鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

133 / 135
第百十七話 ― 抗う者達

 

 

止まらない。

 

鬼舞辻無惨の触手が、

空間を埋め尽くす。

 

速い。

 

重い。

 

広い。

 

そして――終わらない。

 

斬っても、

裂いても、

潰しても。

 

増える。

 

伸びる。

 

肉が、脈打ちながら、

新たな“殺意”を生み続けている。

 

――ドォンッ!!

 

地面が砕ける。

 

悲鳴嶼が踏み止まる。

 

片腕。

 

それでも、

鉄球は止まらない。

 

「南無阿弥陀仏」

 

鎖が唸る。

 

触手を絡め、

軌道をズラす。

 

完全には、

止められない。

 

それでも。

 

“通す量”を減らす。

 

実弥が、

その内側へ飛び込む。

 

「邪魔だァ!!」

 

風が裂ける。

 

――ザァンッ!!

 

無惨の腕が、

まとめて吹き飛ぶ。

 

だが。

 

次の瞬間には、

もう戻っている。

 

「チッ……!」

 

削れている。

 

だが。

 

減っていない。

 

無惨の目が、

冷たく実弥を見る。

 

「無意味だ」

 

触手が、

爆ぜる。

 

――ブワッ!!

 

範囲が広がる。

 

面。

 

層。

 

逃げ場そのものを、

潰す軌道。

 

伊黒が踏む。

 

蛇のように、

刃が滑る。

 

「甘露寺!!」

 

甘露寺が、

跳ぶ。

 

柔らかい軌道。

 

しなる刀が、

触手をまとめて裂く。

 

――ザザッ!!

 

一瞬。

 

道が開く。

 

その内側へ。

 

炭治郎が入る。

 

呼吸が、

静かに繋がる。

 

余分が落ちる。

 

“線”だけを見る。

 

ヒノカミ神楽。

 

――ザンッ!!

 

深い。

 

今までで、

最も深く入る。

 

無惨の肉が、

大きく裂ける。

 

その瞬間。

 

再生が、

僅かに止まる。

 

「……」

 

無惨の目が、

細くなる。

 

効いている。

 

だが。

 

浅い。

 

まだ、

足りない。

 

次の瞬間。

 

無惨の身体から、

無数の管が飛び出す。

 

――ドォンッ!!

 

炭治郎の身体が、

吹き飛ぶ。

 

地面を転がる。

 

肺が焼ける。

 

立ち上がる。

 

だが。

 

遅い。

 

無惨が、

もう目の前にいる。

 

「止める!!」

 

義勇が割り込む。

 

水の呼吸――凪。

 

空間が、

静まる。

 

触手が、

流れる。

 

削がれる。

 

だが。

 

今度は、

“押し切られる”。

 

――ザシュッ!!

 

義勇の脇腹が裂ける。

 

血が噴く。

 

膝が、

沈む。

 

それでも。

 

退かない。

 

「……まだだ」

 

低く。

 

短く。

 

それだけ。

 

炭治郎の目が、

揺れる。

 

(速い)

 

違う。

 

(終わらない)

 

削っている。

 

確実に。

 

珠代の薬も、

効いている。

 

それでも。

 

無惨の“総量”が、

あまりにも大きい。

 

その時。

 

遠く。

 

夜空の端が、

僅かに白み始める。

 

まだ遠い。

 

だが。

 

確かに。

 

夜明けは、

近づいている。

 

無惨の目が、

空へ向く。

 

一瞬。

 

ほんの一瞬だけ。

 

“焦り”が混じる。

 

悲鳴嶼が、

それを見る。

 

「……そうか」

 

低く。

 

理解する。

 

「貴様も、恐れるか」

 

無惨の視線が、

戻る。

 

次の瞬間。

 

圧が、

変わる。

 

今までより、

さらに深く。

 

さらに速く。

 

“夜明け前に全てを潰す”

 

その意志だけが、

戦場を埋める。

 

 

別の場所。

 

鬼が、

止まらない。

 

押し寄せる。

 

重なる。

 

積み上がる。

 

真壁の身体が、

僅かに沈む。

 

血が流れる。

 

呼吸が深くなる。

 

鬼が、

さらに増える。

 

上弦ではない。

 

名もない鬼。

 

だが。

 

数が違う。

 

流れが違う。

 

津波のように、

終わらない。

 

それでも。

 

真壁は、

退かない。

 

(……まだ崩れない)

 

踏む。

 

礎の呼吸――

 

盤脚。

 

止水壁。

 

砕路。

 

鎮環。

 

不動礎。

 

盤界静断。

 

積み重ねた全てが、

身体へ沈む。

 

鬼達がぶつかる。

 

――ドォンッ!!

 

止まる。

 

押し返される。

 

だが。

 

次が来る。

 

さらに次。

 

終わらない。

 

真壁の足元に、

亀裂が走る。

 

それでも。

 

動かない。

 

「……来い」

 

低く。

 

静かに。

 

その声だけが、

鬼の流れへ落ちた。

 

 

圧が、変わった。

 

鬼舞辻無惨。

 

その肉体が、

さらに膨れ上がる。

 

脈動。

 

増殖。

 

触手の数が、

増えている。

 

――ブォンッ!!

