ANGEL WALTZ   作:とくめい

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case 夜千与紗夜 ACT2【自己嫌悪、自己犠牲】

 

京介にシェルターだった物が、さらに襲いかかる

何度も何度も何度も

しかし全て京介の炎に飲み込まれ、欠片すら京介には届かない

 

その様子を楽しそうに見つめるスロース

ポケットから出したアンプルを飲み込む

 

その瞬間、周りの土に同化し始め、不敵な笑みを浮かべ、土に姿を消す

 

スロース

「私が君を捕えられるか、君が私を倒せるか、勝負しようじゃないか」

 

京介はもはや何も見えていない

スロースは疎か、周りの土も何もかも見えていない

 

京介の目に写っている物は、無力な隊員と、それを焼き殺したくて堪らない自分

 

あの日、何を得て何を失った?

世界の、宇宙の希望を失った

自分がもっと強ければ、自分がもっと弱ければ、何も起こらず隊長達は帰ってこれたのではないのか?

 

隊長達の骸の上に残ったのは、絶望した未熟な隊員

そんな者が生きてて良い訳がない

こんな奴が、隊長であってはいけない

 

そんな思いが京介の身体を支配していた

悲しく、強く、恐ろしい……怪物……

 

 

京介

「……アア、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

「消えて無くなれ!!この世から!!」

「お前なんか!!居なくなれぇ!!」

 

スロースに向けて放ったのか、それとも別の何かなのか、京介が叫んだ

 

その瞬間、京介の身体に渦巻いて居た炎は、爆発的に燃え盛り、シェルター諸共天井を突き抜けた

 

ドォン!と言う爆発音にも似た轟音がとどろき、シェルターと同じ広さの穴の上に、星空が映し出されて居た

 

 

 

少し前

地表

 

 

京介に救助?された少年少女

紗夜は京介に渡された通信機でBLITZの隊員に連絡を取っていた

 

お陰で続々と医療班や秋浩達が集まって来ていた

 

菜琉

「身体の検査もしないといけないから、ゆっくりで良いから本部に運んで!」

「怪我をしてる子は先に軽く治療を受けさせてから輸送して!」

 

菜琉が子供達の治療やケアをしようとバタバタしている

 

秋浩

「おーし!とりあえず準備出来たか?京介の空けた穴から突入するぞ!」

 

隊員達

「了解!!」

 

秋浩達が京介のあとを追い、地下のシェルターに突入しようとしていた

 

BLITZの隊員が目まぐるしく淡々と処理を行う、しかし軍隊や警察程殺伐としていない、私語を交わしながらだが一切無駄のない動き、その奇妙な光景に紗夜はある種の異様さと安心感を感じてしまう

不思議な感覚

 

さっき助けてくれた隊員は、総隊長と名乗った

こんな短時間で集まり、あまつさえ手際がいい、良すぎるBLITZの連帯感、それに治療や突入する隊員が口々に隊長や、京介、と口にしている

 

少し羨ましく思った

 

自分には無い環境、仕事もあるのだろうが、総隊長と言うだけではここまで気にかける組織は少ないと思う

 

紗夜

「……西島……さん……」

 

紗夜は、怪我をした少年を優しく抱え上げる医療班の背中を見つめた、 命令されているから動いているのではない。彼らは、あの穴の底にいる『総隊長』が大切にしているものを、同じように大切にしようとしている。 そんな熱が、夜の中でそこだけ陽だまりのように漂っていた。

 

あらかた子供達を運び、ある程度目安になってきた頃、伽耶が菜琉に話しかける

 

伽耶

「菜琉、京介は?あの大穴の中にいるの?」

 

菜琉

「そうだと思う、今の所あそこに居る子が全ての情報源だからだけど、京介くんが通信機を渡した子だけ、残って貰ってるからちょっと話しをしないと」

 

仕事をしながら確認をし、紗夜に話を聞こうとBLITZが歩み寄る

 

菜琉

「改めて、こんばんは」

 

紗夜は先程とは違う表情のBLITZに、少し驚く

目の前にいる女性は優しく微笑み、紗夜を気付かって不安を与えない様話してくれる

さっきの総隊長と同じ様に

 

伽耶

「残って貰ってごめんね、少しだけ確認する事があるから、それが終わったら本部で治療してもらうからね」

 

キツめの顔ではあるが、淡麗な顔立ちの隊員も優しく話しかけて来た

 

紗夜

「……あ、あの……」

 

何を聞かれるとも分からない紗夜が口を開きかけた時、菜琉が背中に手を回し、さする

 

菜琉

「怖い思いしたね、ごめんね、ゆっくりで良いからお話、聞かせて貰えない?」

 

また、さっきの総隊長と同じ

自分を、言葉だけでなく心配してくれている安心させようとしている

警察にはない不思議な安心感

 

それに紗夜が少し安心した様子で口を開く

あまり多くは分からないけど、少しでもなにかの役に立てればと……

 

紗夜

「……あの、あまり役に立てる事は分からないんですけど……」

 

菜琉

「良いのよ、大丈夫、言える事や分かる事だけで良いから」

 

伽耶

「うちの総隊長から通信機渡されてるから、その辺りで話聞きたいだけだからね」

 

紗夜はゆっくり話す

自分がなぜここにいるか分からない事

スロースと言う能力者が薬で人を怪物に変えている事

自分の今の父親もその被害にあった事

母親がその父親の毒牙にかかった事

 

