鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第三十七話 ― 同時

 

帯と鎌が、

同時に来た。

 

上から、

横から、

死角から。

 

一つに意識を向けた瞬間、

もう片方が喉元へ届く。

 

炭治郎の呼吸が、

一気に深くなる。

 

「水の呼吸――」

 

足を止めない。

 

正面の帯を斬りながら、

視界の端で鎌の軌道を追う。

 

「参ノ型・流流舞い!!」

 

流す。

 

逸らす。

 

真正面から受けない。

 

だが――

 

「甘ぇなァ」

 

妓夫太郎の声が、

すぐ近くで響いた。

 

速い。

 

炭治郎が帯へ意識を割いた、

その一瞬の隙をもう詰めてきている。

 

「っ!!」

 

鎌が走る。

 

炭治郎は反射で身体を捻る。

 

肩先を掠める。

 

焼けるような痛み。

 

浅い。

 

だが、

浅くても嫌な感覚が走る。

 

「毒だ!! 掠っても貰うな!!」

 

宇髄の声が飛ぶ。

 

その瞬間――

 

「うわぁぁぁ!! また来る!!」

 

善逸が叫ぶ。

 

「上の帯と下の鎌が被ってる!!

次、左から入る!!」

 

声が震えている。

 

だが、

情報は正確だ。

 

炭治郎はすぐに左へ踏み替える。

 

次の瞬間、

さっきまでいた場所を

帯と鎌が交差して貫いた。

 

「……っ」

 

冷や汗が背を伝う。

 

一つでも遅れれば終わっていた。

 

これは、

今までの戦い方の延長じゃない。

 

一人で流れを掴むには、

速すぎる。

 

 

「おっしゃぁぁ!!」

 

伊之助が屋根を蹴る。

 

獣のような軌道で、

堕姫の死角へ飛び込む。

 

「こっちは俺が引っ掻き回す!!」

 

二刀が唸る。

 

だが堕姫は、

それを見てもなお冷たい。

 

「鬱陶しいのよ」

 

帯が、

伊之助の周囲を一気に囲む。

 

正面から迎え撃つのではない。

 

逃げ道を消し、

空間ごと潰す動き。

 

「うおォォォ!!」

 

伊之助は空中で身体を捻り、

屋根を蹴って無理やり抜ける。

 

紙一重。

 

だがその目は、

逆に獰猛さを増していた。

 

「へへっ……やっぱお前、

守り入ると分かりやすいなァ!!」

 

堕姫の眉が、

わずかに動く。

 

その反応を、

炭治郎は見逃さなかった。

 

伊之助はただ暴れているようでいて、

ちゃんと“崩し”に行っている。

 

守らせている。

 

急所を意識させ続けている。

 

それだけで、

帯の自由度が少しずつ落ちる。

 

 

その一方で――

 

「速ぇじゃねぇか」

 

宇髄が笑う。

 

妓夫太郎と真正面から斬り結びながら、

一歩も引かない。

 

鎌と双刀がぶつかるたび、

夜気が裂ける。

 

「でもな――」

 

宇髄の踏み込みが、

一段深くなる。

 

「派手さが足りねぇ」

 

「……あァ?」

 

妓夫太郎が眉を寄せる。

 

次の瞬間、

宇髄の双刀が

軌道を変えた。

 

正面で受けるのではない。

 

鎌の流れを“ずらす”ように、

横から叩く。

 

「音の呼吸――」

 

一撃、

二撃、

三撃。

 

連続する斬撃が、

妓夫太郎の間合いをわずかに崩す。

 

「弐ノ型――響斬無間!!」

 

金属音が連なる。

 

妓夫太郎の身体が、

ほんの一歩だけ後ろへ流れた。

 

初めてだった。

 

妓夫太郎が、

明確に押し返された。

 

「……っ」

 

その顔が、

わずかに歪む。

 

宇髄はそこを逃さない。

 

「炭治郎!!」

 

声が飛ぶ。

 

「今の見たな!!」

 

炭治郎の目が、

すぐに宇髄を見る。

 

「はい!!」

 

「こいつは速ぇが、

流れが汚ぇ!!」

 

鎌を弾き返しながら、

宇髄が叫ぶ。

 

「呼吸で“読む”より、

崩して通せ!!」

 

その一言が、

炭治郎の中で深く落ちた。

 

読むだけじゃ足りない。

 

見てから通すのでは遅い。

 

先に、

“形を崩す”必要がある。

 

