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押し返した。だが、崩してはいない。
黒死牟の身体が戻る。再生は速い。乱れない。だが、先ほどの“遅れ”は確かに残っている。
玄弥が構える。銃口は揺れない。
「……もう一度だ」
引き金に指を掛ける。
その瞬間。
空気が、変わる。
黒死牟の刀が――軋む。
音ではない。質が変わる。
刃が、伸びる。
肉が裂けるように、骨が増えるように、刀身が歪みながら“増殖する”。
長い。
異様なほどに。
“間合い”が、変わる。
「……」
誰も声を出さない。
理解だけが走る。
(届く)
どこにいても。
――来る。
踏み込みはない。
その場で、振る。
――ザァンッ!!
斬撃が“面”で来る。広い。逃げ場がない。
悲鳴嶼が受ける。鉄球。鎖。全てで“面”を作る。
――ドォンッ!!
衝撃が砕ける。だが止めきれない。押し潰される。
真壁が踏む。礎の呼吸――不動礎。位置を固定する。だが、削られる。
実弥が割り込む。風で“線”を削る。だが間に合わない。
――ザッ!!
血が散る。
浅くない。
一撃の“面積”が違う。
時透が抜ける。内側へ。だが――届く前に斬撃が“追ってくる”。
(速い……違う)
(長い)
間合いが、破綻している。
玄弥が撃つ。
――ダンッ!!
肩へ命中。
即座に木が芽吹く。
――バキッ!!
絡む。締める。
だが。
“足りない”。
刀身が長すぎる。絡んだ部分ごと、斬撃が“先に届く”。
――ザンッ!!
枝が斬られる。弾かれる。拘束が成立しない。
黒死牟の目が細くなる。
「……ふむ」
「だが、届かぬ」
次の一振り。
――ザァンッ!!
今度は“層”で来る。一撃ではない。重なっている。逃げ場が消える。
悲鳴嶼が受け、真壁が消し、実弥が削り、時透が抜ける。
それでも。
“余る”。
――ザッ!!
全員が削られる。
浅くない。
積み重なる。
(……崩れる)
誰の思考でもない。
戦場が、そう言う。
黒死牟が踏み込む。
長い刀が、さらにしなる。
「形にはなった」
低い声。
「だが――足りぬ」
終わらせる一撃。
その軌道が、すべてを呑む。
玄弥が歯を食いしばる。
「……まだだろ」
銃を上げるが、震えている。
だが、下げない。
「まだ……終わってねぇ!!」
引き金。
――ダンッ!!
弾が走る。
それは、届くか。
戦場が、分かれる。
崩れている。だが、折れはしない。
黒死牟の長い刃が唸る。
面で来る。層で来る。
悲鳴嶼が受け、真壁が“線”を消し、実弥が削る。時透が内へ潜る。
だが――余る。
――ザッ!!
全員が削られる。浅くない、積み重なる。
玄弥が踏み出す。息が荒い、血が足りない。だが視える。
「……まだ寄せられる」
銃を上げる。狙いは一点。長い刀身の“根”。動線の起点。
――ダンッ!!
当たる。骨に食い込む。即座に芽吹く。
――バキバキッ!!
黒い木が、刀から逆流するように伸びる。
刃を伝い、腕へ、肩へ。絡む。締める。完全ではない。
だが“遅らせる”。
黒死牟の目が細くなる。
「……執拗だ」
次の瞬間、斬る。断つ。枝が裂ける。
だが――一拍遅い。
「今だ」
誰の声でもない。全員が同時に踏む。
悲鳴嶼が押す。鎖で間合いを奪う。真壁が固定する。実弥が通す。外側を削る。
その最内へ――
時透が入る。
迷いがない。音がしない。自分を“線”にする。
(ここで終わらせる)
刃が走る。
――ザッ
深い。だがまだ届かない。
黒死牟が返す。長い刃が、最短で戻る。
(間に合わない)
理解が先に来る。
それでも。
時透は止まらない。
もう一歩、内へ。
身体が、斬撃に入る。
――ザンッ!!
血が弾ける。胴が裂ける。だがその一瞬、刃が“止まる”。
ほんの一拍。
それで、十分。
「……通せ」
声は出ていない。だが伝わる。
実弥が踏み込む。風が走る。
――ザァンッ!!
深く、抉る。黒死牟の身体が大きく“外れる”。
悲鳴嶼が叩き込む。
――ドォンッ!!
空間が歪む。骨が軋む。明確な損傷。
だが――
再生が始まる。
速い。止まらない。
黒死牟の目が、初めて“深く”細くなる。
「……見事」
「が、まだ足りぬ」
長い刃が、再びしなる。
時透の身体が、崩れる。倒れない。立っている。だが動けない。
玄弥が歯を食いしばる。血が足りない。視界が揺れる。それでも銃を上げる。
「……もう一回だ」
引き金に指を掛ける。
戦場は、まだ終わらない。
だが。
確かに。
“通った”。
更に押し込まれている。だが、崩れてはいない。
黒死牟の長い刃が唸る。
悲鳴嶼が受け、実弥が削り、真壁が“線”を消す。玄弥が撃つ。
時透は、まだ立っている。
血が落ちる。止まらない。視界は霞む。呼吸も浅い。
(俺はもう助からない…なら)
(……見える)
余分が消える。
音が遠のく。
残るのは、“線”。
黒死牟の動きが、すべて一本に収束する。
通る場所。
届く場所。
――そこだけが、残る。
踏む。
遅い。
だが、迷いはない。
黒死牟の刃が落ちる。
避けられない。
(間に合わない)
理解した上で――前へ出る。
――ザンッ!!
身体が裂ける。止まらない。
そのまま、内側へ。
踏み込む。
霞の呼吸。
壱ノ型。
垂天遠霞。
刃が、届く。
その瞬間。
色が変わる。
赫い。
炎ではない。
“焼き付く色”。
刀身が、熱を持つ。
――赫刀。
――ザァンッ!!
深く。
黒死牟の胴を、貫く。
内側まで。
通る。
一拍。
静止。
次の瞬間。
黒死牟の身体が、跳ねる。
「……ッ!?」
初めて。
明確に。
反応が乱れる。
焼ける。内側から。
骨が、肉が、臓が。
“再生と噛み合わない”。
塞がらない。閉じない。
むしろ――焼け広がる。
「……何だ、これは」
声が歪む。刃を引く。
だが遅い。
傷が残る。消えない。焼け続ける。
「……縁壱」
理解。
だが。遅い。
時透の膝が落ちる。
もう、立てない。
それでも。
刃は、離さない。
黒死牟の中を、“貫いている”。
(……ここで終わらせる)
「絶対に」
確かに、繋いだ。
次の瞬間。
悲鳴嶼の呼吸が変わる。
深い。
重い。
痣が、浮かぶ。
実弥も同時に踏む。
呼吸が変わる。
鋭さが増す。
痣が走る。
戦場の質が、変わる。
黒死牟の目が、初めて大きく開かれる。
(……再生しない)
違う。
(再生が――追いつかない)
内側が、焼ける。消えない。
激痛。初めて。
“焦り”が混じる。
踏み込む。
止まらない。
止まれない。
だが。
動きが、わずかに荒れる。
「……まだだ」
低い声。繋ぐ。
それでも戦う。
だが――
完全ではない。
戦場が、変わる。
確かに。
“崩れ始めている”。
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第百十一話 終