【戦国配信】五年早く生まれた伊達政宗は天下を取る 作:悠・A・ロッサ @GN契約作家
明智秀満は、有能だった。
この一言で済む男は、だいたいめんどくせえ。
光秀本人は、いま都の顔を押さえるので手一杯だ。
朝廷、公家、味方の大義、次の秩序。あいつが回すのは中央の顔仕事で、秀満が回すのは都の外の実務になる。
宿場を渡り歩き、南蛮鳥や南蛮板の流れまで含めて話を拾い集めていくと、嫌でも見えてくる。
織田の残兵。
主を失って迷っている足軽。
恩賞の先を探してうろつく浪人。
そういう連中を、明智方はもう拾い始めてた。
しかも雑にじゃない。
「こっちに来れば食える」
「いま明智に逆らっても先はない」
「まず生き残れ」
つまり俺がいま噛めるのは、光秀の首じゃない。
光秀が次の秩序を作るために要る、人と物と流れのほうだ。
道中で拾った噂話を聞き終え、近習のひとりが端末を閉じた。
「明智秀満。やはり相当に手が早い」
「手が早いだけじゃない。まとめ方がうまい」
「はい」
宿の奥では、俺が先に声をかけた連中が飯を食っている。
まだ伊達の兵ですらない。
けど、飢えている奴に温い汁を飲ませると、顔色が変わる。
問題は、その手前だ。
秀満は、そこを押さえに来ている。
流れ者が一番欲しがるものを、最初から並べている。
秩序だ。
「若殿」
「分かってる」
「このままでは、先に拾われます」
「だから先に腐らせる」
近習が無言になる。
嫌な予感の顔だ。
いい顔だ。話が早い。
「秀満は正しい。正しいから強い。なら、正しさの足場を剥がす」
「どうやって」
俺は端末を指で叩いた。
「世間に聞かせる」
その日の南蛮板は、まだ本能寺の余熱で熱かった。
【雑談】織田の家臣、結局どこにつくのが正解?
141:名無しの見物衆
明智が一番近いんだろうけど怖くね
142:名無しの見物衆
いや逆らったら死ぬだろ
143:名無しの見物衆
でも主君討ち側につくの普通に嫌だわ
144:名無しの見物衆
生き残り優先だろそんなの
145:名無しの見物衆
後で安く使い潰されそう
いい。
もうひびは入っている。
俺はそれを蹴り広げればいい。
「南蛮鳥を回せ」
「何と」
「明智についた兵は、あとで買い叩かれる」
「そのままですね」
「そのままがいい。賢そうなことを言うな。賢そうなことは疑われる」
近習が薄く息を吐く。
「他には」
「主君討ちの旗に並んだ時点で、お前もそっちの顔になる」
「はい」
「伊達は働けばすぐ報いる」
「それは事実にします」
いい返事だ。
俺は次々に言葉を投げた。
長くするな。
理屈より先に、嫌な感じを残せ。
読んだ瞬間に、人へ話したくなる形にしろ。
南蛮鳥はすぐに鳴き始めた。
『明智についた兵、後で安く使われそう感ある』
『主君討ち側の顔になるの、たしかに嫌』
『伊達、働けばすぐ拾うらしいぞ』
『遠いのに口だけは一番早いな伊達』
『いやでも、いま一番動いてるのあいつじゃね?』
いい。
馬鹿が飛びつける言葉は強い。
宗介が勝手に笑ってた。
「若殿、やり方が悪いですねえ」
「褒め言葉か」
「人気者になりますよ、その悪さは」
「いらん褒め方するな」
「でも刺さってます。正義がどうこうより、『安くなる』のほうが、腹の減ってる連中には速い」
宗介は味方みたいな顔でそこにいるけど、味方じゃない。
こいつは刺さる言葉に乗っているだけだ。
けど今は、その鼻が使える。
「動画も打つ」
近習が即座に顔をしかめる。
「戦の前に、もうですか」
「戦の前だからだ。勝ってから喋る奴は二流だと言っただろ」
「若殿は、誰と競っておられるのです」
「天下だ」
宗介が肩を揺らして笑った。
「で、何を喋るんで?」
「決まってる」
俺は外へ出た。
宿場の外れ。
兵にも商人にも浪人にも、ちょうど耳に入りそうな場所を選ぶ。
宗介が端末を構え、手勢どもがものすごく嫌そうな顔で立つ。
「伊達政宗だ」
それだけで、周りの空気が少し寄った。
「いま旗を失ってる奴に言う」
風が吹く。
馬が鼻を鳴らす。
宗介が端末を覗き込み、にやにやしている。
「お、流れましたねえ。コメント来てますよ」
「何て言ってる」
「『伊達、遠すぎるだろ』。それから『口だけなら何とでも言える』。はい、景気いいですねえ」
ちょうどいい。
「生き残りたいなら、好きにしろ」
わざと一拍置く。
宗介がにやりとした。
「けど、主君を刺した側に並んで安くなるのが嫌なら、俺のところへ来い」
周りの顔が変わる。
聞いている。
ちゃんと聞いている。
「働く気があるなら、飯を食わせる。金を出す。使い道も作る」
「伊達は遠い、と思ってる奴もいるだろな」
笑ってやる。
「だから何だ。遠くても、拾うと決めた顔のほうへ人は流れる」
宗介がすぐに口を挟む。
「はい若殿、生で来ました。『遠いくせに偉そう』だそうです」
「偉そうで結構だ。近いだけで拾わん奴より、遠くても拾う奴のほうへ来い」
言い切った瞬間、宗介が端末を少し上げた。
ここだ、という合図だ。
分かってる。
「明智の秩序で生き残るか。俺の勝ちで成りあがるか。選べ」
「成りあがれば、美味い飯が食える。いい女も抱ける。名だって残る」
手勢のひとりが、横で小さく目を閉じた。
たぶん頭痛がしている。
けど止めない。
止めたところで、もう遅いからだ。
配信を切ったあと、宗介はすぐに流し始めた。
生で拾った反応ごと切り抜く。
煽り文を載せる。
南蛮鳥へ回す。
南蛮板へ投げる。
さっきの生配信を、今度は「使える形」に加工してもう一度流すのだ。
仕事が早い。
腹は立つが助かる。
夕方には、空気がはっきり変わってた。
【雑談】結局どこにつくのが得か
201:名無しの見物衆
秀満は堅いけど、上がり目は薄そう
202:名無しの見物衆
伊達の若殿、言い方は最悪だけど待遇は良さそうで困る
203:名無しの見物衆
主君討ち側の顔になるって言われると嫌だな
204:名無しの見物衆
遠いのに、いちばん拾う気があるのは伊達に見える
205:名無しの見物衆
まだ明智だろ
206:名無しの見物衆
でも迷う
迷えば十分だ。
秀満が積んだ秩序は堅い。
だから全部は崩れない。
崩す必要もない。
一部でいい。
数人でいい。
ひとつの流れに、先に別の口を開ければいい。
宗介が、楽しそうに端末を振った。
「若殿。空気、割れてきましたよ」
「まだ薄い」
「最初はこんなもんです」
「薄くていい。先に入ってりゃ、あとで広がる」
近習が低く言う。
「秀満側も、これで黙ってはおりますまい」
「だろうな」
「向こうも動きます」
「だからいい」
俺は笑った。
「奪い合いになる」
それでようやく、戦だ。