そして、必死に逃げようとして、西島京介と言ういつも繁華街で見る隊員に助けられた事

その隊員が総隊長だと思わなかった事

 

話せる事は少ない、BLITZに有益な情報だとは自分でも思わない

けど精一杯何かの役に立てればと、必死に話した

 

紗夜

「ごめんなさい……役に立てる事、分からなくて」

 

一通り話を聞き終えて、菜琉と伽耶は紗夜を落ち着かせようと背中をさすりながら、声を掛ける

 

菜琉

「ありがとう、良く話してくれたね」

 

伽耶

「頑張って話してくれてありがとう、まぁまぁ、うちの隊長が予想通りで、ある意味安心したけど」

「……辛かったね、もう大丈夫だから」

 

今までかけて欲しくても掛けられない

かけて欲しいとも願えなかった言葉を、事も無げに口にする隊員達

 

大して役にも立たない事を、真剣な眼差しで、怖がらせない様に微笑みながら聞いてくれていた

他の組織とは違う、奇妙ではあるが、慈愛に満ちた安心出来る人達

京介が頼れと言った意味が、目の前で答えられた

 

紗夜

「……あの……」

 

紗夜が何かを言いかけた時

 

キィイイインと言う耳鳴りと共に離れた場所に巨大な、太陽の様な光量の火柱が立ち上る

 

熱い、急に周りが熱くなる

あんなに離れているのに、一瞬でここまで熱気が流れてくる

 

隊員達が一斉にその方向を見る

 

気の所為か、火柱の周りの地面が隆起している、いや、動いている

 

伽耶

「えっ!……京介?!……」

 

残っていた医療班と攻撃部隊の隊員達に、緊張が走る

 

それと同時に近くの穴から、先に突入した秋浩達が這い上がってくる

 

隊員

「あっちっ!早く出ろ!蒸し焼きになる!」

「洒落にならん!なんだこりゃ?!うわっ!服溶けてる!」

「熱量が冗談じゃない!なんだ?総隊長か?!」

 

隊員達が口々に熱が尋常ではない事をいいながら飛び出して来た

 

他の隊員が全員出た後に、ゆっくりと秋浩が熱でズタボロになった服のまま、上がってくる

手に何かを持ってやれやれと言った表情で

 

秋浩

「……とっさに防いだつもりだったんだがな、見ろよ、土塊がガラスになってやがる……」

 

秋浩がそう言って、菜琉に見せた塊

 

とても透明で透き通っている、とても純度の高いガラスの塊

 

不純物を何も含まない純粋なガラス、人工クリスタルと言っても良いレベル

 

それだけの熱量が今の一瞬でBLITZの隊員を襲った

 

その熱量もさることながら、それを服がボロボロになる程度で防いだ隊員に、紗夜は驚愕する

 

自分が知っている能力者とは、一線を引く強さ

目の前の優しい隊員達も、そんなに強いのかと

 

秋浩

「……参ったな、菜琉、ちょっと頼めるか?」

 

秋浩が菜琉に向かい、珍しく頼み事をする

それに対して何を言いたいか察する菜琉

秋浩に対して緊張した表情で返す

 

菜琉

「……多分、不味いよね……」

 

秋浩

「場合によっちゃあ地球滅亡かな?」

 

この二人は一体何を言っているのだろうか

まるで日常の他愛もない会話の様に、地球滅亡なんてほのめかす

 

BLITZの温度差、それが異常だと言う事が、まざまざと醸し出される

 

冗談かと思う程あっさり

言葉とは裏腹な隊員達の表情が、それを裏付ける

 

それを察知したのか、秋浩が紗夜に向き直り言葉をかける

 

秋浩

「あぁ、怖がらせてごめんな、急いで本部まで送ってもらうから」

「伽耶、頼める?」

 

伽耶

「嫌よ!」

 

伽耶に向かって秋浩が言うと、間髪入れずに伽耶が叫ぶ

その声に菜琉も驚く

 

菜琉

「えっ、伽耶ちゃんどうしたの?、ダメ?」

 

菜琉の問いかけに伽耶が興奮気味に叫ぶ

 

伽耶

「あんた達また私をハブって危ない事しようとしてるでしょ!!」

「アタシだって京介が心配なんだよ?!」

「あんた達残して自分だけ安全な所に何か行けないよ!!……」

「……アタシだって……BLITZの隊員なんだよ…ねぇ…仲間でしょ……」

 

伽耶の悲痛な心の叫びを耳にし、菜琉は唇を噛み締め、秋浩は視線を落とす

だが、これ以上京介の心に穴を増やしたくない……

 

伽耶を含め皆それを理解している

言っている伽耶自身も、なぜそんな位置に自分を置くのかはわかっている

 

わかっているからこその悲痛な叫び……

 

その叫びに、秋浩は返す言葉を見つけあぐねいていた

 

菜琉は伽耶の気持ちを十分理解出来る、取り乱す伽耶に近付き、震える手でそっと肩を抱き、静かに伽耶に話す

 

菜琉

「……ごめんね、伽耶ちゃんの気持ち、痛いくらい良く分かる……」

「でも、だからこそお願いしたいの……」

「私が居なくなったら、伽耶ちゃんしか頼れないの……伽耶ちゃんだけが皆を助けられるの……」

 

