鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第百二十四話 ― 曙

 

⸻

 

鬼舞辻無惨が、

走る。

 

一直線ではない。

 

揺れる。

 

変わる。

 

瓦礫を踏み潰し、

建物を突き破り、

最短を捨ててでも、

陽を避ける軌道。

 

その姿を。

 

炭治郎は、

見ていた。

 

(……逃げてる)

 

初めて。

 

鬼舞辻無惨が、

“生き延びるためだけ”に動いている。

 

支配でも。

 

蹂躙でもない。

 

ただ。

 

陽から逃げるために。

 

「逃がすなァ!!」

 

実弥が吼える。

 

風が裂ける。

 

――ザァンッ!!

 

無惨の背へ、

深く入る。

 

だが。

 

止まらない。

 

肉を撒き散らしながら、

なお走る。

 

「鬱陶しい……!!」

 

無惨の触手が、

爆ぜる。

 

――ブワァッ!!!

 

範囲。

 

密度。

 

速度。

 

全てが、

逃走のためだけに振るわれる。

 

隊士達が裂ける。

 

吹き飛ぶ。

 

だが。

 

誰も退かない。

 

「前へ!!」

 

悲鳴嶼の声。

 

とうに限界を超えている。

 

それでも。

 

踏む。

 

鉄球が唸る。

 

――ドォンッ!!

 

触手を逸らす。

 

ほんの僅か。

 

その“間”へ。

 

義勇が入る。

 

水の呼吸。

 

凪。

 

空間が、静まる。

 

触手が流れ、

軌道が崩れる。

 

その瞬間。

 

炭治郎が踏む。

 

ヒノカミ神楽。

 

――ザンッ!!

 

無惨の脚が、

深く裂ける。

 

焼ける。

 

再生が、

遅れる。

 

無惨の顔が、

歪む。

 

「貴様らァ!!」

 

怒声。

 

だが。

 

その奥にあるのは、

恐怖。

 

夜明け。

 

陽光。

 

終わり。

 

それだけ。

 

⸻

 

遠く。

 

真壁が、

まだ立っている。

 

鬼の群れは、

確かに減った。

 

だが。

 

終わってはいない。

 

無惨が逃走へ移った事で、

鬼達の流れも乱れている。

 

暴走。

 

混乱。

 

統制を失った鬼共が、

なお押し寄せる。

 

真壁の呼吸は、

深い。

 

左腕は無い。

 

血も止まらない。

 

視界も霞む。

 

それでも。

 

礎国は、

崩れていない。

 

鬼が飛び込む。

 

――ザンッ

 

首が飛ぶ。

 

次。

 

――ドォンッ!!

 

踏み込みが砕ける。

 

次。

 

――ギィンッ!!

 

牙が逸れる。

 

鬼達の顔に、

明確な恐怖が混じり始める。

 

進めない。

 

押し潰せない。

 

何故、

この男は崩れない。

 

真壁が、

静かに息を吐く。

 

(……まだだ)

 

夜明けまで。

 

「崩さん」

 

⸻

 

地上。

 

無惨が、

地面へ視線を落とす。

 

逃走経路。

 

地下。

 

潜れば、

陽は届かない。

 

その瞬間。

 

炭治郎の目が、

開かれる。

 

「潜る気だ!!」

 

伊黒が、

即座に動く。

 

蛇のように、

地を滑る。

 

「行かせるか」

 

刃が走る。

 

――ザシュッ!!

 

無惨の進行方向を、

切り裂く。

 

甘露寺が、

さらに叩き込む。

 

しなる刃が、

地面ごと裂く。

 

――ドォンッ!!

 

瓦礫が崩れる。

 

道を、潰す。

 

無惨の目が、

歪む。

 

「邪魔をするなァ!!」

 

触手が、

爆ぜる。

 

伊黒の身体が裂ける。

 

甘露寺が吹き飛ぶ。

 

血が舞う。

 

それでも。

 

二人とも、

立ち上がる。

 

伊黒が、

低く吐く。

 

「……誰が」

 

血を流しながら。

 

なお。

 

前を見る。

 

「貴様など」

 

甘露寺が、

隣へ並ぶ。

 

腕は震えている。

 

それでも、

笑う。

 

「逃がすもんか」

 

その時。

 

別方向から。

 

雷鳴。

 

――バチィッ!!