 

振るわれる。

 

空気ではない。

 

“空間そのもの”が、

抉れている。

 

悲鳴嶼が踏む。

 

鉄球。

 

鎖。

 

全てで、

受ける。

 

――ドォンッ!!

 

衝突。

 

重い。

 

違う。

 

“押し潰してくる”。

 

片腕だけでは、

支え切れない。

 

ならば――歯も使う。

 

膝が沈む。

 

地面が割れる。

 

それでも。

 

「……退かん」

 

低い声。

 

鎖を、引く。

 

一瞬。

 

軌道が、

ズレる。

 

その隙へ。

 

実弥が、

飛び込む。

 

「オラァァ!!」

 

風が、

爆ぜる。

 

――ザァンッ!!

 

無惨の触手が、

まとめて裂け飛ぶ。

 

深い。

 

だが。

 

閉じる。

 

再生。

 

増殖。

 

止まらない。

 

「クソがァ!!」

 

実弥が、

血を吐く。

 

限界は近い。

 

呼吸も、身体も。

 

それでも。

 

踏み込みだけは、

鈍らない。

 

炭治郎が、起き上がる。

 

肺が焼ける。

 

視界も揺れる。

 

だが。

 

まだ、

見えている。

 

(……繋ぐ)

 

義勇が、

前に立っている。

 

伊黒が、

軌道をズラしている。

 

甘露寺が、

空間を裂いている。

 

悲鳴嶼が、

受けている。

 

実弥が、

削っている。

 

全員で。

 

“削り続けている”。

 

なら。

 

止まれない。

 

炭治郎が、踏む。

 

ヒノカミ神楽。

 

呼吸が、

静かに落ちる。

 

余分を削ぐ。

 

怒りも。

 

恐怖も。

 

焦りも。

 

“通す”だけが残る。

 

無惨の目が、

細くなる。

 

「……まただ」

 

測れない。

 

掴めない。

 

闘気が乗らない。

 

その一瞬。

 

炭治郎が、内側へ入る。

 

――ザンッ!!

 

深い。

 

無惨の胸元が、

大きく裂ける。

 

肉が、

焼ける。

 

再生が、

止まる。

 

ほんの一拍。

 

だが。

 

確実に。

 

「……効いてる!」

 

甘露寺の声。

 

その瞬間。

 

全員の動きが、

さらに深くなる。

 

悲鳴嶼が押す。

 

実弥が通す。

 

義勇が繋ぐ。

 

伊黒が崩す。

 

甘露寺が裂く。

 

炭治郎が

 

 

“通す”

 

 

無惨の再生が、

徐々に。

 

ほんの僅かずつ。

 

遅れ始める。

 

だが。

 

無惨の表情は崩れない。

 

焦らない。

 

ただ。

 

殺す。

 

その意志だけが、

圧となって落ちる。

 

――ブワッ!!

 

無数の触手が、

一斉に広がる。

 

範囲が違う。

 

密度が違う。

 

逃げ場が、

消える。

 

「散れ!!」

 

伊黒の声。

 

全員が飛ぶ。

 

遅れた隊士が、

裂ける。

 

悲鳴すら残らない。

 

炭治郎の目が、揺れる。

 

(……間に合わない)

 

削れている。

 

だが。

 

こちらが先に、

尽きる。

 

その時。

 

無惨の身体が、

僅かに揺れる。

 

「……?」

 

動きが、

一瞬だけ止まる。

 

老化。

 

珠代の薬。

 

内側で、

確実に進んでいる。

 

悲鳴嶼が、

目を細める。

 

「……夜明けまで」

 

実弥が、

笑う。

 

血まみれのまま。

 

「付き合ってもらうぜェ」

 

踏み込む。

 

風が裂ける。

 

再び、

戦場が激突する。

 

 

別の場所。

 

鬼の流れは、

まだ終わらない。

 

積み上がる。

 

重なる。

 

押し寄せる。

 

真壁の身体が、

さらに沈む。

 

血が落ちる。

 

呼吸が、

深くなる。

 

鬼が、

殺到する。

 

前。

 

横。

 

上。

 

死角すら、

埋め尽くす。

 

だが。

 

通らない。

 

――ドォンッ!!

 

衝突。

 

鬼が、

弾かれる。

 

砕ける。

 

崩れる。

 

それでも。

 

次が来る。

 

終わらない。

 

真壁の視線が、

静かに前を見る。

 

(……まだだ)

 

礎は、

崩れない。

 

ここが、最後の防衛線。

 

なら。

 

自分が、崩れるわけにはいかない。

 

鬼がさらに重なる。

 

層になる。

 

津波になる。

 

一本道となった空間そのものが押し潰される。

 

その中心で。

 

真壁が、

ゆっくりと息を吸う。

 

深く。

 

静かに。

 

積み上げてきた全てが、

沈んでいく。

 

盤脚。

 

止水壁。

 

砕路。

 

鎮環。

 

不動礎。

 

盤界静断。

 

全てが、

一つへ繋がる。

 

鬼が、

迫る。

 

視界を埋める。

 

その瞬間。

 

真壁の足が、

沈んだ。

 

 

第百十七話 終

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。