鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第三十八話 ― 繋ぐ

 

夜の屋根の上で、

戦い方が変わった。

 

帯と鎌。

 

二つの脅威を、

もう一人でどうにかしようとはしない。

 

役割を切る。

 

押さえる者。

 

崩す者。

 

そして――

繋ぐ者。

 

宇髄の一言で、

戦場そのものの形が変わっていた。

 

 

 

「おらァ!!」

 

宇髄が踏み込む。

 

双刀が、

真正面から妓夫太郎の鎌へ噛みつく。

 

火花が散る。

 

空気が裂ける。

 

屋根瓦が弾け飛ぶ。

 

「っ……!」

 

妓夫太郎が舌打ちする。

 

「しつけぇなァ!!」

 

「柱ってのは、ド派手なもんだろ!!」

 

宇髄は笑う。

 

軽い口調。

 

だが、

踏み込みは一切軽くない。

 

一歩。

 

また一歩。

 

妓夫太郎の間合いへ、

わざと深く入っていく。

 

危険だ。

 

毒を持つ相手に、

あえて距離を詰めている。

 

だが――

 

炭治郎は理解していた。

 

これは無茶じゃない。

 

“逃がさないため”の踏み込みだ。

 

妓夫太郎を自由にさせれば、

すぐに堕姫と噛み合う。

 

そうなれば、

また兄妹の“同時”に飲まれる。

 

だから宇髄は今、

一人で妓夫太郎の流れそのものを

押さえ込んでいる。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

 

宇髄の声が飛ぶ。

 

その直後、

双刀が弾けた。

 

「音の呼吸――」

 

横薙ぎの一撃。

 

妓夫太郎の鎌を大きく外へ逸らす。

 

「参ノ型――響斬波紋!!」

 

衝撃が走る。

 

妓夫太郎の身体が、

わずかに横へ流れる。

 

「っ……!」

 

その一瞬だけで十分だった。

 

堕姫との“線”が切れる。

 

宇髄は最初から、

そこを狙っていた。

 

 

その頃――

 

「来るぞぉぉぉ!!」

 

善逸が叫ぶ。

 

「右から三本!!

そのあと下から二本!!」

 

「うおらァァァァ!!」

 

伊之助が吠える。

 

屋根の縁を蹴り、

帯の束へ真正面から飛び込む。

 

だが今の伊之助は、

ただ暴れているわけではない。

 

見ている。

 

帯の集まり方。

 

守り方。

 

戻り方。

 

「へへっ……」

 

伊之助の口元が吊り上がる。

 

「お前、やっぱ“戻る場所”あるなァ!!」

 

堕姫の目が、

わずかに細くなる。

 

帯の動きが、

一瞬だけ変わった。

 

そこだ。

 

善逸の耳が拾い、

伊之助の感覚が掴む。

 

「今!! 左上がズレた!!」

 

善逸の声。

 

「分かってらァ!!」

 

伊之助が身体を捻る。

 

真正面から切るのではない。

 

帯の“戻り”へ、

無理やり二刀を差し込む。

 

「獣の呼吸――」

 

一閃。

 

二閃。

 

帯の束が、

弾かれるように乱れる。

 

「肆ノ牙――切細裂き!!」

 

堕姫の眉が、

はっきりと寄った。

 

今のは、

ただの迎撃ではない。

 

帯の制御そのものを、

少しだけ崩された。

 

「鬱陶しい……!」

 

帯が膨れ上がる。

 

怒りに合わせて、

数も速度も増す。

 

だが――

 

その増え方そのものが、

もう“余裕の制御”ではなかった。

 

善逸が青ざめたまま叫ぶ。

 

「炭治郎!!

今の音、残る!! 今の崩れ、少し残る!!」

 

炭治郎の目が動く。

 

今の一瞬。

 

伊之助が作った乱れ。

 

善逸が拾った残響。

 

それは、

消え切っていない。

 

つまり――

 

“崩し”は積み重なる。

 

炭治郎の呼吸が、

静かに深くなる。

 

そうか。

 

今必要なのは、

一撃で決めることじゃない。

 

一つずつ、

繋ぐことだ。

 

崩れを残す。

 

流れをずらす。

 

次へ渡す。

 

その連なりで、

初めてこの兄妹を崩せる。

 

 

 

「炭治郎ォ!!」

 

宇髄の声。

 

振り向く。

 

妓夫太郎の鎌が、

夜を裂く。

 

宇髄が押さえている。

 

だが、

完全ではない。

 

あのままでは、

いずれまた堕姫と線が繋がる。

 

宇髄が叫ぶ。

 

「こっちは長くは持たせねぇ!!

