鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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こちらは幕間後編です。
先に四十一話、幕間前編をお読み下さい。


幕間 :後編― 動き出すもの

 

夜明けの報は、

やがて“静けさ”を終わらせた。

 

鬼殺隊の中に、

確かに広がっていたもの。

 

それはまだ歓喜ではない。

 

だが――

 

止まっていた何かが、

確実に動き始めていた。

 

 

その報は、

柱たちの元にも届いていた。

 

場所はそれぞれ違う。

 

だが受け取った瞬間の反応は、

誰一人として同じではなかった。

 

 

山中。

 

岩を打つ音が止まる。

 

「……上弦を?」

 

低く落ちた声。

 

その言葉を、

噛み砕くように繰り返す。

 

やがて、

拳が再び岩へ振り下ろされた。

 

だがその一撃は、

いつもよりほんのわずかに深くめり込んだ。

 

「……そうか」

 

それ以上は語らない。

 

だがその目の奥には、

確かに火が入っていた。

 

 

別の場所。

 

柔らかな光の中。

 

「へぇ〜……やるじゃん」

 

軽い声。

 

だがその指先は、

無意識に少しだけ強く何かを握っていた。

 

「上弦、ねぇ……」

 

楽しそうに笑う。

 

だがその笑みの奥には、

ほんのわずかに――

 

測るような色が混じっていた。

 

 

さらに別の場所。

 

静かな空間。

 

「……そう」

 

短い一言。

 

それだけだった。

 

だがその後、

ほんのわずかに間を置いて――

 

「遅かったくらいね」

 

そう続ける。

 

それは否定ではない。

 

むしろ、

“ようやく動いた”という認識だった。

 

 

それぞれの柱が、

それぞれの形で受け止める。

 

喜びはない。

 

だが軽視もない。

 

ただ一つだけ共通していたのは――

 

「上弦は倒せる」

 

という事実が、

初めて“現実”として置かれたことだった。

 

それが意味するものを、

彼らは全員理解していた。

 

だからこそ――

 

誰も、浮かれなかった。

 

 

その頃。

 

鬼舞辻無惨のもとにも、

すでに報は届いていた。

 

薄暗い空間。

 

光はほとんどない。

 

その中心で、

無惨は静かに立っていた。

 

誰も、

声を発しない。

 

空気そのものが、

押し潰されるように重い。

 

やがて――

 

「……上弦の陸が?」

 

低い声。

 

それは疑問ではない。

 

確認ですらない。

 

ただ、

“認識”するための言葉だった。

 

その場にいた鬼たちの背筋が、

一斉に凍る。

 

無惨はゆっくりと、

顔を上げる。

 

「百年以上、

変わらなかった場所だ」

 

その声には、

怒りはなかった。

 

だが――

 

それが逆に、

異様だった。

 

「それが、崩れた」

 

静かすぎる声音。

 

次の瞬間。

 

空気が歪む。

 

目に見えない圧が、

その場にいる鬼たちの身体を軋ませた。

 

「……劣化だ」

 

吐き捨てるように言う。

 

「どいつもこいつも」

 

その一言で、

場の温度が完全に消えた。

 

無惨の目は、

どこも見ていない。

 

もっと遠く。

 

もっと先を見ている。

 

「上弦は絶対でなければならない」

 

「絶対に、

崩れない存在でなければならない」

 

その言葉は、

理屈ではない。

 

ただの“在り方”だった。

 

だからこそ――

 

「一つでも崩れたなら」

 

その先は、

言葉にならなかった。

 

必要がなかった。

 

その場にいる全員が、

理解していたからだ。

 

無惨は静かに視線を落とす。

 

そして、

ほんのわずかにだけ――

 

笑った。

 

それは喜びではない。

 

怒りですらない。

 

ただの、

興味だった。

 

「……いいだろう」

 

小さく呟く。

 

「ならば見せてみろ」

 

その声は、

どこまでも冷たかった。

 

「どこまで来れるのか」

 

その瞬間――

 

空気が完全に変わった。

 

試される側は、

鬼だけではない。

 

人間側もまた、

ここから先で

真に試されることになる。

 

 

朝。

 

鬼殺隊の本部。

 

静かな空気の中で、

真壁は一人歩いていた。

 

足音は小さい。

 

焦りもない。

 

だがその目は、

完全に“次”を見ていた。

 

上弦を一つ落とした。

 

それは確かに、

大きな前進だ。

 

だが――

 

同時に分かっている。

 

無惨は動く。

 

いや、

すでに動き始めている。

 

「……時間は、そう長くない」

 

誰に向けるでもなく、

そう呟く。

 

炭治郎たちは、

確かにここまで来た。

 

だがここから先は、

積み上げただけでは足りない。

 

“壊される前提”で

立たなければならない戦場になる。

 

真壁は足を止める。

 

空を見上げる。

 

朝の光は、

もう完全に広がっていた。

 

「……次だ」

 

短い一言。

 

それだけで十分だった。

 

やるべきことは、

もう見えている。

 

鍛える。

 

整える。

 

崩れても戻る。

 

それを、

次の戦場でも通すために。

 

真壁は再び歩き出す。

 

静かに。

 

だが確実に。

 

その歩みは、

もう次の戦いへと繋がっていた。

 

 

百十年。

 

動かなかったものが、

ようやく動いた。

 

だがそれは、

終わりではない。

 

むしろ――

 

本当の戦いの、

始まりだった。

 

 

幕間 ― 動き出すもの 終

 




これにて遊郭編 終

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