鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第三十二話 ― 崩れた先

 

崩れる音が、

背後から追ってくる。

 

帯が暴れ、

柱が軋み、

地下の空間そのものが悲鳴を上げていた。

 

「走れ!!」

 

宇髄の声が飛ぶ。

 

四人は一斉に走る。

 

来た道を戻る。

 

細い通路。

階段。

低い天井。

 

だが今は、

潜入の時とはまるで違う。

 

後ろから、

帯が追ってくる。

 

床を這い、

壁を裂き、

執拗に食い下がる。

 

「うわぁぁぁぁ!! 来てる来てる来てる!!」

 

善逸が半泣きで叫ぶ。

 

「うるせぇ!! 足止めんな!!」と伊之助が怒鳴る。

 

炭治郎は振り返らない。

 

振り返れば、

足が鈍る。

 

今はただ、

崩れないように走る。

 

その時だった。

 

「止まんな!!」

 

宇髄が一歩前へ出る。

 

振り返りざま、

双刀を振るう。

 

「音の呼吸――」

 

斬撃が、

通路いっぱいに広がる。

 

「壱ノ型――轟!!」

 

爆ぜる音。

 

通路を塞ぐように迫っていた帯が、

まとめて吹き飛ばされる。

 

その一拍で、

距離が開く。

 

「今だ行け!!」

 

炭治郎たちは迷わず駆ける。

 

階段を上る。

 

一段、

また一段。

 

空気が変わる。

 

湿った重さが、

少しずつ薄れていく。

 

そして――

 

最後の段を踏み切った瞬間、

視界が開けた。

 

地上。

 

店の奥の一角。

 

だが――

 

「……っ」

 

炭治郎の足が、

わずかに止まる。

 

空気が違う。

 

さっきまでの賑やかさが、

ない。

 

人の気配が、

引いている。

 

いや――

 

避けられている。

 

「気付いてやがるな」

 

宇髄が低く言う。

 

その通りだった。

 

この一角だけ、

不自然に静かだ。

 

客もいない。

 

女もいない。

 

まるで、

“ここだけ切り離された”みたいに。

 

「……囲われてる」

 

炭治郎が呟く。

 

宇髄がわずかに笑う。

 

「いい勘してんじゃねぇか」

 

その瞬間――

 

空気が、

裂けた。

 

「っ!」

 

炭治郎が反応するより早く、

横から帯が飛ぶ。

 

地上だ。

 

だが、

地下と同じ帯が

壁を突き破って伸びてきた。

 

「まだ来るのかよ!!」と伊之助が叫ぶ。

 

「来るに決まってんだろ!!」宇髄が返す。

 

帯は止まらない。

 

地下と違い、

遮るものがない。

 

広い。

 

その分、

自由に動ける。

 

だが同時に――

 

守るものも、

増える。

 

「……っ」

 

炭治郎の鼻が動く。

 

匂い。

 

さっきより、

広い。

 

そして――

 

散っている。

 

一箇所じゃない。

 

この遊郭全体に、

鬼の気配が広がっている。

 

「宇髄さん!!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

「この匂い……下だけじゃない!!

上にも広がってます!!」

 

宇髄の目が鋭くなる。

 

「やっぱりな」

 

その一言で、

確信に変わる。

 

地下は“腹”。

 

だが、

それで全部じゃない。

 

鬼は、

もっと広く張っている。

 

その時だった。

 

屋根の上から、

気配が落ちる。

 

軽い。

 

だが、

確実に異質。

 

四人が同時に視線を上げる。

 

そこに――

 

鬼の女が立っていた。

 

さっきまで地下にいたはずの存在。

 

だが今は、

まるで最初からそこにいたかのように、

屋根の上に佇んでいる。

 

「……ホントしつこい」

 

夜風に揺れる帯。

 

その数は、

地下の比ではない。

 

「下で潰れてればよかったのに」

 

その声には、

はっきりとした苛立ちが混じっていた。

 

宇髄が口元を歪める。

 

「無理言うな」

 

双刀を構える。

 

「派手に全部ひっくり返すのが仕事だからな」

 

鬼の女の目が、

細くなる。

 

「……あんた嫌い」

 

次の瞬間――

 

帯が、

空を埋めた。

 

地上。

 

開けた空間。

 

逃げ場はある。

 

だが、

その分だけ

“全部見られる”。

 

炭治郎は息を吸う。

 

地下とは違う。

 

だが、

本質は同じだ。

 

崩すな。

 

見失うな。

 

今度は――

 

逃げ場のある戦場で、

崩れずに戦う。

 

炭治郎は刀を構える。

 

視線を上げる。

 

鬼を捉える。

 

「……行きます」

 

静かな一言。

 

その瞬間、

四人が同時に動いた。

 

遊郭の夜が、

完全に戦場へと変わる。

 

灯りの下で。

 

誰も気づかないまま進んでいた異変は、

 

ついに――

夜の表へと引きずり出された。

 

 

第三十二話 終

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