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帯が、
空間を埋める。
床を這い、
壁を走り、
天井から落ちる。
数が違う。
速さも、
圧も、
これまでとは別物だった。
鬼の女は、
その場からほとんど動かない。
それでも戦場は、
完全に支配されている。
「鬱陶しい」
その一言と同時に、
帯が一斉にうねる。
四方から、
潰すように迫る。
「散れ!!」
宇髄の声。
炭治郎は即座に動く。
須磨を背に庇いながら、
斜めへ抜ける。
「水の呼吸――弐ノ型!」
円を描く斬撃で、
迫る帯の束をいなす。
だが、
切っても切っても終わらない。
奥から、
次が来る。
空間そのものが、
敵だ。
「上!!」
善逸の叫び。
炭治郎は反射で身体を沈める。
頭上を、
帯が槍のように貫いた。
直撃すれば、
即座に絡め取られる軌道。
「くっ……!」
炭治郎は息を整えながら、
須磨の位置を確認する。
まだ動けない。
ここで戦線から離す必要がある。
「伊之助!!」
「分かってらぁ!!」
伊之助はすでに動いていた。
壁際へ回り込み、
空間の“薄い場所”を蹴り抜く。
「こっちだ!! 抜ける!!」
壁が崩れる。
隠されていた空間が、
無理やり開かれる。
そこは、
帯の届きにくい位置だった。
炭治郎は須磨を抱え、
一気にそこへ滑り込ませる。
「ここにいてください!!」
須磨は震えながらも、
小さく頷いた。
「は、はい……」
その声を背に、
炭治郎は振り返る。
戻る。
戦場へ。
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その頃、
中心では――
「遅ぇ!!」
宇髄が踏み込む。
帯の束を、
真正面から断ち切る。
だが鬼の女は、
それでも動かない。
ただ、
目だけが冷たい。
「地味ね」
その言葉と同時に、
帯の動きが変わる。
速いだけじゃない。
“先を取る”動き。
宇髄の軌道に合わせて、
先回りしてくる。
「……ちっ」
一瞬、
宇髄の足が止まる。
その隙を、
帯が逃さない。
横から、
下から、
上から。
三方向同時。
だが次の瞬間――
「音の呼吸――」
宇髄の足運びが変わる。
リズムを外す。
読ませない。
「弐ノ型――響斬無間」
連続する斬撃が、
帯の軌道そのものを叩き潰す。
金属音が連なり、
空間が震える。
「……へぇ。少しはやるのね」
鬼の女が、
初めてわずかに興味を見せた。
だがそれでも、
余裕は崩れない。
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「炭治郎ォ!!」
伊之助の声。
「右奥、まだ一人残ってる!!」
炭治郎は即座に反応する。
視線を流す。
帯の密度が、
一点に集中している場所。
守っている。
つまり――
「そこだ……!」
踏み込む。
だが次の瞬間、
帯が壁のように立ち上がる。
完全な遮断。
正面突破では届かない。
炭治郎の足が、
一瞬止まる。
どう通す。
どこを開ける。
その時――
「……右、下」
善逸の声が、
震えながら落ちる。
「一瞬だけ、空く……」
炭治郎の呼吸が深くなる。
見る。
帯の流れ。
重なり。
わずかな“間”。
ある。
ほんの一拍だけ、
隙間が生まれる。
「水の呼吸――」
足を踏み込む。
狙うのは一点。
「肆ノ型――打ち潮!!」
斬撃が、
帯の重なりを弾く。
完全に断たない。
“ずらす”。
その一瞬の歪みに、
身体を滑り込ませる。
抜けた。
帯の壁の内側へ。
その奥で――
小さな身体が、
帯に沈んでいた。
「……!」
炭治郎は迷わない。
最短で近づく。
刃を返す。
絡みつく帯だけを、
最小限で断つ。
「大丈夫、今――」
その瞬間。
背後で、
空気が裂けた。
速い。
さっきまでとは、
明らかに違う一撃。
「炭治郎!!」
伊之助の叫び。
振り返る。
間に合わない。
そう判断した、その瞬間――
「遅ぇんだよ!」
横から、
音が割り込む。
宇髄の斬撃。
帯の一撃が、
途中で断ち切られる。
衝撃が弾け、
空気が揺れる。
宇髄はそのまま前へ出る。
「そっちは任せる」
短い。
だが、
完全に背を預けた言い方だった。
炭治郎は一瞬だけ目を見開き、
すぐに頷く。
「はい!!」
迷いが消える。
守る。
通す。
それに集中する。
炭治郎は救出した女を抱え、
即座に安全圏へ戻る。
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その時だった。
地下全体が、
わずかに揺れる。
帯の動きが、
さらに荒くなる。
鬼の女の表情が、
初めて歪んだ。
「……邪魔」
その声と同時に、
帯の密度が一気に増す。
もはや制御ではない。
“押し潰す”動き。
空間そのものを、
閉じにくる。
天井が軋む。
壁が割れる。
地下が、
崩れ始める。
「……面白ぇ」
宇髄が笑う
「派手になってきたじゃねぇか」
炭治郎は息を整える。
状況は最悪に近い。
だが――
見えている。
守るべき場所。
動くべき位置。
自分の役割。
足元は、
崩れていない。
なら――まだ戦える。
炭治郎は刀を構える。
視線を上げる。
鬼の女を捉える。
その奥へ。
「……行きます」
小さく、
だがはっきりと呟く。
救出はほぼ終わった。
ここからは――
“討つための戦い”が始まる。
帯が唸る。
空間が崩れる。
その中心で、
鬼が笑う。
戦いは、
さらに一段深く沈んでいく。
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第二十九話 終
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