鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第百十話 ― 人と鬼

 

〜無限城深部〜

 

重い音が響く。空間が軋む。

 

黒死牟の斬撃が落ちる。速い。深い。正確。悲鳴嶼が受け、実弥が通し、真壁が“消す”。

 

成立しているようで、押されている。余白が削られていく。

 

「……まだ浅い」

 

黒死牟の声が落ちる。

 

次の一撃。

 

質が変わる。面ではなく“線”を潰す軌道。

 

悲鳴嶼の足が沈む。鎖が唸り、鉄球が割り込む。辛うじて間に合う。

 

――ザッ

 

血が散る。深い。崩れない。だが持たない。

 

その一拍、時透が動く。

 

壁に打ち付けられていた身体が剥がれる。

 

踏み出す。音がしない。迷いがない。

 

霞の呼吸。内側を抜ける。

 

黒死牟の視線は真壁へ寄っている。ほんの一瞬、空く。

 

「……玄弥」

 

低い声。短い。

 

玄弥は動けない。胴は繋がり始めているが、足りない。血が薄い。

 

「……足りねえ」

 

時透の視界に、削れた“欠片”が映る。黒死牟の斬撃の余波で落ちた肉片。小さい。だが濃い。

 

拾う。迷わない。

 

「これを」

 

短い。

 

玄弥の手に叩き込む。躊躇は一瞬で消える。噛む。飲み込む。

 

――軋む。

 

骨が鳴る。血が巡る。異質な熱が走る。視界が、変わる。

 

「……来やがれ」

 

立つ。無理やり。だが立つ。

 

黒死牟の目がわずかに動く。

 

「……ふむ、鬼を喰らうか」

 

評価でも否定でもない。認識。

 

踏み込む。斬る。速い。深い。玄弥へ一直線。

 

だが、その前に“壁”がある。

 

真壁の足が沈む。礎の呼吸。

 

伍ノ型――不動礎。

 

受けない。抗わない。“そこに在る”。

 

――ギィィンッ!!

 

衝撃が割れる。位置は動かない。悲鳴嶼の鎖が走る。実弥が差し込む。時透が裏から通す。

 

初めて、四つが繋がる。

 

――ザッ

 

黒死牟の身体に、明確な遅れ。浅い。だが“重なる”。

 

玄弥の目が開く。違う景色。骨の内側まで“視える”。

 

「……ああ、見える」

 

黒死牟の“線”。通る場所。崩れる場所。

 

銃を構える。引き金。間はない。

 

――ダンッ!!

 

弾が走る。軌道は歪む。だが、“通る場所”へ行く。

 

――ザッ

 

裂ける。再生が追いつく。だが一拍、遅い。

 

「……面白い」

 

黒死牟の声が、わずかに深くなる。

 

圧が増す。斬撃の密度が上がる。余白ごと潰しに来る。

 

悲鳴嶼が受け、実弥が繋ぎ、真壁が消し、時透が抜ける。玄弥が撃つ。

 

それでも、押される。

 

(……まだ足りねえ)

 

玄弥がもう一歩出る。恐怖はある。だが、止まらない。

 

「行くぜ」

 

短い。

 

黒死牟が踏み込む。

 

空間が沈む。

 

戦いが、さらに深くなる。

 

 

 

成立している。だが足りない。

 

黒死牟の斬撃が走る。

 

速く、重く、正確。

 

悲鳴嶼が受け、実弥が通し、真壁が“線”を消す。時透が内側を抜け、玄弥が機を窺う。

 

――ギィンッ!!

 

衝突が連なる。黒死牟は止まらない。“上から潰している”。

 

「……形にはなった」

 

低い声。次の一撃で質が変わる。

 

三方向同時。受ければ一つは通る。

 

悲鳴嶼が踏み込む。鎖が走り鉄球が唸る。

 

二つを殺す。残る一線へ真壁が入る。

 

礎の呼吸、弐ノ型――止水壁。

 

“通る場所”だけが消える。

 

――ギィンッ!!

 

成立。だが押し込まれる。

 

その一拍。

 

玄弥が前へ出る。銃を構える。狙いは“遅れる一点”。

 

「……そこだ!」

 

引き金。

 

――ダンッ!!

 

弾が走る。空気を裂く。

 

黒死牟の肩口へ食い込む。

 

――ザッ

 

浅い。だが“入った”。

 

間を置かず、もう一発。

 

――ダンッ!!

 

今度は脚。動線の根元へ。

 

――ザッ

 

二発。位置が揃う。

 

玄弥の歯が軋む。

 

「……絡め」

 

血が、弾を媒介に“噴く”。

 

着弾した箇所から、異質なものが芽吹く。黒い“木”。血を吸い、骨に食い込み、繊維が一気に伸びる。

 

――バキバキッ!!

