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鬼舞辻無惨が、
走る。
一直線ではない。
揺れる。
変わる。
瓦礫を踏み潰し、
建物を突き破り、
最短を捨ててでも、
陽を避ける軌道。
その姿を。
炭治郎は、
見ていた。
(……逃げてる)
初めて。
鬼舞辻無惨が、
“生き延びるためだけ”に動いている。
支配でも。
蹂躙でもない。
ただ。
陽から逃げるために。
「逃がすなァ!!」
実弥が吼える。
風が裂ける。
――ザァンッ!!
無惨の背へ、
深く入る。
だが。
止まらない。
肉を撒き散らしながら、
なお走る。
「鬱陶しい……!!」
無惨の触手が、
爆ぜる。
――ブワァッ!!!
範囲。
密度。
速度。
全てが、
逃走のためだけに振るわれる。
隊士達が裂ける。
吹き飛ぶ。
だが。
誰も退かない。
「前へ!!」
悲鳴嶼の声。
とうに限界を超えている。
それでも。
踏む。
鉄球が唸る。
――ドォンッ!!
触手を逸らす。
ほんの僅か。
その“間”へ。
義勇が入る。
水の呼吸。
凪。
空間が、静まる。
触手が流れ、
軌道が崩れる。
その瞬間。
炭治郎が踏む。
ヒノカミ神楽。
――ザンッ!!
無惨の脚が、
深く裂ける。
焼ける。
再生が、
遅れる。
無惨の顔が、
歪む。
「貴様らァ!!」
怒声。
だが。
その奥にあるのは、
恐怖。
夜明け。
陽光。
終わり。
それだけ。
⸻
遠く。
真壁が、
まだ立っている。
鬼の群れは、
確かに減った。
だが。
終わってはいない。
無惨が逃走へ移った事で、
鬼達の流れも乱れている。
暴走。
混乱。
統制を失った鬼共が、
なお押し寄せる。
真壁の呼吸は、
深い。
左腕は無い。
血も止まらない。
視界も霞む。
それでも。
礎国は、
崩れていない。
鬼が飛び込む。
――ザンッ
首が飛ぶ。
次。
――ドォンッ!!
踏み込みが砕ける。
次。
――ギィンッ!!
牙が逸れる。
鬼達の顔に、
明確な恐怖が混じり始める。
進めない。
押し潰せない。
何故、
この男は崩れない。
真壁が、
静かに息を吐く。
(……まだだ)
夜明けまで。
「崩さん」
⸻
地上。
無惨が、
地面へ視線を落とす。
逃走経路。
地下。
潜れば、
陽は届かない。
その瞬間。
炭治郎の目が、
開かれる。
「潜る気だ!!」
伊黒が、
即座に動く。
蛇のように、
地を滑る。
「行かせるか」
刃が走る。
――ザシュッ!!
無惨の進行方向を、
切り裂く。
甘露寺が、
さらに叩き込む。
しなる刃が、
地面ごと裂く。
――ドォンッ!!
瓦礫が崩れる。
道を、潰す。
無惨の目が、
歪む。
「邪魔をするなァ!!」
触手が、
爆ぜる。
伊黒の身体が裂ける。
甘露寺が吹き飛ぶ。
血が舞う。
それでも。
二人とも、
立ち上がる。
伊黒が、
低く吐く。
「……誰が」
血を流しながら。
なお。
前を見る。
「貴様など」
甘露寺が、
隣へ並ぶ。
腕は震えている。
それでも、
笑う。
「逃がすもんか」
その時。
別方向から。
雷鳴。
――バチィッ!!
