鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第二十七話 ― 救出

 

裂けた帯の向こうで、

空気が一気に動いた。

 

切断されたはずの帯が、

床を這い、

壁を走り、

生き物のようにうねる。

 

一斉に、

こちらへ殺到した。

 

「散れ!!」

 

宇髄の声が飛ぶ。

 

次の瞬間、

炭治郎の身体はすでに動いていた。

 

「水の呼吸――壱ノ型!」

 

正面から来る帯を斬る。

 

だが、

ただ斬ればいいわけではない。

 

その奥には、

まだ人がいる。

 

炭治郎は一撃ごとに

刃の角度を変え、

帯の流れだけを断ち切る。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

善逸が半泣きの声を上げながら、

耳を押さえるように顔をしかめる。

 

「右! 右から二本! その奥に人いる!!」

 

「分かった!!」

 

炭治郎はすぐに踏み込みを変える。

 

右から迫る帯の束を、

真正面からではなく

斜めに斬り流す。

 

勢いを殺す。

 

巻き込みを防ぐ。

 

無理に押し返さない。

 

それだけで、

刃の通り方が変わる。

 

真壁の声が、

一瞬だけ脳裏をよぎる。

 

――怖いと思う時ほど、足元から。

 

炭治郎は呼吸を深く入れた。

 

焦るな。

 

崩すな。

 

今は、

斬ることよりも

“通すこと”が先だ。

 

その時、

左手側で帯の壁が大きく膨らんだ。

 

「炭治郎ォ!!」

 

伊之助の声が飛ぶ。

 

「左が空いてる!! その奥にまだいるぞ!!」

 

炭治郎はすぐにそちらへ意識を向ける。

 

空間の薄い場所。

 

伊之助が見抜いた“抜け”だ。

 

そこへ帯が集中している。

 

守っている。

 

つまり――

そこに人がいる。

 

炭治郎は一歩踏み込む。

 

だが次の瞬間、

帯が鞭のようにしなり、

複数の軌道で一斉に襲いかかってきた。

 

速い。

 

しかも、

嫌らしい。

 

斬れば別の帯が回り込む。

 

助けに行こうとするほど、

足止めさせる動きだ。

 

炭治郎の胸の奥に、

一瞬だけ焦りがせり上がる。

 

間に合え。

 

早く。

 

助けないと。

 

その感情が、

足を前へ押し出しかけた。

 

――だが、

炭治郎は止まる。

 

一拍だけ、

呼吸を戻す。

 

足を踏み直す。

 

肩の力を抜く。

 

今、

崩れたまま行けば届かない。

 

それはもう、

分かっている。

 

炭治郎は息を吸う。

 

そして次の瞬間、

流れを読むように前へ出た。

 

「水の呼吸・肆ノ型――打ち潮!!」

 

連なる斬撃が、

帯の軌道をまとめて弾き崩す。

 

一気に全部を断とうとはしない。

 

人へ届くための“道”だけを開く。

 

その隙間へ、

炭治郎は身体を滑り込ませた。

 

「いた!!」

 

帯に絡め取られた女が、

壁際に沈んでいる。

 

意識は薄い。

 

だが、

まだ生きている。

 

炭治郎はすぐに日輪刀を返し、

巻きついた帯を最小限だけ斬る。

 

「大丈夫です、今助けます!」

 

返事はない。

 

だが、

呼吸はある。

 

炭治郎が帯を引き剥がしかけたその時――

 

「上だァ!!」

 

伊之助の叫び。

 

反射で顔を上げる。

 

天井から、

太い帯が槍のように突き落とされてくる。

 

避ければ助けが遅れる。

 

受ければ巻き込む。

 

一瞬の判断だった。

 

炭治郎は迷わず、

身体の位置だけをずらす。

 

女を庇いながら、

自分の肩で軌道を外す。

 

「ぐっ……!」

 

衝撃が走る。

 

だが、

致命傷ではない。

 

その一拍で十分だった。

 

「雷の呼吸――」

 

次の瞬間、

地下の空気を裂くように

一筋の光が走った。

 

「壱ノ型――霹靂一閃!!」

 

一瞬で間合いを詰めた斬撃が、

上から伸びた帯をまとめて断ち切る。

 

静寂が一瞬だけ落ちる。

 

善逸はその場で肩を上下させながら、

青ざめた顔で叫ぶ。

 

「た、炭治郎!!

