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割れた屋根の向こう。
その奥にあったものを見た瞬間――
空気が変わった。
「……っ」
炭治郎の呼吸が、
わずかに止まる。
そこは、
ただの屋根裏ではなかった。
帯が、
集まっている。
絡み合い、
折り重なり、
一点へと集約されている。
まるで、
“核”を守るように。
その中心に――
「……何だあれ」
伊之助が低く唸る。
肉だ。
帯ではない。
布でもない。
もっと生々しい、
鬼の“本体”に近い何か。
脈打っている。
ゆっくりと、
確かに。
炭治郎の鼻が、
はっきりと反応する。
「……これだ」
匂いの芯。
ずっと感じていた、
動かない“濃さ”。
それが、
目の前にある。
「宇髄さん!!」
炭治郎が叫ぶ。
「ああ」
宇髄は短く返す。
その目は、
完全に獲物を捉えていた。
「当たりだ」
次の瞬間――
「……触らないで」
声が落ちた。
鬼の女。
その声は、
今までとは明確に違っていた。
冷たさの中に、
初めて“焦り”が混じる。
帯が、
一斉に収束する。
四方へ散っていたものが、
すべて“核”の前へ集まる。
守るための動き。
隠すためではない。
――守っている。
炭治郎の中で、
確信が形になる。
「あれが本体……!」
「……いや、違ぇ」
宇髄が低く言う。
「“本体の片割れ”だ」
炭治郎の目が動く。
「片割れ……?」
「こいつ、上と下で分かれてやがる」
炭治郎の目がわずかに動く。
宇髄の視線は、
鬼の女から動かない。
その言葉が、
炭治郎の中で繋がる。
地下の“腹”。
この上の“核”。
そして、
異様に濃かった匂い。
全部が、
一つの構造になる。
その時だった。
鬼の女が、
はっきりと顔を歪めた。
「……見たな」
次の瞬間、
帯が爆ぜた。
今までとは違う。
数でも、
速さでもない。
“圧”が違う。
屋根の上の空間すべてを、
叩き潰すような攻撃。
「散れ!!」
宇髄が叫ぶ。
炭治郎は横へ跳ぶ。
伊之助は屋根の縁へ。
善逸は低く沈む。
だが――
帯が追う。
さっきまでとは違う。
狙いが、
完全に一点へ絞られている。
核に近づく者だけを、
潰しに来ている。
「ちっ……分かりやすいな!!」
宇髄が笑う。
「そこが急所ってことだ!!」
鬼の女の目が、
鋭くなる。
「……黙れ」
帯がさらに加速する。
守りではない。
“絶対に触れさせない”ための殺意。
炭治郎は踏み込む。
「水の呼吸――」
帯が正面から迫る。
だが、
もう迷いはない。
「参ノ型・流流舞い!!」
流れる。
斬る。
滑り込む。
だが――
届かない。
あと一歩が、
足りない。
帯の密度が、
壁になっている。
「……くそっ」
炭治郎の足が、
わずかに止まりかける。
その瞬間――
「止まんなァ!!」
伊之助の声。
横から、
強引に帯が弾き飛ばされる。
伊之助だ。
「そこ通れ!! 一瞬だけだ!!」
同時に――
「来る!! そのあと左が空く!!」
善逸の声が重なる。
炭治郎の呼吸が、
一気に整う。
一人じゃない。
通す。
繋ぐ。
その感覚が、
身体に残っている。
「――行ける!!」
踏み込む。
帯の隙間へ。
最短で。
迷いなく。
その瞬間――
鬼の女の目が、
明確に揺れた。
「……寄るな!」
帯が、
一斉に収束する。
だが――
遅い。
炭治郎の刃が、
その内側へ届く。
「水の呼吸――」
振りかぶる。
狙うのは、
帯ではない。
その奥。
脈打つ“核”。
「陸ノ型――ねじれ渦!!」
斬撃が、
空間ごと捻じる。
帯が弾かれる。
歪む。
その一瞬の歪みが、
防御を崩す。
「っ……!!」
鬼の女の顔が、
大きく歪む。
初めての、
明確な焦り。
炭治郎の刃が――
“核”へ届く。
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その瞬間。
ぞわり、と。
炭治郎の全身に、
異様な感覚が走った。
違う。
これは――
斬った感触が、
“浅い”。
確かに届いた。
だが、
断ち切れていない。
まるで、
“分かれているものの片側だけを斬った”ような――
「……っ!?」
炭治郎の目が、
見開かれる。
その時だった。
鬼の女が、
笑った。
今までとは違う。
はっきりとした、
嘲り。
「……無駄よ」
次の瞬間――
“核”が、
蠢いた。
炭治郎の足元から、
帯が爆発的に噴き上がる。
至近距離。
回避不能。
「炭治郎ォ!!」
宇髄の声。
だが――
間に合わない。
その一撃が、
炭治郎を飲み込もうとした、その瞬間――
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音が、
割り込んだ。
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宇髄の双刀が、
炭治郎の前へ滑り込む。
「音の呼吸――」
帯の奔流を、
真正面から叩き割る。
「伍ノ型――鳴弦奏々!!」
爆ぜるような連撃。
帯が裂け、
空間が開く。
炭治郎の身体が、
後ろへ弾かれる。
距離が離れる。
息が戻る。
だが――
戦場は、
完全に変わっていた。
鬼の女は、
もう余裕の顔をしていない。
そして――
割れた奥の“核”は、
確実にこちらを“認識”していた。
宇髄が低く言う。
「……なるほどな」
宇髄の目が細くなる。
「今の手応え、浅くねぇのに通り切ってねぇ」
「これ――首斬っただけじゃ死なねぇタイプか」
炭治郎の呼吸が、
静かに整う。
見えた。
この鬼の構造。
まだ終わらない。
だが――
届く場所までは来た。
崩れない。
見失わない。
そのまま、
もう一歩。
炭治郎は刀を構える。
視線を上げる。
鬼を捉える。
その奥を。
「……行きます」
その一言で、
再び戦場が動く。
遊郭の夜の上で――
“本当の戦い”が、
ようやく姿を現した。
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第三十四話 終
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