鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

33 / 106
第二十九話 ― 崩れる舞台

 

帯が、

空間を埋める。

 

床を這い、

壁を走り、

天井から落ちる。

 

数が違う。

 

速さも、

圧も、

これまでとは別物だった。

 

鬼の女は、

その場からほとんど動かない。

 

それでも戦場は、

完全に支配されている。

 

「鬱陶しい」

 

その一言と同時に、

帯が一斉にうねる。

 

四方から、

潰すように迫る。

 

「散れ!!」

 

宇髄の声。

 

炭治郎は即座に動く。

 

須磨を背に庇いながら、

斜めへ抜ける。

 

「水の呼吸――弐ノ型!」

 

円を描く斬撃で、

迫る帯の束をいなす。

 

だが、

切っても切っても終わらない。

 

奥から、

次が来る。

 

空間そのものが、

敵だ。

 

「上!!」

 

善逸の叫び。

 

炭治郎は反射で身体を沈める。

 

頭上を、

帯が槍のように貫いた。

 

直撃すれば、

即座に絡め取られる軌道。

 

「くっ……!」

 

炭治郎は息を整えながら、

須磨の位置を確認する。

 

まだ動けない。

 

ここで戦線から離す必要がある。

 

「伊之助!!」

 

「分かってらぁ!!」

 

伊之助はすでに動いていた。

 

壁際へ回り込み、

空間の“薄い場所”を蹴り抜く。

 

「こっちだ!! 抜ける!!」

 

壁が崩れる。

 

隠されていた空間が、

無理やり開かれる。

 

そこは、

帯の届きにくい位置だった。

 

炭治郎は須磨を抱え、

一気にそこへ滑り込ませる。

 

「ここにいてください!!」

 

須磨は震えながらも、

小さく頷いた。

 

「は、はい……」

 

その声を背に、

炭治郎は振り返る。

 

戻る。

 

戦場へ。

 

 

その頃、

中心では――

 

「遅ぇ!!」

 

宇髄が踏み込む。

 

帯の束を、

真正面から断ち切る。

 

だが鬼の女は、

それでも動かない。

 

ただ、

目だけが冷たい。

 

「地味ね」

 

その言葉と同時に、

帯の動きが変わる。

 

速いだけじゃない。

 

“先を取る”動き。

 

宇髄の軌道に合わせて、

先回りしてくる。

 

「……ちっ」

 

一瞬、

宇髄の足が止まる。

 

その隙を、

帯が逃さない。

 

横から、

下から、

上から。

 

三方向同時。

 

だが次の瞬間――

 

「音の呼吸――」

 

宇髄の足運びが変わる。

 

リズムを外す。

 

読ませない。

 

「弐ノ型――響斬無間」

 

連続する斬撃が、

帯の軌道そのものを叩き潰す。

 

金属音が連なり、

空間が震える。

 

「……へぇ。少しはやるのね」

 

鬼の女が、

初めてわずかに興味を見せた。

 

だがそれでも、

余裕は崩れない。

 

 

「炭治郎ォ!!」

 

伊之助の声。

 

「右奥、まだ一人残ってる!!」

 

炭治郎は即座に反応する。

 

視線を流す。

 

帯の密度が、

一点に集中している場所。

 

守っている。

 

つまり――

 

「そこだ……!」

 

踏み込む。

 

だが次の瞬間、

帯が壁のように立ち上がる。

 

完全な遮断。

 

正面突破では届かない。

 

炭治郎の足が、

一瞬止まる。

 

どう通す。

 

どこを開ける。

 

その時――

 

「……右、下」

 

善逸の声が、

震えながら落ちる。

 

「一瞬だけ、空く……」

 

炭治郎の呼吸が深くなる。

 

見る。

 

帯の流れ。

 

重なり。

 

わずかな“間”。

 

ある。

 

ほんの一拍だけ、

隙間が生まれる。

 

「水の呼吸――」

 

足を踏み込む。

 

狙うのは一点。

 

「肆ノ型――打ち潮!!」

 

斬撃が、

帯の重なりを弾く。

 

完全に断たない。

 

“ずらす”。

 

その一瞬の歪みに、

身体を滑り込ませる。

 

抜けた。

 

帯の壁の内側へ。

 

その奥で――

 

小さな身体が、

帯に沈んでいた。

 

「……!」

 

炭治郎は迷わない。

 

最短で近づく。

 

刃を返す。

 

絡みつく帯だけを、

最小限で断つ。

 

「大丈夫、今――」

 

その瞬間。

 

背後で、

空気が裂けた。

 

速い。

 

さっきまでとは、

明らかに違う一撃。

 

「炭治郎!!」

 

伊之助の叫び。

 

振り返る。

 

間に合わない。

 

そう判断した、その瞬間――

 

「遅ぇんだよ!」

 

横から、

音が割り込む。

 

宇髄の斬撃。

 

帯の一撃が、

途中で断ち切られる。

 

衝撃が弾け、

空気が揺れる。

 

宇髄はそのまま前へ出る。

 

「そっちは任せる」

 

短い。

 

だが、

完全に背を預けた言い方だった。

 

炭治郎は一瞬だけ目を見開き、

すぐに頷く。

 

「はい!!」

 

迷いが消える。

 

守る。

 

通す。

 

それに集中する。

 

炭治郎は救出した女を抱え、

即座に安全圏へ戻る。

 

 

その時だった。

 

地下全体が、

わずかに揺れる。

 

帯の動きが、

さらに荒くなる。

 

鬼の女の表情が、

初めて歪んだ。

 

「……邪魔」

 

その声と同時に、

帯の密度が一気に増す。

 

もはや制御ではない。

 

“押し潰す”動き。

 

空間そのものを、

閉じにくる。

 

天井が軋む。

 

壁が割れる。

 

地下が、

崩れ始める。

 

「……面白ぇ」

 

宇髄が笑う

 

「派手になってきたじゃねぇか」

 

炭治郎は息を整える。

 

状況は最悪に近い。

 

だが――

 

見えている。

 

守るべき場所。

 

動くべき位置。

 

自分の役割。

 

足元は、

崩れていない。

 

なら――まだ戦える。

 

炭治郎は刀を構える。

 

視線を上げる。

 

鬼の女を捉える。

 

その奥へ。

 

「……行きます」

 

小さく、

だがはっきりと呟く。

 

救出はほぼ終わった。

 

ここからは――

 

“討つための戦い”が始まる。

 

帯が唸る。

 

空間が崩れる。

 

その中心で、

鬼が笑う。

 

戦いは、

さらに一段深く沈んでいく。

 

 

第二十九話 終

 

更新頻度について

  • 今のままでいい
  • 早い、毎日更新で良い
  • 隔日くらいでいい
  • 更新頻度の権を他人に握らせるな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。