第百二十二話 ― 継承
⸻
夜明けが、
迫っている。
空は白い。
黒は、
確実に削れている。
それでも。
鬼舞辻無惨は、
止まらない。
――ブワァッ!!!
触手が爆ぜる。
地面が裂ける。
瓦礫が宙を舞う。
隊士達が吹き飛ぶ。
「散れェ!!」
実弥が叫ぶ。
風が裂ける。
――ザァンッ!!
触手をまとめて削る。
だが。
止まり切らない。
“量”が違う。
悲鳴嶼が踏む。
片腕。
限界。
それでも。
鉄球を振るう。
「南無阿弥陀仏」
――ドォンッ!!
衝突。
空間が歪む。
膝が沈む。
それでも。
退かない。
無惨の目が、
揺れる。
(……何故だ)
まだ立つ。
まだ前へ出る。
壊れている。
限界を超えている。
それでも。
折れない。
理解できない。
その瞬間。
遠くから。
“雷鳴”が走った。
――バチィッ!!
一直線。
地面を裂くような速度。
無惨の目が、
動く。
速い。
次の瞬間。
――ザンッ!!
無惨の触手が、
まとめて断ち切られる。
「……!」
金色の火花。
その中心。
我妻善逸。
低く。
構える。
眠ってはいない。
目は、開いている。
「逃がさねぇよ」
雷の呼吸。
壱ノ型。
極まった、
ただ一つ。
霹靂一閃。
神速。
無惨の目が、
細くなる。
(速い)
違う。
(……迷いがない)
善逸の呼吸は、
静かだった。
恐怖はある。
震えもある。
それでも。
踏む。
それだけは、
止めない。
「炭治郎ォ!!」
叫ぶ。
「前だけ見てろ!!」
次の瞬間。
別方向から、
影が飛び込む。
「オオオオッ!!」
伊之助。
獣の呼吸。
滅茶苦茶な軌道。
だからこそ。
読めない。
無惨の触手が、
空を切る。
「遅ぇぞ化け物ォ!!」
二刀が、
捻じ込まれる。
――ザザッ!!
肉が裂ける。
浅い。
だが。
確実に、
崩してくる。
無惨の目が、
初めて明確に歪む。
(読めん)
(なんだこいつは)
伊之助の軌道は、
合理から外れている。
最適解ではない。
だからこそ。
“噛み合わない”。
その瞬間。
後方。
静かな気配。
栗花落カナヲ。
視線はぶれない。
無惨を見る。
傷を見る。
再生を見る。
胡蝶しのぶの声が、
脳裏に残る。
『最後まで観察して』
『感情で斬らない』
『ちゃんと視て』
カナヲが、
静かに息を吸う。
花の呼吸。
終ノ型。
彼岸朱眼。
視界が、
開く。
無惨の動き。
触手の軌道。
再生の遅れ。
“崩れる一点”。
全てが、
見える。
「炭治郎くん!」
声が飛ぶ。
「次、右側が遅れます!!」
炭治郎の目が、
開く。
見る。
確かに。
一拍だけ、
再生が遅い。
踏む。
ヒノカミ神楽。
余分を落とす。
ただ。
“通す”。
――ザンッ!!
深い。
今までで、
最も深く。
無惨の右肩口が、
大きく裂ける。
焼ける。
閉じない。
無惨の身体が、
明確によろめく。
「……ッ!!」
初めて。
鬼舞辻無惨が、
大きく体勢を崩した。
実弥が、
笑う。
血まみれのまま。
「来やがったかァ!!」
悲鳴嶼が、
静かに息を吐く。
「……繋がったな」
義勇が、
炭治郎の横へ並ぶ。
伊黒。
甘露寺。
善逸。
伊之助。
カナヲ。
全員が。
前へ出ている。
無惨の目が、
揺れる。
理解できない。
柱だけではない。
若い鬼狩り達まで。
何故、
立つ。
何故、
向かって来る。
何故、
命を繋ごうとする。
その時。
空が、
さらに白む。
夜明けまで。
まもなくーー
⸻
遠く。
鬼の群れが、
なおも押し寄せる。
終わらない。
止まらない。
津波。
その中心。
真壁堅が、
まだ立っている。
左腕は、
既に無い。
血が流れる。
視界も、
霞む。
それでも。
位置は、
一歩も動かない。
礎国。
“そこだけが崩れない”。
鬼が、
飛び込む。
――ザンッ
首が落ちる。
次。
――ドォンッ!!