 

一閃。

 

速い。

 

一直線。

 

無惨の触手が、

まとめて裂け飛ぶ。

 

「……あ?」

 

実弥が目を向ける。

 

そこにいたのは。

 

我妻善逸。

 

眠っていない。

 

目を開いたまま。

 

前を見る。

 

「俺だってやる時はやってやる」

 

静かだった。

 

だが。

 

声は震えていない。

 

その横。

 

獣のように、

瓦礫を蹴り砕きながら。

 

嘴平伊之助。

 

「なんだアイツ!!」

 

吼える。

 

刃を振るう。

 

「逃げんのか!!」

 

さらに。

 

後方。

 

静かに歩く影。

 

栗花落カナヲ。

 

視線は、

無惨だけを見ている。

 

(継ぐ)

 

姉の意志。

 

託されたもの。

 

それを。

 

終わらせるために。

 

「……逃がさない」

 

短く。

 

刃を構える。

 

無惨の目が、

揺れる。

 

まだ増える。

 

まだ立つ。

 

まだ来る。

 

何故。

 

何故、

尽きない。

 

夜明けが、

近づいている。

 

空が、

さらに白む。

 

鬼舞辻無惨の呼吸が、明確に乱れた。

 

⸻

 

空が、

白い。

 

もう、

隠せない。

 

夜が、

終わる。

 

鬼舞辻無惨が、

荒れ狂う。

 

――ブワァァッ!!!

 

触手。

 

管。

 

肉。

 

全てが、

暴走するように増殖している。

 

逃げる。

 

生きる。

 

その本能だけが、

身体を動かしている。

 

「邪魔だァァァ!!」

 

地面が、

消し飛ぶ。

 

瓦礫が、

吹き上がる。

 

隊士達が、

裂ける。

 

それでも。

 

鬼殺隊は、

止まらない。

 

 

善逸が、

踏む。

 

雷の呼吸。

 

壱ノ型。

 

霹靂一閃。

 

――バチィッ!!!

 

雷鳴。

 

一直線。

 

無惨の触手を、

まとめて裂きながら駆け抜ける。

 

速い。

 

今の戦場で、

最も速い踏み込み。

 

無惨の目が、

揺れる。

 

「……速い」

 

その瞬間。

 

伊之助が、

横から飛び込む。

 

「オラァァ!!」

 

獣の呼吸。

 

荒々しい。

 

だが。

 

読みづらい。

 

軌道が、

崩れる。

 

触手が空を切る。

 

二刀が、

無惨の脇腹へ突き刺さる。

 

――ザザッ!!

 

裂ける。

 

深い。

 

だが。

 

閉じる。

 

それでも。

 

“遅い”。

 

珠代の薬。

 

赫刀。

 

積み重なった損傷。

 

無惨の再生は、

確実に鈍っている。

 

カナヲが、

静かに踏み込む。

 

視線は、

揺れない。

 

花の呼吸。

 

終ノ型。

 

彼岸朱眼。

 

世界が、

遅くなる。

 

無惨の動きが、

見える。

 

通る場所。

 

崩れる場所。

 

「姉さん」

 

小さく。

 

呟く。

 

「終わらせます」

 

刃が走る。

 

――ザンッ!!

 

無惨の腕が、

深く裂ける。

 

焼ける。

 

再生が、

止まる。

 

無惨の顔が、

歪む。

 

⸻

 

炭治郎が、

息を繋ぐ。

 

善逸。

 

伊之助。

 

カナヲ。

 

全員が、

来た。

 

繋がっている。

 

今まで積み上げてきたものが。

 

失ったものが。

 

託されたものが。

 

全部。

 

ここへ来ている。

 

(終わらせる)

 

炭治郎が、

踏む。

 

ヒノカミ神楽。

 

義勇が、

横へ並ぶ。

 

凪。

 

空間が静まる。

 

悲鳴嶼が、

受ける。

 

実弥が、

裂く。

 

伊黒が、

崩す。

 

甘露寺が、

通す。

 

善逸が、

速さを作る。

 

伊之助が、

乱す。

 

カナヲが、

見抜く。

 

全員が。

 

“次へ繋ぐ”ために動いている。

 

無惨には、

理解できない。

 

何故。

 

ここまで壊れながら、

立てる。

 

何故。

 

死にかけながら、

前へ出られる。

 

何故。

 

人は。

 

誰かのために、

ここまで戦える。

 

理解できない。

 

だから。

 

怖い。

 

鬼舞辻無惨の内側で、

恐怖が膨れ上がる。

 

耳飾りの剣士。

 

陽。

 

死。

 

終わり。

 

その全てが、

目の前へ迫っている。

 

「違う……」

 

無惨が、

呟く。

 

否定。

 

だが。

 

身体が、

震えている。

 

老いている。

 

崩れている。

 

終わりへ向かっている。

 

「私は」

 

触手が、

荒れ狂う。

 

「私は!!」

 

叫ぶ。

 

その瞬間。

 

空の端から。

 

光が差した。

 

無惨の目が、

大きく開かれる。

 

陽光。

 

その瞬間。

 

鬼舞辻無惨が。

 

初めて、

明確な絶叫を上げた。

 

⸻

 

遠く。

 

鬼の群れが、

止まる。

 

動きが、

鈍る。

 

崩れる。

 

その中心。

 

真壁が、

まだ立っている。

 

礎国。

 

最後まで。

 

崩れない。

 

真壁が、

静かに空を見る。

 

白い。

 

朝だった。

 

⸻

 

第百二十四話 終

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