詰所の裏口
マザー・クレアが扉の隙間からコッソリ中を覗いていた
口元をほころばせ
「あの年頃は甘酸っぱいですねえw」
口を隠し楽しげに笑っていた