【戦国配信】五年早く生まれた伊達政宗は天下を取る 作:悠・A・ロッサ @GN契約作家
『まじか、本能寺燃えてるんだけど』
『明智が裏切った』
『いや待て、信長公まだ生きてる!?』
『都終わっただろこれ』
『次の天下人だれだよ』
南蛮鳥――短いつぶやきが凄まじい速さで飛び交う南蛮渡来の速報板――は、開いた瞬間から壊れてた。
壊れているのは板だけじゃねえ。
その炎を見た瞬間、俺――伊達政宗の中の何かもまた、目を覚ました。
「く、く……はははっ!」
笑いが、勝手に喉からこぼれた。
青ざめた家臣どもが、ぎょっと顔を上げる。
その中で、小十郎だけが静かに俺を見てた。
織田信長。
速すぎた男。でかすぎた男。
奥州で歯を食いしばっているあいだに、あいつは天下の真ん中まで駆け上がっていった。
気に食わなかった。
俺が欲しいものを、あいつは先に掴んでた。
人の目も、銭も、恐れも、憧れも。
全部まとめて、あの男の名に吸い寄せられてた。
それが今、燃えている。
【速報】本能寺、燃える
1:名無しの見物衆
信長討たれるとか嘘だろ
2:名無しの見物衆
いや南蛮動画で映ってる
3:名無しの見物衆
誰だよこれ流してんの
4:名無しの見物衆
明智まじでやったのか?
5:名無しの見物衆
都どうなってんだよ
6:名無しの見物衆
秀吉間に合う?
7:名無しの見物衆
柴田では
8:名無しの見物衆
徳川が持っていく説ある
9:名無しの見物衆
いやこれ歴史変わるだろ
10:名無しの見物衆
辞世まだ!?
うるせえ。
だが、いい。
世がざわついている音がする。
飢えた獣どもの前に、天下という獲物が投げ込まれた音だ。
炎の向こうで、信長が笑った。
「人間五十年――」
『今の聞こえた!?』
『最後まで絵になるのかよ』
『いや待て、これ生配信で見せるものか!?』
『信長、最後まで信長すぎる』
ふっと、喉の奥で笑いが漏れた。
死ぬ瞬間まで、天下の視線を独り占めか。
反吐が出るほど見事だ。
だからこそ、欲しくなる。
あの場所が。
あの熱が。
天下のすべてが、一つの名を追いかけるあの感覚が。
「若殿」
小十郎の低い声がした。
たしなめる響きだったが、遅い。
俺の血は、もう完全に目を覚ましてた。
「遅かったな」
ぽろりと落ちた言葉に、部屋の空気が止まる。
「若殿、いまはそのような――」
「ああ、違う」
俺は炎の映る画面を指した。
「終わったんじゃない。始まったんだ」
家臣のひとりが、半ば悲鳴のような声を上げた。
「な、何がでございますか!? 天下の一大事でございますぞ!」
「だからだ」
立ち上がる。
胸の内で、ずっと燻っていたものがようやく火になった。
「信長は邪魔だった」
息を呑む気配が部屋に満ちる。
構わない。今さら綺麗事など言うもんか。
「でかすぎた。速すぎた。あの男が生きている限り、誰が何をしようが天下は信長の物語になる」
南蛮動画の炎が、俺の片目にちらつく。
「だが、燃えた」
言いながら、自分でも分かる。
声が笑っている。
「俺が空けた穴じゃないのは気に食わん。だが、空いたならもらう」
都は遠い。
奥州は田舎だ。
そんなことは、とうの昔に知っている。
だが遠いから届かぬと決めるのは、負け犬の理屈だ。
信長が人を集めたのなら、俺は奪う。
信長が目を集めたのなら、俺はもっと飢えさせる。
天下が次の名を探している今夜、眠るような間抜けにその席は回ってこない。
「人を集めろ」
誰も動けない。
だから、もう一度言った。
「噂の速い奴。口の回る奴。銭の匂いに敏い奴。戦の強いだけの馬鹿はいらん」
家臣どもの顔に、恐れと困惑が走る。
いい顔だ。嫌いじゃない。
天下人が燃える夜だ。
ならば、その灰の匂いを最初に嗅いだ者が勝つ。
「俺が天下を獲る」
そのひと言で、ようやく部屋が本当に静かになった。