鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第百二十三話 ― 王と礎

 

 

鬼舞辻無惨が、

走る。

 

一直線。

 

逃走ではない。

 

突破。

 

生存のためだけの、

最短距離。

 

――ドォンッ!!!

 

地面が、

爆ぜる。

 

建物が、

吹き飛ぶ。

 

無惨の肉体が、

膨張する。

 

脈打つ。

 

増殖する。

 

触手が、

暴風のように荒れ狂う。

 

その後ろを。

 

炭治郎達が、

追う。

 

「待てェ!!」

 

実弥が吼える。

 

風が裂ける。

 

だが。

 

届かない。

 

速い。

 

今までで、

最速。

 

恐怖が、

無惨を加速させている。

 

悲鳴嶼が、

低く呟く。

 

「……まずい」

 

理解している。

 

真壁は、

限界だ。

 

既に。

 

人間として、

立っていること自体が異常。

 

そこへ。

 

鬼舞辻無惨が来る。

 

 

鬼の群れが、

割れる。

 

道が開く。

 

その奥から。

 

無惨が現れる。

 

真壁は、

動かない。

 

ただ。

 

見る。

 

無惨もまた、

真壁を見る。

 

初めて。

 

真正面から。

 

鬼を止め続けた、

一人の男を。

 

血まみれ。

 

左腕は無い。

 

脚も崩れかけている。

 

それでも。

 

立っている。

 

無惨の目が、

細くなる。

 

「……貴様か」

 

低い声。

 

「鬼共の流れ止めていたのは」

 

真壁は、

答えない。

 

呼吸だけが、

静かに沈んでいる。

 

礎国。

 

まだ。

 

崩れていない。

 

無惨の後方では、

鬼達が押し寄せている。

 

だが。

 

前へ出られない。

 

真壁が、

“流れそのもの”を止めている。

 

無惨の内側で、

理解不能が軋む。

 

(何故だ)

 

何故、

ここまで立てる。

 

何故、

壊れない。

 

真壁が、

ほんの僅かに口角を上げる。

 

「……遅かったな」

 

無惨の目が、

開かれる。

 

次の瞬間。

 

触手が、

爆ぜた。

 

――ブワァッ!!!

 

空間ごと、

呑み込む。

 

範囲。

 

速度。

 

密度。

 

今までの比ではない。

 

殺す。

 

押し潰す。

 

消し飛ばす。

 

その意志だけ。

 

真壁が、

踏む。

 

――ドォンッ!!

 

衝突。

 

地面が割れる。

 

周囲の鬼ごと、

吹き飛ぶ。

 

だが。

 

無惨は止まらない。

 

触手が、

重なる。

 

層になる。

 

面になる。

 

逃げ場を、

潰す。

 

真壁の身体が、

沈む。

 

骨が軋む。

 

血が噴く。

 

それでも。

 

位置は、

動かない。

 

礎国。

 

“そこだけが崩れない”。

 

無惨の目が、

初めて明確に歪む。

 

「……人間風情がァ!!」

 

怒声。

 

触手が、

さらに増える。

 

――ドォンッ!!

 

――ザァンッ!!

 

――ブワァッ!!!

 

連撃。

 

空間そのものが、

削れていく。

 

真壁の身体が、

裂ける。

 

脚が軋む。

 

脇腹が抉れる。

 

それでも。

 

退かない。

 

真壁が、

静かに息を吐く。

 

(流れる)

 

鬼の流れ。

 

無惨の圧。

 

崩れ方。

 

全てが、

見えている。

 

盤脚。

 

止水壁。

 

砕路。

 

鎮環。

 

不動礎。

 

盤界静断。

 

積み重ねてきた全てが、

沈み続けている。

 

真壁が、

半歩だけ踏む。

 

――ドォンッ!!!!