医療班の総副班長と言う肩書き、その仕事はBLITZならず、場合によっては能力が発現していない一般人も治療する場合もある

 

総班長の菜琉が居なくなれば、伽耶がその任を一気に引き受けなければならない

一般の外科医や内科医、神の腕や医師界の神童等言われる様な名医でも、BLITZの医療班の総班長と総副班長から比べれば、何も出来ない子供同然

 

それだけの経験や戦場をくぐり抜けて来た

単に医療班と言うだけではない

どんなに致命傷であれ、必ず生きて帰還させるのが仕事

 

それがどんなに難しい事かは、世間は疎か自分達が良くわかっている

 

だからこその伽耶の叫び、菜琉の言葉

言っている方も言われてる方も、どちらも断腸の思いで言葉を交わしている

 

伽耶

「……ズルいよ……」

 

クリムゾンインパクト時、伽耶も秋浩や菜琉と一緒に本部に残された

 

それを後悔した内の一人

無理を言ってでもついて行けば、それこそ亜紀総班長であればついて行けたのではないか

 

あの日、衛星カメラの映像を本部で歯がゆい思いで見つめて居た

秋浩と菜琉がピックアップ船で向かった時も、同じ理由で残された

 

また、またここでも同じ様に京介に辛い思いをさせる気なのかと

自分の中途半端な能力を呪った

 

そのやり取りを静観していた紗夜が、恐る恐る問いかける

 

紗夜

「あの……私も、残りたいです……」

 

菜琉

「何を言ってるの!そんな事出来る訳無いでしょう!」

 

珍しく菜琉が語気を荒らげた

 

秋浩が興味ありげに紗夜に聞く

 

秋浩

「……なんで残りたいの?」

 

危険を承知で声を荒らげたが、秋浩が静かに菜琉に視線を向け、何故かと疑問にも思うのも当然、たしかに普通の能力もない人間ならば、どちらかと言えば一刻も早くこんな危険な所は離れたいはずだからだ

 

言われてみればと菜琉も落ち着く

伽耶もそれを興味ありげに聞こうとする

 

紗夜

「……あの……私は、隊長さんに助けられました……何も出来ないかもしれないけど……本の少しでもお手伝いが……したい…です」

 

紗夜の震えながらも真っ直ぐな瞳を、秋浩はジッと見つめ、この子が気の迷いで言ったかどうかを確認する、それから、短く息を吐いて口を開く

 

秋浩

「……なら仕方ねぇ、伽耶はこの子の護衛してて、俺と菜琉で京介の所に行く」

 

秋浩の言葉を聞いて、菜琉が驚きながら話す

 

菜琉

「な…そんな事、させられる訳ないでしょ!秋浩くんも何を言い出すの!!」

 

秋浩は興奮気味の菜琉に向かって、静かに言う

 

秋浩

「……京介ならそうする」

 

一瞬の静止

 

確かに西島京介なら、紗夜をこのまま置いて、一人で始末をつけに行く

それは、あの男が『西島京介』だから許される無茶だ。秋浩もそれを分かっているはずなのに

 

その張本人が、今地球滅亡の危機に自ら手を下しかけている

 

何か言いかけた菜琉の言葉を静止して、秋浩がさらに続ける

 

秋浩

「……いつまでも京介におんぶに抱っこできねぇだろ、それに、俺は総副隊長だからな」

 

菜琉が頭を抱えてため息を付く

 

先程まで緊迫していた空気が、少し和らいだ

 

菜琉

「……そんな所まで総隊長に似なくて良いのに……」

 

伽耶も秋浩に薄っすらと京介の様な雰囲気が漂うのを感じ、口元がほころぶ

 

伽耶

「うちの隊員達は、馬鹿ばっかりだね、菜琉」

 

菜琉

「……はぁ、認めたくない……」

 

本の少しだけ、安全を最優先に考えた隊員達が、たった一人の少女の言葉で目に光を取り戻した

 

……そう、皆同じ気持ちでここに立っている

京介の心をこれ以上砕かない様、彼を護ろうとしている

 

秋浩

「ただし!」

 

秋浩が言い聞かせる様皆に話しかける

 

秋浩

「危険だと判断したら、伽耶は即時撤退な、お前には悪いが、それは絶対に守ってもらう」

「菜琉もそれならいいよな?」

 

秋浩の妥協案に、菜琉が渋々といった様子で頷く

それを確認した秋浩が伽耶へ視線を移すと、彼女は少し悔しそうに唇を噛み締めながらも、覚悟を決めたように深く頷いた

 

秋浩

「格好つけて、一般人巻き添えで死なせたら、BLITZの、いや[西島京介]の名折れだろうしな」

 

紗夜はこの不思議な雰囲気に、心地良さを感じていた

 

今は確かに恐ろしい状況ではあるが、それがこのBLITZの隊員達が居る、と安心出来る

 

これが本来のBLITZなのか、それともさっきの総隊長が築き上げたBLITZなのか

 

おぼろげながら紗夜は考えた

 

この人達と一緒に居れたら、多分今までの苦労も報われるのではないか、と

 

秋浩と菜琉が京介の元に向かう

それを、残された伽耶と紗夜が見守っている

紗夜が伽耶に向かって静かに話し掛ける

 