 

肩から、脚から、枝が走る。絡む。締める。刃の軌道へ割り込む。

 

完全な拘束ではない。

 

だが。

 

“遅れる”。

 

黒死牟の動きに、初めて明確な“間”が生まれる。

 

「……ほう」

 

その一瞬。

 

全員が噛みつく。

 

悲鳴嶼が押す。実弥が通す。真壁が消す。時透が最内へ滑る。

 

――ザザッ!!

 

連続で入る。浅い。だが重なる。

 

黒死牟の身体が、初めて“止まる”。

 

一拍。

 

玄弥が踏み込む。さらに撃つ。

 

――ダンッ!!

 

追加の弾。今度は腕へ。

 

――ザッ

 

即座に芽吹く。木が増える。締め上げる。

 

「……動くなッ!!」

 

血が巡る。木が軋む。

 

黒死牟の目が細くなる。

 

「面白い」

 

次の瞬間、斬撃が変わる。力ではない。“断つ”。

 

――ザンッ

 

枝が斬られる。裂ける。だが一度にすべては落とせない。絡みが“抵抗”になる。

 

遅い。

 

その僅かな遅れで、時透が入る。

 

――ザッ

 

深い。実弥が続く。

 

――ザンッ

 

さらに削る。悲鳴嶼が叩き込む。

 

――ドォンッ!!

 

空間が歪む。

 

黒死牟の身体が、大きく“外れる”。

 

一歩。明確に押し返す。

 

「……なるほど」

 

低い声。評価と理解。

 

そして――更新。

 

踏み込む。今までより静かに、深く。“拘束される前提”で最短を取り直す。

 

「次は、通さん」

 

圧が戻る。だが違う。

 

先ほどまでとは、違う。

 

確かに――

 

“届き始めている”。

 

押し返した。だが、崩してはいない。

 

黒死牟の身体が戻る。

 

再生は速い。乱れない。

 

だが、先ほどの“遅れ”は確かに残っている。

 

玄弥が構える。銃口は揺れない。

 

「……もう一度だ」

 

引き金に指を掛ける。

 

その瞬間。

空気が、変わる。

 

黒死牟の刀が――軋む。

音ではない。質が変わる。

刃が、伸びる。

 

肉が裂けるように、骨が増えるように、刀身が歪みながら“増殖する”。

 

長い。

 

異様なほどに。

 

“間合い”が、変わる。

 

「……」

 

誰も声を出さない。

 

理解だけが走る。

 

(届く)

 

どこにいても。

 

――来る。

 

踏み込みはない。

 

その場で、振る。

 

――ザァンッ!!

 

斬撃が“面”で来る。広い。逃げ場がない。

 

悲鳴嶼が受ける。鉄球。鎖。全てで“面”を作る。

 

――ドォンッ!!

 

衝撃が砕ける。だが止めきれない。押し潰される。

 

真壁が踏む。礎の呼吸――不動礎。

 

位置を固定する。だが、削られる。

 

実弥が割り込む。風で“線”を削る。

 

間に合わない。

 

――ザッ!!

 

血が散る。

 

浅くない。

 

一撃の“面積”が違う。

 

時透が抜ける。内側へ。だが――届く前に斬撃が“追ってくる”。

 

(速い……違う)

 

(長い)

 

間合いが、破綻している。

 

玄弥が撃つ。

 

――ダンッ!!

 

肩へ命中。

 

即座に木が芽吹く。

 

――バキッ!!

 

絡む。締める。

 

だが。

 

“足りない”。

 

刀身が長すぎる。絡んだ部分ごと、斬撃が“先に届く”。

 

――ザンッ!!

 

枝が斬られる。弾かれる。拘束が成立しない。

 

黒死牟の目が細くなる。

 

「……ふむ」

 

「届かぬ」

 

次の一振り。

 

――ザァンッ!!

 

今度は“層”で来る。一撃ではない。重なっている。逃げ場が消える。

 

悲鳴嶼が受け、真壁が消し、実弥が削り、時透が抜ける。

 

それでも。

 

“余る”。

 

――ザッ!!

 

全員が削られる。

 

浅くない。

 

積み重なる。

 

(……崩れる)

 

誰の思考でもない。

 

戦場が、そう言う。

 

黒死牟が踏み込む。

 

長い刀が、さらにしなる。

 

「形にはなった」

 

低い声。

 

「だが――足りぬ」

 

終わらせる一撃。

 

その軌道が、すべてを呑む。

 

玄弥が歯を食いしばる。

 

「……まだだろ」

 

銃を上げるが、震えている。

 

だが、下げない。

 

「まだ……終わってねぇ!!」

 

引き金。

 

――ダンッ!!

 

弾が走る。

 

それは、届くか。

 

戦場が、分かれる。

 

 

第百十話 終

 

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