【戦国配信】五年早く生まれた伊達政宗は天下を取る   作:悠・A・ロッサ @GN契約作家

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第2話 夜が明けたら遅え

「人を集める」

 

 そう言ったあと、家臣どもは三つに割れた。

 

 ひとつは青ざめた顔。

 ひとつは、何を言い出したか分からぬ顔。

 最後のひとつは、いつもの若殿の大言壮語だろと高をくくる顔だ。

 

 だから、俺は立った。

 

「馬を出せ」

 

 空気が止まる。

 

「若殿、まさか」

「まさかだ。今からだ」

 

 さっきまで本能寺の炎を映してた南蛮動画は、もう別の騒ぎを追い始めてた。

 都の火は消えねえ。

 南蛮鳥は壊れたまま。

 南蛮板は明智だ秀吉だ徳川だとうるせえ。

 

 いい。

 

 都の近くの連中が勝手に騒いでろ。

 俺は、その次を取る。

 

「具足は軽いものだけでいい。重い槍働きはいらん。今ほしいのは、速く走れる奴だ」

 

 ようやく誰かが叫んだ。

 

「お待ちください! 本能寺の変でございますぞ! 都がどう転ぶかも見えぬうちから、なぜ兵を動かすのです!」

 

「見えねえからだ」

 

「は」

 

「見えねえうちに動けば、見えた頃には先に座れる」

 

 黙った。

 分からない顔だ。

 ならもっと分かりやすく言ってやる。

 

「天下人が燃えた夜に、情勢が固まるまで待つ奴は二流だ。固まる前に、どこへ流れるか決める奴が勝つ」

 

 家臣どもがざわめく。

 

 そこへ小十郎が口を挟んだ。

 

「どこを取りに行かれます」

 

「土地じゃない」

 

「じゃ」

 

「人だ」

 

 俺は指を折った。

 

「足の速い奴」

「口の回る奴」

「銭勘定ができる奴」

「南蛮渡来の扱いに慣れた奴」

「兵を口説ける奴」

 

「戦の強いだけの奴はいらん。強い奴は後からでも拾える。けど、流れを増やせる奴は、先に押さえたほうが安い」

 

 また、ぽかんだ。

 

 この顔は嫌いじゃねえ。

 理解が遅い顔というのは、理解した時に大きく転ぶ。

 

 古参のひとりが、腹の底から絞り出すように言った。

 

「若殿……輝宗様がおられたなら、まず止めておられます」

 

 部屋の空気が、今度は別の意味で止まった。

 

 父の名は、こういう時によく効く。

 刃より深く、俺の内側に入ってくる。

 

 あの人は、俺を押さえるのがうまかった。

 無茶をするなと、焦るなと、今はまだその時ではないと。

 俺の血が熱を持つたび、正しい言葉で押しとどめてきた。

 

 正しかったと思う。

 その正しさに守られてきたことも、忘れてはいねえ。

 

 けれど。

 守られているだけでは、信長にはなれねえ。

 

「そうだろうな」

 

 俺はあっさり頷いた。

 

「父上がおられたら、俺はまだ守られてた」

 

 誰も口を挟めない。

 

「守られたままで天下など取れん」

 

 低く、しかしはっきり言った瞬間、部屋のどこかで息を呑む音がした。

 

 小十郎だけが、目を伏せてから顔を上げる。

 

「若殿。人を集めるとして、伊達の留守はどうなさいます」

 

 いい。

 そこだ。

 

 止めるんじゃねえ。通すための問いだ。

 

「お前がいる」

 

「買いかぶりです」

 

「買ってるんだよ。いま一番高くな」

 

 小十郎の眉が、ほんの少しだけ動いた。

 

「領内の押さえ、兵の繋ぎ、銭の手当て、留守居の口実、全部お前が作れ。俺は外へ出る」

 

「若殿お一人で?」

 

「馬鹿を言え。口の回る奴と、耳のいい奴と、走っても死なない奴を連れていく」

 

「無茶です」

 

「無茶じゃねえ。手分けだ」

 

 俺はもう一度、南蛮端末を開いた。

 

 南蛮鳥は相変わらずの祭りだった。

 

『秀吉どうすんだこれ』

『明智が先手取ったな』

『織田家臣どこにつくんだ』

『地方勢は様子見だろ普通』

 

 普通。

 

 その言葉が一番嫌いだ。

 

 普通に様子見して、普通に出遅れて、普通に強い奴に食われる。

 そんなものは天下取りでも何でもない。

 

 俺は笑って、端末を閉じた。

 

「聞いたか。皆そう思ってる。地方勢は様子見だと」

 

 家臣どもが嫌な顔をした。

 

「なら、そこで勝てる」

 

「若殿は、皆が思わぬことばかりなさる」

 

「思いついてもやらないことを、俺がやるんだ」

 

 命が飛んだ瞬間から、部屋が走り出した。

 

 馬。

 銭。

 軽具足。

 携行食。

 南蛮端末の予備。

 道中で口を利ける者。

 商人に顔の利く者。

 

 伊達家の夜は、戦支度というより夜逃げみたいな騒ぎになった。

 

 けど、夜逃げと違うのは、全員の目が前を向いていることだ。

 

 小十郎はその渦の真ん中で、ものすごく嫌そうな顔をしながら、ものすごい速さで人をさばいてた。

 

「その馬は若殿用だ。そっちは伝令へ回せ」

「銭箱は分けろ。一つ落として全損するな」

「書状は私が見る。勝手に封をするな」

 

 こいつは、やっぱり当たりだ。

 

「小十郎」

 

「なんでしょう」

 

「楽しくなってきただろ」

 

「まったく」

 

 間髪入れず返しながら、口元が少しだけ緩んでた。

 

 夜半を回る頃には、連れていく顔ぶれが揃ってた。

 

 武勇自慢じゃねえ。

 

 脚。

 口。

 耳。

 勘定。

 手癖。

 

 戦場の前で一度勝てる連中だ。

 

 古参はまだ納得していない顔をしてる。

 けどもう遅い。

 

 こういうのは、動き出したほうが勝つ。

 

 馬に足をかけたところで、小十郎が最後に聞いてきた。

 

「若殿。最初に取りに行くのは、誰です」

 

「誰でもいい」

 

「は」

 

「旗を失って迷ってる奴からだ。迷ってる奴は、最初に手を差し出した顔を忘れねえ」

 

 小十郎は短く息を吐く。

 

「覚えておきます」

 

「お前は留守をまとめろ。俺は外の流れをまとめる」

 

「承知しました」

 

 もう止める声は上がらなかった。

 止めても無駄だと分かったからか。

 あるいは、少しだけ見たくなったからか。

 

 どっちでもいい。

 

 俺は馬上で笑った。

 

「行くぞ」

 

「どこへ」

 

 問い返した若い家臣に、俺は即答した。

 

「人のいるところだ」

 

 夜風が顔を打つ。

 空気は冷たい。

 

 けど、遅い。

 

 もっと速くていい。

 もっと先に行ける。

 

 馬腹を蹴った。

 

「夜が明けたら遅え」

 

 灯が揺れる。

 蹄が鳴る。

 

 伊達の夜が、ようやく走り始めた。

 

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