紗夜

「……隊長さんって、皆さんに好かれてるんですね……」

 

少し羨まし気に言う紗夜に、伽耶が応える

 

伽耶

「ううん、違うよ、危なっかしくてほっとけ無いだけ……もう一生分辛い思いしたから……」

 

伽耶の辛そうな表情に、紗夜は自分を恥じた

BLITZの隊員をまとめる総隊長、学校でも習った、クリムゾンインパクトの当事者

ニュースでも騒がれ、叩かれて居た

詳細は当事者の本人しか分からない

 

さっきの総隊長は、そんな事を微塵も匂わせない程、優しく慈愛に溢れて居た

 

きっと自分が想像も出来ない程の経験をしたんだろう

こんな事を思うのはおこがましいのかもしれない

けれど、あの背中にこれ以上の重荷を載せないで済むなら

自分にもして貰えたよう、少しでも、ほんの少しでも、その痛みを分かち合えたなら……

 

 

 

シェルター直上?

 

京介がシェルターの天井を抜いた事で、地表にも熱気と炎が溢れ出す

 

スロースが大地と同化した事で、見境なく京介の炎が周りを襲い始めている

 

スロース

「このまま行けば、見事に星崩しになるね」

「あまり長引かせるとわたしが危ないから、動けなくしないと」

 

スロースの声が言い終わると同時に、大地が京介目掛けて津波の様に襲いかかる

また同じ手かと思いきや、畳み掛ける事が終わらない

 

土が消えても消えても京介に向かって降り注ぐ

ぶつかる土、土からガラス、ガラスが砕けて蒸発する

ありえない過程

 

なおも構わず土塊を降らせる

それでも京介の炎の勢いは収まらない

寧ろさっきより強く大きくなる

 

これでは埒が明かない

 

どんなに大地をぶつけても、京介の炎が全てを飲み込む

 

スロースが少し考えていると、爆発で穿たれた大穴の上から、星空を背負って、二つの影が猛烈な勢いで火柱の中へと飛び込んできた

 

「京介えぇぇええええ!!」

 

秋浩と菜琉が降ってきた

 

着地の衝撃で土煙が舞う

シェルターの地面にヒビが入る

 

秋浩

「あっち!」

 

土煙が晴れると、秋浩がシェルターの壁を見上げ、菜琉が心配そうに京介を見つめる

 

菜琉が秋浩を見ずに言う

 

菜琉

「秋浩くん、お願い」

 

秋浩も菜琉を背に答える

「おう」

 

その言葉を合図に、秋浩がシェルターの周り、の土塊とコンクリートを地表に押し上げる

京介が放つ猛火を強引に捩じ伏せ、土と瓦礫を練り固めて巨大な断熱の檻を作り上げた

それが菜琉と京介を囲む様に壁を作る

 

完全に途絶された、二人の空間

 

意識外の行動をされたスロースは、そのまま流され、地表に出た

 

スロース

「君達は応援かな?どうしてもう一人を閉じ込めたんだい?」

スロースが当然の疑問を口にする

 

秋浩

「子供には見せられねぇんだよ」

 

珍しくわかりやすい皮肉

スロースはそんな事を自分に言うとは思わず、少し癪に触った様に話す

 

スロース

「そうか、わざわざわたしを離したんだ、君はそれに応えてくれるのかな?」

 

秋浩

「……俺は京介程強くない」

 

意を突いた自身の弱い宣言、スロースは不思議にそのまま聞く

 

秋浩

「だけど、お前よりはだいぶ強いぞ?」

 

その言葉にやってみろと言わんばかりに、秋浩に襲いかかる

 

土が秋浩の下半身を絡め取り、津波の様に尖らせた土塊が、秋浩を飲み込む

いや、飲み込もうとした所で止まる

動かない土になぜだと疑問を持つ

 

秋浩

「なんでお前の能力で操ったもんが動かなくなったか不思議だろ?」

 

スロースが答えを迷っていると、秋浩が続ける

 

秋浩

「……格の違いってヤツを見せてやるよ」

 

そう言った瞬間、スロースが操る土が、同化したスロース自身を目掛けて逆流する

 

秋浩の下半身を絡めとっていた土塊が、蠢きながらその拘束を解いた

 

スロースは土を操り防ごうとする、しかし制御が効かない、とっさに自分の周りの土で壁を作り、防いだ

 

手足の様に自在に動く土が、まるで自身を拒絶するように硬直し、牙を剥く

彼が積み上げてきた『土属性としての常識』が、音を立てて崩れ去った

 

何が起きたか分からない、土属性の能力か?しかし明らかに違う

いや、土には変わりないが、異様に硬く、変質している

 

スロース

「なんだ?これは?」

 

秋浩

「サービスで答えてやる、同じ土属性でも、お前は土を操るだけ、同化して手足のように動かせたとしても、土は土」

「俺は変質、変化させて使役する、土にも意思を持たせられる」

 

スロースは驚愕する

そんな能力者は聞いた事がない

どんなに強く、英雄と崇められたとしても、木火土金水の属性は変わらない

派生こそあれど、全く変わる事などありえない

 

それではまるで……

 

秋浩

「特異系?」

 

秋浩が自分の思った事を口にした事に、スロースは何も言えなくなった

 

秋浩

「変異はしても、特異質じゃあ無いらしい」

「まぁ、能力者のややこしい所だしな、まだ解明されてないらしいからよ」

 