 

衝撃。

 

無惨の触手が、

初めて“弾かれた”。

 

「……!?」

 

無惨の目が、

揺れる。

 

押し切れない。

 

鬼殺隊でも。

 

柱でもない。

 

たった一人。

 

たった一人の人間が。

 

自分を、

止めている。

 

その瞬間。

 

遠くから。

 

声が響く。

 

「真壁ェェェ!!」

 

実弥。

 

「退くなァ!!」

 

風が走る。

 

炭治郎達が、

追いつき始める。

 

無惨の目が、

揺れる。

 

夜明けが、近い。

 

時間がない。

 

焦燥が、

膨れ上がる。

 

真壁が、

静かに前を見る。

 

血が落ちる。

 

視界も、

霞む。

 

それでも。

 

立つ。

 

「……ここは」

 

低く。

 

静かに。

 

「通さん」

 

鬼舞辻無惨が、

吼える。

 

――ブワァァッ!!!

 

触手が、

空間を埋め尽くす。

 

暴風。

 

いや。

 

災害。

 

地面が抉れ、

建物が砕け、

鬼ごと吹き飛ぶ。

 

その中心。

 

真壁が、

立っている。

 

左腕は無い。

 

血が、

流れ続けている。

 

脚も、限界。

 

それでも。

 

位置は、

一歩も動かない。

 

礎国。

 

“そこだけが崩れない”。

 

無惨の目が、

揺れる。

 

押している。

 

確実に。

 

人間一人、

とっくに潰れていていい。

 

なのに。

 

抜けない。

 

「……何故だ」

 

声が漏れる。

 

理解できない。

 

何故、

壊れない。

 

何故、

折れない。

 

何故、

立ち続ける。

 

真壁は、

答えない。

 

呼吸だけが、

静かに沈んでいる。

 

(流れる)

 

鬼の流れ。

 

無惨の圧。

 

崩れ方。

 

全てが、

見えている。

 

礎の呼吸

 

全ての型。

 

積み上げた全てが、

この場へ沈んでいる。

 

真壁が、

静かに息を吐く。

 

「崩れろ」

 

無惨の怒声。

 

触手が、

さらに収束する。

 

一点突破。

 

この男だけを、

潰す。

 

そのためだけの、

最短。

 

――ドォンッ!!!!

 

衝突。

 

空間が、

悲鳴を上げる。

 

真壁の脚が、

沈む。

 

骨が軋む。

 

血が飛ぶ。

 

それでも。

 

退かない。

 

礎国。

 

“そこだけが崩れない”。

 

無惨の表情が、

初めて明確に歪む。

 

恐怖。

 

焦燥。

 

理解不能。

 

それら全てが、

混ざり始める。

 

その瞬間。

 

遠くから、

風が走る。

 

「真壁ェェ!!」

 

実弥。

 

さらに。

 

「真壁さん!!」

 

炭治郎。

 

追いついてくる。

 

無惨の目が、

揺れる。

 

夜明けが、

近い。

 

時間がない。

 

ここを抜くには、

まだ掛かる。

 

そして。

 

背後から、

鬼殺隊が来る。

 

無惨の思考が、

軋む。

 

生きる。

 

ただ、

生きる。

 

その本能だけが、

残る。

 

「……チッ」

 

初めて。

 

鬼舞辻無惨が、

舌打ちした。

 

真壁の目が、

静かに上がる。

 

無惨は、

理解した。

 

この男は。

 

崩れない。

 

殺せる。

 

だが。

 

“間に合わない”。

 

夜明けが先に来る。

 

その事実が。

 

鬼舞辻無惨にとって、

何よりも恐ろしい。

 

無惨の触手が、

揺れる。

 

突破ではない。

 

逃走。

 

その兆候を。

 

悲鳴嶼が、

遠くから見ていた。

 

「……そうか」

 

低く。

 

静かに。

 

「貴様は、逃げるのだな」

 

無惨の目が、

見開かれる。

 

否定したい。

 

だが。

 

身体が、

夜明けを恐れている。

 

陽を恐れている。

 

それが、

現実。

 

真壁が、

静かに口を開く。

 

「……行かせん」

 

低い。

 

それだけ。

 

だが。

 

十分だった。

 

無惨が、

跳ぶ。

 

真壁ではない。

 

別方向。

 

逃げ道を探して。

 

その瞬間。

 

炭治郎が、

叫ぶ。

 

「逃げるなァァ!!」

 

全員が、

再び走る。

 

夜明けまで。

 

ごく、僅か。

 

そして。

 

真壁堅は、

まだ崩れない。

 

 

第百二十三話 終

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