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静かだった。
さっきまで。
あれほど。
音があったはずなのに。
触手の音。
崩壊音。
絶叫。
怒号。
全部。
消えていた。
朝の日差しだけが、
落ちている。
鬼舞辻無惨の身体が、
崩れる。
灰。
塵。
肉片。
全てが、
陽光の中で消えていく。
「……あぁ」
無惨の声。
もう。
力が無い。
触手も。
威圧も。
無い。
ただ。
崩れていく。
「私は……」
最後まで。
理解できない。
何故。
人間が。
ここまで繋がれるのか。
何故。
自分は、
独りだったのか。
その答えは。
最後まで。
得られない。
朝日が、
無惨を包む。
そして。
鬼舞辻無惨は。
完全に、
消滅した。
静寂。
誰も、
動かない。
炭治郎が、
膝をつく。
呼吸が、
乱れている。
肺が痛い。
身体中が、
軋んでいる。
それでも。
目だけは、
前を見ていた。
「……終わった」
小さい声。
誰に向けたものでもない。
義勇が、
隣へ立つ。
血まみれ。
片腕も、
満足に動かない。
それでも。
立っている。
実弥が、
息を吐く。
「クソが……」
そのまま、
空を見る。
白い。
朝だった。
伊黒が、
膝をつく。
甘露寺が、
その横へ崩れる。
互いに、
傷だらけ。
それでも。
生きている。
善逸が、
その場へ座り込む。
「うそだろ……」
震えている。
今さら。
恐怖が、
戻ってきていた。
伊之助は、
荒く息を吐きながら。
それでも。
笑っていた。
「勝った……のか?」
カナヲが、
静かに朝日を見る。
眩しい。
温かい。
鬼のいない朝。
それを。
確かに感じていた。
悲鳴嶼行冥が、
立っている。
全身が、
既に限界を超えている。
それでも。
最後まで。
崩れなかった。
静かに。
息を吐く。
「……南無阿弥陀仏」
朝日が、
その身体を照らす。
悲鳴嶼が、
静かに空を見る。
見えているはずのない空。
だが。
その瞬間だけ。
白い光が、
確かにそこにあった。
朝日。
揺れる木々。
涙を堪える実弥。
集まってくる隊士達。
ぼやけながら。
それでも、
確かに見える。
悲鳴嶼の目が、
ほんの僅かに開かれる。
「……綺麗だ」
小さく。
呟く。
実弥が、
目を見開く。
悲鳴嶼は、
静かに笑った。
涙の滲んだ、
穏やかな顔だった。
「これが……朝か」
実弥が、
振り向く。
「悲鳴嶼さん」
悲鳴嶼は、
静かに空を見る。
「終わったな」
低い声。
だが。
どこか、
安堵していた。
実弥が、
歯を食いしばる。
分かっている。
もう。
長くない。
悲鳴嶼の身体は、
既に。
限界を超えている。
それでも、
最後まで、
立っていた。
悲鳴嶼が、
ゆっくりと口を開く。
「不死川」
「はい」
「生きろ」
短い。
だが。
重い。
実弥の顔が、
歪む。
「……ッ」
返せない。
言葉が、
出ない。
「お前はそんなにも優しい顔だったのだな」
他の隊士達も集まってくる。
悲鳴嶼は、
それを見て静かに笑う。
「若い者達を……頼む」
朝日が、
差す。
その中で。
悲鳴嶼行冥の身体が、
ゆっくりと崩れ落ちた。
実弥が、
支える。
「悲鳴嶼さん!!」
叫ぶ。
だが。
返事は、
ない。
穏やかな顔だった。
戦い切った者の、
顔だった。
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遠く。
崩れた街の端。
鬼の死骸が、
朝日の中で崩れていく。
その中心。
真壁堅が、
倒れている。
左腕は無い。
全身が、
血に染まっている。
呼吸も、
浅い。
だが。
まだ、
生きている。
朝日が、
その身体へ落ちる。
静かだった。
そこへ。
足音が、
近づく。
小柄な影。
隠。
東地小夜。
彼女の目が、
大きく開かれる。
「……真壁、さん」
血。
傷。
壊れた身体。
それでも。
その男は。
最後まで、
崩れなかった。
小夜が、
ゆっくりと膝をつく。
震える手で。
そっと。
真壁の肩へ触れる。
温かい。
生きている。
その瞬間。
張り詰めていたものが、
少しだけ緩む。
真壁の瞼が、
僅かに動く。
朝日が、
差している。
鬼のいない朝。
長かった夜が。
ようやく、
終わった。
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静かだった。
戦いは、
