鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第百十一話 ― 赫刀

 

 

押し返した。だが、崩してはいない。

 

黒死牟の身体が戻る。再生は速い。乱れない。だが、先ほどの“遅れ”は確かに残っている。

 

玄弥が構える。銃口は揺れない。

 

「……もう一度だ」

 

引き金に指を掛ける。

 

その瞬間。

空気が、変わる。

黒死牟の刀が――軋む。

音ではない。質が変わる。

刃が、伸びる。

 

肉が裂けるように、骨が増えるように、刀身が歪みながら“増殖する”。

 

長い。

 

異様なほどに。

 

“間合い”が、変わる。

 

「……」

 

誰も声を出さない。

 

理解だけが走る。

 

(届く)

 

どこにいても。

 

――来る。

 

踏み込みはない。

 

その場で、振る。

 

――ザァンッ!!

 

斬撃が“面”で来る。広い。逃げ場がない。

 

悲鳴嶼が受ける。鉄球。鎖。全てで“面”を作る。

 

――ドォンッ!!

 

衝撃が砕ける。だが止めきれない。押し潰される。

 

真壁が踏む。礎の呼吸――不動礎。位置を固定する。だが、削られる。

 

実弥が割り込む。風で“線”を削る。だが間に合わない。

 

――ザッ!!

 

血が散る。

 

浅くない。

 

一撃の“面積”が違う。

 

時透が抜ける。内側へ。だが――届く前に斬撃が“追ってくる”。

 

(速い……違う)

 

(長い)

 

間合いが、破綻している。

 

玄弥が撃つ。

 

――ダンッ!!

 

肩へ命中。

 

即座に木が芽吹く。

 

――バキッ!!

 

絡む。締める。

 

だが。

 

“足りない”。

 

刀身が長すぎる。絡んだ部分ごと、斬撃が“先に届く”。

 

――ザンッ!!

 

枝が斬られる。弾かれる。拘束が成立しない。

 

黒死牟の目が細くなる。

 

「……ふむ」

 

「だが、届かぬ」

 

次の一振り。

 

――ザァンッ!!

 

今度は“層”で来る。一撃ではない。重なっている。逃げ場が消える。

 

悲鳴嶼が受け、真壁が消し、実弥が削り、時透が抜ける。

 

それでも。

 

“余る”。

 

――ザッ!!

 

全員が削られる。

 

浅くない。

 

積み重なる。

 

(……崩れる)

 

誰の思考でもない。

 

戦場が、そう言う。

 

黒死牟が踏み込む。

 

長い刀が、さらにしなる。

 

「形にはなった」

 

低い声。

 

「だが――足りぬ」

 

終わらせる一撃。

 

その軌道が、すべてを呑む。

 

玄弥が歯を食いしばる。

 

「……まだだろ」

 

銃を上げるが、震えている。

 

だが、下げない。

 

「まだ……終わってねぇ!!」

 

引き金。

 

――ダンッ!!

 

弾が走る。

 

それは、届くか。

 

戦場が、分かれる。

 

 

崩れている。だが、折れはしない。

 

黒死牟の長い刃が唸る。

 

面で来る。層で来る。

 

悲鳴嶼が受け、真壁が“線”を消し、実弥が削る。時透が内へ潜る。

 

だが――余る。

 

――ザッ!!

 

全員が削られる。浅くない、積み重なる。

 

玄弥が踏み出す。息が荒い、血が足りない。だが視える。

 

「……まだ寄せられる」

 

銃を上げる。狙いは一点。長い刀身の“根”。動線の起点。

 

――ダンッ!!

 

当たる。骨に食い込む。即座に芽吹く。

 

――バキバキッ!!

 

黒い木が、刀から逆流するように伸びる。

 

刃を伝い、腕へ、肩へ。絡む。締める。完全ではない。

 

だが“遅らせる”。

 

黒死牟の目が細くなる。

 

「……執拗だ」

 

次の瞬間、斬る。断つ。枝が裂ける。

 

だが――一拍遅い。

 

「今だ」

 

誰の声でもない。全員が同時に踏む。

 

悲鳴嶼が押す。鎖で間合いを奪う。真壁が固定する。実弥が通す。外側を削る。

 

その最内へ――

 

時透が入る。

 

迷いがない。音がしない。自分を“線”にする。

 

(ここで終わらせる)

 

刃が走る。

 

――ザッ

 

深い。だがまだ届かない。

 

黒死牟が返す。長い刃が、最短で戻る。

 

(間に合わない)

 

理解が先に来る。

 

それでも。

 

時透は止まらない。

 

もう一歩、内へ。

 

身体が、斬撃に入る。

 

――ザンッ!!

