【戦国配信】五年早く生まれた伊達政宗は天下を取る 作:悠・A・ロッサ @GN契約作家
関東へ入る手前の宿場で、端末を見ながら干し飯を噛んでた時だ。
胡散臭いのが追いついてきた。
南蛮動画で見慣れた顔が、庭先もない宿場の一角で、にこにこと手を振ってる。
衣はやけに洒落ている。足は軽い。目だけが、商人のそれだった。
南蛮屋宗介。
戦だの騒ぎだのが起きるたび、どこからともなく現れては、一番うまい顔と一番まずい顔を撮って流す男だ。
南蛮動画じゃ顔を知らぬ者のほうが少ねえ。
人気者というより、もう災害みたいなもんだった。
近習の一人が、露骨に顔をしかめた。
「何者だ」
「いやあ、つれない。こっちは昨夜から若殿を追っかけてきたってのに」
宗介は胸に手を当て、大袈裟に嘆いてみせる。
「南蛮屋宗介。珍品、噂、軍談、南蛮動画、なんでも薄く広く扱っております。で、今日は若殿のお顔を撮りに来ました」
撮りに来た、じゃねえ。
売りに来たんだろう。
俺の顔も、言葉も、話題も。
なるほど。
悪くねえ。
「帰せ」と言いかけた近習を、俺は手で止めた。
「いい。通せ」
「若殿」
「どうせ流れる」
端末を懐にしまい、宗介を見る。
「なら、宣伝してくれたほうがありがたい」
宗介の口元が、にやりと歪んだ。
最初からその言葉を引きずり出すつもりで来ていた顔だ。
「いやあ、助かります。さすが話が早い。昨夜、本能寺を見て青ざめもせず、むしろ嬉しそうな顔をしてた若殿ですからね。これは撮れ高があると思いまして」
近習どもの空気がぴしりと張る。
もう拾ってやがる。
南蛮鳥か、南蛮板か。あるいは、両方か。
俺は笑った。
「面白い顔が撮りてえなら、今のうちだぞ」
「ただし、何を流すかは俺が決める」
宗介は待ってましたとばかりに端末を構えた。
「じゃ遠慮なく。若殿、本能寺を見て最初に何を思いました?」
「遅えと思った」
「何がです?」
「天下が空くのがだ。信長はでかすぎた。あいつがいたせいで、俺が出るには少し早すぎた」
宗介が目を細める。
笑ってるが、完全に獲物を見る目だ。
「じゃあ今は?」
「俺の番が来た」
宿場が、しんとした。
近習まで黙る。
宗介は、俺が欲しい間をちゃんと飲み込んで、そこで一拍置いた。
うまい。
次へ行かない。
今の一言が向こうでどう刺さるか、待ってる。
「じゃ次。明智に大義はありますか」
「知らん」
「おや」
「あるかないかなんぞ、今から明智につこうとしてる連中も大して気にしてない」
俺は肩をすくめた。
「気にしてるのは、自分が高く売れるかどうかだ」
宗介の口元が、また上がる。
いい。ちゃんと餌に食いついている。
「高く、ですか」
「主君を刺した旗に並んだ時点で、お前もそっちの顔になる。勝ち馬に乗るつもりでも、世間はそう見ない。明智につくと安くなる」
近習の一人が、思わず息をのんだ。
義より早い。
こういう言い方のほうが、ずっと速く広がる。
宗介はさらに乗ってくる。
「じゃ若殿。いま旗を失った兵や、織田の家臣たちは、どこへ行けば?」
「俺のところに来い」
今度こそ、周りが固まった。
宗介の目も、わずかに見開く。
そこまで言うか、という顔だ。
言うに決まってる。
「大義が欲しい奴には大義をやる」
俺は指を一本立てた。
「金が欲しい奴には金」
二本目を立てる。
「名が欲しい奴には名声」
三本目。
「働く気があるなら、欲しいものに合わせて使ってやる。明智のところで裏切り側の顔になるより、俺のところで勝ち馬になれ」
宗介が、とうとう声を殺して笑い始めた。
回しているのはあいつの端末でも、踊らせているのはこっちだ。
兵が動く。
浪人が迷う。
商人が匂いを嗅ぐ。
ただの啖呵じゃないと、こいつはもう分かっている。
「若殿、それ全部、動画で流してよろしいんで?」
「そのために呼んだんだろうが」
「いやあ、好きですねえ、そういうの」
宗介は愉快そうに端末を構え直した。
「最後に一つ。伊達は遠い。なのに、なぜこんなに早いんです」
「夜が明けたら遅えからだ」
「ほう」
「都に近い奴から順に勝つと思ってるなら、最初から負けてる。遠いから届かないんじゃねえ。届かせる気がねえだけだ」
宗介は、とうとう堪えきれずに笑った。
「いやあ、若殿。あんた、戦をしに来た顔じゃありませんね」
「なら何だ」
「次の時代を、先に名乗りに来た顔だ」
悪くない。
宗介は端末を下ろす。
もう半分、俺の言葉で稼いだ顔をしてた。
「これは回りますよ」
「回せ」
「明智へ行くか迷ってる連中、今日でかなり揺れます」
「揺れれば十分だ」
「そこから割りますか」
「割る」
宗介は嬉しそうに肩をすくめた。
「でしょうとも。だから人気配信者はやめられない」
その日の昼には、南蛮鳥がうるさくなった。
『伊達の若殿、言ってること最悪だけど分かる』
『明智につくと安くなるは草、でも確かに』
『大義欲しい奴には大義、金欲しい奴には金、って言い切るの強すぎる』
『遠いのに一番早いの何なんだよ』
『伊達、マジで人を集めに来てるじゃん』
いい。
戦の前に、もう音が鳴っている。
半分勝った。
いや、こういうのは半分で十分だ。
残りは、取りに行けばいい。