鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第百十八話 ― 礎国

 

 

沈む。

 

真壁の足が、

さらに深く。

 

床を砕き。

 

空間へ、

根を張るように。

 

鬼が来る。

 

前。

 

横。

 

上。

 

隙間すらない。

 

数百。

 

いや。

 

もう数える意味すらない。

 

流れそのものが、

殺意になっている。

 

それでも。

 

真壁の呼吸は、

乱れない。

 

静かに。

 

深く。

 

積み上げた全てが、

一つへ沈んでいく。

 

盤脚。

 

止水壁。

 

砕路。

 

鎮環。

 

不動礎。

 

盤界静断。

 

積み重ねた“崩さない”が、

この場へ落ちる。

 

鬼が、

ぶつかる。

 

――ドォンッ!!

 

衝突。

 

空間が軋む。

 

だが。

 

通らない。

 

鬼の牙が届く。

 

腕が伸びる。

 

爪が振り下ろされる。

 

その全てが。

 

“届く直前で止まる”。

 

ズレる。

 

砕ける。

 

流される。

 

鬼達の顔が、

歪む。

 

前へ出ている。

 

押している。

 

数では勝っている。

 

それでも。

 

“進めない”。

 

真壁は、

動かない。

 

ただ。

 

そこに在る。

 

 

礎の呼吸――終ノ型。

 

礎国。

 

 

空気が、

変わる。

 

広がってはいない。

 

派手でもない。

 

炎も。

 

雷も。

 

暴風もない。

 

ただ。

 

“そこだけが崩れない”。

 

鬼が飛び込む。

 

――ザッ

 

首が落ちる。

 

次。

 

――ドォンッ!!

 

踏み込みが砕ける。

 

次。

 

――ギィンッ!!

 

爪が逸れる。

 

次。

 

――ザンッ

 

胴が裂ける。

 

一歩も動かない。

 

それでも。

 

鬼だけが、

崩れていく。

 

「……何だ」

 

鬼の一体が、

漏らす。

 

理解できない。

 

どこから攻めても。

 

通らない。

 

正面は、

押し返される。

 

横は、

流される。

 

上は、

砕かれる。

 

死角へ回っても、

“間”そのものが消えている。

 

真壁は、

見ている。

 

全てを。

 

流れ。

 

重さ。

 

崩れ方。

 

その全てを、

踏んでいる。

 

「遅い」

 

低く。

 

静かに。

 

鬼が、

まとめて殺到する。

 

津波。

 

空間が埋まる。

 

その瞬間。

 

真壁が、

半歩だけ踏む。

 

――ドォンッ!!!

 

衝撃。

 

鬼の流れそのものが、

“止まる”。

 

後続がぶつかる。

 

潰れる。

 

砕ける。

 

折り重なる。

 

それでも。

 

前へ出られない。

 

礎国。

 

それは技ではない。

 

“この場そのものを、崩れぬ礎とする”

 

その在り方。

 

 

無惨の目が、

僅かに細くなる。

 

触手を振るう。

 

鬼殺隊士が裂ける。

 

柱を削る。

 

押している。

 

確実に。

 

それなのに。

 

(……遅い)

 

鬼達が、来ない。

 

無限城崩壊直後。

 

自ら流した鬼の群れ。

 

本来なら、

もう雪崩れ込んでいる。

 

数で潰せる。

 

消耗した鬼殺隊など、

押し潰せる。

 

そのはずだった。

 

無惨の視線が、

わずかに動く。

 

鳴女を潰し、

 

(愈史郎は排除した)

 

ならば。

 

盤面は、

こちらへ傾いているはず。

 

なのに。

 

鬼が来ない。

 

禰 豆子の報告もない。

 

鬼達からの感知も、

途絶えている。

 

「……どうなっている」

 

初めて。

 

声に、

僅かな苛立ちが混じる。

 

炭治郎が踏み込む。

 

義勇が繋ぐ。

 

悲鳴嶼が受ける。

 

実弥が裂く。

 

伊黒が崩す。

 

甘露寺が通す。

 

まだ、

止まらない。

 

無惨の目が、

初めて僅かに揺れる。

 

(……どこだ)

 

(どこで止まっている)

 

その瞬間。

 

遠く。

 

ほんの僅か。

 

“鬼が砕ける音”がした。

 

 

 

炭治郎達は、

まだ無惨と戦っている。

 

触手が走る。

 

空間が裂ける。

 

それでも。

 

押し返している。

 

夜明けが、

近づいている。

 

悲鳴嶼が、

息を吐く。

 

「……真壁」

 

鬼の流れ。

 

無惨へ向かう増援。

 

それが。

 

来ない。

 

実弥が、

血を吐きながら笑う。

 

「アイツかァ……」

 

義勇が、

前を見る。

 

何も言わない。

 

だが。

 

理解している。

 

今。

 

あの男が。

 

たった一人で、

“戦場そのもの”を支えている。

 

 

鬼が、

さらに押し寄せる。

 

真壁の身体から、

血が流れる。

 

止まらない。

 

腕も裂ける。

 

脚も軋む。

 

それでも。

 

位置は、

一歩も動かない。

 

(崩さない)

 

その一点だけが、残る。

 

鬼が叫ぶ。

 

牙を剥く。

 

押し潰そうとする。

 

だが。

 

届かない。

 

真壁が、

静かに息を吐く。

 

「……ここは」

 

鬼が、

止まる。

 

空間ごと。

 

完全に。

 

「通さん」

 

 

第百十八話 終

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