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静かだった。
柱稽古を終えた直後。戦いの前。束の間の整理。集まっているのは柱たち。言葉は少ない。必要なものだけが落ちる。
「底は、上がったな」
悲鳴嶼の声。事実だけ。
「雑魚のままじゃねぇってことだ」
実弥が吐く。軽くはない。
「特に目立つのは、数名」
伊黒が淡々と続ける。
「我妻善逸。壱ノ型のみ。だが――完成している」
「嘴平伊之助。感覚が異質だ。読みを外す」
「栗花落カナヲ。判断が速い。迷いがない」
異論はない。短く、十分。
「竈門はどうだ」
宇髄が問う。
一瞬だけ、間が落ちる。
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――少し前。
柱稽古の合間。
「悲鳴嶼様」
「報告です」
隠。女性。
「竈門炭治郎」
「刀鍛冶の里での戦闘にて、特異な呼吸を確認」
「発熱、心拍の上昇、長時間の動作維持」
「通常の呼吸とは、明らかに異なり、痣の発現も見えました」
悲鳴嶼は、目を閉じたまま聞いている。
「……そうか」
(技ではない)
(在り方だ)
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「通す」
義勇の答えは、それだけ。
「止まらねぇってことか」
実弥が口を僅かに歪める。
「積み上げたものを、崩さず繋げている」
悲鳴嶼が続ける。
「荒削りではあるが」
一拍。
「戦場では、足りる」
誰も言葉を足さない。
それで足りる。
「……面白ぇな」
宇髄が小さく笑う。
戦いは、もう始まっている。
この報告もまた――その中にある。
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夜は、静かだった。
柱稽古を終えた隊士達が、
各々の場所へ戻っていく。
倒れ込む者。
眠る者。
まだ木刀を振るっている者。
誰もが、傷だらけだった。
だが。
止まってはいない。
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「……まだやるのかよ」
伊之助が転がったまま言う。
善逸は地面に座り込み、
肩で息をしていた。
「うるさい……死ぬ……」
声は震えている。
だが。
刀だけは、離していない。
カナヲが静かに立っている。
呼吸は乱れていない。
だが指先は、
わずかに赤い。
使い込まれた証。
炭治郎が、
ゆっくりと立ち上がる。
足が揺れる。
身体は重い。
それでも。
踏む。
もう一歩。
それを見て、
善逸が顔をしかめる。
「……なんで立てるんだよ」
炭治郎は、
少し考えて。
「怖いから」
短く答える。
「怖いから、止まりたくない」
善逸が黙る。
伊之助も、
何も言わない。
その時。
少し離れた場所で。
岩が、砕ける音。
――ドォンッ!!
全員の視線が向く。
悲鳴嶼行冥。
巨大な岩へ、
鉄球を打ち込んでいる。
一撃ごとに、
地面が揺れる。
終わらない。
ただ、
繰り返している。
その背後。
実弥が壁にもたれ、
静かに見ていた。
「……化け物だな」
小さく吐く。
その横を、
真壁が通る。
足音は、静かだった。
実弥が、
ちらりと視線を向ける。
「お前も大概だろ」
真壁は止まらない。
ただ、
短く返す。
「まだ足りません」
実弥が鼻で笑う。
「クソ真面目かよ」
だが。
否定ではない。
少し高い場所。
義勇が、
黙って下を見ている。
隊士達。
柱達。
それぞれが、
前へ進もうとしている。
その隣へ。
宇髄が来る。
「静かだな」
義勇は答えない。
宇髄は気にせず続ける。
「けどまぁ」
「悪くねぇ」
下を見る。
傷だらけの隊士達。
倒れても、
また立つ。
「繋がってる」
その言葉だけは、
軽くなかった。
義勇の視線が、
わずかに下へ落ちる。
炭治郎が、
また木刀を構えている。
何度倒れても、
踏み直している。
「……ああ」
短い返答。
それで十分だった。
夜風が吹く。
誰も笑わない。
誰も楽観しない。
それでも。
折れてはいない。
鬼殺隊は、
まだ立っている。
そして。
次の戦いへ向かって、
静かに、
積み上がっていた。
幕間 終