踏み込みが砕ける。
次。
――ギィンッ!!
牙が逸れる。
真壁が、
静かに息を吐く。
(……まだ)
夜明けまで。
あと少し。
礎は、
崩れない。
⸻
空が。
白む。
夜が、
剥がれ始めている。
鬼舞辻無惨の触手が、
荒れ狂う。
――ブワァッ!!!
地面が、
抉れる。
瓦礫が、
吹き飛ぶ。
隊士達が裂ける。
それでも。
柱達は、
まだ前へ出る。
「止まんなァ!!」
実弥が吼える。
風が裂ける。
――ザァンッ!!
無惨の肉が、
飛ぶ。
焼ける。
閉じない。
再生が、
遅い。
無惨の目が、
揺れる。
(……遅い)
身体が。
思考が。
何もかも。
老いている。
珠代の薬。
赫刀。
積み重なった損傷。
そして――
時間。
夜明け。
それが。
確実に、
自分を殺しに来ている。
「貴様らァ……!!」
怒声。
触手が、
さらに増殖する。
逃げ道を、
切り開くために。
殺すためではない。
“生き残るために”。
その変化を。
全員が、
感じ取る。
悲鳴嶼が、
静かに口を開く。
「……追い込まれている」
無惨の動きが、
変わっている。
最適ではない。
焦っている。
炭治郎が、
息を繋ぐ。
肺が痛い。
視界も霞む。
それでも。
見える。
無惨の“乱れ”。
カナヲの声が飛ぶ。
「左側、再生が遅い!」
善逸が走る。
――バチィッ!!
雷鳴。
一直線。
霹靂一閃。
神速。
――ザンッ!!
触手が、
まとめて裂け飛ぶ。
伊之助が、
その隙へ噛みつく。
「逃がすかよォ!!」
獣の呼吸。
読めない軌道。
無惨の触手が、
空を切る。
――ザザッ!!
肉が裂ける。
義勇が繋ぐ。
凪。
空間が、
静まる。
“通る場所”だけが残る。
その瞬間。
炭治郎が、
踏み込む。
ヒノカミ神楽。
余分を、
落とす。
怒りも。
恐怖も。
焦りも。
全て。
ただ。
“通す”。
――ザンッ!!!
深い。
今までで、
最も深く。
無惨の胸元が、
大きく裂ける。
焼ける。
閉じない。
無惨の身体が、
大きくよろめく。
「……ッ!!」
初めて。
鬼舞辻無惨が、
後退した。
実弥が、
笑う。
血まみれのまま。
「追い詰めてんぞォ!!」
だが。
次の瞬間。
無惨の目が、
変わる。
恐怖。
焦燥。
その奥。
“決断”。
無惨の身体が、
膨れ上がる。
肉が脈打つ。
管が増殖する。
「……!?」
伊黒の目が細くなる。
嫌な予感。
無惨は、
理解した。
このままでは、
夜明けまで削られる。
なら。
突破する。
犠牲も、
効率も、
関係ない。
“ここを抜ける”。
その意志だけが、
残る。
無惨の触手が、
一斉に収束する。
一点。
炭治郎達ではない。
別方向。
鬼達が来ない方向。
“止めている一点”。
悲鳴嶼の目が、
開かれる。
「……まずい」
実弥が、
振り向く。
無惨が、跳ぶ。
――ドォンッ!!!
地面が爆ぜる。
速い。
今までで、
最速。
一直線。
「止めろォ!!」
全員が、
踏む。
だが。
間に合わない。
無惨は、
理解した。
鬼達が来ない理由。
たった一人。
たった一人の人間が。
“流れそのもの”を止めている。
なら。
そこを潰す。
それだけ。
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別の場所。
鬼が、
なおも押し寄せる。
終わらない。
止まらない。
津波。
その中心。
真壁堅が、
立っている。
左腕は無い。
血が流れる。
呼吸も、限界。
それでも。
位置は、
一歩も動かない。
礎国。
“そこだけが崩れない”。
その瞬間。
空気が、
変わる。
鬼達が、
割れる。
道が開く。
真壁の目が、
静かに上がる。
暗闇の奥。
そこに。
鬼舞辻無惨が、
いた。
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第百二十二話 完