鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第四十一話 ― 夜明け

 

遊郭の夜に、

静けさが戻り始めていた。

 

屋根を裂いていた帯も、

空気を震わせていた鎌も、

もう動かない。

 

崩れた瓦。

裂けた屋根。

散った木片。

 

戦いの跡だけが、

そこに残っていた。

 

炭治郎は屋根の上で、

浅く息を吐く。

 

身体が重い。

 

腕も、

脚も、

肺も、

すべてが焼けるように熱い。

 

それでも――

 

足元は、

崩れていなかった。

 

倒れそうなほど消耗しているのに、

芯だけは、

まだ立っている。

 

その感覚が、

胸の奥に静かに残っていた。

 

「いってぇぇぇぇぇぇ……!!」

 

静寂を破ったのは、

善逸だった。

 

屋根の上に転がりながら、

涙目で喚いている。

 

「死ぬ!! 今回マジで死ぬかと思った!!

なんで毎回こんな目に遭うの!?」

 

「うるせぇ!!」

 

すぐさま伊之助が怒鳴る。

 

「死んでねぇんだから勝ちだろうが!!

つーか俺の方が暴れた!!」

 

「いやお前絶対途中でおかしかっただろ!!

人間の動きじゃなかったぞ!?」

 

「当たり前だろ!! 俺は山の王だァ!!」

 

「話が通じてないんだよ!!」

 

二人の声が、

夜気に溶けていく。

 

炭治郎はそれを聞いて、

わずかに息を緩めた。

 

生きている。

 

全員が、

ここにいる。

 

その事実だけで、

十分だった。

 

「……よかった」

 

小さく零れた声は、

夜明け前の空気に溶けた。

 

その時だった。

 

「地味な顔してんなァ」

 

低い声。

 

炭治郎が顔を上げる。

 

宇髄だった。

 

傷だらけだ。

 

血も流れている。

 

毒も回っているはずだ。

 

それでも――

 

立っている。

 

炭治郎は姿勢を正す。

 

「宇髄さん……!」

 

だが宇髄は一瞥だけして、

崩れた屋根へ腰を下ろした。

 

「その顔できるってことは、

まだ動けるな」

 

炭治郎は小さく息を吐く。

 

「……ギリギリです」

 

「上等だ」

 

即答だった。

 

それだけで、

余計な言葉はいらなかった。

 

しばらくの間、

二人は並んだまま

空を見ていた。

 

遠くで人の声がする。

 

だが、

この屋根の上だけはまだ

戦いの余韻の中にあった。

 

やがて宇髄が口を開く。

 

「だが――いい動きしてた」

 

炭治郎の目が動く。

 

宇髄は続けた。

 

「一人で決めにいかなかった」

 

「音を拾って、

崩しを通して、

全部“繋いだ”」

 

短い。

 

だが、

言い切っている。

 

炭治郎は静かに受け止める。

 

繋ぐ。

 

それが今回の戦いだった。

 

宇髄がわずかに口元を歪める。

 

「それができる奴は強ぇ」

 

その一言が、

深く落ちる。

 

炭治郎の胸の奥が、

静かに熱を持つ。

 

「……ありがとうございます」

 

「礼はいらねぇ」

 

宇髄は軽く言う。

 

「次もやれ」

 

それだけだった。

 

だが、

十分だった。

 

「はい」

 

その返事には、

もう迷いがなかった。

 

 

 

東の空が、

わずかに白み始める。

 

夜が終わる。

 

長く、

深く、

何度も崩れかけた夜が、

ようやく終わる。

 

炭治郎は刀へ視線を落とす。

 

刃は欠けている。

 

酷く傷んでいる。

 

だが――

 

そこには、

確かにここまでの戦いが残っていた。

 

炭治郎は静かに柄を握る。

 

まだ足りない。

 

まだ終わっていない。

 

上弦を倒した。

 

それでも――

 

ここが終わりじゃない。

 

もっと先がある。

 

もっと深い場所がある。

 

だがもう、

立ち止まらない。

 

積み上げたものがある。

 

繋いできたものがある。

 

それがある限り――

 

進める。

 

炭治郎は空を見上げる。

 

夜明けの光が、

遊郭の屋根を照らし始める。

 

その光の中で、

静かに息を吸う。

 

この夜は終わった。

 

だが――

 

ここからだ。

 

 

第四十一話 終

 




お読みいただきありがとうございます。この後幕間が前後編あります。20時半と21時に公開しますのでよろければそちらもお読み下さい。

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