早く女を崩せ!!」

 

「はい!!」

 

炭治郎は踏み込む。

 

正面から、

堕姫の帯が来る。

 

多い。

 

速い。

 

鋭い。

 

だが今は、

全部を見る必要はない。

 

“次へ渡せる形”だけを作ればいい。

 

「水の呼吸――」

 

足元を定める。

 

肩の力を抜く。

 

呼吸を深く入れる。

 

「肆ノ型――打ち潮!!」

 

連なる斬撃が、

帯の流れへ正面からぶつかる。

 

狙うのは首ではない。

 

守りの“拍”。

 

帯の噛み合い。

 

そこへ、

一撃ずつ“ズレ”を入れる。

 

「……っ!」

 

堕姫の目が動く。

 

帯が、

わずかに遅れる。

 

ほんの一拍。

 

だが――

それでいい。

 

「伊之助!!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

「今のズレ、左に残ってる!!」

 

「見えてるぜェ!!」

 

伊之助が即座に飛び込む。

 

帯の戻りへ、

二刀を強引に差し込む。

 

さらに崩れる。

 

さらに乱れる。

 

「善逸!!」

 

「分かってる!!」

 

善逸の耳が、

震えるほど音を拾っていた。

 

「次、右が薄い!!

その次に真ん中が空く!!」

 

炭治郎の呼吸が、

さらに深くなる。

 

繋がっている。

 

今この戦場が、

ちゃんと繋がっている。

 

一人で無理に届かなくていい。

場を崩し、

次へ渡し、

最後に通す。

それが――

今の自分の役割だ。

 

 

炭治郎は踏み込む。

 

「水の呼吸――」

 

帯の束が、

壁のように立ち上がる。

 

だがもう、

ただの壁には見えない。

 

ズレている。

 

乱れている。

 

繋げれば、

通る。

 

「陸ノ型――ねじれ渦!!」

 

捻りを伴う斬撃が、

帯の重なりをまとめて弾き崩す。

 

裂くのではない。

 

ずらす。

 

押し開く。

 

その一撃で――

 

堕姫の守りに、

初めて“首へ届く線”が浮かんだ。

 

「……っ!?」

 

堕姫の表情が、

明確に歪む。

 

見えた。

 

今なら、

届く。

 

だが――

 

次の瞬間、

背筋が冷えた。

 

「下がれェ!!」

 

宇髄の怒声。

 

同時に、

空気が裂ける。

 

妓夫太郎の鎌が、

本来ありえない角度から

堕姫の方へ割り込んできた。

 

「っ!!」

 

炭治郎が反射で退く。

 

鎌が、

さっきまで首筋のあった場所を裂いた。

 

間一髪。

 

だが――

 

それで分かった。

 

妓夫太郎は、

自分が押さえられていてもなお、

堕姫へ“届かせない”動きを差し込める。

 

この兄妹は、

片方を崩しただけじゃ足りない。

 

同時に。

同じ瞬間に。

届かなければ終わらない。

炭治郎の呼吸が、

わずかに止まる。

 

その条件の重さが、

胸へ落ちる。

 

だが――

 

宇髄が笑った。

 

「派手じゃねぇか」

 

双刀で妓夫太郎を弾き返しながら、

その目は鋭いまま言う。

 

「今ので見えた」

 

炭治郎の目が、

宇髄を見る。

 

宇髄は断言した。

 

「形はできる」

 

その一言で、

炭治郎の中の迷いが消える。

 

できる。

 

まだ届いていない。

 

だが、

届く形までは来ている。

 

なら――

やることは一つだ。

 

もっと噛み合わせる。

 

もっと繋ぐ。

 

もっと同時へ寄せる。

 

炭治郎は刀を握り直す。

 

善逸の音。

 

伊之助の崩し。

 

宇髄の押さえ。

 

全部を、

一本の線にする。

 

それが自分の役目だ。

 

炭治郎は静かに息を吸う。

 

「……次で、形にします」

 

その声に、

宇髄が口元を歪める。

 

「次で決めんぞ」

 

夜の屋根の上で――

 

帯が唸る。

 

鎌が裂く。

 

四人の呼吸が、

少しずつ同じ決着へ噛み合っていく。

 

そしてその先に、

ついに“同時に届く一撃”の形が

見え始めていた。

 

 

第三十八話 終

 

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