【戦国配信】五年早く生まれた伊達政宗は天下を取る   作:悠・A・ロッサ @GN契約作家

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第3話 面白い顔は撮られたがる

 関東へ入る手前の宿場で、端末を見ながら干し飯を噛んでた時だ。

 

 胡散臭いのが追いついてきた。

 

 南蛮動画で見慣れた顔が、庭先もない宿場の一角で、にこにこと手を振ってる。

 衣はやけに洒落ている。足は軽い。目だけが、商人のそれだった。

 

 南蛮屋宗介。

 戦だの騒ぎだのが起きるたび、どこからともなく現れては、一番うまい顔と一番まずい顔を撮って流す男だ。

 南蛮動画じゃ顔を知らぬ者のほうが少ねえ。

 人気者というより、もう災害みたいなもんだった。

 

 近習の一人が、露骨に顔をしかめた。

 

 「何者だ」

 

「いやあ、つれない。こっちは昨夜から若殿を追っかけてきたってのに」

 

 宗介は胸に手を当て、大袈裟に嘆いてみせる。

 

「南蛮屋宗介。珍品、噂、軍談、南蛮動画、なんでも薄く広く扱っております。で、今日は若殿のお顔を撮りに来ました」

 

 撮りに来た、じゃねえ。

 売りに来たんだろう。

 俺の顔も、言葉も、話題も。

 

 なるほど。

 悪くねえ。

 

 「帰せ」と言いかけた近習を、俺は手で止めた。

 

「いい。通せ」

 

「若殿」

 

「どうせ流れる」

 

 端末を懐にしまい、宗介を見る。

 

「なら、宣伝してくれたほうがありがたい」

 

 宗介の口元が、にやりと歪んだ。

 最初からその言葉を引きずり出すつもりで来ていた顔だ。

 

「いやあ、助かります。さすが話が早い。昨夜、本能寺を見て青ざめもせず、むしろ嬉しそうな顔をしてた若殿ですからね。これは撮れ高があると思いまして」

 

 近習どもの空気がぴしりと張る。

 

 もう拾ってやがる。

 南蛮鳥か、南蛮板か。あるいは、両方か。

 

 俺は笑った。

 

「面白い顔が撮りてえなら、今のうちだぞ」

 

「ただし、何を流すかは俺が決める」

 

 宗介は待ってましたとばかりに端末を構えた。

 

「じゃ遠慮なく。若殿、本能寺を見て最初に何を思いました?」

 

「遅えと思った」

 

「何がです?」

 

「天下が空くのがだ。信長はでかすぎた。あいつがいたせいで、俺が出るには少し早すぎた」

 

 宗介が目を細める。

 笑ってるが、完全に獲物を見る目だ。

 

「じゃあ今は?」

 

「俺の番が来た」

 

 宿場が、しんとした。

 近習まで黙る。

 

 宗介は、俺が欲しい間をちゃんと飲み込んで、そこで一拍置いた。

 うまい。

 次へ行かない。

 今の一言が向こうでどう刺さるか、待ってる。

 

「じゃ次。明智に大義はありますか」

 

「知らん」

 

「おや」

 

「あるかないかなんぞ、今から明智につこうとしてる連中も大して気にしてない」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「気にしてるのは、自分が高く売れるかどうかだ」

 

 宗介の口元が、また上がる。

 いい。ちゃんと餌に食いついている。

 

「高く、ですか」

 

「主君を刺した旗に並んだ時点で、お前もそっちの顔になる。勝ち馬に乗るつもりでも、世間はそう見ない。明智につくと安くなる」

 

 近習の一人が、思わず息をのんだ。

 義より早い。

 こういう言い方のほうが、ずっと速く広がる。

 

 宗介はさらに乗ってくる。

 

「じゃ若殿。いま旗を失った兵や、織田の家臣たちは、どこへ行けば?」

 

「俺のところに来い」

 

 今度こそ、周りが固まった。

 宗介の目も、わずかに見開く。

 そこまで言うか、という顔だ。

 言うに決まってる。

 

「大義が欲しい奴には大義をやる」

 

 俺は指を一本立てた。

 

「金が欲しい奴には金」

 

 二本目を立てる。

 

「名が欲しい奴には名声」

 

 三本目。

 

「働く気があるなら、欲しいものに合わせて使ってやる。明智のところで裏切り側の顔になるより、俺のところで勝ち馬になれ」

 

 宗介が、とうとう声を殺して笑い始めた。

 

 回しているのはあいつの端末でも、踊らせているのはこっちだ。

 

 兵が動く。

 浪人が迷う。

 商人が匂いを嗅ぐ。

 

 ただの啖呵じゃないと、こいつはもう分かっている。

 

「若殿、それ全部、動画で流してよろしいんで?」

 

「そのために呼んだんだろうが」

 

「いやあ、好きですねえ、そういうの」

 

 宗介は愉快そうに端末を構え直した。

 

「最後に一つ。伊達は遠い。なのに、なぜこんなに早いんです」

 

「夜が明けたら遅えからだ」

 

「ほう」

 

「都に近い奴から順に勝つと思ってるなら、最初から負けてる。遠いから届かないんじゃねえ。届かせる気がねえだけだ」

 

 宗介は、とうとう堪えきれずに笑った。

 

「いやあ、若殿。あんた、戦をしに来た顔じゃありませんね」

 

「なら何だ」

 

「次の時代を、先に名乗りに来た顔だ」

 

 悪くない。

 

 宗介は端末を下ろす。

 もう半分、俺の言葉で稼いだ顔をしてた。

 

「これは回りますよ」

 

「回せ」

 

「明智へ行くか迷ってる連中、今日でかなり揺れます」

 

「揺れれば十分だ」

 

「そこから割りますか」

 

「割る」

 

 宗介は嬉しそうに肩をすくめた。

 

「でしょうとも。だから人気配信者はやめられない」

 

 その日の昼には、南蛮鳥がうるさくなった。

 

『伊達の若殿、言ってること最悪だけど分かる』

『明智につくと安くなるは草、でも確かに』

『大義欲しい奴には大義、金欲しい奴には金、って言い切るの強すぎる』

『遠いのに一番早いの何なんだよ』

『伊達、マジで人を集めに来てるじゃん』

 

 いい。

 

 戦の前に、もう音が鳴っている。

 

 半分勝った。

 いや、こういうのは半分で十分だ。

 

 残りは、取りに行けばいい。

 

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