終わった。
鬼はいない。
もう。
どこにも。
朝日だけが、
街へ落ちている。
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鬼殺隊本部。
産屋敷亭の一つ。
いや。
もう、
そう呼ぶ必要もないのかもしれない。
産屋敷輝利哉が、
空を見ている。
白い。
長い夜だった。
傍らには、妹達。
誰も、
言葉を発さない。
必要がない。
全部。
終わったのだから。
「……皆」
輝利哉が、
静かに息を吐く。
「本当に」
小さい声。
「よく、生きて帰ってきてくれました」
その言葉だけが、
朝の空気へ落ちた。
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少し離れた場所。
崩れた瓦礫の上で、
愈史郎が空を見ていた。
朝日。
鬼が消えた朝。
珠代の願いは、
果たされた。
愈史郎の手には、
血のついた簪が残っている。
もう。
呼ぶ声はない。
叱る声も。
微笑む顔も。
それでも。
愈史郎は、
静かに目を閉じた。
「……見ていますか」
小さく。
本当に小さく。
その呟きだけが、
朝の風へ溶けていく。
やがて愈史郎は、
ゆっくりと立ち上がった。
鬼は、
もういない。
だが。
自分はまだ、
生きていく。
託されたものを、
残すために。
朝日が、
静かにその背を照らしていた。
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炭治郎が、
目を覚ます。
眩しい。
白い天井。
薬の匂い。
遠くで、
誰かの足音。
「……ここは」
身体を起こそうとして。
激痛。
「いっっ……!!」
その瞬間。
横から声。
「起きんな馬鹿」
実弥だった。
包帯だらけ。
片目も潰れている。
それでも。
生きている。
炭治郎の目が、
大きく開く。
「不死川さん……!」
実弥が、
小さく鼻を鳴らす。
「騒ぐなァ」
だが。
どこか、
力が抜けている。
炭治郎の視線が、
周囲を見る。
善逸。
伊之助。
義勇。
皆、
傷だらけだ。
それでも。
生きている。
炭治郎の目が、
揺れる。
「……勝ったんですね」
誰に向けた訳でもない。
実弥が、
静かに答える。
「あァ」
短く。
それだけ。
だが。
十分だった。
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別室。
伊黒が、
静かに目を開ける。
視界は、
ぼやけている。
その隣。
甘露寺蜜璃が、
眠っている。
包帯だらけ。
それでも。
呼吸している。
伊黒が、
ゆっくり息を吐く。
「……良かった」
小さく。
呟く。
甘露寺の指が、
僅かに動く。
その瞬間。
伊黒の表情が、
少しだけ緩んだ。
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廊下。
カナヲが、
静かに歩いている。
窓の外を見る。
青空。
もう。
鬼はいない。
胡蝶しのぶも。
もう、
戻らない。
それでも。
終わった。
託されたものは、
繋がった。
カナヲが、
小さく目を閉じる。
「……姉さん」
風が、
吹く。
穏やかな朝だった。
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少し離れた部屋。
真壁堅が、
眠っている。
左腕は、
失われている。
全身、
包帯だらけ。
呼吸も、
まだ浅い。
小夜が、
椅子に座っている。
ずっと。
そこにいた訳ではない。
治療班の手伝いをしながら。
何度か、
この部屋を見に来ていた。
その度に。
「まだ生きてる」
それを、
確認していた。
理由は、
自分でもよく分からない。
ただ。
あの朝。
朝日の中でも、
最後まで立っていた姿が。
頭から、
離れなかった。
真壁の指が、
僅かに動く。
小夜の肩が、
揺れる。
「……真壁さん?」
瞼が、
ゆっくり開く。
ぼやけた視界。
白い天井。
静かな空気。
生きている。
その事実だけが、
ゆっくりと落ちてくる。
真壁が、
小さく息を吐く。
「……終わったか」
小夜は小さく、笑った。
「……生きてましたね」
朝日が、
部屋へ差し込む。
長かった夜は、
終わっていた。
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第百二十六話 終