左の奥、まだ三人!! 奥にもっといる!!」

 

「ありがとう!!」

 

炭治郎はすぐに女を引き寄せ、

安全な壁際へ移す。

 

まだ終わりではない。

 

救うべき相手が、

まだ残っている。

 

その時、

地下全体に鋭い金属音が響いた。

 

音柱、宇髄だった。

 

帯の群れの中心で、

派手な斬撃が連続して走っている。

 

「ちっ、面倒くせぇ帯だな!!」

 

宇髄の双刀が唸るたび、

帯の塊が次々と裂けていく。

 

だが、

斬っても斬っても

奥からまた新しい帯が這い出てくる。

 

鬼本体は、

まだ姿を見せない。

 

宇髄が舌打ち混じりに叫ぶ。

 

「本体はまだ奥だ!!

帯だけで時間稼ぎしてやがる!!」

 

炭治郎は歯を食いしばる。

 

やはりそうだ。

 

ここは“腹”であって、

まだ"中心"ではない。

 

ならば、

今やるべきことは明確だった。

 

本体を探す前に、

ここにいる人を落とさず拾う。

 

それが、

次へ進むための条件になる。

 

炭治郎は周囲を見る。

 

善逸は音を拾っている。

 

伊之助は抜け道を探っている。

 

宇髄は前線を押さえている。

 

それぞれが役割を果たしている。

 

ならば自分も、

自分の役割を崩さずやればいい。

 

炭治郎は静かに息を吸う。

 

「伊之助!!

人がいる場所の近く、空いてる方から教えてくれ!!」

 

「おう!! 右奥だ!! そっちは壁が薄い!!」

 

「善逸!! 動ける人と危ない人、分かるか!?」

 

「……奥の二人は弱い!! 手前の人はまだ保つ!!」

 

「分かった!!」

 

声を出すたび、

場が少しずつ整っていく。

 

一人で全部を抱えない。

 

場を整えて、

届くべき場所へ届く。

 

それが今の戦い方だった。

 

炭治郎は右奥へ駆ける。

 

帯が再び迫る。

 

だが今度は、

焦りに引っ張られない。

 

見る。

 

選ぶ。

 

斬る。

 

足元は崩れない。

 

呼吸も切れない。

 

「水の呼吸――弐ノ型・水車!!」

 

回転する斬撃が、

帯の群れを切り払い、

奥への道をこじ開ける。

 

その先で、

もう一人の女が帯に埋もれていた。

 

「今、助けます!」

 

炭治郎はすぐに膝をつき、

巻きついた帯へ刃を入れる。

 

その瞬間、

帯の奥から

ぬるりと低い声が滲んだ。

 

「……勝手に開けないでよ」

 

空気が変わる。

 

ぞわりと、

地下全体の温度が下がったように感じた。

 

宇髄の目が細まる。

 

善逸の顔色がさらに失せる。

 

伊之助が獣のように低く唸る。

 

来る。

 

今までとは違う。

 

帯の奥、

そのさらに先にいた“本体”が、

ついにこちらを認識した。

 

炭治郎は助けた女を庇うように立ち上がる。

 

刀を構える。

 

息を整える。

 

胸の奥では、

確かに緊張が高まっている。

 

だが、

崩れてはいない。

 

ここまで来た。

助けられる命がある。

ならば――

まだ倒れられない。

 

帯の闇の奥で、

何かがゆっくりと蠢く。

 

鬼の気配が、

濃くなる。

 

そして次の瞬間――

 

“それ”はついに、

姿を現そうとしていた。

 

 

第二十七話

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