一閃。
速い。
一直線。
無惨の触手が、
まとめて裂け飛ぶ。
「……あ?」
実弥が目を向ける。
そこにいたのは。
我妻善逸。
眠っていない。
目を開いたまま。
前を見る。
「俺だってやる時はやってやる」
静かだった。
だが。
声は震えていない。
その横。
獣のように、
瓦礫を蹴り砕きながら。
嘴平伊之助。
「なんだアイツ!!」
吼える。
刃を振るう。
「逃げんのか!!」
さらに。
後方。
静かに歩く影。
栗花落カナヲ。
視線は、
無惨だけを見ている。
(継ぐ)
姉の意志。
託されたもの。
それを。
終わらせるために。
「……逃がさない」
短く。
刃を構える。
無惨の目が、
揺れる。
まだ増える。
まだ立つ。
まだ来る。
何故。
何故、
尽きない。
夜明けが、
近づいている。
空が、
さらに白む。
鬼舞辻無惨の呼吸が、明確に乱れた。
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空が、
白い。
もう、
隠せない。
夜が、
終わる。
鬼舞辻無惨が、
荒れ狂う。
――ブワァァッ!!!
触手。
管。
肉。
全てが、
暴走するように増殖している。
逃げる。
生きる。
その本能だけが、
身体を動かしている。
「邪魔だァァァ!!」
地面が、
消し飛ぶ。
瓦礫が、
吹き上がる。
隊士達が、
裂ける。
それでも。
鬼殺隊は、
止まらない。
善逸が、
踏む。
雷の呼吸。
壱ノ型。
霹靂一閃。
――バチィッ!!!
雷鳴。
一直線。
無惨の触手を、
まとめて裂きながら駆け抜ける。
速い。
今の戦場で、
最も速い踏み込み。
無惨の目が、
揺れる。
「……速い」
その瞬間。
伊之助が、
横から飛び込む。
「オラァァ!!」
獣の呼吸。
荒々しい。
だが。
読みづらい。
軌道が、
崩れる。
触手が空を切る。
二刀が、
無惨の脇腹へ突き刺さる。
――ザザッ!!
裂ける。
深い。
だが。
閉じる。
それでも。
“遅い”。
珠代の薬。
赫刀。
積み重なった損傷。
無惨の再生は、
確実に鈍っている。
カナヲが、
静かに踏み込む。
視線は、
揺れない。
花の呼吸。
終ノ型。
彼岸朱眼。
世界が、
遅くなる。
無惨の動きが、
見える。
通る場所。
崩れる場所。
「姉さん」
小さく。
呟く。
「終わらせます」
刃が走る。
――ザンッ!!
無惨の腕が、
深く裂ける。
焼ける。
再生が、
止まる。
無惨の顔が、
歪む。
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炭治郎が、
息を繋ぐ。
善逸。
伊之助。
カナヲ。
全員が、
来た。
繋がっている。
今まで積み上げてきたものが。
失ったものが。
託されたものが。
全部。
ここへ来ている。
(終わらせる)
炭治郎が、
踏む。
ヒノカミ神楽。
義勇が、
横へ並ぶ。
凪。
空間が静まる。
悲鳴嶼が、
受ける。
実弥が、
裂く。
伊黒が、
崩す。
甘露寺が、
通す。
善逸が、
速さを作る。
伊之助が、
乱す。
カナヲが、
見抜く。
全員が。
“次へ繋ぐ”ために動いている。
無惨には、
理解できない。
何故。
ここまで壊れながら、
立てる。
何故。
死にかけながら、
前へ出られる。
何故。
人は。
誰かのために、
ここまで戦える。
理解できない。
だから。
怖い。
鬼舞辻無惨の内側で、
恐怖が膨れ上がる。
耳飾りの剣士。
陽。
死。
終わり。
その全てが、
目の前へ迫っている。
「違う……」
無惨が、
呟く。
否定。
だが。
身体が、
震えている。
老いている。
崩れている。
終わりへ向かっている。
「私は」
触手が、
荒れ狂う。
「私は!!」
叫ぶ。
その瞬間。
空の端から。
光が差した。
無惨の目が、
大きく開かれる。
陽光。
その瞬間。
鬼舞辻無惨が。
初めて、
明確な絶叫を上げた。
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遠く。
鬼の群れが、
止まる。
動きが、
鈍る。
崩れる。
その中心。
真壁が、
まだ立っている。
礎国。
最後まで。
崩れない。
真壁が、
静かに空を見る。
白い。
朝だった。
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第百二十四話 終