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静かだった。
山の奥、産屋敷邸。
張り詰めた空気の中で、声だけが落ちる。
「南側、流れが偏っています。悲鳴嶼行冥、不死川実弥、が鬼舞辻無惨の元へ間も無く到着。冨岡義勇、竈門炭治郎、両名が数分後合流見込み」
産屋敷輝利哉の指示は、途切れない。
淡々と。
正確に。
「悲鳴嶼、不死川はそのまま前進。伊黒、甘露寺は愈史郎殿の護衛を」
「愈史郎殿、無惨の元へ向かう鬼をあの通路に全て繋げて下さい。」
「柱は全員鬼舞辻の元へ――」
一瞬。
視線が止まる。
判断は早い。
迷いはない。
背後。
わずかな音。
誰も振り返らない。
“来た”。
――ベん
空間が、歪む。
次の瞬間。
鬼が、現れる。
一体、二体ではない。
群れ。
数十。
一斉に。
「来たな」
低く、落ちる声。
宇髄天元が立つ。
音を読む。
位置を取る。
「派手に行くぜ」
爆ぜる。
――ドォンッ!!
視界が開ける。
鬼の動きが、一瞬止まる。
その隙に。刃が走る。
煉獄槇寿郎。
「ここは通さん」
踏み込みは重い。
だが速い。
無駄がない。
――ザンッ
一刀で、断つ。
「近づけるな」
短い。
それだけ。
だが。数が、減らない。
切っても、切っても。
流れ込む。
「転送か」
宇髄が舌打ちする。
「面倒だな」
奥。
部屋の内側。
気配が、動く。
鬼が一体。
他と違う。
速い。
静かだ。
目的がある。
――ザッ
一瞬で間合いを詰める。
狙いは――奥。
「通すかよ」
宇髄の声。間に入る。爆ぜる。
――ドンッ!!
弾く。
だが。止まらない。
槇寿郎が一歩前へ。
「守る」
それだけ。
元水柱・鱗滝左近寺
水は、流れる。
止めれば、濁る。
無理に押せば、崩れる。
だから。“受ける”。
それだけでいい。
そして
元水柱・鱗滝左近寺
かつて。
守れなかった。
教えた子が、鬼になった。
手を下した。
選んだ。
それでも。
残る。
「……甘かったのだろうな」
誰に言うでもない。
答えも、ない。
それでも。
もう一度。
拾った。
竈門炭治郎。
竈門禰豆子。
今思えば。あの雪の日。
あれは。
間違いではなかった。
最終局面。
そんな単語が妙にチラつく。
「ならば」
息を吐く。
浅くもなく、深すぎもしない。
整っている。
背後。
苦しそうに、呻く気配。
禰 豆子もまた戦っている。
「今度は、守る」
目を開く。
前を見る。
鬼が来る。速い。
だが。崩れない。
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(頑張れ炭治郎)
(頑張れ禰 豆子)
(義勇、堅、頼んだ)
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「ここから先へは」
刃が、走る。
――ザンッ
「通さない」
その瞬間。
外から、声が走る。
「輝利哉様!」
報告。
――ザンッ
途切れる。
静寂。
一瞬。
「……」
輝利哉の視線が落ちる。
すぐに上がる。
止まらない。
「全員、持ち場を維持」
声は、変わらない。
だが。
次の瞬間。
通信が、途切れる。
無限城。
指示が、届かない。
戦場が――
個に、戻る。
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流れが、来る。
真壁は、動かない。
ただ立つ。
こちらへ走る、二つの影。
竈門炭治郎。冨岡義勇。
炭治郎が気づく。
「真壁さん!」
義勇が口を開く。
「堅、頼んだ」
「はい」
炭治郎の足が、止まりかける。
「真壁さん、行きましょう!」
真壁は炭治郎へ視線を向ける。
その直後。
鬼の、群れ。
夥しい数の鬼。
最早全てを押しつぶす程の。
津波。
炭治郎が叫ぶ。
「くそっ!俺も一緒に――」
「行け」
一言。
「真壁さん無茶です!」
「竈門炭治郎!!!」
真壁の怒号が響く。
炭治郎が目を見開く。
“津波”が、来る。
その瞬間。
真壁が、踏む。
礎の呼吸。
――ドォンッ!!
衝突。
鬼の流れが、ぶつかる。
止まる。
一瞬。
空間が、開く。
「行け」
「役目を間違えるな」
炭治郎が、歯を食いしばる。
もう、迷わない。
義勇に並び、二人が、抜ける。
背後。
圧が、戻る。
――ザシュッ!!
血が散る。
それでも。
動かない。
(崩さん)
鬼が重なり、層となる。
「……通さん」
踏む。
さらに、深く。
流れが、歪む。
止まる。
炭治郎は、振り返らない。
義勇も、止まらない。
前へ。
鬼舞辻無惨へ。
真壁は、見ない。
動かない。
それで、いい。
流れは、止まる。
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第百十五話 終