スロースがその言葉を聞き、秋浩に興味ありげに問いかける

 

スロース

「わたしもそこまで能力を昇華出来るかい?」

 

当然の疑問だか、ため息混じりに秋浩が答える

 

秋浩

「能力者の9割8分はそのまんまの能力らしい」

「残りの2分にお前が入るかは分からないけどな」

 

スロースはそれを聞き、自分にももっと強くなれると考える

しかしその考えが次の秋浩の言葉で、儚い夢と言う事が伝わる

 

秋浩

「まぁお前はもう、強くも弱くもなれないけどな」

「……京介は、俺なんかが足元にも及ばない」

 

その言葉を言い終え、秋浩が京介達の方に向かう

 

アンプルの効果が切れたスロースは、後ろを見せた秋浩に向かって、チャンスとばかりに襲いかかる

 

それは確実に秋浩を捉えた、と思ったが、身体が何かに引っ張られる

足元を見る

 

土が纏わりついている、それがさらに自身の身体を包み込む

土から変異した物質

自分が操る事も出来ないものに、スロースが飲み込まれる

 

秋浩

「……俺に勝てないなら、京介なんかには瞬殺されるな……」

 

スロース

「悔しいねぇ、君に勝てない程度であれば、総隊長の足元にも及ばないとは……」

「わたしの他にも君達を憎む者、まだまだいるよ、必ずBLITZを蹂躙する、その時に後悔すればいい、ここで死ねれば良かったと……」

 

秋浩

「うるせぇよ……小物が……」

 

変異した土塊が、スロースを飲み込み、後にはただ、真っ赤なシミが浮かんで居た

 

菜琉と京介を閉じ込めた壁を見つめながら、秋浩が呟く

 

秋浩

「……菜琉、頼む……」

 

 

秋浩に作られた壁の中

 

変わらず熱風と炎が蠢いている

菜琉自身、能力で防がなければ既に事切れている

いや、それ自体がギリギリの状態

 

菜琉は何とか京介に近付こうとする

しかしそれを拒む様に炎は周りのものを飲み込んでいる

 

京介自身、それに焼かれている

外の敵は問題ではない

問題は、暴走した京介の方だからだ

 

全てを拒絶しているかの様な能力の爆発力

菜琉はそんな京介を見るのは2度目……

見たくなかった、見せたくなかっただろう

 

この炎は京介の心

手の届く所の物を守りたい、しかし自分自身を滅したい

その矛盾が、全てを無に返す程の破壊力を生み出そうとしている

 

このまま行けば地球は無くなるだろう

しかし、京介はきっとそれを望んでいない

京介は生きる事も、人に期待する事も諦めた

 

だが、自分の好きな者を壊したい訳ではない

 

矛盾に対して矛盾を重ね、西島京介と言う男を形成している

 

吸い込む空気で肺が中から焼かれる様に痛む、呼吸をするのも限界

眼球から水分がなくなり、視界が霞む

全力で能力を使っているのに、菜琉自身がギリギリの状態

焼かれる肌より、焦げる髪より、胸が痛い……

 

息も絶え絶え京介に近づく

 

やっと声が聞こえそうな距離

 

どんな言葉をかければ良いのだろう、何を言えば京介は元に戻るのだろう

 

きっと、何を言っても聞こえない

 

菜琉は考える、京介を元に戻せる言葉を持ち合わせていない、どうすればいい……

 

菜琉は考えるのを辞める

きっと京介ならこうしただろう

 

能力を解く

 

ありえない選択肢

 

京介が暴走しかけている状態で能力を使わず、防御しないと言う事は、自身の死を意味する

医療班の総班長らしからぬ選択

 

能力を解いた瞬間身体中を痛みが襲う、炎が全てを飲み込む様にうごめく

そのまま京介を抱きしめる

小刻みに震える身体を、目を閉じ、京介を慈しむ様、優しく抱きしめる

 

燃え盛る炎、焼け焦げる身体、それをものともせず、京介にしがみつく

 

菜琉

「……京介……」

 

炎の音と、打ちひしがれた京介と自分が燃える音以外、何も聞こえない

 

菜琉は思う、一度ならず二度までも京介の心を護りきれなかった

自責の念もあるかもしれない、だが、何より愛する者が潰れるのなら、それを救え無いならば、共に同じ所に……

 

菜琉

「……ごめんね……」

 

その瞬間、全ての音が止まる

揶揄では無く、2人以外の全ての音がピタリと止まる

 

菜琉は異変に気付かない、変わらず京介を抱きしめている

ごめんね……

その言葉を繰り返す、抱きしめながら謝る

 

その刹那、全ての炎が消える、ようやく菜琉が異変に気づく

京介の身体が熱くない、空気が肺を焼くほどの熱量を持たない

 

炎が消えた事、京介がただ震えて自分の腕の中にいる事、初めて気付く

 

何が原因か分からない、どうして急に?何故?