炭治郎の呼吸が、

静かに整っていく。

 

そうか。

 

この相手には、

流れに乗るだけでは届かない。

 

一度、

乱さないといけない。

 

 

その時だった。

 

「炭治郎ォ!!」

 

善逸の悲鳴のような声。

 

「下!! 下から来る!!」

 

炭治郎は反射で跳ぶ。

 

次の瞬間、

屋根瓦を突き破って

帯が噴き上がった。

 

遅れて、

その帯の影から

妓夫太郎の鎌が差し込んでくる。

 

「っ!!」

 

完全な連携。

 

堕姫の帯で視線を切り、

妓夫太郎の鎌で仕留める。

 

この兄妹、

一体として動いている。

 

「うぜぇなァ」

 

妓夫太郎が舌打ちする。

 

「チョロチョロチョロチョロ……」

 

「押し通す!!」

 

炭治郎が叫び返す。

 

その瞬間、

自分でも少しだけ驚いた。

 

怖い。

 

だが、

もう押されるだけでは終わらない。

 

炭治郎は刀を握り直す。

 

足元を定める。

 

肩の力を抜く。

 

崩れない。

 

今は、

“読む”だけじゃない。

 

崩す。

 

そのための一撃を、

通す。

 

「水の呼吸――」

 

妓夫太郎が来る。

 

速い。

 

だが今度は、

正面からその軌道を見に行く。

 

「肆ノ型――打ち潮!!」

 

連なる斬撃。

 

狙いは首ではない。

 

鎌の流れそのもの。

 

正面からぶつけるのではなく、

連撃で“拍”を乱す。

 

「……あ?」

 

妓夫太郎の目が、

わずかに動く。

 

その一瞬だけ、

鎌の連なりがズレた。

 

炭治郎の胸が鳴る。

 

通る。

 

今なら――

 

だが次の瞬間、

堕姫の帯が

横から割り込んだ。

 

「させない」

 

炭治郎は舌打ちしかける。

 

届く。

 

なのに、

必ず片方が邪魔をする。

 

それが、

この兄妹の厄介さだ。

 

「くそっ……!」

 

その時――

 

「うおりゃぁぁぁ!!」

 

伊之助が飛び込む。

 

堕姫の帯が

炭治郎を止めに入った、

その瞬間の隙。

 

そこへ、

獣のような軌道で突っ込んだ。

 

「お前、今そっち見たなァ!!」

 

二刀が、

堕姫の帯を強引に切り裂く。

 

完全な一撃ではない。

 

だが、

十分だった。

 

一拍だけ、

兄妹の連携がずれる。

 

宇髄が、

その一瞬を掴む。

 

「見えたぜ」

 

低い声。

 

次の瞬間――

 

宇髄の双刀が、

妓夫太郎の懐へ深く入り込む。

 

「っ……!!」

 

妓夫太郎の表情が、

初めて大きく動いた。

 

「テメェ……!」

 

だが、

宇髄は止まらない。

 

押し切るのではない。

 

見ている。

 

測っている。

 

斬り合いながら、

もう次の形を組んでいる。

 

この一瞬で、

戦場の組み方そのものを

組み替えようとしている目だ。

 

そして宇髄は、

夜の屋根の上で

はっきりと言い切った。

 

「役割を切るぞ!!」

 

炭治郎たちの意識が、

一斉に宇髄へ集まる。

 

宇髄の目は、

もう完全に勝ち筋だけを見ていた。

 

「俺が奴を押さえる!!」

 

双刀で鎌を弾きながら、

続ける。

 

「伊之助、善逸!!

女の方を止めろ!!」

 

「炭治郎!!」

 

宇髄の声が、

真っ直ぐ飛ぶ。

 

「お前は“繋げ”!!」

 

その言葉に、

炭治郎の胸の奥で

何かがはっきりと定まる。

 

斬る役ではなく、

通す役。

 

崩し、

繋ぎ、

討てる形を作る役。

 

それは、

今まで積み上げてきたものそのものだった。

 

炭治郎は強く頷く。

 

「はい!!」

 

次の瞬間、

四人が一斉に動く。

 

戦い方が、

変わる。

 

兄妹の同時討伐という、

無茶な条件に対して――

 

こちらもまた、

“同時”で噛み合い始めていた。

 

遊郭の夜の上で、

決着へ向かう歯車が

ついに噛み合い始める。

 

 

第三十七話 終

 

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