鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第二十九話 ― 崩れる舞台

⸻

 

帯が、

空間を埋める。

 

床を這い、

壁を走り、

天井から落ちる。

 

数が違う。

 

速さも、

圧も、

これまでとは別物だった。

 

鬼の女は、

その場からほとんど動かない。

 

それでも戦場は、

完全に支配されている。

 

「鬱陶しい」

 

その一言と同時に、

帯が一斉にうねる。

 

四方から、

潰すように迫る。

 

「散れ!!」

 

宇髄の声。

 

炭治郎は即座に動く。

 

須磨を背に庇いながら、

斜めへ抜ける。

 

「水の呼吸――弐ノ型!」

 

円を描く斬撃で、

迫る帯の束をいなす。

 

だが、

切っても切っても終わらない。

 

奥から、

次が来る。

 

空間そのものが、

敵だ。

 

「上!!」

 

善逸の叫び。

 

炭治郎は反射で身体を沈める。

 

頭上を、

帯が槍のように貫いた。

 

直撃すれば、

即座に絡め取られる軌道。

 

「くっ……!」

 

炭治郎は息を整えながら、

須磨の位置を確認する。

 

まだ動けない。

 

ここで戦線から離す必要がある。

 

「伊之助!!」

 

「分かってらぁ!!」

 

伊之助はすでに動いていた。

 

壁際へ回り込み、

空間の“薄い場所”を蹴り抜く。

 

「こっちだ!! 抜ける!!」

 

壁が崩れる。

 

隠されていた空間が、

無理やり開かれる。

 

そこは、

帯の届きにくい位置だった。

 

炭治郎は須磨を抱え、

一気にそこへ滑り込ませる。

 

「ここにいてください!!」

 

須磨は震えながらも、

小さく頷いた。

 

「は、はい……」

 

その声を背に、

炭治郎は振り返る。

 

戻る。

 

戦場へ。

 

⸻

 

その頃、

中心では――

 

「遅ぇ!!」

 

宇髄が踏み込む。

 

帯の束を、

真正面から断ち切る。

 

だが鬼の女は、

それでも動かない。

 

ただ、

目だけが冷たい。

 

「地味ね」

 

その言葉と同時に、

帯の動きが変わる。

 

速いだけじゃない。

 

“先を取る”動き。

 

宇髄の軌道に合わせて、

先回りしてくる。

 

「……ちっ」

 

一瞬、

宇髄の足が止まる。

 

その隙を、

帯が逃さない。

 

横から、

下から、

上から。

 

三方向同時。

 

だが次の瞬間――

 

「音の呼吸――」

 

宇髄の足運びが変わる。

 

リズムを外す。

 

読ませない。

 

「弐ノ型――響斬無間」

 

連続する斬撃が、

帯の軌道そのものを叩き潰す。

 

金属音が連なり、

空間が震える。

 

「……へぇ。少しはやるのね」

 

鬼の女が、

初めてわずかに興味を見せた。

 

だがそれでも、

余裕は崩れない。

 

⸻

 

「炭治郎ォ!!」

 

伊之助の声。

 

「右奥、まだ一人残ってる!!」

 

炭治郎は即座に反応する。

 

視線を流す。

 

帯の密度が、

一点に集中している場所。

 

守っている。

 

つまり――

 

「そこだ……!」

 

踏み込む。

 

だが次の瞬間、

帯が壁のように立ち上がる。

 

完全な遮断。

 

正面突破では届かない。

 

炭治郎の足が、

一瞬止まる。

 

どう通す。

 

どこを開ける。

 

その時――

 

「……右、下」

 

善逸の声が、

震えながら落ちる。

 

「一瞬だけ、空く……」

 

炭治郎の呼吸が深くなる。

 

見る。

 

帯の流れ。

 

重なり。

 

わずかな“間”。

 

ある。

 

ほんの一拍だけ、

隙間が生まれる。

 

「水の呼吸――」

 

足を踏み込む。

 

狙うのは一点。

 

「肆ノ型――打ち潮!!」

 

斬撃が、

帯の重なりを弾く。

 

完全に断たない。

 

“ずらす”。

 

その一瞬の歪みに、

身体を滑り込ませる。

 

抜けた。

 

帯の壁の内側へ。

 

その奥で――

 

小さな身体が、

帯に沈んでいた。

 

「……!」

 

炭治郎は迷わない。

 

最短で近づく。

 

刃を返す。

 

絡みつく帯だけを、

最小限で断つ。

 

「大丈夫、今――」

 

その瞬間。

 

背後で、

空気が裂けた。

 

速い。

 

さっきまでとは、

明らかに違う一撃。

 

「炭治郎!!」

 

伊之助の叫び。

 

振り返る。

 

間に合わない。

 

そう判断した、その瞬間――

 

「遅ぇんだよ!」

 

横から、

音が割り込む。

 

宇髄の斬撃。

 

帯の一撃が、

途中で断ち切られる。

 

衝撃が弾け、

空気が揺れる。

 

宇髄はそのまま前へ出る。

 

「そっちは任せる」

 

短い。

 

だが、

完全に背を預けた言い方だった。

 

炭治郎は一瞬だけ目を見開き、

すぐに頷く。

 

「はい!!」

 

迷いが消える。

 

守る。

 

通す。

 

それに集中する。

 

炭治郎は救出した女を抱え、

即座に安全圏へ戻る。

 

⸻

 

その時だった。

 

地下全体が、

わずかに揺れる。

 

帯の動きが、

さらに荒くなる。

 

鬼の女の表情が、

初めて歪んだ。

 

「……邪魔」

 

その声と同時に、

帯の密度が一気に増す。

 

もはや制御ではない。

 

“押し潰す”動き。

 

空間そのものを、

閉じにくる。

 

天井が軋む。

 

壁が割れる。

 

地下が、

崩れ始める。

 

「……面白ぇ」

 

宇髄が笑う

 

「派手になってきたじゃねぇか」

 

炭治郎は息を整える。

 

状況は最悪に近い。

 

だが――

 

見えている。

 

守るべき場所。

 

動くべき位置。

 

自分の役割。

 

足元は、

崩れていない。

 

なら――まだ戦える。

 

炭治郎は刀を構える。

 

視線を上げる。

 

鬼の女を捉える。

 

その奥へ。

 

「……行きます」

 

小さく、

だがはっきりと呟く。

 

救出はほぼ終わった。

 

ここからは――

 

“討つための戦い”が始まる。

 

帯が唸る。

 

空間が崩れる。

 

その中心で、

鬼が笑う。

 

戦いは、

さらに一段深く沈んでいく。

 

⸻

 

第二十九話 終

 

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