 

混乱する思考を纏めようとするが、彼女に取って些細な事、彼女に取って今重要なのは

そんな事よりも、京介が暴走もせず、自分の腕の中にいる事、枯れた瞳に涙を滲ませ泣いた

 

子供のように小刻みに震える京介を抱き締める

離さない様に、怖くないと伝える様に

 

 

 

地表

伽耶達がいる場所

 

 

先程から巨大な炎の柱が消えて数分

伽耶と沙夜の二人、それと数人の隊員が隊長格を見守っていた

 

伽耶

「……火、消えたよね?、終わった、のかな?」

 

不安そうに伽耶は言う

誰に言うでもなく、自身の不安を口にする

 

そんな伽耶の不安に答える様、紗夜も言う

 

紗夜

「あの人達なら、大丈夫、ですよね?」

 

自分でも不安が拭い切れず、それでも何とか安心させようと言ったが、心配なのは変わらない

 

そんな二人を見守る隊員達

自分達もあの場に駆けつけた方が良いのではないか?

BLITZの隊員として、隊長や副隊長を護るのが仕事ではないのか?

 

だがそれは、[総副隊長が自ら向かった]と言う事実が、隊員達に暗に来るなと言う警告になる

 

総隊長、総副隊長が自ら戦闘をすると言う事は、ヒラ隊員は必然的にそばに居ては行けない、総隊長達の足手まといになりかねない

 

小隊長や小副隊長クラスであれば、何とかなるかもしれないが、この場にいるのはヒラ隊員だけ

 

歯がゆい思いで総副隊長達が向かった先を見守る

 

そんな隊員達の様子に、紗夜が気が付く

先程まではざっくばらんに話をしていた隊員達、それが今は一言も話さない

期待と不安が入り交じった眼差しで、火柱のあった方を見つめている

 

それだけで事の重みが伝わる

 

熱波が収まり、風が抜ける、辺りには熱にやられた草木がカサカサと揺れている

 

 

そんな静寂の中、遠くから声が聞こえる

 

「おぉーい」

 

その場に居た全員、声の方を振り向く

 

手を振りながら声をかけてくる人影

また声がする

 

「おーーい」

 

隊員の一人が応答する

 

隊員

「危ないですよ、しばらくここから離れてください、今一般人は入れないんです」

 

そう言った隊員に、声の主はにこやかに答える

 

「いゃあ、凄い音がして急に熱くなったもんだから、何があったのかと思ってw」

 

隊員

「ご心配お掛けしてすみません、もう少しで終わりますから」

 

民間人だろうか?

他愛もない雑談をし、隊員と話している

 

その様子を見ていた伽耶が、疑問を口にする

 

伽耶

「待って!……規制線は?……」

 

隊員達が一瞬で距離をとる

 

この場所は広大な土地のおかげか、半径数十キロに渡って民家はない、そして、BLITZが出撃した事により、民間人に被害が及ばない様に、半径数キロ程度に渡り、段階的に規制線が貼られている

 

万が一規制線を抜けたとしても、センサーや能力で警戒をしている隊員から連絡が入るはず

目の前の人物の事は、そのどれも連絡が来ていない

 

「おぉwあんた鋭いねぇ」

 

関心した様子でパチパチと拍手をしながらその人物は賛辞を述べる

 

隊員

「誰だ!」

 

「……誰だ、か……」

 

謎の人物は少し考えながら答えに迷っている

そして開き直った様な口調で答える

 

「まぁいっかw、俺の名前は……名前……アレ?なんだっけw」

 

そのとぼけた反応に伽耶と隊員がさらに警戒を強める

 

そんなふざけた反応を返すのは、自惚れている自信過剰の小物か、自分達が勝ち目の無いほど強い能力者しかいないからだ

 

全身の毛が逆立つ感覚、単純な強い弱いでは無く、得体の知れない不気味さがある

まとわりつく様な不安

 

何が起きるか予想が出来ない

 

「一人で出歩くなと言っただろう、トール!」

 

別の方向からまた声がした

伽耶はその声の主を探そうと辺りを見回す、すると自分達の背後から話しながらゆっくりと初めの人物に近寄って行く

 

気付かなかった……気配すら分からない

伽耶が驚愕し、一瞬反応出来なかった

 

トール

「あ!、そうそうwトールだ、思い出した、俺の名前はトール!」

「思い出させてくれてありがとうwタケミカヅチw」

 

タケミカヅチ

「全く、そもそも飲み物を買いに行っただけだろう、何故こんな所にいる」

 

トールと呼ばれた人物が、持っていたビニール袋を見せながら頭を掻いて話す

 

トール

「いゃあw何か[匂い]がしたからw」

 

タケミカヅチ

「まったく……」

 

この異様な光景に伽耶を含め皆警戒する

他愛もない雑談

しかしここでは今も命のやり取りをしている

そんな中でここまで緩い会話をされていると、逆に異様にしか見えない

 

隊員達は息を飲んで様子を伺っている

不味い、これは恐らく我々には勝てないレベルだと

その基準は、いつも隊で目にする総隊長、いつも余裕で軽口を叩き、その実力は小隊長すら子供扱い……

 

本能で感じる

ヒリついた空気、喉の乾き、身体全体で危険を感じる

 

しかし、相手が強いからと言って、逃げる選択肢などありえない

 

BLITZは今までそうやって戦い抜いて来た

後ろに居る者たちの為

 

隊員の一人が叫ぶ

「構えろ!!」

 

その声を皮切りに、他の隊員が構える

伽耶はハッとして、隊員達に叫ぶ

 

伽耶

「……ダメ!!」

 

