鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第九十二話 ― 勅命

 

――ギィンッ!!

 

刃と刃が噛み合い、

空気が軋む。

 

真壁の足元が、

畳ごと半歩沈んだ。

 

重い。

 

速い。

 

そして、

無駄がない。

 

一撃で分かる。

 

“上”ではない。

 

だが、

並の鬼とは明確に違う。

 

「……」

 

真壁は、

歯を食いしばらない。

 

ただ、

崩れない位置へ置き直す。

 

盤脚で軸を残し、

止水壁で通る線だけを潰す。

 

衝撃は通る。

 

だが、

形は崩れない。

 

その背後で。

 

「っ……は……!」

 

呼吸が乱れている。

 

隊士だ。

 

若い。

 

柱稽古で見た顔。

 

確か――

 

「……小守」

 

呼ばれた本人が、

一瞬だけ目を見開く。

 

「吸え」

 

反射で吸う。

 

「吐け」

 

吐く。

 

「崩れるな」

 

その一言で、

足が止まる。

 

崩れかけていた呼吸が、

わずかに戻る。

 

その間に。

 

二撃目が来る。

 

キィン――

 

浅い。

 

だが、

悪い角度だ。

 

受ければ崩れる。

 

避ければ抜ける。

 

その“どちらも崩れる線”を、

正確に通してくる。

 

真壁は、

半歩だけ踏む。

 

刃の腹で、

線を潰す。

 

流さない。

 

弾かない。

 

ただ、

通さない。

 

一拍。

 

闇の奥の気配が、

わずかに止まる。

 

(測っている)

 

真壁は、

息を吐く。

 

ここで踏み込まない。

 

理由は明確だった。

 

背後に、

“崩れる寸前の人間”がいる。

 

ここで仕留めに行けば、

一手遅れて死ぬ。

 

なら――

 

優先は一つ。

 

「小守」

 

短く呼ぶ。

 

「後ろへ下がれ」

 

「崩れるな」

 

「……はい!」

 

声は震えている。

 

だが、

足は動いた。

 

その瞬間。

 

――カァァァ!!

 

鋭い羽音。

 

鎹鴉が、

歪んだ天井を縫って飛び込む。

 

「真壁堅!!」

 

「産屋敷輝利哉様より、勅命!!」

 

空気が変わる。

 

真壁は、

視線を切らないまま応じる。

 

「内容を」

 

「現在、無限城各所ニテ上弦級交戦発生!!」

 

「最深部一角、戦線崩壊ノ危険極メテ高シ!!」

 

「真壁堅ヲ当該戦線へ投入スル!!」

 

その瞬間。

 

全てが繋がる。

 

崩れ方。

 

音。

 

間に合わない死。

 

そして、

目の前の“時間を食う敵”。

 

今、

守るべきはここではない。

 

だが――

 

まだ離れられない。

 

来る。

 

三本。

 

同時。

 

今までで最も鋭い斬撃。

 

真壁の足が、

沈む。

 

伍ノ型――不動礎。

 

受けるのではない。

 

“在る”。

 

――ギィィィンッ!!

 

畳が裂ける。

 

衝撃が通る。

 

それでも、

一歩も退かない。

 

「……そこまでだ」

 

低い声。

 

一拍。

 

闇が揺れる。

 

その瞬間。

 

真壁が踏み込む。

 

参ノ型――砕路。

 

線を断つ。

 

押さない。

 

斬らない。

 

“通り道”だけを壊す。

 

初めて、

気配が跳んだ。

 

避けた。

 

それで十分だった。

 

「今だ」

 

背後へ。

 

「離れろ」

 

「合流しろ」

 

「生きて戻れ」

 

「……はい!」

 

小守の足音が、

遠ざかる。

 

それを確認してから。

 

真壁は、

初めて構えを解いた。

 

もう、

ここに意味はない。

 

“勝つ場所”ではない。

 

“留まる場所”でもない。

 

役目は別にある。

 

「……行く」

 

踵を返す。

 

無限城を進む。

 

足場が変わる。

 

空間が歪む。

 

それでも歩幅は変わらない。

 

崩れない歩幅。

 

やがて。

 

音が変わる。

 

キィン――

 

ガァン――

 

ゴォッ――

 

重い。

 

深い。

 

これはもう、

“戦い”じゃない。

 

削り合いだ。

 

血の匂いが、

濃くなる。

 

皮膚が先に理解する。

 

ここだ。

 

 

踏み込む――

 

その直前。

 

風が、変わる。

 

重い。

 

今までに感じたことのない圧。

 

間違いなく、死闘になる。

 

真壁の眉が、

わずかに寄る。

 

重さが違う。

 

壊れ方が違う。

 

(……ここだ)

 

迷いはない。

 

真壁は、

そのまま最深部へ踏み込んだ。

 

 

無限城のさらに奥。

 

別の一角で。

 

この場に似つかわしくない、

 

ほんの小さく――

 

“笑い声”が混ざった。

 

 

第九十二話 終

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