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深く、入った。
悲鳴嶼と実弥の一撃が、黒死牟の内側へ届いている。赫刀の傷と重なり、焼け、裂け、崩れる。
再生が、遅れる。
間に合わない。
それでも――
肉が、動く。
骨が、伸びる。
再生しようとする。
その時。
――ザザ……
音が、混じる。
遠い。
だが、確かに届く。
『……再生しろ』
『止まるな』
『価値を示せ』
断片。
命令。
意味は明確。
黒死牟の身体が、応じる。
動こうとする。
だが。――止まる。
「……」
六つの目が、僅かに揺れる。
(……違う)
従うはずの命令。
“合わない”。
内側で、何かがズレている。
焼ける。赫刀の傷が、消えない。
それだけではない。
(……何だ)
思考が、引っかかる。
戦う理由。
斬る理由。
強さを求めた理由。
――武の果て。
それを、目指した。
(……その先は)
思い出す。
遠い。
あまりにも遠い。
月の下、ただ一人で、剣を振るっていた。
誰にも届かず。
誰もいない場所で。
(……何のために)
答えが、ない。
いや。
最初から――
無かったのか。
肉が、脈打つ。
刀身と腕の境界が、
曖昧になる。
再生が、
“形”を保てない。
六つの目が、
初めて“己”へ向く。
(……醜い)
その認識だけが、
静かに落ちた。
(……お労しや兄上)
「……縁壱」
刃が止まる。
再生が止まる。
無惨の声が、遠ざかる。
『……戦え』
『……再生しろ』
届いている。
だが。
もう、意味を持たない。
黒死牟の手が、わずかに緩む。
(……俺は)
初めて立ち止まる。
(……道を)
「違えたか」
だが、確かに。理解する。
身体が、崩れ始める。
再生しない。
する必要が、ない。
悲鳴嶼と実弥の刃が、最後まで通る。
――ザンッ
音は、静かだった。
黒死牟の身体が、崩れる。
塵のように。
消えていく。
六つの目が、最後にわずかに細められる。
そこにあったのは、
怒りでも、執着でもない。
ただ――
静かな、納得。
戦場に、音が戻る。
静かだった。
戦いの音は、もうない。
崩れた床。裂けた空間。
血の匂いだけが、残っている。
時透は、動かない。
黒死牟を貫いたままの姿勢で、崩れ落ちている。
瞳は、開いている。
だが、焦点はもう、合っていない。
「……時透」
悲鳴嶼の声は低い。
短い。
返る言葉はない。
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「こっちへ来るな、戻れ!!」
「なんで?僕頑張ったよね?」
「なんで?お前また十四だろ!?」
「こんな所で死んでどうする!!」
「なんでそんな風に言うの?」
「僕は色んな人に助けられた。だから他の人達を助けた。」
「辛かった事も多いけど、逃げなかったし、目を逸さなかった」
「僕は…兄さんみたいに誰かの為に役に立てた。」
「兄さんがあの日僕を助けてくれた。だから今日皆を助けることができたんだ」
「頑張ったでしょ?」
「俺は、お前に死んでほしくなかった。ただそれだけなんだ」
「だけど」
「……無一郎」
「よく頑張った」
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少し離れた場所。
玄弥の身体は、もう形を保てていない。
崩れている。
だが。
そこに“あった”ことは、確かに残っている。
実弥が、歩く。
足取りは重い。
だが止まらない。
近づく。
見下ろす。
「……玄弥ァ」
「クソが」
拳を握る。
震えている。
抑えきれない。
そのまま――
振るう。
――ドンッ!!
真壁の頬に、拳がめり込む。
音が響く。
だが、真壁は動かない。
踏んだまま。
受ける。
「……てめぇが」
実弥の声が、荒れる。
「もっと早く――」
言葉が、続かない。
分かっている。
誰のせいでもない。
それでも。
止まらない。
もう一度、振るう。
「……足りなかった」
震えた声。
当たる前に、止まる。
拳が、宙で震える。
ただ、そこにいる。
崩れない。
それだけ。
実弥の肩が、わずかに落ちる。
息が漏れる。
「アァァァァ……!!」
実弥の慟哭が響く
悲鳴嶼が、ゆっくりと歩み寄る。
片腕を失った身体。
それでも、立っている。
「……終わってはいない」
低い声。
静かに、落ちる。
「鬼は、まだいる」
「無惨を倒すまで――」
一拍。
「終わりではない」
誰も、否定しない。
できない。
実弥が、顔を上げる。
片目は潰れている。
だが。
前を見ている。
「……分かってます」
短く。
風がない。音もない。
それでも。
戦いは、まだ終わらない。
三人は、動き出す。
振り返らない。
残ったものも。
失ったものも。
すべて背負ったまま。
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第百十三話 終