間に合わない――、伽耶の制止を待たず、隊員たちが一斉に二人へ飛びかかる。その刹那、一筋の閃光が走った。

比喩ではない、伽耶と紗夜の視界が、強烈なフラッシュを浴びたように真っ白に染まった。

 

次の瞬間、飛びかかった隊員達が、全員倒れる

何もせず、何も出来ず、その場に倒れる

焦げた跡、焼けた隊服、どんな能力かおおよそ見当が付く

 

それを見て伽耶が構える

息も荒く、まとわりつく様な汗もかいている

紗夜は不安そうに伽耶を見つめ、隊員達に視線を移す

 

今迄自分の為、少年少女の為、命の危険を顧みず、懸命に対処してくれたBLITZが、得体の知れない者に手玉に取られた、恐怖より、悲しさが先立つ

 

元来の紗夜の優しさ、それがBLITZの隊員に向いていた

 

優しく接してくれた医療班、BLITZの総隊長

その総隊長が危険になれば、顧みず飛び込む

そんな人達に、これ以上傷付いて欲しくない

 

トール

「あんたも良い[匂い]がするw」

 

それを聞いてタケミカヅチが口を開く

 

タケミカヅチ

「……隊長格か?、なら少し話をしよう」

 

唐突な申し出に伽耶は困惑する

 

伽耶がすぐに応えられないでいると、タケミカヅチが続ける

 

タケミカヅチ

「この隊員には気絶して貰っただけだ、死んではいない」

 

その言葉に若干の安心はしたが、警戒を解かない

真実かどうか、まだ判別出来ないからだ

未だに何者かすら分からない者の言葉を鵜呑みに出来ない

 

 

トール

「俺たちが誰かわかる?w」

 

伽耶

「……知らないわよ…」

 

トール

「俺たちはエメラルドドラゴンなんだw」

 

タケミカヅチが少し頭を抱える

 

タケミカヅチ

「……トール、俺が話すから少し菓子でも食べてろ、それにペラペラ情報を明かすな……」

 

トール

「マジでwやりぃw」

 

そう言うと袋の中の菓子を食べ始める

ビリビリと袋を破き、美味しそうにチップスを頬張る

子供の様にはしゃいで、楽しそうに

 

タケミカヅチ

「まったく……」

「スカーレットスコルピオのやつが、気に入らなくてな、蹴りをつけに来たんだが、先を越されてしまった様だ」

 

伽耶は静かに聞く、紗夜を背に、一時も警戒を解かない

 

タケミカヅチ

「あまり無用な争いはしたくない、BLITZの総隊長があそこの大穴に居るんだろ?」

「通してくれれば何もしない」

 

伽耶は動揺する、おそらく戦闘部隊ではない自分には、勝ち目が薄い

それならば、京介や秋浩に任せた方が勝機がある

 

しかし、BLITZとしての誇り、京介が心を賭して護ろうとしたものを、亜紀さんや司さんが残したものを、自分が踏みにじっては行けない

 

覚悟を決めた伽耶

「お断りよ……」

 

やれやれと頭を振ったタケミカヅチが、視界から消えた

 

パンッ!と言う轟音と共に伽耶がその瞬間吹き飛んだ

紗夜が振り向くか否かの瞬間に、再び伽耶が吹き飛ばされる

 

速い、音速を超えて伽耶を翻弄する

相手の姿が見えないのに、伽耶が縦横無尽に殴り飛ばされている

 

紗夜がその姿と、倒れた隊員達を交互に見る

不安と焦り、何も出来ない無力な自分

 

情けない、あんなに必死になっていたBLITZに助けられて、何が手伝う、何が役に立ちたい、明確に足手まといになっている

 

能力を発動するのも追いつかない伽耶を、ただ見つめる事しか出来ない自分に苛立ちを覚えた

 

ただ怖くて、悔しくて、涙を流す事しか出来ない自分、どうしたら良いか分からない

いや、どうすれば良いかはわかっている、しかし自分にはその能力がない

 

悔しさと悲しさ、恐怖で紗夜の頬を涙が伝う

 

「……お父さん……」

 

優しく、誠実な本当の父親、いつも自分に誠実でいれば、必ず紗夜にいい事があると教え続けてくれた

微笑む父親の顔が思い浮かんだ

 

気付いたら、紗夜は伽耶に駆け寄って居た、どうしようもできないなら、せめて盾になろうと、少しでも医療班の生存率が上がれば良いと

 

その瞬間、紗夜が伽耶に覆いかぶさっていた

紗夜が目を丸くする

 

その後から空気の裂かれる音がする

 

バァンッ!!

 

何が起きたか分からない、今の速さは?