 

血が弾ける。胴が裂ける。だがその一瞬、刃が“止まる”。

 

ほんの一拍。

 

それで、十分。

 

「……通せ」

 

声は出ていない。だが伝わる。

 

実弥が踏み込む。風が走る。

 

――ザァンッ!!

 

深く、抉る。黒死牟の身体が大きく“外れる”。

 

悲鳴嶼が叩き込む。

 

――ドォンッ!!

 

空間が歪む。骨が軋む。明確な損傷。

 

だが――

 

再生が始まる。

 

速い。止まらない。

 

黒死牟の目が、初めて“深く”細くなる。

 

「……見事」

 

「が、まだ足りぬ」

 

長い刃が、再びしなる。

 

時透の身体が、崩れる。倒れない。立っている。だが動けない。

 

玄弥が歯を食いしばる。血が足りない。視界が揺れる。それでも銃を上げる。

 

「……もう一回だ」

 

引き金に指を掛ける。

 

戦場は、まだ終わらない。

 

だが。

 

確かに。

 

“通った”。

 

 

 

更に押し込まれている。だが、崩れてはいない。

 

黒死牟の長い刃が唸る。

悲鳴嶼が受け、実弥が削り、真壁が“線”を消す。玄弥が撃つ。

 

時透は、まだ立っている。

 

血が落ちる。止まらない。視界は霞む。呼吸も浅い。

 

(俺はもう助からない…なら)

 

(……見える)

 

余分が消える。

 

音が遠のく。

 

残るのは、“線”。

 

黒死牟の動きが、すべて一本に収束する。

 

通る場所。

 

届く場所。

 

――そこだけが、残る。

 

踏む。

 

遅い。

 

だが、迷いはない。

 

黒死牟の刃が落ちる。

 

避けられない。

 

(間に合わない)

 

理解した上で――前へ出る。

 

――ザンッ!!

 

身体が裂ける。止まらない。

 

そのまま、内側へ。

 

踏み込む。

 

霞の呼吸。

 

壱ノ型。

 

垂天遠霞。

 

刃が、届く。

 

その瞬間。

 

色が変わる。

 

赫い。

 

炎ではない。

 

“焼き付く色”。

 

刀身が、熱を持つ。

 

――赫刀。

 

――ザァンッ!!

 

深く。

 

黒死牟の胴を、貫く。

 

内側まで。

 

通る。

 

一拍。

 

静止。

 

次の瞬間。

 

黒死牟の身体が、跳ねる。

 

「……ッ!?」

 

初めて。

 

明確に。

 

反応が乱れる。

 

焼ける。内側から。

 

骨が、肉が、臓が。

 

“再生と噛み合わない”。

 

塞がらない。閉じない。

 

むしろ――焼け広がる。

 

「……何だ、これは」

 

声が歪む。刃を引く。

 

だが遅い。

 

傷が残る。消えない。焼け続ける。

 

「……縁壱」

 

理解。

だが。遅い。

 

時透の膝が落ちる。

 

もう、立てない。

 

それでも。

 

刃は、離さない。

 

黒死牟の中を、“貫いている”。

 

(……ここで終わらせる)

 

「絶対に」

 

確かに、繋いだ。

 

次の瞬間。

 

悲鳴嶼の呼吸が変わる。

 

深い。

 

重い。

 

痣が、浮かぶ。

 

実弥も同時に踏む。

 

呼吸が変わる。

 

鋭さが増す。

 

痣が走る。

 

戦場の質が、変わる。

 

黒死牟の目が、初めて大きく開かれる。

 

(……再生しない)

 

違う。

 

(再生が――追いつかない)

 

内側が、焼ける。消えない。

 

激痛。初めて。

 

“焦り”が混じる。

 

踏み込む。

 

止まらない。

 

止まれない。

 

だが。

 

動きが、わずかに荒れる。

 

「……まだだ」

 

低い声。繋ぐ。

 

それでも戦う。

 

だが――

 

完全ではない。

 

戦場が、変わる。

 

確かに。

 

“崩れ始めている”。

 

 

第百十一話 終

 

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