辺り一面に突風が吹き荒れる

 

息も絶え絶え伽耶が目にした者

バチバチと身体全体に雷の様な電気を纏い、自分に覆い被さる紗夜

 

タケミカヅチが動きを止める

驚いた様に紗夜を見つめる

 

タケミカヅチ

「……今のは?」

 

トールの方を見る

菓子を頬張る手が止まって居た、ポカンと自分達を見ている

 

タケミカヅチがまた紗夜達に振り向く

何が起きたか確認しようとするが、その目に写ったのは、雷を纏い、自分を睨みつける少女

 

紗夜は自分に何が起きたか分からない

けれど伽耶をこれ以上傷付けない様に出来る能力が、自分にも持てた事はわかった

 

トールが鼻を鳴らす

そして楽しそうにタケミカヅチに声をかける

 

トール

「おぉw能力が発現したのかぁw俺と変わろうよw」

 

タケミカヅチが少し考える

トールの提案に乗るかどうするか、発現して間も無いただの少女、今までは自分でなんとでも出来ていたが、目の前の少女は自分の速さを凌駕していた

 

数秒考え、トールに声をかける

 

タケミカヅチ

「試しに手合わせをしてみろ、お前の方が俺より強いからな」

「……無駄に殺すなよ……」

 

それを聞いたトールは、菓子を置き、腕を鳴らしてタケミカヅチと入れ替わる

 

トール

「同じ系統の能力者かw試しにどっちが強いか力試ししてみようかw」

 

紗夜に向かい楽しそうに話す

 

紗夜は格闘技は疎か殴り合いをした事もない

ただ能力が発現しただけの少女

 

そんな事を考え、迷っていたが、伽耶を護る事を考える

分からなくても良い、とにかくこの人達に帰って貰わないと

 

無我夢中でトールに殴り掛かる

漫画やアニメ、映画で見たポーズを真似て

 

トールには当たらない、当然だが能力が発現しただけで、[戦う]と言う事に限っては、素人以下だからだ

 

トールはそんな紗夜に声をかける

「殴る時は相手を見ながら殴らないとw当たらないよw」

「試しにやってみてよw」

 

ノーガードで紗夜に殴って見ろと言わんばかりに両手を広げる

 

紗夜は困惑する

言葉の通りにしても良いのだろうか?

 

そんな紗夜の不安に、畳み掛ける様にトールが続ける

 

トール

「大丈夫だよw何もしないから、殴られるだけ殴られてあげるからw」

 

迷っている暇はない、紗夜はコントロールの効かない能力を使って、全力で殴り掛かる

 

紗夜の拳がトールに当たる、一瞬遅れて爆発音が鳴り、突風が吹き荒れる

 

紗夜

「……いっ、痛ぁ……」

 

紗夜の拳が折れている、殴り方も分からない、喧嘩すらした事もない、物騒な事とは縁遠い少女が、能力だよりに殴りつければ、どこかしらに怪我を負う

 

それが拳の破壊に繋がった、折れた腕を庇いながら、紗夜は伽耶の元に飛び退く

 

どうすれば良いか分からない、無駄に怪我をした事で、後手が思いつかない

恐怖と不安が入り交じった表情で、変わらず二人を見つめる

 

トールにダメージがあるのか、それも気にかかる

上手く帰って貰えれば……

 

トール

「……痛ぇw」

 

殴られたトールは、微動だにせず、正面から紗夜の拳を受けていた、鼻を殴られ鼻血が垂れる

ほぼ効いていない様子で、鼻血を舐める

 

タケミカヅチ

「どうだ?」

 

トール

「いてぇよw、ど素人だけど、まだ発展途上かな?」

「今はほっといても大丈夫じゃない?w」

 

トールの言葉を聞いて、タケミカヅチが提案する

「それなら今叩いて置いた方が良いんじゃないか?」

 

トール

「ダメだってw発現したばっかりの女の子なんだから、優しくしないとwそれに、無駄に殺すなって言ったじゃん?w」

「帰ろうよwどうせまた会えるしw」

 

タケミカヅチがその言葉を聞いて、頭を搔くと、伽耶達に背を向けて歩き出す

トールが慌てて追いかける

 

紗夜達に向き直り、笑顔で言う

 

トール

「どっかでまた会ったら、今度は本気でやろうよw」

「それまでちゃんと人殴れる様に練習しててねw」

 

ヒラヒラと手を振りながら、紗夜達の前から姿を消す

 

紗夜が警戒したまま、周りの様子を伺う

本当に帰ったのか?居なくなったのか?

しばらく身構えていたが、周りから聞こえるのは、木々のざわめきだけ

 

本当に居なくなった

 

ホッとしたのも束の間、急に痛みが襲ってきた

先程折れた拳が、今頃になって痛む事を自覚する

手を見ると倍程まで腫れていた拳に、自身の症状を自覚する

 

紗夜

「……い……痛ぃ……」

 

痛みに顔を歪め、何とか耐えようとしたが、耐えきれず蹲る

 

そこにボコボコにされた伽耶が、言葉をかける

 

伽耶

「……手、貸して……」

 

紗夜の手をそうっと引き寄せると、伽耶の能力なのか、じんわりと手が暖かくなる

握られた手は、痛みか疲労か、小刻みに震えている

先程まで心臓と連動した痛みが、だんだん和らいで行く

多少痛みは残るが、動かせる程にはなった

 

紗夜

「……あ、あの」

 

何かを言おうとした紗夜に向かって、伽耶が言う

 

伽耶

「……応急処置……痛みは引くけど……治って……無いからね……」

 

そう言い残すと、意識を失い、ドサリと崩れ落ちた

 

屈強なBLITZの隊員、いくら医療班とは言え、それが気絶する程に痛めつけられた

紗夜は恐ろしさもあるが、それ以上に自分の不甲斐なさを恥じた

 

その後、ただ一人無傷の総副隊長である三条秋浩により、対能力者特別攻撃部隊の総隊長及び、医療班の総班長、総副班長、隊員数名、民間人一人の生存を確認後、応援により緊急搬送、治療を実施される

 

 

 

 

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